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66 夏眠
*神代くましろ
音駒との練習試合をなんども日向くんがおかわり。いずれにせよ全敗していて、今後の成長に期待したい。音駒選手陣の穴も一応見れたことだし片付けを進める。各ポジションの子同士で仲良くなってるみたいだし良かった。
「あの…くましろさん」
「孤爪くん!…どうした?」
なんかちょっと言いにくそうにしてる孤爪くん。なんだろ…?
「俺もmoon、お小遣いで買ってみる…だから…また話そ」
「ヴッ」
「えっ、何?!」
「可愛かった…動悸がした…」
胸を抑えて倒れ込んだオレにびっくりしたらしくて孤爪くんにしては大きな声が出たらしく、音駒の何人かが驚いてこちらにやってきた。そんで倒れてるオレを見て更にびっくりしてた。
「なに!?なんかあった?」
「孤爪くんが可愛いこと言うから動悸した」
影山くんが同じセッター同士で話したそうだったから、引き合わせておく。相性はどうだろう……悪いことはないんだろうけど、朗らかな顔してねとだけ影山くんに伝えておく。
「ちょいちょい、オニーサン…結局アナタ何者なのよ?」
黒尾くんに引き止められる。
「気になってる年齢は25だよ、んで結婚してる…いまお休み中の警察官」
「何そのてんこもりの情報…マジで気になるんですケド…」
簡単なプロフィールはこんなもんだよな…と思いつつ黒尾くんに伝えると余計に気にならせてしまったらしい。猫みたいにじ〜っと見られた。見ても何か出てくるわけじゃないよ、と伝える。
それぞれ仲良くなった同士握手をし、先生同士も絶対またやろう、そのときは勝つからな!とお互い約束をするような形で別れるその帰り道。車が突っ込むような形で日向くんたちに向かってくる。とっさの判断にしてはなかなか良かったと思う。
荷物を捨てて先頭を歩いてた日向くんたちの間に割り込むように入り、ごめんねと思いながら後ろへ蹴り飛ばすようにしてドミノ倒しの要領で皆後ろへ下がりながら倒れていく。…車との距離も空いたし、角度もできた。最大限アクセル踏んでやってきてたみたいで、衝撃のあとに体が浮いた感覚がする。頭を思いっ切り打ち付けて、気を失ったところまでは覚えてる。
*武田一鉄
くましろくんが目の前で轢かれた。…いや正しくは突っ込んできた車との間に入り、犠牲になったが正しい。車に気付いた僕らよりも早く反応していたくましろくんは荷物をその場に捨てて、その身体能力を活かし一気に日向くんたちまで追いついたかと思うと蹴り飛ばすようにして僕らと車との距離を取らせて、後ろから車体にぶつかられ体が飛んでいった。民家の外壁に頭を打ち付けてピクリと動かなくなる。車は別の民家の外壁に突っ込んでいて、こちらも動かない。
「……くましろくん!」
「ぼさっとすんな、澤村!部員まとめて少し離れたところで救急車呼べ!車道には出るなよ!」
「は、はいッ!」
烏養くんが的確に指示をしてくれたおかげで、ひとまず生徒の避難は確保。烏養くんに車の運転手と車の停止をお願いし、僕はくましろくんのもとへ。頭を打ち付けた外壁の部分にべっとりと血がついているのを見つけて血の気が引く。
「…ぅ…い、た…」
「くましろくん、意識はありますか?あまり動かさないように…出血しているのでハンカチあてますね」
情けないが頭から出血しているくましろくんを見て焦りや不安からか震える手でなんとか出血部分にハンカチを押し当て、これ以上血を流させないように抑える。
「……ひなたく、んは…?」
「君のおかげで無事ですよ、もう少しで救急車きますからね」
事故の音を聞きつけた近隣住民の方々の助けもあり、タオルやら水が運ばれてくる。こういうとき傷口を水ですすいでいいものなのか?と悩みながらも救急隊到着までひたすら声をかけ続けて待つ。
運転手の方も意識がないようで烏養くんが必死に救命にあたっている。その様子を不安そうに見守る烏野の生徒たち。
