MHA
Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
97 不眠症
*神代くましろ
個性事故?によるリミナルスペース没入(都市伝説のおまけつき)を体験してしまってから、不眠気味になってしまった。昼夜は逆転するわ、夜は眠れないわ、暗いところが一気に駄目になってしまうわで生活に大きな支障が出ている。
「おら、飲め」
「……」
見兼ねた相澤さんとゼンマイに連れて行かれた心療内科から処方された睡眠導入剤。これを飲むと確かに入眠はできる……けど寝起きが格段に悪くなること、悪夢を見る確率が高いから飲みたくはない。これ以上迷惑も心配もかけたくなくて、悪夢の件は伝えてない。
「……くましろ」
「の、飲みます」
「いい。……なんか隠してるだろ、お前」
ぎく。ぽいって投げてきた薬を取り上げられ、手持ち無沙汰の左手が握られる。ここまでされたらもう白状するしかない……。
「…飲むと、やな夢見るんです…」
「何で早く言わないんだ、バカ」
「だって…」
「人間は寝ないと死ぬ、だから無理矢理でも寝ろって話だ。薬が合わないなら別の探しゃいいだろ」
そりゃ、そうですけど…。めちゃくちゃ正論かます相澤さんに何も言えなくなる。
「何考えてるかなんて大体分かるが、心配はしても迷惑だなんて思ってないよ……できるなら代わってやりたいくらいだ。今日は眠剤なしで寝るぞ…ほら、寝る準備」
「結婚してくださいマジで」
「半人前が何をぬかす…はい、早く立つ」
手を引っ張られつられる形で立ち上がる。歯磨きもしたしお風呂にもすでに入ってる。数日前にゼンマイにも迷惑かけてごめんって謝ったら何言ってんだって背中叩かれた。相澤さんがオレと合わせる生活になるせいで、規則正しく寝るようになったから肌艶良くなってるってミッドナイトには逆に褒められた。
部屋にランプを買いたしてくれて、間接照明のようにいくつもつけてくれてる。明かりがないと目を閉じるのすら怖くなってしまった。相澤さんはオレが寝るのを確認してからアイマスクしてるって言ってた。
「はい電気消すよ」
「はあい」
ぱち、と部屋の主電気が落ちる。少し心がザワザワする気がした。ぼんやり明るい街灯に照らされた箇所を直視できなくなった。イオンみたいな大きい駐車場に近寄れなくなってしまった。スーツの人なんてそこらにいるのに、少し背の高い個性持ちの人なんかを見ると空見して過呼吸を起こすようになってしまった。
「相澤さん」
「なんだ、目くらい瞑れ」
「……こんな調子でいいんですかね」
「……」
「夜も一人で眠れないし、特定の場所には行けないし、過呼吸起こすし……」
「目ェ腫れるだろ」
ぼろぼろ流れる涙を雑に拭っていると手を掴まれる。胸元をとんとんゆっくり叩かれる。
「大丈夫だ。この状況が続くならまた明日考えりゃいいだろ…一個一個解決してきゃいい」
だから目を瞑れと言われ、泣きながら目を瞑る。泣き痙攣引き起したくないからゆっくり深呼吸するイメージ。ピッタリ相澤さんにくっついてるから拍動を感じて、ちょっと安心する。
「明日何食べたい」
「あした…?」
「うん、明日。金曜日だから…色のとこ行ってもいいし」
そっか、明日金曜日か……先週から今週にかけてバタバタして曜日の感覚がなかった。短時間しか眠れていないのもあるだろうけど…。
「……ゼンマイの肉じゃが食べたい、かも」
「かも?」
「ゼンマイ明日はラジオあるはず……」
胸元でトントンリズムを取るようにしていた手が右手にやってくる。相澤さんの手あったかい…。
「そうだっけか?…確認しとくよ…現国のプリントやった?」
「……あっ!」
「はい、起きないの。…明日の朝早く起きてやろうか」
すっかり忘れてた、なんなら他にも提出課題あった気がする……。オレがこんなんになっちゃって、授業を起きて受けられない日々が続いた。各担当教科の先生を全員とオレを集めて相澤さんが理由を説明してくれたおかげで、授業態度の成績は悪くならないように頼んである。
その代わり、授業をまともに受けられないから皆より多く授業に関するプリントやワークを提出してる…と言っても中学とか小学校の頃の夏休みの課題より全然少ない。3連休で出されるちょびっと+αくらいの量だから苦じゃない。
