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90 交換留学生
*神代くましろ
他国との交換留学生とすれ違う。ヒーロー科にもサポート科、普通科にもあって、今年はB組で交換留学生が来るんだとか。まあ想像通りの留学と変わらないよと相澤さんから説明を受けてる。
「なーなー、交換留学生みた?めちゃくちゃディカプリオだったぜ」
切島くんがそう言えば、峰田くんには何だ男かとしょげてる。ディカプリオ似なんて相当ハンサムなのでは?凄いな…。
「どんな個性なんだろな?」
たしかに、海を超えてのヒーローはYouTubeやらテレビやらでしか見る機会がない。どんな個性なんだろう…向こうの雄英はどんな学校なんだろう。瀬呂くんや上鳴くんとワイワイ盛り上がってたら、話題の主がゼンマイと共にA組に挨拶しに来た。おお、ほんとにディカプリオみたいな…!峰田くんの舌打ちが聞こえた気がするけど、葉隠さんや耳郎さんはおお!と歓声をあげてる。
「……!君の名前は?」
目が合ったと思えばオレの席の前で来て流暢な英語でそう尋ねられる。
「え、あ……神代くましろ…」
「くましろ?可愛い名前だね、1ヶ月よろしく」
右手を取られて手の甲にキスされる。鳥肌がぶわっと立ち、無意識のうちに振り返って見えない間に爆豪くんの袖で拭いてしまいめちゃくちゃ怒られた。
「お〜気に入られたな……はいじゃ自己紹介頼むぜ」
「ウィリアム・ミラーです。1ヶ月しか居ないけどよろしく!個性はストーム……日本語だと『台風』だね」
めちゃくちゃ目が合う。何なの?A組にもB組にもかわいい子いるんだからそっちに行ってほしい。もしくはB組にも同じ立場の人いないかあとでこっそり確認しよう。
ゼンマイによってB組に戻るのを見送ってアルコールスプレーを出して手にふりかける。
「おいおい、流石に可哀想だろ」
「許可もなく体に触れといてキスして可哀想なの?普通に嫌だよ……」
「お前ほんとに……相澤先生以外への耐性ねえんだな…いや相澤先生にもある意味無いか」
「……あ、別になんていうの、誰彼構わず接触が嫌なんじゃないよ?!分かる?」
「分かっとるわ、いつもお前からベタベタしてくんだろ」
切島くん、瀬呂くんに揶揄われた上に爆豪くんに鼻で笑われた。ベタベタ……してるつもりはないけど!
「皆とジュースの回し飲みはできるけど、同じ鍋のご飯は取り箸使いたいみたいな感覚……伝わる?」
「……回し飲み…ほ〜……お前面白いな、微妙な潔癖!」
上鳴くんに笑われた。でもちょっと分かるぜ、と切島くんにフォローをもらった。よかった、この……全てがだめじゃないけど線引きは仲良しでもある、知らない人だとそれが厳しくなるって感覚が分かってもらえたみたい。
次の日から大変だった。毎朝下駄箱の前で待ち構えるウィリアムの猛攻に必死に耐えて、オレは好きな人いるからねって言ってもお構いなしにサラリと口説いてきたりするのをきっぱりとNOを伝える日々。
「ゼンマイぃぃい……」
頑張ってたんだけど限界が来てゼンマイに泣きつく。
「オーオー、よしよし。初日から凄かったもんなァ……久々じゃねえの、職員室来るのも」
「どこにもついてくるんだもん………ね、耳貸して」
相澤さんが離席中なのを確認して手で筒を作るようにしてゼンマイにずっと気になってたことを伝える。
「皆から見たら相澤さんに対してオレもあぁなの?」
「………ワオ、お前………可愛いとこあんのな…」
目をまんまるにしてこっち見てくるゼンマイに失礼だな、と緩めの正拳突きをお見舞いしてやる。
「それは本人に聞け、な?…ほら帰ってきた」
相澤さんはすごくすごく優しい。なんだかんだ拒絶しないでいてくれてる。気を遣ってしまうだろうし、だからゼンマイに聞いたのに。
「なんだ?……今日はアイツ居ねえのか」
ウィリアムの事だろう。もう名物みたいな扱いもすごく嫌なんだ。めげずにめげずにまっすぐオレのことを可愛いねとか仲良くなりたいなと近づいてくるウィリアムは、「健気」で「一途」と写っていつもオレが『もう付き合っちゃえば?』『何がだめなの?いい子じゃん』って言われる。
そりゃ悪い子じゃない、けど……オレは今恋愛してる余裕が自分自身にもないし、ウィリアムには悪いけどなんの感情も沸かない。友愛みたいのもまだない、出会って1週間くらいだし……。
なのに周りが何が駄目なの?とかいいじゃんと囃し立てられると、拒否してるオレが悪者みたいに思えてきて、なんなら相澤さんもこういう気持ちなのかなとか色々考えてきてしまって、もう限界だった。
*相澤消太
交換留学生がヒーロー科にもやって来た。台風を強弱含めて好きなところに発生させられる強力な個性を持つ留学生だ。B組受け持ちなのでそんなに接点はない…のが通常だが、ウィリアムはくましろに一目惚れしたらしく毎朝雄英の門の前で出待ち、休み時間になるごとにA組に訪れては英語でなんやら口説いている。
家でも何も言わないし、NOとはっきり断っているくましろの様子におかしなところはない………と思ってたが、珍しく一人で職員室に来てると思いきやぽろぽろ泣き出した。
