MHA2
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9 カツ丼
*神代くましろ
「あら……君、くましろ君だよね?出久と同じクラスの!」
「……?出久くんのママですか?」
すごい顔似てる。髪の毛や出久くんの優しい目元は完全にママ似なんだろう。そういえばお父さんは単身赴任で海外にいるって聞いたな…おれの父さんは一応国内にいるけど、単身赴任っていうのは同じ。家庭環境が似てるね、と話していたことを思い出す。
「そうそう……あ、今日ね、出久の好きなカツ丼作ろうかなって思っていーっぱい用意しちゃったの…くましろ君、良ければ夕飯食べていかない?」
スーパーの駐車場の隅っこ。今日はどうしてもまだ家に帰りたくなくて、でも雄英の制服で市街地をウロウロするのも…って思いついたのが駐車場。縁石の上で体育座りしてたら、少し汗ばんだ出久くんのママに声をかけられた。確かにすごい荷物……重そうだし、ご馳走になるならないの前に持たないと手がちぎれちゃいそうだ。
「……持ちます、でも……ご飯は、いいです」
「えっ!?カツ丼嫌いだったかな?!」
「カツ丼は好きです、けど……」
「じゃあいいじゃない!話してみたかったのよ〜、出久がね、受験の前から貴方のこと話してたのよ!そんで出久と揃ってテレビ出てるもんだから……あら、2つとも持ってくれるの?」
あれよあれよと色んな話をし始めた出久くんのママのペースにのまれて特に返事もできないまま、ふたりで並んで歩き出す。爆豪くんママも結構…押せ押せ!な感じだった。出久くんのママはおっとりしてそうなイメージだったからちょっとイメージ違くてびっくり。出久くんがオタクモード発動したときの遺伝子もママなのかな。
「お、お邪魔します……」
友達の家、行ったことは……あっても夕飯ご馳走になるなんて初めてかも。とりあえず手を洗って座って座って!と案内されたソファに座る。
そこかしこにオールマイトがいる……すごい、出久くんの情熱を感じる。
「出久はねえ、多分そろそろ帰ってくるからね……はい、市販品で申し訳ないけどクッキーと冷たいカフェオレ!食べられるかな?」
「ありがとうございます」
わ、これ……ココナッツの匂いする美味しいやつ!久々に食べた。美味しい。
「それで……どうしたの?まだ7月頭とはいえ、駐車場暑かったでしょ」
「……なんていうか…家に、まだ帰りたくなくて。」
「そうなんだ。スーパーの中の涼しいとこいたらよかったのに……私が買い物きて、終わってもまだいるから声かけちゃった」
顔真っ赤だし焦ったよ〜、と話す出久くんのママに少し申し訳なくなる。トイレとかにこもってればよかったかな…。
「出久からチラッとしか聞いてないし、これはおばさんのお節介なんだけど……時々でいいから出久と3人で夕飯食べに来てほしいな」
「……え…?」
「食い盛りが二人いると助かるの!くましろ君が良ければ、だけど……」
「……でも、食費とか…」
「子供はそんなこと気にしなくていーの!1人増えたってそんな変わんないよ」
笑った顔、出久くんそっくり。『大丈夫、大丈夫だよ。…僕たちも、くましろくんも。根拠とか…ないし、うまくいえないんだけど…でも、大丈夫!って思ってた方がきっとうまくいくから』
ステインにやられて入院していたあの日、出久くんがかけてくれた言葉を思い出す。
「……じゃあ……お願いします」
「できる限りのリクエスト受け付けるからね……あ、出久帰ってきたかな」
「ただいま〜……ってあれ、くましろくん!……何かあった?」
「……え、と……」
「そういえば、放課後普通科の人に何か言われてなかった?……君が言いたくないなら、無理には聞かないけど」