本来こんな特別待遇ありえないと思うけど、相澤さんがきっとオレの見えないところでいっぱい頭下げてくれてるんだと思う……根津さんもかな。だから文句なんか言えないしきっちり提出するしかない。何人かの先生はお子さんがいるから、スレンダーマンっていう存在やリミナルスペースのゲームをお子さんがやっていたり、動画越しから知ってるみたいで『怖かったでしょう、大変だったね』と優しい言葉をくれてる。すぐにSNSにいろんな動画が上がったり拡散されたりする現代は色々厄介なこともあるけど、この時代に生まれてきてよかったなと安心した。理解を得られるってこんなに心が軽くなるんだから。
「……くましろ、力抜いて」
「あ、ごめんなさい……痛かったですか?」
「痛いわけねえだろ……全身が強張ってる、深呼吸して力抜け」
右手の甲を擦られる。相澤さんの胸元に頭を寄せておでこをくっつける。あったか……。
*相澤消太
寝た……か?時計を見上げると時刻は2時半。……まあ、数日前までは日が昇ってから寝てたこともあるしな。上々か。くましろは日中はあんなにうるさいくせに、寝てるときは本当に静かだ。寝息もよく聞かないと聞こえないから暮らし始めた最初は呼吸が止まってるのか?と不安になったもんだ……
アイマスクを下げて布団を肩まであげる。くましろが身動ぐ様子はないので、眠れたのだろう。教室での個性事故?が起きる前は自主訓練した日、小テスト前で勉強した日、とにかく授業でヘロヘロになった日……飯食ってお風呂入ってそのまま床で寝落ちなんてことも度々あるくらい入眠に問題がなかったくましろが眠れなくなった。
理由は明白だし、改善方法もそこそこあるから試している。ミッドナイトさんに教えてもらった都市伝説のスレンダーマン…こっちだと口裂け女みたいな存在のやつと仮想上とは言え遭遇したのはだだっ広い夜の野外駐車場のような場所。薄暗いところから急に瞬間移動してきたと話すくましろのために、その仮想上の街灯とは異なる暖色のテーブルランプや間接照明器具を買ってつける。俺には明るいが、アイマスクすりゃ問題ない。
あんまりに怯えるもんだからマイクとともに心療内科に連れていけば完全にPTSDと診断。……まあそりゃそうか、口裂け女だって俺らが子供の頃から伝わってる怪談の象徴だ。人が怖いと思う造形と、遭遇したら最後と言わんばかりのエピソードだからこそ続いてる都市伝説とゲーム内……厳密には夢の中で出会って襲われたと言うんだから、トラウマになっても仕方ない。正直貞子や口裂け女よりもスレンダーマンのほうが不気味と感じた。
…にしても眠剤が合わないと来たか…。確かに強い効き目のものだからくましろが起きれないこともしばしば。…それだけなら雄英自体に連れていけるが、悪夢を見ていたとなるとPTSDがより重症化する危険もある。薬を変えるために明後日は再び病院だな…明日予約するか。
すっかり元気のなくなっちまった上鳴や切島、峰田のフォローもある。アイツら的には不気味な空間で騒ぐくましろをちょっと揶揄うつもりで勧めたんだろう。悪気も何もないのにこんなことになっちまって、全員可哀想ですらある。
特に……生活に大きな支障をきたしてるくましろが一番可哀想だ、何もない空間や暗闇に泣いて震えながら怯えて、酷いときはパニック状態になる。……そんで、夜になると皆に申し訳ないと静かに泣くもんだから胸が締め付けられる。
代わってやれたらどんなにいいか、何度このことを思ったか。
数時間後、腕の中のくましろが身動ぐ気配で意識が浮上した。今の時間は何時だ…?アイマスクを下げて時計を見ると5時半。起きるには早い時間だ。
「…起きた?」
「トイレ……」
おお、目が開いてない。泣き腫らした目が少しぽってりしてるせいで目が全然開いてない。着替える時間になって鏡の前でギャー!と悲鳴を上げるであろうくましろを思い浮かべる。
「ん」
腕を上げて布団を捲りあげるとくましろはゆっくりベッドから降りて寝室を出ていく。頭とか小指とか変なとこにぶつけねぇといいが……ダメージ二倍で一気に眠気が飛ぶだろうし。
再び部屋に戻って来たくましろはやっぱり目が開いてない。笑わねえようにベッドに誘導して、また俺にピッタリくっついてくるくましろの頭を撫でる。
「まだ眠れる?」
「たぶん…」
あぁ、眠そうな声だ…大丈夫そうだな。眠剤なしでもおそらく中途覚醒なく眠れた。背中を軽く擦ってるとすぐにまた寝落ちしたので俺も目を瞑る。
次はアラーム音で起きる。くましろがこんなことになってから弁当なんかは作らせてない。少しでも寝ろ、と禁止令を出した。朝飯は俺が担当。
「くましろ、朝飯作るから着替えておいで」
「ん……」
眠そうだ。眠れた時間が遅かったからな……肩を何度か揺すって起こす。おにぎりでも作るか。
