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62 青い葉
*神代くましろ
日中ずっと店番をする必要はなくて、烏養さん…繋心さんが土日試合で出れないときとか、早朝の仕事を肩代わりしてるときに変わってくれると助かる、と話があった。
だから今日は朝、これまたご近所の方のだという畑の収穫お手伝いを烏養さんの代わりにオレが代理でやって、日中もお店番をして夕方は練習試合に行くから手伝ってほしいと言われてついていく。
道中とっても大変だった。初めて他校と練習試合をするってなった1年生の日向くんが車内で緊張のあまり吐いちゃったりして…。被害を受けた2年生の田中くんに話しかける。
「田中くん、それちょうだい」
「え…?」
「皆がやってる間に洗っておくよ」
「いや、でも流石に…ゲロ付いてますし?!」
まあ渡しにくいよねえ。気持ちは分かる。
「いーのいーの、ゲロの処理なんて慣れてるよ」
ゼンマイが家で吐き戻したこともあるし、オレ自身で吐いちゃったやつもあるし、ヒーロー活動中に酔っ払いのゲロ処理したことも何度もある…。
田中くんから受け取り、外の水道で洗う。石鹸を借りてゴシゴシ洗うと匂いも汚れもだいぶ取れた。何回か水で絞ってまた石鹸で手早く洗って…を繰り返して15分くらい。もういいかな、と思えるくらいに綺麗になったからできるだけ水気を絞る。
「体育館…ここかな」
バスケ部の面々と目が合うので間違えました〜と出ていく。 え、何ここ私立って聞いたけどもしかして球技の部活ごとに体育館割り振られてる感じ?体育館半分に割ってやるんじゃないの…?烏野もだけど体育館何個もあるのが普通なの…?
次の体育館はまさかのテニス部。ラケット持ってひたすら素振りしてた。間違えました〜って出ていって、困ったな…と思案。これ帰りまでたどり着けない可能性全然あるぞ。
次の体育館が外れだったら生徒っぽい子に声をかけよう!ヨシ…。
あ、あの子バレーボール持ってる!ここか?
「っわ…」
すごい豪速球が来たので叩くようにして左へ流す。銃弾でも扱ってるの?ってくらいすごい圧を感じたんだけど…。
「わ、ごめんごめ〜ん、平気?」
消太さんくらいの身長の一見、にこやかな子が声をかけてくるので左へ流したボールを渡しながら答える。
「平気です。…オレ練習試合でお邪魔してる烏野高校のお手伝いさんなんだけど、さっきからハズレの体育館ばっかりで…どこの体育館か教えてくれますか?」
「お手伝いさん…?マネじゃなくて?」
「うん、生徒じゃないからね。……何?」
左手を取られてまじまじと手のひらを見られる。距離感近いな…。
「え、結婚指輪つけてる…成人してるの?…さっき俺のサーブしれっと受け止めてたよね?痛くなかった?」
「痛いに決まってるよ、なんかすごい音したもん。まあ…骨折れてないし平気かな」
「骨折れるか折れないかなんだ……おにーさん、名前なんていうの?」
「くましろ。神代は名字だけど、あんまり好きじゃないから名前で呼んでくれると助かる。…あ!体育館どこ?」
「くましろくんって言うんだ…。ちなみに俺は徹。体育館はね〜、ここを出て右にまっすぐ言って2個目の体育館かな。屋根は黄色」
屋根の色まで違うの?私立はすごいな…。運動強豪の高校は皆こうなのかな…?
