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73 カナヅチ
*神代くましろ
「はあ…」
憂鬱だ…。今日は水害の避難・救助を目的とした水泳訓練。オレは泳げないからパスしたかったんだけど、水中、空中、火事、瓦礫の生き埋めの避難救助訓練は必須単位だから出なくちゃいけない。
昨日の夜、相澤さんに泣きながら落単するかもしれないと相談したらすっごい笑われた。膝から崩れ落ちて笑われた。むしろもう、笑いすぎて泣いてたと思う。
『どうしたんだよ、そんなため息ばっかついて』
『…う…オレ…泳げないから…救助訓練の単位落とすかもしれな゛い゛…っ』
『…明日の?』
『はい…』
『……ふ、っくふ…ふっ、はっはっはっ!!』
『え……?相澤さん…??』
『何を思い詰めた顔してるかと思ったら…っふふ、落単するかもって心配してんのか…?』
『そんな笑わないでくださいよ…!真剣に悩んでるのに…』
『水中訓練だけじゃねからリカバリーはいくらでもできるよ、あとお前が思ってるよりも複雑な授業じゃねえから』
これから先、一生かけても見れるか見れないか怪しい膝から崩れ落ちてお腹抱えて笑う相澤さんを見れた喜びと、その笑われてる内容で素直に喜べなかった。
「くましろ、どうした?元気ねーじゃん」
「……泳げないから…できるかなって…」
切島くんにそう告げると、目をまん丸にして驚いてる。
「え!?お前泳げねえんだ?…めっちゃ意外だな」
「何でもできそうなのにとか言わないでよ…出来ないこと人並みにあるもん」
上鳴くんも全く同じ反応していた。担当教員として相澤さんも同席してくれてる。ルールは簡単、プールのそこに投げたおもり付きの人形を指定個数分拾ってくるというもの。
体育の水泳との違いは、綺麗な塩素がある状態のプールではなく、瓦礫や流木などが流れてる深くて大きなプールということ。専用のゴーグルで人形は見えやすくなってるけど、砂利も入ってるから濁ってて底が見えない。
「こわい…」
底が見えないのも怖いし、何か居そうで怖い。得体がしれなさすぎて怖い。足がすくんでうまく動かせない。
入水の順番が巡ってきて入る。専用ゴーグルのおかげで濁った視界が大分クリアになる。待って、ふっか…!!!何mあるんだこれ…深さ15m以上はある…?
ぎりぎり人形が視認できる大きさだ。一度上がって息を吸って潜る。自分の体を重くしていくイメージで潜っていく。個性を使えば泳ぐ技術がなくてもなんとか相殺できてる。潜水の何が嫌いって、鼻に水がめちゃくちゃ入ること。痛くて痛くて仕方ない。
結構時間かかって人形を2つ取り、床を蹴って浮上していく。その途中でカクン、と足を引っ張られる。
え、待って…誰かだよね?A組の誰かだよね…?振り返ると、人魚のような人間のような何かがオレの足を掴んでる。枯れ木のような手で足首を掴まれており、表情は下を向いてて伺えない。
何これ、誰かの個性…?長い髪の毛が漂っていてかなり不気味。ゆっくりと足を抜こうとするとバッ!と顔が上がる。火をつけたろうそくのようにでろでろに溶けていて、明らかに人間ではない見た目にビックリしてて息を吐き出す。
「ミツケタ、オトモダチ、トモダチ」
やばいやばいやばい、誰かの冗談にしてもなんかやばい。そう判断してもう片方の足でごめんねと思いながらも顔面を踏み台にするように蹴る。枯れ木のように細い手は簡単に外れるので浮力を最大にして浮こうと上を向いた。視界が枯れ木の枝…指で覆われる。ゴボゴボと肺の中の空気が全て逃げていく。
周り誰もいないの!?なんで?と見渡しても誰もいない。早々にクリアしたんだろうか?だとしても早すぎるような…?
