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51 海賊の流儀
*イゾウ
朝方から衝撃のような重みで目を覚ませば俺の上に跨る女。話を聞けば異世界人と名乗り、容姿と性別まで変えやがった。女のときは普通だったが、元の容姿だという今の姿はかなり美形の部類だ。
くましろと名乗り、午前中はマルコの手伝いをしていたらしい。自由に過ごしていいってんだから伸び伸びすりゃいいのに。
夜這いと呼んでからかうとエースのように反応がいい。それでいてエースよりは歳上なんだから不思議な奴だ。
「…で、イゾウさん。今のこの状況はなんです?」
「お前さんの監視だ」
そう言えばすんなり納得するくましろ。信じてもらえなくても結構、監視されて当然って態度だな。
「お前さん、腕は立つのか?ヒーローとやらなんだろ?」
「血反吐出るほど鍛えてもらったので、弱くはないかと……?多分。でもマルコさんにラリアットされたら首は折れると思います」
細こいもんなあ、手首なんかは俺よりも細い。筋肉質で締まってはいるが、エースなんかと比べると女のように華奢だ。
「首の骨なんか折らねえよい」
遠くから書類の仕分けをしてるマルコがため息をつきながらそう返事する。
もう俺の隊のファイリングは終わったらしく、見せてもらうと時系列ごとにきちんとまとめられていた。驚いたのは今までは隊に関することをまるごと1冊に纏めていたのに、隊員の個人情報と他を分けるべきとマルコに提案してわざわざ分けているらしい。そんでもう残り半分ほどに進めてるんだから手際が随分いい。
「その作業終わったらエースが手合わせしてみてえだとよ」
「終わりますかね…なんか向こうに山見えるんですけど…」
大方エースの2番隊、というよりエースの始末書関係だろうな。あいつは問題児だから。
色々な昔話をしてくれるくましろ。あけすけな話も結構してくれる、コイツは簡単に心を開くんだな。恐らく俺らも人当たりはよくしてるがまだ警戒してるってのは分かってる上で。
しばらくして6番隊まで仕分けを終えたくましろは休息を取る、と外へ向かうのでついていく。
「日差しが柔らかくていい感じですね」
甲板の前でごろん、と寝転がって伸びる姿は猫みてえだ。
「お、手合わせしに来たのか?!」
掃除当番のエースがホウキを持ったままこちらへ駆け寄って来る。
「まだ…あと残り6隊分」
げっそりしながら答えるくましろとまだか〜と項垂れるエース。歳が近いだけあって仲良くなりやすいんだろうか。
「あ、サッチが作ったクッキー食うか?」
「…いや、遠慮しておく…」
顔がぎこちなく固まるくましろ。甘いもん苦手なのか?と尋ねると言葉を選んでるようで返答がなかなか返ってこない。
「…一度、手作りのものに…その…毛とか血とか入れられてから苦手になっちゃって…オレも一緒に作るの手伝ったりとか、作る過程見てたら平気なんですけど…あとエースくん掃除してるのに手洗わないでクッキー触ってたから…」
「えらい潔癖なんだな…まあ最後の理由は最もだ」
俺もアレは受け取る気にはならん、と返せば安心したように笑ってる。
異世界人で期間限定の乗船予定とあって隊員たちがジロジロと眺め回すように見ているが、見られることには慣れてるのかノーコメント。ますます普段どんな様子で過ごしてるのか気になる。
「見られるの平気なのか?」
「あ〜…慣れてます、まあどう考えても今この状況は見られちゃいますしね。」
夜はお前の歓迎の宴があるからな、と伝えると遠慮している様子だ。欲があんまりにも無えから感情表現が少ねえんだな…。
夜、べろっべろになる姿を見るまではそう思ってた。
「よっっわ…」
「待って、確認だけどまだ1杯目だよね?」
「半分ちょいだぜ、このジョッキの」
口々にそう言われる中、かなり下戸らしいくましろは頬を赤く染めて楽しそうに笑っている。
「あれ…イゾウさん?」
「あぁ、イゾウだ。ずいぶん酔ってるじゃねえか?何飲んだんだ?」
意識はきちんとあるか、一応確認のためそう問いかけるとぽやぽやしたまま思い出してるようだ。まだ意識はあるな、まさかこんなに酒弱いとはな…いや強そうな見た目でもねえけどよ。
「このレモンジュースのんだ!」
「酒だよい、一応。アルコール1番低いやつだ」
マルコもやってきて、これ以上飲ませたら急性アルコールでぶっ倒れるかもしれねえからやめろと周りに釘を刺してる。