「おはよぉござます……」
「ふ、起きてる?」
ふにゃふにゃで起きてきたくましろを洗面台までつれてって顔を洗うように伝える。水で起きたのか段々と目が開いてきた……けどまだ腫れてるから開けきってない。
「うわ…何この顔…」
「泣いたときに目ェ擦るからだ……保冷剤でギリギリまで冷やしとけ」
「はぁい……わ!おにぎり!」
梅干を米で包んで海苔巻いただけの飯にそんな両手をあげて喜ぶのはくましろくらいだろう……まあ本人いわく【大好きな相澤さんが】【自分のために作ってくれた】という評価が入るらしい。神代さんが如何に家庭にいなくて母親として機能していないかがすぐ分かる。マイクが作ったグラタン食った時も、美味しい美味しいって泣いてたもんな…。
「飲むように食うの辞めろよ」
「飲んでません、流れてくるんです」
詰まらせて死ぬから辞めろと再度注意して席に座る。
「いただきます!うま!」
「はい…よく噛めっつってんだろ」
朝からよく食べたくましろの課題に付き合う。学力には問題ないくましろはすぐに問題を解き終わって、他の教科で漏れがないかを確認。そのあとは少し時間をずらして登校。
「相澤くん、おはよう。くましろくんの様子はどう?2週間になるけど……」
「相変わらずですね…今処方されてる睡眠薬が合わねえみたいで、変な夢見るっていうから今朝は飲ませずに寝かせました。4時間くらいしか眠ってないですが」
すっかり恒例となった根津さんとの共有ももう2週間になるのか……。サポート科の生徒にもお前は悪くない、事故だと伝えて本人もようやく立ち直ってきたところだと報告を受ける。
「もっといい精度のサポート器具を作る!って燃えてたよ、あの子はいいもの作るだろうね」
「いい教材になったなら何より……上鳴たちも話してる感じは問題ありません、気にはしてるようですが」
「まあ気にするなって言ったところでだよねぇ、目の前で見てたなら……」
人がいい性格が悪いように作用している上鳴たちの様子見はしばらく続けるか。
(おはよう相澤くん。早いねえ一ヶ月経っちゃったよ……ここ最近はくましろくんどう?)
(だいぶ落ち着いてきました、まだ明かりがないと眠れねえのは変わんないですが暗闇、薄暗い市街地での訓練もそこそこ動けるようにはなってきたかと)
(おぉ!よかったねえ〜、安心したよ)
(眠剤なしでも眠れるようにはなりました。…たまに夢見てるみたいで飛び起きてはいますが……パニック発作も減りましたし、徐々にですね)
(良かったよかった……こらミッドナイト先生泣かないの、目溶けちゃうよ)
(くましろちゃん、ようやく笑うようになったんだもの…!)
(ミッドナイトさん、泣きすぎです……あぁマイク、くましろのリクエストでコロッケ食いてぇだと)
(腕によりをかけて作ったるぜ!)
(気合はいいけどこの前みたいに馬鹿みたいな量作るなよ、3人前だ)
(オイオイ成長期の神代に合わせただけだろ?!)
(この間の肉じゃがどれだけこの職員室で配ったと思ってるんだアホ、全員に配ったんだぞ)
(アンタあれそんなに作ったの!?ランチクックじゃないんだから……)
(あの肉じゃが美味しかったよ!)
(根津さんものらないでください、またアホみたいに作るんで……最近は授業も起きてられるようになりましたね。やっぱ薬が合わなかったみてえで、日中のあの病的な寝落ちは副作用だったみたいです)
(そっかそっか、ゆっくりでも元に戻れてるならよかったよ)
こういう流行ってるから!で体験→事故に発展したときの上鳴くんたちの優しさはひとしおだと思います。移動教室は必ず付き添ってくれるし、一人にしないようにうまいこと連れションもするだろうし、少しでもパニック発作が出ようものなら飯田くんあたりに伝言を頼み、かっちゃんが宥める…日中寝落ちしてたら瀬呂くんあたりが起こす。帰りは切島くんや出久くんと自主訓練したり図書室で本を読み漁ったりして過ごしてると思います。(全員が全員、少しずつ責任を感じてるので面倒みが鬼よくなりそう…)
先生たちは先生たちで連携が完璧なので、廊下に蹲るくましろちゃんが居たらすぐに駆け寄ってくるし気を逸らすように飴持ち歩く先生が急増しそう。相澤さんの目の隈は一時的にものすごい濃くなり、教師一同からホットアイマスクを献上されてると思います。マイクが作ったアホみたいな量の肉じゃがとコロッケをくましろちゃんが美味しい美味しいとニコニコ食べるのをみて一番嬉しそうにしてるの、相澤さんだといいな……。