救急車で運ばれたくましろくんは即日入院となり、警察からの事情聴取も行われる。くましろくんは無戸籍の扱いになり、警察や病院からはかなり怪訝な顔をされたが親族の並々ならぬ事情、ということで話を最後まで貫いた。
保険証もないため入院費用がとんでもないことになる…と頭を抱えたが、無戸籍のくましろくんは今回の事故を訴えることもできないと伝えたにも関わらず、運転手側の厚意と謝罪の気持ちということで入院費用は向こうの保険から全額負担してくださることに。どうやら持病を抱えた方らしく突然の発作で意識を失い、今回の事故に繋がってしまったようだ。
戸籍がない、保険にも入ってない=裁判もできない相手だと逃げるような方じゃなかったのが不幸中の幸いだ。
そして残る問題は、生徒たちのケアだ。特に目の前で見てしまった日向くんと影山くんは大変にショックを受けてあの2人が3日も学校を欠席した。3日ぶりに登校したのを確認し、声をかけても元気がない。どうしたってあの状況は自分の責任もあるのではないかと考えてしまう。
もうすこし内側を歩いていたら、タイミングがもっと遅かったら…と後悔をしてしまうのは当然の心理だと思う。どうしたものか、と頭を抱えていると2人揃って不思議な夢を見たと告げられる。
「夢…ですか?」
「今日朝、一番に影山にも確認したら同じ夢で…くましろさんが出てきたんです」
「くましろくんが…?」
「夢の中にはコイツもいて、今みたいに…隣に並んてくましろさんの話を聞いてたんです。オレは大丈夫だから、ちゃんとバレーやってきなって言われました…あと…」
「夏前には戻れるよって言ってました…それ見たらなんかちょっと安心して朝起きたんです。だから学校来ようかなって…」
「そうですか…予知夢とはまた違うような…でも、夢の中にくましろくんがわざわざ出てきてくれたならきっと……夏前に意識が戻るんだと思います。…今日からまた、皆で頑張りましょう!」
「「はい!!!」」
元の目に戻った二人を見て安心する。それにしても夏か…すぐではないんだろうけど、なんとなく二人の話を聞いてくましろくんならそういう芸当ができそうだな…と思った。烏養くんに今聞いた話を電話で伝えると、彼もまた同じような反応だった。不思議なことに烏養くんの夢にも出てきたらしい。
『なんか…迷惑かけてすみませんだの、入院費用の心配とかをひたすらしてたぞ』
「それは随分…くましろくんらしいですね」
『体がしんどくて先生のとこにはいけそうにねえっつうのも申し訳なさそうに言ってた…日向と影山も同じような夢を見たなら、あいつのメッセージってことか……異世界人は夢に出て予知夢みたいのまで見せてくんのかよ…』
「もともと不思議な縁でこちらにきましたからね、なんか…納得してしまいますよね。このこと、部の皆には話しますか?」
『やんわり伝えるようにする…フォローは任せた』
そんなやり取りをし、IH予選は3回戦で青葉城西高校に敗れた。3年生たちは春高予選まで部活に残ることが決まり、再スタートをきったどたばたの5月・6月を終え、くましろくんが事故に遭い入院して1ヶ月と少し。
親族者は僕、ということで始めは僕が毎日病院に通っていたが烏養くんも来てくれるようになった。土日の部活後にはバレー部の皆で花やらなんやらを持って、お見舞いに来てくれるのが習慣のようになっていた。
1年生の新マネージャーとして谷地さんが仮入部してくれて、よければと誘って谷地さんを交えてのお見舞いしに行った6月16日の土曜日、昏睡状態だったくましろくんの意識が戻った。
「……先生、くましろさんの指動いてる…!」
「…菅原くん、ナースコール押してくれる?…くましろくん…聞こえるかな?僕です、武田ですよ」
「………ぅあ…」
完全に目が合い、意識が戻ったくましろくん。安心感に胸を撫で下ろしてるといきなり起き上がろうとしているので肩を掴んで抑える。
「ちょちょ、くましろくん!?いきなり起きたら貧血とかでまた倒れちゃいますよ…!」
