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26 大切なんだよ
*神代くましろ
えーと……おれの膝の上から離れない小さい爆豪くんのまぁるい頭を見下ろす。気になるのは無言。やっぱり昼間の件気にしてるのかな……逆の立場なら気にするなって言われても難しいことなのは分かる。
「爆豪くん、足痺れちゃうよ」
正座したままおれの膝の上にいるから、ちょんちょんと膝小僧を突く。痺れてたみたいで背筋ピーン!ってなって指を掴まれた。
「下手すると折れちゃうから、伸ばそ?よーいしょ」
脇の下に手を入れて持ち上げてそうっと下ろす。ちょっと足突いちゃおうかなとか思ったけど往復怖いからやめておく。火花パンチされたらたまったもんじゃない。
「……ふは、どういう顔?それ」
「るせぇ、見んな」
「やーだー、ここおれのパーソナルスペースだもーん」
「……ッチィ…!!!!」
うわ、でっかい舌打ち。すごいな。ギネス載りそう。出久くんもそわそわしながらおれのこと見てる。やっぱ二人とも思うことあるよなぁ……出久くんはともかく、爆豪くんもきっとオールマイト好きで、オールマイトの活躍を当たり前に生きてきたと思う。そこから自分の個性も相まってヒーローを目指した、たくさんの子供のうちの一人だと思う。
だから、なおさらプロヒーローが我が子をどうでもいいって言い放ってることも、その我が子が自分の目の前にいることもショックだったんじゃないかと思う。母さんは普段の言動が聖人ってわけじゃないからまだギャップは少ない方だと思うけど…。
「出久くんもおいで?三人で寝ようよ」
「う、うん…」
二人の間に挟まるように体を横にして電気を消す。オレンジ電球にしとこ。
「……昼間のやつ、気にしなくていいからね?」
「!」
おお、二人とも反応が分かりやすい。
「遅かれ早かれ、あの発言は知ることになるし……母さんと距離感が遠いのはずーっとだから。ただ……うーん、今、いろいろ整理中で。
母さん以外に貰った言葉を大事にしたりとか、A組……それこそ出久くんも、爆豪くんも。皆がくれる優しさとかを大事にして、母さんに頼らなくてもいいように練習中なんだよ」
「………ぁんでお前、ヒーローになりてぇんだよ。あんなんと同業者になるの嫌じゃねえんか」
「か、かっちゃん…!あんなんって言い方は…」
「はは、大丈夫大丈夫、警察からも言われてるから。ん〜おれ、一番好きなヒーローはイレイザーヘッドなんだ。中学2年の進路決めようってとき、久々に帰ってきた母さんと大喧嘩してさ……お前の個性的に無理だよって否定されて、しんどくて家出しよっかなってフラフラしてたときにイレイザーヘッドに出会ったんだ。その時にお前はヒーローなれる、鍛えてやるって言われて……そのときは知らないおじさんだったけど縋るものがそれしかなかったのが本音かな」
「……一度も会ってねえんか、体育祭3位だったんだろ」
「お、見てくれたの?爆豪くん一位だったけどね……あのときも特に会ってない。
……ふふ、爆豪くんも出久くんもお節介で優しいねえ」
「茶化すな男女」
「男だし!……ヒーローの本質だよ、お節介なの。流石だね…ふぁ、眠くなってきた」
二人の手を繋いで眠る。朝ギッチギチの感覚で起きたら二人とももとに戻ってた。
「おはよぉ……二人とも戻ったんだね」
「……???!?!」
おお、爆豪くんキレイな2度見。出久くんはまだ寝てる。
「説明しろくましろ、これはどういうことだ」
「するから顔鷲掴みしないで……出久くん、出久く〜ん。起きて〜個性事故の報告しに行くよ〜」
「……んぇ…?個性事故…?」
相澤さんに電話をかけて二人がもとに戻ったことを伝える。
3日間小学校6年生のときに戻ってたんだよ、と伝えると口あんぐりあけて驚いてた。やっぱこの数日感の記憶は引き継がれないのかな?
「……お前変な写真とか撮ってねぇだろな」
「ないよ、撮るなら相澤先生のほうが優先だし」
「優先も何もないだろアホ…んでお前は熱は?」
すっ飛んできた相澤さんに強めにオデコ押された。
「……なんと下がりました!ようやく平熱!」
「くましろくん熱出してたの?」
「うん、二人とも子供になっちゃったでしょ?だからほとんどおれの看病してくれてたんだよ…‥かなり申し訳なかった」
「何しとんだ免疫ザコ」
聞いたことない悪口言われた。小6の爆豪くんはやっぱりマイルド気味だったんだ……免疫ザコなんて言われなかったもん。
3日間休むしかなかったおれらへの各教科のプリントをホームルームのあとに配るからって相澤さんから指示を受けて、久々にちゃんとご飯食べた。食べきるかどうかを相澤さんが隣に座って監視してきたから食べにくくて食べにくくて仕方なかった。
「……昨日、すみませんでした。アホみたいに病んじゃった」
「……そりゃあ病むだろ、あれは」
あれ呼ばわりなんだ……爆豪くん(キッズ時代)のあんなのといい、塚内さんたちの「災厄」呼びといい、通り名の死神といい母さんマトモに名前呼ばれなさすぎじゃない?なんなの?名前読み上げたら死ぬのか?ヴォルデモートなのか?