「……い、出久くんには…言いたくない…」
だって、あまりに酷い言葉だった。『片親育ちは倫理がマトモに育たないって本当なんだな』…同級生かどうかも分からない、同じ制服に身を包む人に言われた。
言われた言葉がずっと刺さって、でもこのまま家に帰ったら間違いなく相澤さんに尋問される。相澤さんやマイクはこの言葉を投げかけたあの子たちを許さないだろう。
でも、暴力を振られたわけでもない。なんか成績を改ざんとか、SNSに晒されたりして名誉毀損を受けたわけでもない。ちょっとした心無い、刃を投げかけられただけ。『そんな程度』で大人がたくさん動くと考えるのも、しんどい。
『イレイザーのお気に入り』『根津校長のお気に入り』『死神の七光り』『コネ入学』『親がマトモじゃないから、クレーム防止に先生たちから贔屓されてる』
入学してから色んな知らない人に色んな言葉を投げかけられた。嬉しい言葉もあれば、身を引き裂かれるような悲しい言葉もある……でも、比率は同じじゃないから。嬉しい言葉のほうが多いから聞こえなかったフリをすればいい。聞こえても忘れるように振る舞えばいい。心無いことを言う人なんて、プロヒーローになってもたくさんいるってゼンマイもミッドナイトも言ってた。こんな程度で、折れちゃいけない。
「なんで?」
「……言いたくないんだってば!分かってよ!」
泣いていて喉が震えてる割に、そこそこ大きな声が出た。出久くんに怒鳴ったことなんてないのに。出久くんのママは肩が跳ねて驚いてたけど、出久くんはじっとおれを見たまま。
「くましろくん、落ち着いて……座ろう?」
「……おれ、やっぱり帰る…」
「だめ。こんな状態の君を放っておけない…帰るって言うなら母さんと送迎する」
そ、れはもっとダメだ。相澤さんと暮らしてるのがバレる。出久くんたちを信じてないわけじゃないけど……ぽろっと誰かとの話に出て、それがいい様に広まったら?相澤さんの名前にも泥を塗ることになる。あんまり働かない頭で座ってどうにかはぐらかすしかない。
「くましろくん、そんなに握りしめたら血出ちゃうよ……ね、手貸してみて?」
する、と出久くんの手が伸びてきて、控えめに指先を握られる。あったかい……雄英でランニングとか筋トレしてたのかな。ぽかぽかしてる。
「出久、手洗ってきたの?」
「…あっ!ご、ごめんちょっと待っててね!」
バタバタと走り去っていく出久くんを見送ると、出久くんママからティッシュを貰う。
「あ、すみません…おっきい声出して」
「ふふ、いいのよ…出久がオールマイトの動画見てるときよりかは全然小さい方だし…もう凄いんだから」
想像して確かに、家だとめちゃくちゃ騒いでそうな出久くんが簡単に脳内に出てきてちょっと面白くなる。
「無理に聞き出すのお母さん反対……せっかくなら2人とも家事手伝ってくれない?」
私服に着替えて、おれ用にスウェットを片手に用意してくれた出久くんに出久くんママがそう言う。じゃあ……と着替えて、少し気まずい中3人で台所に立つ。
「わあ、手慣れてる…普段からご飯作ってるんだ?手際がいいね〜…出久、このお肉綿棒で叩いてね」
サラダ用の野菜を切って、カツ丼用のお肉に下味をつけて衣をつけていく。油で揚げるのは出久くんママがやる、というので後ろでぼーっと見てる。あち、とかちょっと焦げた〜って聞こえてくる、我が家では見たことのない景色。台所に母さんが立ってるの、見たことないわけじゃない。最後に見たのはいつかは思い出せないくらい前なだけ。
「はい、どうぞ召し上がれ!」
出久くんが炊いてくれた、炊きたてのご飯の上におれが切った千切りキャベツと出久くんのママが揚げてくれた分厚いカツ丼。
*緑谷出久
