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69 夏休み開始
*神代くましろ
期末テストが完了し、気になる赤点は…まさかのオレが熱心に教えてた日向くんと影山くんだけだった。すっごいオレまでショック…。まあでも、数学はできてたみたいだし…と心を持ち直す。日向くんは回答欄がズレてて英語の赤点、影山くんは暗記に絞ってたのに読解問題が多くて無念の赤点だそう。
「そ、そっか…ごめんねオレの力不足で…」
「しょうがないですよ、だってこの2人2日前にやった問題忘れるくらい馬鹿ですモン」
谷地さんにバトンタッチされる前は月島くんが勉強教えてたみたいだけど、二度とやりたくないと言われるくらい酷かったらしい。眉間のシワすごいよ、と伸ばしておく。
「いや…100点ずっと取ったよ!て自慢しといて赤点の回避もさせられないとなると、オレの教え方悪かったかなあって…」
すごい凹んでる2人の肩を叩くと崩れ落ちるように床に倒れていく。合宿に参加できないのが本当に嫌らしい。何か案がある田中くんが何か二人に吹き込んでいた。
あっという間に終業式の日程になり、夏休み前の最後の金曜日。たくさんの生徒がお菓子を持って坂ノ下商店にやってくる。そうか、式だけだから今日は帰りが早いんだね。
「…え、と?」
「これ、お兄さんに餞別!夏休みバレー部合宿行くんでしょ?…会えなくなっちゃうから、合宿の合間にでも食べてね」
「あ、ありがとう…?8月中は多分いるけどな…?」
いいから受け取って!とお菓子たっくさんもらう。食べきれないし子どもたちにあげるか…。
「おーおー凄え量…1個もらっていい?」
烏養さんに適当に渡す。今回は長丁場本当はキャリーケースにしたいけど車に載せきれないということで荷物は最小限に。とりあえずスースーするボディミストとか冷えぴたみたいなのは用意した。
あとは化粧水たちを入れ物入れ替えて用意して、シャンプーとかも合わないの使うと肌も頭皮もめっちゃ荒れるから持っていく。ドライヤーは武田さんと共用。
着替えをいくつか入れ、下着は大目に持っていく。
夏休み始まってすぐ、夜中に出発。アイマスクとイヤホン一応持ってきた。
「くましろくん、寝ていいですよ」
「…いや…おきます」
「ここんとこ早朝の畑の仕事ずっとやってたんだから眠いだろ?寝とけ」
「サービスエリアで起こしてください、代わるので…」
菅原くんの席の隣に座る。お菓子いっぱい貰ったからあげる、とグミを渡すと見つからないようにカバンにしまってた。
「菅原くん、手ェあったかいね…」
「くましろさんもあったかいべ、眠いんでしょ」
頷く。ジャージの上着をひざ掛けのようにしてもう一枚上着を着用してる。イヤホンなくてもちゃんと眠れるかも…。
「…っ!」
嫌な夢を見て飛び起きる。汗ヤバ……。菅原くんを起こさないように呼吸を整える。
「くましろさん?」
起きてると思わなくて肩が思いっきり跳ねる、びっっくりした…菅原くんもびっくりした顔でこっちを見てる。悲鳴を出さなかっただけでもめちゃくちゃ偉いと思う。
「びっくりした…起きてるなら起きてるよって言ってよ…」
「ふは、ごめんなさい…大丈夫?顔色悪いですけど」
大丈夫、と返す。どうせ夢だから、正夢にもならない不安から生まれてきた夢。
「寒いから…手、握ってくれる?」
「いいですよ」
あったか…。起こしちゃってごめんね、と告げるとやっぱこの体勢だとそもそも寝付けなくてと返ってくる。眠りが浅かったのかな。今度こそ寝よう…と目を瞑る。
「くましろくん、くましろくん…起きれるかな?」
この声は武田さんだ。目を開けるとめっちゃ明るい。完全に朝の空の色だ。
「……あえ…?」
「森然高校に到着しました!長時間お疲れ様でした」
「……SAで起こすって…」
目を擦りながら車を降りると烏養さんの背中にぶつかる。
「菅原と手ェ繋いでぐーすか寝といてよく言う…起きたか?砂利だから転ぶなよ」
寝かせといてくれた2人にお礼と謝罪を言って車から荷物をおろして歩く。埼玉…ほぼ東京寄りの埼玉、自然が多い。
「お、今回はいるんだ」
「わあ、黒尾くんじゃん…あ、孤爪くん!ひさしぶり〜!」
「何ソレ、テンションの差ァありすぎてムカつくんですけど」
黒尾くんにも会えて嬉しいよ?と伝えると冗談だと思われたのかヘイヘイって拗ねられてしまった。
「くましろさん…翔陽からメールで聞いた…事故、大丈夫?」
「うん、もうバッチリだよ。」
優しい孤爪くんの頭を撫でると、moon買ったよって教えてもらった。少しずつ合間を見てやってるらしい。
「黒尾、コイツ?烏野の変人コンビっての」
おお、これまた大きい子だ。黒尾くんと同じくらいある。
「ううん、違う。この人は烏野の顧問の従兄弟さんでお手伝い」
「……つまり?」
「生徒じゃないよってこと!…先生たちの荷物ってどこに置けばいいのかな?」
こっちこっち、と木兎くんと呼ばれる子が案内してくれる。手を掴まれてずんずん進んでくからついてくのに必死。1歩がとんでもなく大きいんだな…。
「ここ!烏野の先生たちの泊まる部屋!」
教室まるまる使うんだ…なるほど。合宿所じゃ収まらない人数がいるのか…。
「ちょっと、木兎さん。ソコ教員用の教室で烏野の部屋は別ですよ」
目が合うとペコ、と会釈をされる。おおお、この子も随分背が高いな…消太さんと同じくらい?やってたら当たり前なんだろうけど、背の高い子ばっかりいるとちょっと楽しい。なんか高層ビルの中にいるみたいだ。
「赤葦、ちげーよ!この人烏野の生徒じゃねえんだって」
「何をまた…どう見ても2年か3年くらいの人でしょう」
「大変申し上げにくいんだけど、25歳です…ごめんねややこしくて…」
「25歳…??」
「は!?25歳?!」
赤葦くんのめちゃくちゃ大きい声が廊下に響き渡る。そんな?!そんなに…?!坂ノ下商店に来る烏野の子たちは年齢伝えたら納得してたよ?!
