MHA
Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
96 リミナルスペース
*神代くましろ
聞き慣れない単語に首を傾げる。
「リミナルスペース…?」
「そーそー!今流行ってんだぜ、このアプリとVRゴーグルありゃ体験できるってよ」
「スペース…ってことはなんかの空間?」
「一言で言えばなんつーか……一見するとなんでもねーしなんか見たことあるんだけど誰もいなくて不気味に感じる空間、的な?」
切島くんに言われ、ほらほらこう言うの!と動画を見せてもらう。黄色地の壁紙に少し毛足の長そうなカーペット…暖色のランプに照らされた、ホテルの廊下のような空間がずっと続いてる。無限に形成された迷路のようになってて確かに映画とかで見たことあるような空間だ。ほんとに誰もいない。
「これ、峰田がサポート科の奴らから借りてきてくれたからよ!昼の時間余ってるしくましろ着けてみろよ」
「わざと脅かしたりしたら噛むから」
「ッハ、ビビりなオメーがビビらねえわけねえだろが」
爆豪くんが馬鹿にしてきたので前髪ねじねじした。そしたらヤメロや……って怒られた。
いつしか見た恐竜の映画で男の子が暗視ゴーグル(ヘルメット型に近いけど)をつけるようにVRゴーグルをつける。酔いやすいけど大丈夫なのかな…?
「スイッチ入れんぞ〜」
「机とかは寄せてあっから!でも俺らいるから」
切島くん、上鳴くんの声が聞こえるので頷く。いまのところまだ真っ暗なだけ。ちょっとざわざわとしたA組の空気があるからできるけど……静かなところなんてオレほんとに失禁するんじゃないかな。
パっとゲームの会社?のロゴが映し出されたあと、白地のタイルの床といくつかのテナント?のような……駅の地下通路のような空間が映し出される。ちょっと暗くて怖い。
「おお……すごい、本当にここにいるみたい」
「だろ〜?」
スマホで連動しているみたいで、上鳴くんたちもおお〜!と言ってるのが聞こえる。歩いてみろと言われるので1歩前へ。タイルの上を歩くときの音がちゃんと聞こえる。すごいリアルだ!
しばらく歩き回って、上鳴くんが変えるぞ〜と声をかけてくる。薄暗くてちょっと不気味だけど変にキャラクターがいないからまだ歩ける。
次は一見すると駐車場のような空間に謎の椅子が大量に置かれてる。ちゃんと空もあるしなんならフクロウの鳴き声まで聞こえてくる……すごいリアル。
市街地っぽいけど、ある程度本当に同じような配置がずっと続いてる感じがする。ループより自然な感じで続いてる。
さっきの地下鉄みたいな空間より、屋外に感じるからかこっちのほうがオレは好きかも。夜の散歩に近い。相澤さんと出会って拾われる前はよく散歩してたし……怖すぎてそのこと話したことないけど。絶対に怒られるだろうから。
歩き続けてふと、フクロウの声やちょっとした風の音が聞こえてくる割に皆の声が聞こえてこないことに気付いてしまった。上鳴くんたちだけではなく、全員が息を合わせて静かにしないとありえないくらいの静寂。夜中の3時くらいの街中が寝静まったあの静けさ。
ぞわり、と一気に鳥肌が立って背中に汗が伝うのが嫌でも分かった。ゴーグルを外そうと頭に手を添えると何もない。髪の毛と自分の肌しかない。スマホもない。待て待て、パニックになるな。頼むから、頼むから落ち着け。
目を瞑って一旦地べたに胡座をかいて座る。落ち着いて頭や目元に手を沿わせてもやっぱりVRゴーグルはない。自分の素肌と髪の毛に触れるだけだ。ポケットに入れてたスマホもどれだけ身体を触ってもない。
つまり……?このゲーム?の中に入り込んじゃったってこと…?このVRゴーグルはサポート科が作ったって峰田くんが言ってた。救助災害の仮想体験の課題の一環らしい。実際はUSJで出来るしね。
精度が良すぎるのか、それとも不良品だったのか。分からないけど、見ていた世界が本当になっちゃってるんだろう。今……上鳴くんたちはどうしてるんだろう。あっちを現実、ここを仮想とするなら現実のオレも同じ動きをしていてくれたなら様子がおかしいことに気付いてくれる……はず。さっきかなりきょろきょろしてたし、スマホ探す素振りしてたし。
「………?」
なんか……動いてる…?