いつ謝ろうか、いつ話を切り出そうか。まだ、今じゃないと母さんの目線を感じて黙っていればもうカツ丼まで提供されてしまった。そういえば、聞いてないけど母さんとどこで合流したんだろう?顔をひと目見ただけで何か良くないことがあったんだ、と分かるくらい……悲しいというか、寂しそうな顔をしてるくましろくん。きっと、心無い誰かの言葉で凹んでいる……だろうとは予測がつく。
くましろくんは、まっすぐ人の言葉を受け取る。例えばかっちゃんの『アホ』『ボケ』『カス』っていう彼にとっては句読点のような意味のない単語も、単語をそのまま受け取る。
『いっつもいつもアホアホ酷いよ!アホとボケはいいけどカスやゴミは嫌だ!』とかっちゃんとつかみ合いの喧嘩をしていたくましろくんには、かっちゃんはバカと言い換える?ことが増えた。
僕らがくましろくんは字がきれいだね、と褒めたことすら忘れてしまうような事も何回でも思い出して喜んでくれてる。この間、飯田くんが不在のときに書紀がいなくてくましろくんに頼んだら本当に嬉しそうに『出久くんはおれの字、好きって言ってくれたもんね』と引き受けてくれた。
まっすぐ受け取ることはいいことだ。でも、くましろくんは……悪意もそのまま受け取ってしまうせいでたびたび抱えきれずに泣いていることがある。今回も……多分、そう。
『出久くんには言いたくない』……眉を下げて、申し訳なさそうに呟いたくましろくんをどうすれば紛らわせるか、何を言われたのか聞き出せるのか……意を決して顔を上げると、またぽろぽろ泣いてる。
「くましろくん、だ、大丈夫?!これティッシュ…!」
「ありがと……おいしい、おれこんな美味しいカツ丼初めて食べた」
ぽろぽろ泣きながら、食べることはやめず口をパンパンにして頬張るくましろくんにつられ泣きしそうになる。くましろくんの家庭環境はうっすら本人から聞いてる。たまに夜中帰ってくる母親はお金だけをおいて、対面せずに出ていく。最後に顔を合わせて話したのは進路のための中学2年、3年の頃が最後。死神の……『ミズコ』の手料理を食べたのは多分小学校に入学する前だった、と話してくれた記憶がある。
「おかわりいくらでもあるからね、ひじきの煮物とか…味噌汁もいる?」
「か、母さん…!くましろくんが破裂しちゃうよ…!」
「……片親育ちは倫理がマトモに育たないって本当なんだな」
「え?」
「……そう言われた」
ちょっとほのぼのしていたのに、空気が凍るような感覚になる。片親育ちは、倫理がマトモに育たない……?
「…くましろくんって……優しいのねえ、私たちに気を遣ってさっき言わなかったんだ」
母さんがそう言うと、くましろくんは丼を机においてもっと泣き始めてしまう。
「今日ね、スーパーの駐車場の端っこでず〜っと座ってるくましろくんに私が声をかけたの」
「…うん」
「買い物って結構時間かかるでしょ、1時間は過ぎてたのに外に出たらまだ居たから……夕飯食べていかない?って声かけたのよ。そしたらくましろくん、なんて言ったと思う?
ご飯はいいけど、荷物は持ちますって……こんなに人に優しくできる子の倫理がマトモじゃない訳ないのにね」
母さんのその言葉でくましろくんは限界だったのか、小さい子みたいに声を上げて泣き始めた。ティッシュではもうどうにもならない量の涙だから、なるべくふわふわのタオルを取りに行く。
あれ……くましろくんのスマホ、めちゃくちゃ点滅してる。あ、相澤先生から電話……11件!??!??くましろくんは大泣きしていて出られなそうだし、緊急性を感じる件数だから代わりに出る。
「『おい、どこに居る』……あ、あの、相澤先生…」
『……緑谷か?』
ガサガサと布が擦れるような風の音がピタリと止む。……もしかして、走って探し回ってる……?