「先に来た奴と同じジャージ着てるから分かんなかった…」
木兎くんに言われ、そうだ借りてたんだと思い出す。確か暑がりの田中くんに借りたんだよな…返しに行かないと。
「顧問が武田っていうメガネの人なんだけど、武田さんの従兄弟です。名前は神代くましろ。…できれば名前で呼んでくれるとありがたいかな。
今回はご飯作ったりとか、マネージャーに混じってなんか…掃除とか裏方いっぱいやるから、マネージャーの子たちにも挨拶しときたいんだけど…あと先生方にも!」
そういうとちょっと声が小さくなった赤葦くんとより元気になった木兎くんに案内される。部屋の隅に荷物を入れてそれぞれ挨拶しておく。先生方もオレの年齢にびっくりしてたけど、マネージャーちゃんたちはオレが男ってところからビックリしててすごい複雑な気持ちになった。
「筋肉が足りないのかな…もう少し増量するか」
「細ェ〜…手出してよくましろ!」
木兎くん、めっちゃ距離近い。腕を出すと隣に並べられる。オレの腕3本分くらいある??日焼けしてる木兎くんの腕と、入院してたこともあって白いオレの腕の差に凹む。
日中のモップがけやボール出しなんかをこなしていく。暑いな…。虫が多くて既にもう嫌な予感してるんだけど…気分下がる…。
「コラ待て、お前も水飲め。…顔真っ赤だぞ」
首元を引っ張られる。いきなり引っ張られたから思い切り後ろに下がってしまい、烏養さんに倒れ込むような形になる。
「びっくりした…」
「俺もびっくりした、熱中症か?」
元気ですよ、と返して水を受け取る。夏の体育館ってこんなに暑いんだ…知らなかったな。烏野にはまだ補習してる日向くんと影山くんが居ないからか、すごく静かに思える。
あっという間にお昼になる。ご飯の調理担当は、一気にマネージャーがいなくなると練習試合してる方が回らなくなるので、何人かグループで回していくスタイルらしい。
今日の夜がオレの担当、夕方5時くらいから作成開始か…。
「待て、昼飯は?」
げ、見つかった…。月島くんの後ろに隠れる。
「ちょっと、隠れ蓑にしないでくださいよ」
ひどい、裏切り者め!容赦なく突き出してきた月島くんを睨み上げ、青筋立てた烏養さんと対峙する。
「食欲がありません」
「ありませんで通るか馬鹿、食え!ブッ倒れんぞ!」
ほらよと渡される。
「待って盛り過ぎじゃないですか…?!3人分くらいある…」
「んな盛ってねーわ…武田先生、コイツちゃんと食うか監視しといて!」
「烏養さん、武田さん呼ぶのは反則」
知るか、とチョップされた。西谷くんとかが少し食べるの手伝ってくれたおかげでなんとか完食。重たい…。
「いつもどうしてるの?」
「……食欲わくまで食べないんでなんとも…ヒェ怖い怖い、なんですかその顔?!」
「君が華奢な理由がよくわかった気がします、毎年夏に大幅に体重落ちてるんじゃありませんか?」
バレてる…コワすぎ…!お昼の時より量は減らしていいから毎食必ず食べるように約束を取り付けられた……監視役として澤村くんが任命され、逃げ道がない。
夕方、ちょうど補習コンビが到着する前にご飯作り開始。一緒のメンバーは梟谷のマネージャー2人。白福さんと雀田さんとワイワイ会話しながらご飯を作る。梟谷の話をたくさんしてくれる。木兎くん、日本で5本の指に入るスパイカーらしく気分のムラがなければ最強なのにね〜と白福さんに笑われていた。そのムラをこの2人もだし、チームメイトと赤葦くんが上手いこと持ち上げて調子を取り戻すらしい。
「ホントに手ェかかるよね〜」
「手ェかかる子ほど可愛いよね、そうか〜木兎くんは皆の弟みたいな感じなんだね」
「くましろさんとの相性は良さそうだね…」
よし、完成!とハイタッチ。2、30人分のご飯を作るのは中々大変だった…背中をボキボキ鳴らして休憩する。
(ご飯できました〜順番に食べてくださいね〜)
(おお、日向くん、影山くん!補習ちゃんとやってきた?)
(ハイッス…)
(すんごいげっそりしてる…)
(田中先輩のお姉さんに運転してもらったんですけど、スピード凄くて…)
(あ〜…かっ飛ばしてきたんだ)
(ふたりとも自主練はほどほどにね)