「っ!!!?」
目を凝らして見ていたらいきなり目の前にやってきた。何、この人?!体型はかなり痩せ型で手足だけが異様に長い。それに、顔が……タイツかぶったみたいなのっぺらぼう。でもスーツきて、シルクハットみたいなの被ってる、なんでちょっとおしゃれする気持ちはあるんだよ!!!
瞬間移動の能力があるこの謎の存在から少しでも離れるべく後ずさりすると、背中から触手のようなものが伸びてくる。
「ぅ、わ……!?やだっ、やめろ!!」
なんかよく分からない言葉をブツブツ呟いてる。英語でも日本語でも……なんかロシアとかそういう言語じゃない。
触手のせいで手足を縛られ浮かせられるので個性を使用する。この仮想空間(仮)でも個性は使える。ピタリ、と動きを止めた男に背を向けて走る。
ずっとループするようなこの世界じゃ意味ないんだろうけど、何かお家とかあったりしないか…?体感的には3キロくらいは走ってるけどやっぱり駐車場と、その横のちょっとした芝生、街灯が続く空間で建物なんかはない。
「いだっ!??!……っ、ぐ……いてぇ…」
思いっきり転んで膝を見ると大出血してる。………なんで、触手が足首に…??
『ムダだよ』
頭で状況を理解する前に、耳元で声が聞こえて視線だけ寄越せばさっきののっぺらぼう。なんで、止めたはずなのに……?確かに動けなくしたはず、コイツしかいないから個性がうまく作動、持続しなかったわけじゃない。対象が一体なら、長時間でも止められる。
「ひっ…!」
首元に手が伸びてきて恐怖で動けなくなる。手の冷たさからやっぱりコイツは人間じゃないんだ、と痛感する。首元に手はあるものの、閉められてるわけじゃないのに呼吸が乱れてきて苦しくなってくる。いっそ気絶したほうが元に戻れるのでは…?視界がチカチカして本格的に焦っていると、耳鳴りが酷くなる。
*相澤消太
「くましろ、くましろ!!しっかりしろ!!!」
体を揺さぶっても起きやしない。血相を変えた上鳴が珍しく職員室に来たと思えば、くましろがぶっ倒れたと。教室に向かいがてら聞いていればサポート科が開発したVRゴーグルで連動してゲームをしていたら、スマホとの連動が取れなくなりくましろが棒立ちになった後すぐに泡吹いて倒れたと。
「何度呼びかけても目開けるどころか、息してなくてっ」
「上鳴、…上鳴。俺の目を見ろ……大丈夫だ、お前まで焦るな。大丈夫だから」
もう高校生で救助活動をしたり訓練していてもまだ10代半ばの子供。同い年の友達が泡吹いて倒れりゃ不安にもなるし、体が震えるほどビビるだろう。くましろのように抱き寄せて頭を撫でるとだんだん落ち着いてきた上鳴の背中を優しく叩く。
「飯田は?」
「リカバリーガール呼びに行きました!」
緑谷の返事に頷く。賢い判断だ。魘されてるわけでもなく本当に泡吹いて気絶してる…。口元をタオルで吹いて気道確保のために蘇生を開始。
「サポート科のゴーグル作成者は?」
「オ、オイラが呼んできた……」
「す、すみません……課題提出できないレベルだったのかも……ゴーグル見てもいいですか?」
「あぁ、頼む…気絶してるだけだからそんな凹むな、改良すればいいだろ」
くましろの様子を聞いて、見て明らかにショックを受けるソイツに声をかける。大方何かしらの個性持ちだ、それが変なふうに作用したんだろう。
ばあさんから酸素ボンベをもらい呼吸を安定させれば、驚くほど青白くなっていた顔色も少しは良くなる。そのままくましろは保健室に連れて行く。午後の授業はオールマイトさんだから任せる。始まって40分経ったくらいでくましろが汗をかきながら飛び起きる。
「くましろ、」
「いやだ、っ離せ!!!」
こちらの声が届いてない錯乱ぶりでベッド脇のカーテンが破れるほど手足をばたつかせてる。個性使えねえように抹消しながら捕縛器で縛り上げてくも、ものすごい抵抗して薬品の棚に頭ぶつけたりしてるせいで部屋がめちゃくちゃだ。こんなに荒れるくましろを見るのは初めてで、俺もすこし身構える。
「くましろ、くましろ!俺だ、相澤。相澤消太」
「………」