「徹くん、ありがと。……あ、ごめん癖で撫でちゃった」
目を点にしてる徹くんに今度こそまたねを伝えて教えてもらったとおりに入るとあたりの体育館だった。入るとこ間違えて試合を中断させちゃったけど…。
「くましろ、そこ入り口じゃねえから」
「あっち?ごめんなさい、すぐ閉じます〜」
今度こそ体育館の入り口に入って青葉城西高校の一年生からスリッパをもらう。なんて優しい…。
「ありがとうね、わざわざ!…烏養さん、武田さんすみません…広大な敷地に迷ってました」
だろうと思ったよ、と言われ武田さんの隣に座る。
「なんかやることありますか?飲み物とか?」
まだいいよと言われる。武田さんによると、日向くんが緊張してから回って大変らしい。
「負けたら退部とか…?なんでそんな緊張するんですか?」
「いやいやいや、そんなペナルティないよ!?…彼、中学では部員が少なくて3年生で最初の試合が最後だったらしくてね…慣れてなくて緊張してるんだと思う」
なるほど…。動きを見てるとほんとにぎこちない動きをしてる。
「緊張か…」
自分が一年生の頃を思い出す。どんなだったかな…。初めての授業は消太さんの除籍をかけた個性把握テスト、ヒーロー基礎学ではたしか爆豪くんが暴れてビル大破と出久くんが気絶…。USJでは弔が襲撃しに来たんだっけ。
なんか…アレだな、緊張してる暇もないくらい必死過ぎてなんにも気の利いた言葉思い浮かばないな…。
大人しく何プレーか見守ったあとドリンクを作りに行く。清水さん、という大人しい子から教わったとおりに飲み物作って戻る。重いから助かります、と小さな声でお礼を言われたので毎日偉いねと返すと、烏養さんに口説くなと怒られた。失礼な、口説いてないよ。
点を先に奪い、奪ったセット数で勝敗が決まるこの競技の第1セットの最後に日向くんがこれまた一年生の影山くんの後頭部にサーブをぶちかまして終了した。
「まあまあ影山くん、そんなプリプリしないで…可愛い顔が台無しだよ?」
「…いや…可愛くないッスよ」
「え〜?…真面目な質問だけど、鏡ちゃんと見たことある?」
「毎朝顔洗うときに見てます」
「じゃあアレか、影山くんきっと目が悪いんだな」
「視力いい方ッスよ俺」
「嘘だね、眼科いってきな今度」
「突っ込んだ方がいいのか?」
キャプテンの澤村くんが頭を抱えていたのでどうしたの?と声をかけるとなんでもないです…って黙っちゃった。
「アレが可愛く見えてるんですか?」
アレ呼ばわりされてる影山くんを不憫に思いつつ、すごい眉間のシワのこの子は…月島くんか。月島くんにそう尋ねられるので、みんな可愛いよ?と返すともっとシワが深くなる。
「なんか……10個くらい違うからさ、皆…なんていうか…ペンギンに見える。可愛いよ」
「ペンギン…?」
烏養さんまでわけ分からないって顔してたけど、武田さんはなんとなく言いたいことわかるよって理解してくれた。嬉しい!
緊張の糸がほぐれたらしい日向くんが動き出し、やっとチームでの試合運びができるようになり2セットめを奪還。
次のセットで勝ち負けが決まるとあってちょっと皆ピリピリし始める。おお〜!ワールドカップみたい…。
あ、徹くんだ。怪我をしての復帰戦だからフルでは出ずに最後のサービスエース…サーブを打つ役目だけするらしい。だからさっきサーブしてたのか。徹くんが向こうの監督さんとやり取りしてると、体育館2階の方から声援が飛んでくる。なるほど、この子モテるのか!
高校生が放つとは思えない重くて早い球が何度も飛んでくる。レシーブ…つまりボールを受けて上にあげるのが苦手な月島くん狙いだ。パワーを落とすことなく的確なコントロールで穴を突く…バレーボール素人でも分かる彼の強さに少しわくわくする。
バチィン!!!と痛そうな音のあと、うまく流せなかったボールがこちらへ来る。角度的に烏養さんに当たりそうだ…頭を守るようにして抱きしめて足でボールを蹴飛ばす。
「………おい」
「頭平気ですか?すごいボールですね…月島くんも平気?」
「このキザ野郎……しれっととんでもねえことすんな!」
「え!?頭守っただけじゃないですか…!」
顔真っ赤にして怒ってる烏養さんに座れと怒られたし、このボールを打ってきた張本人の徹くんはお腹抱えて笑ってる。
「すごいね、君の職業病…」
「いやもうほんとに…先に体が動いちゃうんです…」
キザ野郎…と落ち込んでると、貶した意味で使ったわけじゃないよと武田さんに慰められる。
フォーメーションを少し変えてなんとか繋げ、こっちのアタックに持っていく烏野。日向くんのとにかく早い速攻で点を取って2セット勝ち取り、形式上は勝ち。
お互いの生徒に監督・コーチから声をかけてコートの片付けに入った段階で烏養さんに声をかける。