「シタデアソボウ、ア、ソボ」
後ろから抱きしめるようにされてるせいで振り払おうとしても蔦のように手?が伸びてきて巻き付く。酸素がなくて苦しい、このままじゃ溺死する…。
「そこまでだ、俺の生徒に手を出すな」
今度は視界が真っ白になると同時に浮上していく感覚がある。
水面に出た感覚と同時にぺちぺちと頬を強めに叩かれる。
「っあ、う…いやだ、やだっ!!!」
「俺だ、落ち着け……ゆっくり息吸えよ」
「ひゅ…、相澤さ…くるし……やだ、」
うまく呼吸すらできなくて焦る。体がうまく扱えなくてこわい…。
「くましろ、吸って……吐いて…上手。繰り返して」
顎をもたれて目が合ったと思ったら相澤さんの言葉がちゃんと頭に入ってきたおかげで、段々息苦しさがなくなる。相澤さんが抱きしめて背中を擦ってくれたおかげでやっと冷静になってきた気がする。
「落ち着いたか?」
「は、い…なんとか」
水害担当の先生が担ぎ上げて来たのは布。本体どこいったの…?
「上がるぞ、体調は?」
「気持ちだけはめちゃくちゃ最悪です…」
「心当たりがある。3年のが残した悪戯だな…課題の人形持ってきたか?」
お化けとかじゃないらしい。はっきり声まで聞こえたから霊感ないはずのに感じたなら今後の生活とても困る…と思ってたから良かった。ポケットにねじ込んだ人形を2体提出する。
幻視を操る個性の人で、大変にイタズラが好きらしい。布に個性をかけて特定範囲に人が近寄るとさっきの…人形?が動き出す仕組みなんだとか。相澤さん、イヤに詳しいな…と思ってたら1年生の時に同じようなドッキリを仕掛けられたと話していた。
厄介なのは範囲内にいない人には見えないし一度使ったトリックはもう使えないみたいで自分以外に証言者や目撃者がいなくて、過労による幻覚か?と本気で悩んだらしい。
「…あれ…でも、なんで今回分かったんですか…?」
「ゴーグル。一応瓦礫とかそんなもんが大量に埋まってるだろ、だから安全のためにフレームのトコにカメラついててモニター管理してる…先に終わった奴らも見てて、悲鳴で気付いた。カメラには映るみてえだな」
「うう…1番に来てくれるのマジでかっこいい…好きです!」
「はいはい…お前のゴーグルだけカメラぐだぐだで見てて面白かったよ、どんな泳ぎ方してたんだ?」
「華麗なドルフィンキックしてましたが???」
「もしかしてイルカ見たことねえのか?犬かきをぐちゃぐちゃにしてんのかと思った」
「めっちゃ馬鹿にしてきますね?!?」
イルカくらい見たことあるし犬かきのぐちゃぐちゃって何?!溺れてるとかでいいじゃん、最早それは…!!
担当の先生にもよく頑張ったねってほめられて授業は終了した。ちなみに出久くんにも泳ぎ頑張ろう!って遠回しに下手って言われた。
放課後になって本でも借りて帰ろうかと思っていたら相澤さんに呼びつけられる。なんか猿みたいに人を持ってる…。
「あ〜れ1年の話題の子じゃん!今回この子だったんだあ」
「テメェ…反省しろ惑蛇…」
あ、この人の個性なのか。青筋立ててキレてる相澤さんを見てそう思った。
「今回結構ホラー強めにしたんだけどどうだった?ていうか毎回相澤先生に見つかるのなんでぇ〜?!いっだだだだ!!いだい!暴力反対!!!」
「除籍処分にしてやろうかクソが…」
相澤さん、めちゃくちゃキレてる…。締め上げられる3年生の惑蛇さんは慣れてるのかケラケラ笑ってる。
「職員会議かけるからな…過呼吸起こした上にお前の見せた幻覚生物が水の中に引きずり込んだんだ、下手すりゃ溺死だ」
「水の中に!?…なんて言ってたの?」
「見つけた、おともだち、あそぼって言ってました」
「…へ〜、そんな友好的なのが見えたんだ…待って先生職員会議かけてもいいけどこんなの初めてだよ、友好的なUMA!」
「…やめろ惑蛇、こいつビビリなんだ。向こうが友好的でも失神する」
今出していい?と式神のようなものを取り出した惑蛇さんを相澤さんが止める。
「可愛いビジュなら…」
「…あは、ありがと〜!ちなみにどんな見た目だった?」