フー…と野生の犬のような荒れた呼吸をしたくましろと目が合う。ギラついて釣り上がった目元は本当に野犬のようだ。まだ現実の区別がついてないんだろう……段々と目の鋭さがなくなり、呼吸が落ち着いてくましろが捕縛器を引っ張る力が弱まってくる。
「あらぁくましろちゃん……すごい暴れっぷりね」
ミッドナイトさんも駆けつけてきてくれた。割れた戸棚のガラスなどを掃除してくれてる間にくましろに近寄る。
「…ぅ……相澤さん…?」
「あぁ…どうしたんだ、あんな暴れ…ゔっ」
また鳩尾にコイツは…!思い切りもたれかかるように突進してきたせいで頭がちょうど鳩尾に刺さる。尻もちつきながらくましろを抱きとめると、ボロボロ涙を流してる。
「はい、泣いてもいいからきちんと呼吸する……また過呼吸なんぞ」
「っひ、へ、んなの、へんなのいてっ」
「うん、ちゃんと聞くよ。ゆっくりでいいから呼吸して」
変なの…?ゲームと言っていたが怖いゲームでもやらされてたのか?……いやくましろがやるわけないよな……VRだぞ?画面の外でもギャーギャー言ってるのに。
背中を擦ってゆっくり呼吸を促して、それでも泣きやまないくましろは体を震わせて単語単語を零していく。でかいのっぺらぼう、手足が異様に長い、触手、暗闇、瞬間移動、追いかけられた、首を絞められた、個性が効かなかった、最後は話しかけられた、怖かった…………。
「怖いゲーム?上鳴の説明だとそんな感じしなかったけどな…」
「わ、かんない、も、やだ……怖い…」
おぉ……また泣き出した。ここまで愚図られるとこちらは逆に冷静になってくる。抱き寄せて頭を撫でる。
「怖かったな…首締められたなら苦しかったろ、よく頑張ったな」
「ねぇ…アタシなんとなーくそれ分かったかも。ゲームは知らないけど」
「?」
「スレンダーマンっていう…都市伝説のキャラじゃないかしら?」
スレンダーマン…?あとで検索するか。今はくましろを刺激しかねない。そうこうしてると5限が終わったようで上鳴やら爆豪やらが顔を出す。
「くましろ〜〜っ!!!起きたか?大丈夫だったか?ごめんな、オレが勧めたせいで……」
涙目の上鳴がオレ含めたくましろに向かって突っ込んでくる。
「ヴッ…お前ら、重いぞ……切島、待て!」
制止も虚しく切島もくましろに抱きつくため、重みが増える。くそ、俺が下敷きになる……!
上鳴と切島によれば、くましろが遊んでたゲームはリミナルスペースというどこかで見たことあるけど人の気配がなく不気味に感じる、という今世界中で流行してるネットミームのような空間を歩ける、体験できるゲームというもの。くましろは2つめのステージで変な奴と遭遇し、連携していたはずの上鳴のスマホが真っ暗になり、くましろが倒れたと。
「誰かいそうで誰もいないってコンセプトだから、スレンダーマンがいるはずねえよ……」
「個性か?」
爆豪の一言が響く。
「おそらくな。ゴーグル作成者の個性だろう」
「くましろ……ごめんな、怖い思いさせて」
「上鳴くんのせいじゃないじゃん……」
「なんでもいい、一旦俺から降りろお前ら」
足が壊死するんじゃねえかっつーくらい重い。まだ少し泣いてるくましろは上鳴と切島と手を繋いでA組に帰って行った。
『しばらく一緒に帰るから図書室なりで誰かと待ってろ』
そうスマホに送り、保健室を掃除して職員室へ戻る。うかうかしてられない……サポート科の先生方との問題共有が待ってる。
(んで?神代眠れてンのか?)
(いや……眠るの怖がって寝やしねえし、部屋が真っ暗なのが嫌だって。ミッドナイトさんに頼んで無理やり寝かせてる)
(あちゃ〜……しばらく続くようなら会議モンだな)
(サポート科生徒の悪夢っつー個性が最悪な形で噛み合ったみたいでな……だが…誰も悪くないだろ)
(サポート科の生徒は平気なんか?気に病みすぎて落ち込んでねえといいけど)
(……確認したがかなり落ち込んでるみたいでな…今日は欠席してる)
(オウ……上鳴たちは?)
(全員来てはいるがびっくりするくらい静かだ。爆豪でさえもな……)
(まああんな倒れ方して、泣いてるの見ちまったらなァ……)
(ひとまず、俺は根津さんに報告してくる)