「……あ、…たけださん…?」
意識が混乱していたのだろうか、名前を呼ばれるので頷く。
「……事故…事故おきましたよね、だぇも…ケガしてないですか?」
少し呂律が回ってない状態で問いかけられる。床ずれやらなんやら起きないように看護師さんと協力してマッサージやらなんやらしていたけど、体は平気なんだろうか…。
「1番の大怪我してるやつがよく言う…日向も影山も無事だよ、今医者くるから少し待ってろ」
「え…いいです自分で治せるから…」
「くましろくん、くましろくん…僕を見て?…ここは病院です。君は頭を強く打ったので、ちゃんと診察したほうがいいです。1ヶ月と少し、寝たきりだったので…リハビリも必要でしょう?」
治せる、というワードはおそらく彼自身の能力のことだろう。治れば良いが、脳へのダメージとか神経の具合とか…精密検査をしてきちんと第三者に診てもらう必要があると伝えれば、納得したようで黙りこむくましろくんの顔を覗き込む。
半泣きの生徒たちをなんとか宥めて、まずは医者の診察をと進むてもらう。意識や記憶障害、認知などに問題はなく、視力や聴力、学力なんかも問題はなさそうとのこと。体力や体の詳しい部分についてはこれからリハビリを交えて確認が必要…とまで一旦診てもらってから生徒たちを再度病室に入れる。
「ちょ、ちょっと待って皆ストップ!!!…お風呂入ってくるから10分だけ待ってくれる?」
そうか…くましろくんはすごい潔癖だった。清拭はされているが頭をとにかく洗いたい…と言って看護師さんにダメに決まってるでしょう!と怒られている。
「そういえば……ドライシャンプー買ってきましたけど使いますか…?」
気休めにしかならないかもしれないけど、粉タイプのものを渡すと涙を流して喜ばれる。本人的に満足したのか、入室許可がようやく降りた生徒たちは嬉しそうにくましろくんの周りを取り囲んでいる。
「おお、日向くん影山くん!…なんでそんな泣きそうなの、戻るって言ったでしょ?」
「おー影山ついに泣くか?!」
「どっちが先に泣くと思う?」
そんな野次が飛んで張り合いだした二人はなんとか涙を堪えているようだった。
「あれ?知らない子がいる…マネージャーですか?」
「は、ハヒッ!谷地仁花と申します!!」
「すごい武士みたいな子がマネージャーになったんだね…オレは神代くましろ、武田さんの従兄弟です。よろしくね」
「体、痛くないんですか?」
「うーん…凝ってるって感じ…多分同じ姿勢が続いてたからかな…あ〜もう〜、泣かない泣かない!ピンピンしてるから!」
日向くんが我慢できずに泣きだし、つられるように影山くんも泣きだてしまったようだ。慌てる様子のくましろくんとは裏腹に、田中くんや菅原くんは至極安心したように笑っている。夢に出てきたとはいえ、週末ごとの見舞いでは浮かない顔をしていた2人のことを何より案じていたんだろう。
「お前を店番にしろって苦情がすげーんだわ…早いとこ検査やら終わらせて戻ってこい」
「そうですねえ、オレも病院怖くて嫌いだから早く戻りたいです」
「病院怖いんですか?」
月島くんが意地悪な微笑みをして問いかける。
「うん……麻酔注射結構痛いし、ドリルの音怖いし無理……」
ああ、きっとこれは元の世界でもたくさん怪我をしていろんな治療を受けている彼だからこその話だろう。
(皆お見舞いありがとう、期末テスト頑張るんだよ)
(日向くんも影山くんも座学はしっかりね、なんならオレ教えてあげようか?)
(お前勉強もできんのか!?)
(ふふふ、入学してからテスト全科目100点の覇者ですよ)
(((全科目100点…??!?)))
(すご…そのモチベどうやって保ってたんですか…?)
(担任の先生に頑張ったねって褒めてもらいたいから必死に勉強した…後半は100点取るとはなまる書いてくれてちょ〜嬉しくてさぁ!シール貼ってくれる先生とかもいたな〜)
(わあ、思ったより動機が単純…)
(田中くん聞こえてるからね)