「水飲め、ほら」
「いらな〜い」
「酔うと随分陽気になるんだなあ、お前さんは。明日のために少しは飲んでおけよ」
「ふふ、はぁい〜」
水を置いて隣に座ったはずなのに、俺の膝の上に移動してきたくましろに目を見開いて驚いたのは俺だけじゃなかったと思う。
「お、おい」
「なに?…だめ?」
「うわ魔性〜…!普段からそんな甘えん坊なの?」
ハルタがそう声をかけるとハルタの方に振り向くが俺の上からは退かない。なんなら左手を掴まれてるから動けねえ。
「夜這い夜這いってうるさいから…状況証拠!夜這い、してなぁいよね?」
ニコニコと不思議なイントネーションと共に首を傾げてくるくましろに適当に頷くとケタケタと満足そうに笑ってる。
「ん〜?……なんかいいにおいする、」
「こら、夜這いしてねえっつう側から押し倒して夜這いすんなよい」
掴んでる左手の匂いを嗅がれたと思ったら首元に顔を近づけてきたくましろにあっという間に押し倒される。様子を見かねてマルコが助け舟を出し、くましろの首根っこを猫のように摘んで体を起こす。魔性だな、こいつ…明日覚えてろよ。
「夜這いしてない!」
「分かった分かった、明日じっくり聞いてやるから」
「いい匂いしたんだもん、なんか……花?」
「鼻がいいなァ、練り香水つけてんだ」
今にも寝そうな半目のくましろの頭を撫でると、犬や猫のように目を瞑ってされるがままになってる。…こいつ、こんなんで誰にも騙されず生きてこれたのか…?元の世界はとんでもなく平和なのか…?
「イゾウがペースに飲まれるたぁな…珍しいモン見れた」
サッチがニヤニヤとこっちを眺めてる。脛あたりでも蹴り飛ばしてやりてえが、人を椅子にしてるくましろが退かねえからできない。
「オレもそれのみたい」
「お前さんはこっちだ、これ以上暴れるな」
「大人しくすわってる」
「俺を椅子にしてな」
「重かった?」
「軽ィよ、細こいんだから」
酒に手を伸ばそうとしてくるので水を渡す。酒と勘違いしてるのか、ぐびぐび飲んでる。ジョッキ半分、1番度数低い酒でコレか……間違えて隊長同士で飲んでる酒なんか飲んだら吐いちまうんじゃねえか?
「ねむい」
「ほんとに25か?鯖読んでねえか?」
「さば…?」
「盛ってねえか?年齢」
そう聞くと、25歳です!と大きな声で返事が帰ってくる。ウソではねえんだな…。
「酒普段飲まねえのかよい?先に言えばジュースにしたのにねい」
「のみます、たまに。…でも轟くんとか、消太さんとかは飲むなって怒ってくる」
知らねえ名前がいくつか出る。
「だぁれ?トドロキとショウタ?」
「轟くんは〜、同級生でともだちで…消太さんはオレの結婚相手!世界で1番かっこいいよ」
「結婚してんだ〜!意外」
「そいつらにも会ってみてえな」
「お前さんの結婚相手、こういうの嫉妬しねえのか?」
そう聞けばうーん、と考えて黙る。人との距離感がおそらく近いんだろう、かといって昼間の様子を見るに声をかければ誰とでも打ち明けられるタイプ、という訳でもなさそうだ。
「消太さんならヤキモチ焼いても可愛いね」
そうなのかどうかはコイツにしか分からんが、どうも相手を溺愛してはいるみてえだな、口元がニヤニヤと緩んでる。
「マルコさん、シャツかして」
「?なんでだよい」
「さむいから」
「ブッ、アッハッハッ!マルコに命令できるのコイツだけだな」
サッチが噴き出し、舌打ちしたマルコが部屋からシャツとタオルケットを持ってくる。
「ありがと〜…あったか!」
ぶかぶかのマルコのシャツ着てタオルケットにくるまるくましろは、どう見ても子どもっぽい。
結局そのまま俺を椅子にしてぐーぐー眠りはじめたくましろをおろして床に寝かせる。
*神代くましろ
昨日のお前は大変だった、と朝から聞かされた話たちに顔が青ざめていく。
「大変申し訳ございませんでした、眠かったこと以外あんまり覚えてなくて…」
「いやァいいモン見せてもらったわ、イゾウ押し倒す奴なんて早々居ねえからな」
押し倒したくてやった訳じゃないんだけどな…!また不名誉なあだ名をつけられそうだ。
「小悪魔、目が冷めたか?」
あだ名が小悪魔になってる…。すみませんでした、と謝ると意地の悪い笑みを浮かべながらそれはそれは楽しそうに話すイゾウさん。いいように揶揄われてるな…。
「また変なあだ名ついてる…」
勘弁してほしい。マルコさんが頭は痛くないか、とひたすら心配してくるのでそんなにベロベロだったか…と反省する。アルコールそんなに入ってないのは事実だろう。もう少し元の世界では飲めるんだけどな…疲れてたのもあるのかな。