「「??!」」
まさか泣き出すと思ってなくて俺とマイクが一瞬目を見合わせ固まる。
「ゔ、オレ…相澤先生に…」
「……指導室開けてやるからおいで」
マイクから鍵を受け取り、くましろの腕を引く。見えないけど完全に垂れ下がった耳と尻尾が見えるようだ。泣くほど嫌だったのか?いや、こいつ意外と嫌なことは嫌と言えるよな…と色々考えながら指導室に移動しくましろを椅子に座らせる。
「落ち着いて話してごらん、どうした」
そう尋ねると、罪悪感みたいもので潰されそうだと溢す。罪悪感?と疑問に思っていると、まるでウィリアムは自分ではくましろが俺のようだと続く。
「周りからは、めげないとか一途とか…そ、思われてて、そんな気ないのに『付き合っちゃえばいいじゃん』とか…『あの子の何が嫌なの?』とか拒否してるこっちが悪いことしてるみたいな空気がしんどく、て…っ」
「くましろ、ちゃんと呼吸して」
「相澤さんは、そおじゃない……ですか?」
泣きじゃくるくましろの頭を撫でると頭がどんどん押し付けられる。……無自覚なのか、この天性の弟属性め。
「くましろ、落ち着いて……くましろの言いたいことは理解した。俺の場合を話すぞ」
肩を震わせて泣くほど追い込まれてるくましろの両手を握る……随分冷えてるな。
「俺は本気で嫌ならお前の度重なる盗撮も、教室で鼻血出したりするのも阻止するよ。
周りからくましろが忠犬だとかイレイザーヘッドのオタクとか言われてるから近くにいるのを渋々許可してるわけじゃない……分かった?」
「……は、い」
「うん、俺が望んでお前を受け入れてるからね。……んで、ウィリアムのことだが……虫唾が走るほど嫌か?」
「……そ、こまでは…どちらかというと周りの反応がやです」
「野次られてるの?」
「いや……オレが、勝手に…そう思ってるだけかも…」
でも、たまに野次られる、と小さく続けるくましろ。ほんとに押しに弱いんだな……。自分はぐいぐい来るくせに、逆にぐいぐい来られるとどうしたらいいか分からないんだろう。
「つか、なんて言われてんだ?いつも」
「……可愛いねとか…?」
「………ほんとにくましろみたいだな」
「何笑ってるんですか」
悪い悪いと頭を撫でる。怒る元気が湧いてきたか。
「無理やりなんかされそうになったりは?」
「ないです、だから連絡先も知らないし……」
「なんかなんやかんや友達になっちまいそうだがな……野次られたら俺の名前でも出しゃいい」
「いいんですか?」
「もう忘れたのか?俺は俺の意思で、お前がノイローゼになるくらいプロポーズしてくるのを受け入れてるんだよ」
そう言うと耳まで真っ赤にするくましろに口角が上がる。初心で可愛いとこある……揶揄いたくもなるが、我慢。
「わ、かりました……」
「いきなり泣き出すからびっくりした、マイクにも言っておけよ」
そういうとすみません、とか細い声で謝罪が聞こえる。まあ正直くましろが不安……というか心配?になるのも分かる。それくらいくましろは俺への好意をあけすけに、むしろ叫び散らかしてるところがある。いざ自分が同じような目になって、自分も同じようなことをしているのでは?と俯瞰できるようになるのは大概皆そうだろう。
「相澤さんに、迷惑かかるのやだから……」
「多少の迷惑くらいかけろ、子供なんだから」
そう言うと子供じゃないとぶすくれてたが誰がどう見ても子供だろうが。
「へえ?怖い映画見て一人じゃ寝られないとか?ご飯は一人で食べたくないとか?押し入れから物音して泣いたりとかしてるのに子供じゃねえって?」
「誰だって苦手なもののひとつふたつみっつよっつはあります」
「随分いっぱいあるんだな」
大型犬を撫でるように頭を撫でればもっと撫でろと頭を押し付けられる。はいはい、好きなだけ撫でてやるか。
後日、このウィリアムとくましろの問題はあっけなく解決する。
好きなヒーローの話をしてみたところ、意外と馬があったようでちょっと仲良くなったとくましろから申告があり、その際にイレイザーヘッドのことが大好きと告げ、いかに大好きかをウィリアムのペースを壊す勢いで伝えてしまったため少しアピールが大人しくなったと。
仲良くなったから聞きにくかった恋愛対象として見てるのか?という質問もようやく聞けたようで、恋愛対象ではないがくましろが可愛いからとにかく仲良くなりたいだけと打ち明けられたとのこと。まるで猛獣使いだな……と爆豪やらを思い返しながら話を聞いた。
(お、今日はウィリアムと一緒にいんのか?)
(図書室のヒーロー図鑑見に行くんだ)
(廊下は走るなよ、転ぶんだから……はぁ、人騒がせなやつだ、結局仲良くなって)
(まぁまぁ!良かったじゃねーの、社交性が身についたっつーことでよ)
(ただ単純にカワイイ奴だから友達になりたかったんだろうな、さすがアメリカ…積極的)
くましろちゃそのファンクラブ会員たちはリトルディカプリオのウィリアムとくましろちゃそという美少年2人の画面の強さに何人か失神者が出ます。