「はい、くましろくん今僕ん家に居て…一緒にご飯食べてます」
『……お前が出るってことは出られない理由でもあんのか?あ〜……できれば、親御さんに代わってくれるか?』
「は、はい……母さん、緊急の電話!」
電話をバトンタッチしてくましろくんにタオルを渡す。
「くましろくん、さっき……ごめんね……あ〜泣かないで、僕なんにも気にしてないから!」
右手でタオルを当てるくましろくんの左手をそっと握る。
「ね、ゆっくり泣きやんで?カツ丼食べよう」
体育祭の時も酷い野次があった。泣かずに、黙って耐えていたくましろくん。反論に近しい言葉として彼が叫んだのは『うるさい』だけ。でも野次はくましろくんの人格を『ミズコ』に絡めて否定するようなものばかりだった。アレだってきっとストレスだっただろうな…。
「……冷めちゃった」
「フフ、レンチンする?」
「ベチャってするから、いい……出久くん、おれも怒鳴ってごめんね」
「いいよ、怒鳴られたなんて思ってないし」
*神代くましろ
相澤さんが出久くん家に来るまで、すっかり忘れてた。連絡入れてないってこと。血の気引いた。
「すみません…ご馳走になったみたいで」
「い〜えいえ!私から誘ったんですよ……くましろくん、お世辞抜きでほんとにまた食べに来てね!今度はでっかいハンバーグ作ろう」
「ハンバーグ……」
「……その時はまた、よろしくお願いします。緑谷も世話かけたな……おい、鞄は?」
持って帰ってきたっけ!?!と焦ったけどちゃんと持って帰ってきてた。よかった〜、スーパーの駐車場に忘れましたなんて言ったらゲンコツ喰らう。
お泊りは服持ってきてないし、ということで相澤さんと並んで帰る。出久くんママ、優しい人だったな……。
「……家帰っても居ないから肝が冷えたぞ」
「すみません……抜けてました」
「事情は二人から軽く聞いた……拾ってくれたのが緑谷のお母さんで良かったよ……くましろ」
「?」
「言ったやつ、どうしたい」
「え…」
「お前のことだ、こんくらいの揶揄に近い言葉受け流せるようになんねえとって思ってんだろ……受け流さなくていい。
揶揄じゃ済まされねえ、侮辱だ」
侮辱。
「………でも、ゼンマイが…」
「あれは…例えば太ったなとかそういう外からのコメントをやいやい言われる立場だって話しただけだ。
マイクだって裏では薬の常習犯で殺人鬼って謂れもねえ侮辱されたら出るとこ出るぞ」
やっぱりな、と呟いた相澤さんに撫でられる。
「…緑谷の母親と電話してるときもお前わんわん泣いてただろ、傷ついて当然だ。
お前がしたいようにすればいい、停学してほしいなら職員会議にも上げるレベルの話だからな……コネがあるとか、教師に気に入られてるからじゃない」
全部バレてる。壁中に耳でもついてんの…?なんで言われなことバレてるんだろう。
「……停学までは……」
「分かった……俺はアングラの立場上、コソコソするのが得意でな。コソコソしてるといろんな話を聞くんだよ……よく耐えた」
(いつまで元気ねえんだ、元気出せよ……ほらアイス)
(いいです……マジでお腹いっぱいなんですってば)
(いつもは別腹とか言って3個くらい平らげるだろ、今すぐ空かせろ)
(なんて横暴な……そこまでの体のコントロールはできないですよ)
(くましろ、お前は大丈夫だよ…思い詰めるな)
(……なんで泣かすの…)
(事実を告げてるまでだ……ほらこっち来い、目腫れるぞ)
出久くんのママって、あの出久くんのお母さんなのでお人好しであったかい人だと思うんですよ。
息子が入学まで再び頑張るきっかけに、そして入学してからも支えてくれてるお礼としてせめて母親の代わりのようなことがしてあげたい、というお節介に似た感情を抱くタイプだと思います。
でもお金の援助とかそういうのはできないけど、手作りのご飯を3人で囲むことくらいなら!と。くましろちゃそがネグレクト気味だというのを知るのは出久くんの心遣いとして卒業後になると思います。
くましろちゃんの好物
プレゼント・マイクのグラタン
出久くんママのカツ丼、ハンバーグ
相澤さんの味噌汁、おにぎり。
物間くんのケーキ
轟くんの月見そば
色さんの料理全般
って答えてたらかわいいな……!