お風呂入っていいか許可を取り、タオルやら新品の下着などを借りてシャワーを浴びる。ギャルのお姉さんナースたちから乾燥して肌がひび割れやすいからクリームくれ、と伝えたらこぞって化粧品を持たされた。
すごいいい匂いの借り物のシャンプーたちを使い、シャワーを浴びて服を着替えて顔にこれまた借り物の化粧水などを塗りこむ。おお、ピリつかないのに保湿されてる…すごい!合わないものとはとことん合わないので助かる。
「びっくりした、新人ナースが歩いてんのかと思った」
まだ少し眠そうなエースくんだ。おはよう、と声をかける。昨日の酔っ払ったときのことはエースくんにも揶揄われた。
ナースさんたちに借りたものを返しに行くと、寒そうと言われ実際寒かったのでパーカーを借りることに。裏起毛であったかい。
「なんだ、ナースにも借りてんのかい」
マルコさんだ。パーカーの上に羽織る形でマルコさんのシャツは着てる。パーカー…もこもこしてるのに余裕で羽織れてる、マルコさんのシャツと体格どんだけデカイんだ…。
引き続き昨日の書類まとめを行い、やっとサッチさん、エースくん、マルコさん率いる1〜3番隊まできた。特に2番隊の破損物のまとめ、買出し忘れの反省文などが圧倒的に多い。手を焼いてるとぼやいてたが、これは確かに…大変そうだ。
お昼を挟んで夕方に差し掛かる前、ようやく終わる。
「終わったあ…」
「お疲れさん。ほんとに終わらすとはねい…それにしても2番隊のファイルの多いこと…」
「嫌味を言わせてもらいますが、破損の報告書とその反省文が7割でしたよ」
嫌味じゃなくて事実だろ、とマルコさんに訂正される。ほかの隊は多くて2、3冊くらいなのに2番隊だけ5冊もファイルを使用してる。どう考えても多い。
とりあえず今日はゆっくりしろ、とお休みを貰えたので部屋を出る。疲れた〜背中バキバキ…。ローラーがないかナースさんに聞いたけどだれも持ってないし、ローラーが分からないと返ってきてしまった。この世界では筋肉ほぐすとか浮腫みとるって概念がないのか…?
「おや、例のまとめは?」
「あ、イゾウさん…なんとか終わりました!2番隊多くて疲れました」
どっこいせ、と後ろのスペースに座ってくるイゾウさんにそう告げると目を丸くして驚いてた。
「あの量終わらせちまったのかい?…こりゃマルコが手放さねえな…」
「できればもうやりたくないです、、、背中が凝る…」
そう会話をしてると突然船が大きく揺れて(マジで45度くらいに傾いてジェットコースターかと思った)、後ろにいたイゾウさんに思い切りぶつかる。
「やばい、人類の急所の顎に…!平気ですか??!凄い音しましたけど!!」
もちろん骨と骨がぶつかってオレも相当痛いけど、イゾウさんの顔を見ると痛そうにしてるけど平気だった。顎は下手したら意識飛ばしちゃうからね…良かった。
「地震ですか?だとしたらもう人生を諦めるんですが」
「そう簡単に諦めんな…イヤ違ェ、これは…海王類だな」
かいおうるい…?初めて聞く単語だ。海の中に馬鹿でかい生物がうようよいるらしい、B級ホラーのサメパニック系映画を思い出してると、ザバァンと音を立てて海中から確かに大きな生物が顔を覗かせている。
顔だけ見たらかなり大人しそうな……牛?だけどヒレついてるしな…キメラみたいな見た目だな…。
「ブモォォォ!!!!」
前言撤回、なんか目があった瞬間にキレて右手?右ヒレを大きく上に振り上げた。うしろでイゾウさんが銃を構えたのが見えた。
「あれどうするんですか?食べたり?」
「サッチ、こいつ食えるのか?!」
「多分な!食料浮くから助かるけどよ…」
そんなやり取りが聞こえたので立ち上がって止める。ピタリと突然止まったので、甲板にいた何人かのクルーと後ろのイゾウさんは不思議そうに見上げてる。
(何だよい、こりゃあ…)
(いきなりキレたと思ったら動きがピタリと止まってな…)
(お前か?小悪魔)
(ちょっと、その呼び方気に入らないでくださいよ…個性で止めてます)
(便利なこって……今日の夜飯にするよい!1番隊止まってる間に仕留めろ!)
(可愛らしい見た目の分むごく感じちゃいますね…)
(少し早いペースで食料減ってたし丁度いい、くましろも手伝ってくれ!)
(捌くのも運ぶのも力になれるか…何したらいいですか?)
(浮かせられたりしねえか?)