「まだ怒ってますか…?」
「怒ってねえ!!!」
どう見ても怒ってる…。しょげてるとしょげるな!ともっと怒られる。荷物をバッグにしまって体育館をあとにする。
「うう…すみませんでした…」
「…お前、誰にでもあんなのすんのか?」
「…必要があるならします、守るのが仕事なので…つい体が動いてしまって…」
「警察ってより公安みてえだな……迫られたことねえの?自分はそんなんじゃないのに好意持たれてるとか」
「…結婚してからは減りましたし、その…ほんとに怪我とかするから抱きかかえて救助とかですし…結婚相手、男の人なんですね。だから女の子のほうがいいでしょって迫られたりはします」
「……誤解されねえように気をつけろよ、まったく…」
頭をぐしゃぐしゃにされた。武田さんがそれを直してくれる。
「くましろくんは人との距離が近いですよね、君を見ていると昔実家で飼っていたレトリバーを思い出します。
烏養くんも僕も…バレー部の皆も、君が人との距離が近いことを自覚していて、怖がらせたり不快な気持ちにさせないように気を回しているのは分かっていますよ。…ね、烏養くん?」
「…そんくらいはな」
「職業病だからまぁ…仕方ないけど、君が身を挺して守られた側はびっくりしちゃうんですよ。ボール相手にここまで厳重になるのかって」
「…そうなんですか?…その、男に抱きしめられたから嫌悪感とかではなく…?」
「先生の方だよ…ンだよ泣きそうな顔すんな!泣かせたみてぇだろ!」
「安心しました………っあ!!!田中くんのジャージ忘れた!!取りに行ってきます!あの、車動かさないでくださいね、迷うので」
「おー…忙しいな…」
烏養さんに再度びっくりさせてごめんなさい、と謝ってから車を降りて徹くんの背中を見つける。
「徹くん…わ、ごめん取り込み中?」
「くましろくん!ううん、平気だよ〜」
忘れ物したから体育館に戻りたいことを伝えると、道案内してくれると申し出てくれた。複数人の女の子たちは慣れてるのか、解散。…プレゼントとか持ってたしファンの子かな…。すごいな〜、部活でもファンクラブって出来るのかあ。
「さっき凄かったね?ナイトみたいな守り方してて」
「めちゃくちゃ笑ってたの見えてたからね?意地悪いんだから…」
「さっきの人が結婚相手?」
ううん違うよ、と返す。どんな人?って聞かれるけど返答に困るな…。
「難しいこと聞くんだね…?そうだな…世界が憂うイケメンで、とにかくカッコよくて人格者で…太陽みたいな人」
「うわ…すっげぇ惚気るじゃん」
「そりゃ世界で一番好きだからね…」
入り口でジャージの袋持って右往左往してた一年生に声をかけてジャージを受け取る。
「あぁ、君さっきスリッパ出してくれた子か…細かいところによく気付くんだねえ。ありがとね!」
「何、英ちゃん抜け駆け?」
英ちゃんと呼ばれてる。意外とかわいい呼び名だ。影山くんのことも飛雄ちゃんって言ってたし後輩はちゃん付けしたい子なのかな。
「くましろさん…あ」
心の中の噂で本当に影山くんが来た。知り合い…ぽいけど、仲良しではないぽくて緊張した感じの空気が流れてる。
「ジャージあったよ!…あ、そうだ眼科の話だけどレーシックすぐ勧めてくるところはやめなね」
「眼科…?影山…お前目ェ悪いの?」
「あ?いや別に…」
「何言ってるの、鏡見て可愛さに気付けてない時点で視力マイナス1だよ、すぐ行かなきゃ」
「待って待って待って、誰が誰の可愛さに気付けてないって?」
「影山くんが影山くんの可愛さに」
「だから、俺可愛くねえッス」
「何言ってんのペンギンみたいな癒やし要素持っておいて…」
「は!?飛雄ちゃんを!??!くましろくんこそ目めちゃくちゃ悪いんじゃないの!??」
急にめちゃくちゃ失礼になる徹くんのおでこを叩く。
「両目2です〜、もう失礼しちゃうな…。待たせてるし行こうか、影山くん。」
「ゥス…及川さん、国見も。…また」
なんかひと悶着あったであろう子たちにちゃんと挨拶できて偉い、と撫でておく。
「国見くんていうのね、徹くんも…またね〜」
(なんで可愛いンすか?及川さんが可愛いとかなら分かるんですけど)
(ん〜…なんかね、とくに影山くんと日向くんはペンギンの雛っぽいの)
(ペンギンのヒナ…?)
(影山くん動物好き?猫とか、犬とか)
(まあ…好きです)
(赤ちゃんの犬とか見たことある?)
(親戚が生まれて間もない犬飼い始めた時とかに見たことあるくらいです)
(可愛かった?あの感覚なんだけど…赤ちゃんってわけではないんだけど、あの感覚)
(……なんとなく分かりました)
(ふふ、話が早いねえ〜)
(でも俺、15なんで赤ちゃんじゃないッス)
(それは分かってるよ…!皆が赤ちゃんに見えるから可愛いって言ってるわけじゃないんだよ…?)