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70 ほろ酔い
*赤葦京治
なんでこんなことに…。
木兎さんや黒尾さん、烏野の1年の日向や月島を交えた自主練を終えて入浴を終えてそろそろ寝ようかと木兎さんらと話して消灯してた頃…だから23時を過ぎてたと思う。
電気を消して10分と経たない頃、ドアがガラガラと開きぼすん!と音がしたと思えば寝息が聞こえてくる。
「え、待って待って誰か消灯する前トイレ行ったやついる?」
「いなくね…?おい木兎いるか?」
「なに…?いるよ〜…」
猿杙先輩、鷲尾先輩が投げかけ、眠そうな声の木兎さんのやり取りが聞こえてくる。全員いることを確認。
「電気つけますよ……あれ…くましろさん?」
1番電気に近い俺が入口側の電気だけつけると、くましろさんが布団も何もない場所で丸まって寝てる。昼間は水を浴びるように飲んで暑がってたのに、長袖着てる。選手でもないくましろさんはものすごく細いから、もしかしたら空調が効きすぎて寒いんだろうか。
「くましろさん…?ここ梟谷ですよ」
ユサユサと肩を揺する。…あれ、少し頬が赤い…?
「ん〜〜〜…やだ!」
ゴロン、と寝返りをうって返ってきたのは木兎さんみたいな返事。朝やり取りした時とは全然違う。
「これ…酔ってねぇか?」
「酔ってるね…ベロベロではなさそうだけど…」
「なに…?眩しいんだけど…」
こっちの大きい赤ん坊みたいな木兎さんも起き出す。くましろさんが多分お酒に酔ってこの部屋に来たことを告げると、ムクリと起き上がる木兎さん。
「おい、木兎…コケたり踏んだりするなよ、この人なら多分折れる」
「おらねーって……くましろ…、起きろ〜」
くましろさんの横にしゃがみこみ、頬をつまむ木兎さん。まさかの逆転ぶりに、俺以外も目を丸くしてこの光景を見てる。
「なぁに…?」
「ここ、梟谷の部屋。しかもここ床だし…」
「ふくろう…?んふふ、ほんとだ〜」
「酔ってるんですか?」
「赤葦くん?……酔ってると思う?」
首に腕を回され、顔が近くなる。どう考えても酔ってる。
「こら、赤葦困らすなよ…帰れそう?」
「ここ…何階のどこ…?」
ずっと眠そうなくましろさんと、少しずつ眠気が冷めてきたのかくましろさんを支える木兎さん。お姉さんが2人いるって前に言ってたけど、今のこの図は兄みたいだ。
「3階の西棟。…くましろ、おーい!目ェ開けろ〜」
「ダメそうですね…完全に寝る準備してる」
「……消太さん、だっこ…」
「「「?!??!」」」
ひときわ甘えた声で両手を木兎さんに伸ばしてるくましろさん。朝に既婚者って聞いたけど、もしかして相手が今言ってた『消太さん』なんだろうか?
「俺、木兎。多分ちげえよ?」
「ちがくない…」
「おわ…くましろ、酔うと甘えん坊なんだな!」
「だっこは?」
「抱っこはまた今度な〜、今は寝るのが先」
そう言ってくましろさんを抱える木兎さん。見た目にそぐわぬ軽さだったみたいで、軽ッ!て驚いている。
「木兎さん、くましろさんどうするんですか?」
俺がそう尋ねると、ここの教室からだと遠いから一緒に寝る!と返ってくる。
「いや…確かに15分くらいかかるけどさ…」
「巡回してそうじゃん、どっかのコーチとか…怒られたくねえしここで寝かす!」
「待て木兎、お前が寝返りなんてうったらくましろさん潰れちまうよ」
「ん〜…さむ…」
くましろさんが縮み上がってる。木兎さんの布団の位置はクーラーが直下に当たる一番涼しくて、くましろさんには寒い位置だろう。そうなると必然的に一番空調から遠い位置を選んだ俺のところに、となる。
「赤葦平気か?」
「まあ…寝相さえ悪くなければ…」
隣に丸まってるくましろさんがいる。電気を消して背を向けるようにして眠ると、俺の背中の方に寝返りをうってきたくましろさん。おそらく顔が背中に当たってるんだと思うけど、めちゃくちゃあったかい…けどちょっとくすぐったい。
寝返りをうって向き合う形になると、くましろさんが擦り寄って来る。手がものすごく冷えてる……寒いんだ。肩まで布団を引き上げる。
「赤葦起きろ〜」
猿杙先輩の声で目覚める。視界に1番に写って来たのはくましろさんの頭。しっかり袖にしがみつかれるように寝ている為、くましろさんのことも起こす。
「……ふぁ…?」
あ、目が開いた。猫のように伸びて起き上がるくましろさん。すっごい寝癖ついてる…くるくるだ。
「お、くましろ起きたの?」
「木兎くん……?……ん?!え!!?」
梟谷のメンバーしかいないことに気づいたのか、俺の布団にいることと周りを見渡して慌てているくましろさんに昨日の様子を伝える。
「うわ……ごめん赤葦くんマジでごめん…」
「凄かったですよね、だっこ…って」
「ごめんマジで!!!!許してほしいし忘れてほしい!!!すっごく無理死にそう!!」
顔を真っ赤にして頭を下げてるくましろさんはしばらく梟谷のお笑いネタとなるだろう。
「な、可愛かったな〜」
『消太さん、だっこ…』
木葉さんがポーズ付きでモノマネし始める。
「勘弁して……」
すごい、首や指先まで真っ赤だ。
「消太さんってのが相手なんですか?」
「そう……今すぐ宮城帰りたい…」
昨日は初日ということでコーチたちの打ち上げ会があったみたいで、下戸なくましろさんは1番最初に酔っ払い寝てしまう可能性があるため、まだ記憶やら自我があるころに自分で先に戻ってきたらしい……けど、多分迷ってここに来た…と。
「穴あるなら入ってそのまま生き埋めになりたい、なくても掘って入りたい」
「いいんじゃないですか、面白かったし……今日は一人で眠れますか?」
「ねむれます!!何歳だと思ってんの!!!」
「だっこ…、て甘える25歳!」
「木兎くん、それ絶対黒尾くんとかの前でやらないでよ!!!」
絶対やるだろうな…くましろさん可哀想に…。あぁ、今日は朝からよく笑った。
*神代くましろ
「さいあく…」
「居ないなあと思ったら、梟谷の方まで行ってたんですね…遠かったでしょう」
武田さんに昨日の夜から今日の朝について話して、愚痴を聞いてもらう。ずっと揶揄われてすごい恥ずかしい。あんなに頼み込んだのに結局木兎くんは開口一番に黒尾くんにバラしたみたいで、黒尾くんにまで揶揄われる始末。
「抱っこしてあげましょうか?」
「結構です…!」
ニヤニヤと笑みを浮かべて近寄ってくる黒尾くんの背中を軽く叩く。
「…?」
目の端がチカチカする…何か反射してる…?体育館の外に出て原因を探ってみるけど、特定できなかった。移動するときのチカチカに似てる…ような?もしかしてそろそろ帰れるんだろうか…?