「ヒレがついた下半身だけ人魚みたいで上半身は崩れた豆腐」
「やめてくださいよ、豆腐が食べられなくなるじゃないですか…髪の毛長くて不気味で…なんか…顔は…、溶けたろうそくみたいな…目も口もなんのパーツもなくて…手は枯れ木みたいでした…」
そう言うとふう〜ん、と楽しそうにメモを取る惑蛇さん。相澤さんによると、見える幻覚は人によって全然違うらしい。だいたい何かしらの生物が出てくることが多いけど、その生物を惑蛇さんだけは従えることができるらしい。
ただ生まれる…つまり誰かに個性を発動させてもらって、UMAと呼ばれている存在が見られるようになるまでは何の干渉もできないとのこと。
「たまごっちみたいなのがいいです、それがけろけろけろっぴ」
「うーん…なるべく善処するけど…期待しないで。じゃあいくよ…」
「待て惑蛇、ここで…」
止めようとする相澤さんに構わず惑蛇さんが式神もどきを振りかざすと煙に包まれる。
「…っわ!??!」
一つ目の狛犬…?のようなかなり大きい生き物がいる。顔に目は一つしかないのに、体にいくつもの複眼があってこっちを見てる。お座りしてるだけだと本当に狛犬・亜種って感じだなと見てると、手をべろりと舐められる。
「ひえ…」
「おお〜随分おとなしい子だね?君のこと好きみたいだよ」
好きと言われましても…。トラックくらい大きいこの…ワンコ?はよく見ると尻尾を振ってる。
「ギャ!」
元気よく返事された。
「俺のときと打って変わりすぎだろ」
「…相澤先生どんなの見たんですか?」
貞子、と返される。こっわ…廊下歩けなくなるわ…。惑蛇さん曰く本人の精神的状況に大きく左右されるみたい。怖いテイストのもの、とおまじないのような効力はかけられるものの、外見は本人の状況次第だと言われた。
じゃあ、さっきは顔が溶けたろうそくみたいだったのって……深さがわからなくてなんとなく恐怖を抱いた不透明さの現れなんだろうか?
「ギャア」
廊下に器用にごろんと寝転がるワンコ?もどき。大きいのに器用だな…と関心してると、惑蛇さんは大興奮だ。
「すごい!こんな攻撃性や敵意のない子初めて見た…!先生も初めてだよね?」
「俺が遭遇したのも、お前が仕掛けた相手の話聞いてても敵意しかねえよ」
「よし、名前をつけてあげよう……コマちゃん」
「安直な…」
いいの、分かりやすいのが大事なんだから!コマちゃん、と呼びかけるとギャァと返事してる。体が大きいだけの子犬のようだ。だけどこれは惑蛇さん…とオレが生み出した未知の生命体。
「コマちゃん、右足あげてごらん」
そう支持するの右足をス、と上げる。じゃあ耳を動かして?と言うと器用にパタパタと耳が動いてる。惑蛇さんは将来ヒーローをしつつ日本や中国の妖怪と呼ばれる存在のいわゆる大使になりたいらしく、今回人間と仲良くできる存在が生まれたのは初めてだからサンプルとして保護したいと申し出があった。
「いいとは思いますけど……事故がないようにはしてあげてほしいです」
「任せて、管理とかちゃんとするから。あと……回収し忘れとはいえ怖い思いさせてごめんね?人の想像力と恐怖心とかの本能に強く反応する個性だから…今度はもっと気をつけて安全なとこに仕掛ける!」
「仕掛けるなっつってんだ」
(良かったのか、アレで)
(はい。素敵な個性ですねえ、陰陽師とかそういう系譜を感じます)
(恐怖心に反応ね…お前ほんとに水が怖いんだな)
(浅瀬ならなんとも思わないんで、何かいるかもしれない空間が怖いんだと思います…幽霊もそうですけど、科学的にも文明的にも分かってないこと多いじゃないですか。同じような理由で、深海とかものすごい怖いんですよ…)
(深海?)
(行く機会なんかないし技術もないですけど、なんか…得体のしれない大きい何かがいそうな感じ…?)
(あ〜…なんとなく分かった。お前夜に見る押し入れとか怖いタイプだ?)
(むっちゃ怖いです…なんかどっかに繋がってそうで…)
(なるほどね、たまに何をそんなに騒ぐんだと思ってたけど理由がようやく分かった)