「もっと早く見切りつけとけばよかったです」
「……くましろ、今週末病院行こう」
「えっ?!??嫌ですが、熱下がったし」
「外科内科じゃない」
「………インフル予防ですか?」
「外科内科じゃねえっつったろ……心療内科。カウンセリングだ。」
「カウンセリング」
「轟にも徐々に話を進める予定なんだが……まあ本来、お前らがどうこうじゃない。毒を受け続けて弱ってるのが轟とくましろだと考えろ」
「は、はい」
「本来はな、毒を与えるほうがおかしいから認知を矯正したり関係性をなんとかできないか与えてるほうがメインでカウンセリング受けるのがいいんだが………二人ともを矯正するよりかは、毒を与えられ続けて弱ってるお前らの保護が最優先で、目的だ。お前らが変だから、だめだから行くんじゃないってことだけは忘れるな」
「ひ、ひとりでですか?」
「付き添いするよ…けど話すときは基本マンツーマンだ……嫌か?」
「……やではないですけど……何話したらいいか」
「そりゃ向こうがうまいことしてくれる……土曜の昼からだ、空けとけ。終わったら体力落ちてるだろうから訓練し直してやる」
「え!?好き」
全寮制になってからめっきり個人訓練の時間が強制的に減ってしまったので嬉しすぎてハートマークでハート送ってたら早よ朝飯食えって怒られた。理不尽。
そんなこんなでプリントをささっと終わらせて、問題ないよ〜って言われてほっとしてヒーロー基礎学なんかにも復帰。爆豪くんたちはやっぱり昨日までの3日間の記憶ないみたいで、逆に安心した。特にあの再放送のテレビのやつは記憶残ってたらほんとに気まずすぎてどうしようもないから忘れてくれたほうがありがたい。
*相澤消太
「何を緊張してんだ……」
「だ、だって」
入試の時よりもカッチコチで病院に来た。嫌がるかと思えば意外とすんなり。根津さんとも相談し、リカバリーガールとも協議を重ねて外部のカウンセラーに轟共々通わせようとなった。二人とも、心の拠り所になるはずの親との関係性の構築が主に親側の起因で希薄どころかマイナスだ。それなりにトラウマを抱える二人に、どうにか和らげてほしいと。俺じゃ時間が足りない。他の生徒も見ながらとなると、きちんと相手ができない。中途半端が一番不誠実で残酷だと結論づけ、外部の手を借りようと。餅は餅屋だ。
問診票を書いてまずは精神科医の診察。風邪のときみたいな感じでやり取りしたらしく、くましろにどうだった?と聞いたらなんか明るいおじさんだった!と。個性事故による一時的とはいえパニック障害もどき?に陥ったこと、そこから不眠症になったことは予め伝えてある。その時の話と、普段の学校での話をしたようだ。
「じゃ、神代くましろくん。こちらで待っててください」
カウンセラーの部屋へ呼ばれたくましろの背中を軽く押す。………いい方向に、いけばいいが。あいつの好きなリンゴジュース買っとくか。
*神代くましろ
「こ、こんにちは」
「はいこんにちは、神代くましろくん。私は名雲義史です。どうぞどうぞ座ってくださいね」
またもや明るいおじさんだ。関西訛でたいととやつきの二人を思い出す。元気かなぁ、二人。
「カウンセリング初めて?えらい緊張してはる表情やから」
「は、はじめて、です」
さっきの明るいおじさんとのやりとりの紙でも見てるのか、名雲さんは一瞬だけ視線を落として顔をぱっとあげてニッコニコで笑ってきた。
「不眠症なってた時期あるって書いてあるけど、よくなりましたか?」
「はい、寝れるようになりました」
「そうなんや、寝れるんはいいことですねえ。よかったよかった……ここへ来ようと思ったきっかけは何かありますか?」
きっかけ、
「……保護者に、行こうって」
「うんうん」
「実の親と、うまく……過ごせなくてその…いろんな自信がなくて……」
(おかえり、疲れたか?)
(ちょっと……疲れました)
(ん、座って休んでろ。これ飲んどけ)
(ありがとうございます……)
(お……珍しい、爆豪がくましろにクリームパン買ってるってよ)
(クリームパン…?)
(ん、マイクから連絡きてる)
(………なんでクリームパン…???)
(甘いの好きだからだろ)
(………ほんとに個性事故の間の記憶ないんですよね?)
(あの二人が口裏合わせて嘘つくとは思えねえからな……ないはずだ。個性元にも確認した)
(そっかぁ……じゃあ気にせずパン食べよ)
(そうしろ、風邪の間お粥一口とかだったから今のうち食ってプラマイゼロにしとけ)
(リンゴジュースでカロリーはプラスになってそうですけど)
(質量のあるもん食え)
皆にとって大切なくましろくんと轟くんは、せめて私の小説内ではカウンセリングを適切に受けて心穏やかに過ごしてほしい。
ちなみに、爆豪くんと出久くんの個性事故間の記憶ですが残ってません。残ってはないけど、とにかくとんでもなく悲しい、やるせない気持ちをくましろくんに対して抱いて何もできなかった感覚だけが残っていたので何か取り返しのつかない暴言など吐いてないよな…?と少し不安になった第六感強めの爆豪くんによる甘いものによる様子見のためのクリームパンです。
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