ここに来てもう3ヶ月近く経つ。ツイステッドワンダーランドより最長記録だ。あまりにも平和な世界のため忘れてしまいそうになるけど、ツイステッドワンダーランドにいる子達がオレらの世界に来てしまったから個性を代わりに使用して、ツイステッドワンダーランドに行けるかどうか試してる途中なんだよな…。
2日目の夜、山口くんと月島くんの衝突を目撃した。
山口くんは…構図だけ見てると高校のときのオレのようだ。月島くんは消太さんで、かっこよくて大好きで尊敬してていつもくっついて回ってる。そんな山口くんが「最近のツッキーはカッコ悪いよ」と言い放った。
絶対見つからない方がいいと思って少し後ずさる。
何をそんなにムキに、馬鹿みたいとまくし立てる月島くんに山口くんが見たことないくらい突っかかっている。
「そんなもん…ップライド以外に何が要るんだ!!!」
この間、谷地さんに頼まれて日向くんと影山くんのケンカ?を仲裁したときの理由も後々教えてもらったけど、日向くんの行き先に影山くんが合わせる形の速攻…完全に影山くん頼りの速攻をやめる、と日向くんが言い出したことがきっかけだった。
今回は、オレが入院中ピンチサーバーとして試合で失敗してしまった山口くんが卒なくこなすクレバーな月島くんを叱咤激励のような形で言い寄っている。
皆、この夏で大きく変わるんだろうな…。上には上がいるって分かってるのに頑張る理由、原動力がプライドか…確かに、そのとおりだな……部屋戻るか…。
「…?!くましろさん、どう、どうしたんですか?!」
「…え?」
第一体育館の前を通るとギョッとした澤村くん、更に菅原くんに見つかる。
「なんかあったんですか?…その、…泣いてるから…」
「……泣いてた?あ、ほんとだ…」
考えることに集中してたんだけど、涙が出てたみたい。
「今朝の…黒尾たちが揶揄ってたやつですか!?」
「違う…それ掘り返さないで…」
ほんとに恥ずかしいから…と返して、理由を伝えるか悩む。意図せずとはいえ盗み聞きだし…。
「……うーん…その…ナイショにしてね?…月島くんと、山口くんの会話を聞いちゃって…自分が血反吐吐くまで追い求めた今の職業を目指してたときの気持ちとか…その時の悩みとか色々思い出しちゃって、考えてた」
「月島と山口の…?」
「あ、会話自体はなんていうか…頑張れ!って感じだったんだよ!ネガティブなことなんてなくて……オレ、中身ネガティブだから昔の辛いこととか思い出してたまにしんどくなるんだ。今それなだけだから…風呂入って寝ようかなってしてたとこ。夜にうだうだ考えてもロクな考え浮かんでこないし」
「…くましろさん、どんなことで悩んでたんですか?」
「…ん〜…母親とのこととか…ボロボロになっていく友達のこととか…?」
最大限ぼかすとどんな学校行ったらそんなことになるんだ?の答えになってしまった。
「…あ、ちなみに母親とは今…関係修復に向けて足並み揃えてるところだから!そんなやばい話とかじゃないからね」
一応訂正を入れておく。
「くましろさん、人知れず悩むタイプなんだ」
菅原くんにそう言われる。
「そうだね…心配症だからすごい小さいことを大きく捉えてぴーぴー泣いたりしてたけど……ポジティブになる練習してきたからね、それが身についてんのかも。」
心配そうに見てくる2人の頭を撫でて、風呂入って眠ると告げる。
(はぁ゛〜〜〜思い出して勝手に凹んで挙句心配させるのほんとにだめすぎて更に凹む…)
(どうしたんだ、今日はよ…)
(…上には上がいる、敵わないこともわかってても頑張る理由や原動力はプライドしかねえだろって会話を…聞いてしまいまして…)
(…おう)
(オレが…色んな人に色んなこと言われながら必死にヒーロー目指してたときのこと思い出して…その時、ほんとに辛いこと多かったんでなんかしんどくなっちゃって…)
(記憶を反芻してるんですね…フラッシュバックの類かな?)
(そういう……いやそうなのかも…それで早く寝ようって思って歩いてたら泣いてたみたいで…心配かけちゃって…)
(ウジウジしてんのか)
(そうです……あ〜最悪だ…)
(早く寝ろ、朝になったら笑えるだろーから)