にちじょう・ちび主
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あるじアタック
アモンとバスティンは今の状況に頭を抱えていた。何故なら目の前には棒きれやら鉈やら、武器を構えた町民に囲まれている。天使なら話は別だが、仮にもここはグロバナー家領土内の街。いくら一方的で理不尽とはいえやり返して怪我を負わせるわけにはいかない。
「チっ、最悪っすね」
「あぁ……主様は無事だろうか」
「ナックくんが見てくれてますから、まぁ……」
自分たちに敵意や筋違いの恨みをもつ人間の相手など慣れている。よほど年端もいかない主様に手を出される方が堪える……とはいえ、今回はバスティンもいる。アモンはいつもよりは痛い思いをしないで済みそうだと安堵したその時。
「何してるの!!」
「あ、主様!?」
「主様、ここへ来るな!」
「いや!……何のようですか」
ちょっと声が小さいがきちんとお伺いを立てられている。間に立つように仁王立ちした小さな少女を前に明らかに狼狽える男たち。
「アモとバスチが悪いことしましたか」
「……チっ、うるせえな!このガキごとやっちまえ!」
「んだと……どこまでクズなんだアンタら」
「だめ!アモとバスチ何もしてない!銃刀法違反!」
迷子防止にともたせた笛をピピー!と元気よく吹いたおかげで、往来にいる住民も何事だと顔を覗かせ始める。警備のものがくるのも時間の問題だろう。
「ちょ、おい!それ吹くのやめねえか!」
「ピィィィ〜〜〜ッッ!!!!」
やめろと手が伸びれば伸びるほど音は器用に交わしてもっと息を吸い込み笛を吹く。子供に棒きれを向ける大人の図の完成に、さすがの町民も黙ってはおらず野次を飛ばすものが増え始めた。
「主様、こちらへ」
「やー!」
「ちょ、どこ行くんすか!?主様!!」
男たちを引き連れるようにメイン通りに逃げ込んだ音は人の目が向いているのを確認したあと、ようやく吹き続けていた笛から口を離して叫ぶ。「気に入らないなら暴力を奮ってもいいのだ」と。そんなわけ無いだろうと言う声で溢れる中、音はアモンたちを指差す。
「悪魔ひつじには気に入らないなら暴力ふるっていいんですか、手ぶらなのに。今天使きたらおじさんたちはどうするんですか」
「あ、主様……」
「失礼!警備のものを呼んで参りました……主様、危険ですのでこちらへ」
ナックの呼びかけに素直に近寄る音の背中ごと恨めしそうに見る男たちは武器の所持もあり、警備に連れて行かれた。安堵のため息を吐いたアモンとは対象的に、バスティンは固く拳を握りしめている。
「………主様が、怪我をしたら俺はどうしたらいい」
「バスティンくん?」
「他でもない、一番大切な存在の主様を危ない目に遭わせたくない。さっきみたいな行動はやめてほしい」
「ちょ、バスティンくん、言い方……」
「……バスチのばか!わからずや!」
幼い音にはバスティンが心配の心で自らを犠牲にするのをやめてほしい気持ち故の発言がうまく伝わらず、頭ごなしに叱られていると受け取ってしまった。ナックの足元に隠れ、目線を合わせようとしない主にバスティンはロノのようには強く出れない。
「あ、主様……バスティンくんは…」
「きかない」
ナックやアモンがフォローを入れようとしてもこれだ。安全面も考慮し急遽お出かけを中止し、屋敷に戻ってきた音は怒っているとも泣いているとも言い難い表情だった。そんな主の表情を始めてみたムーたちは首を傾げるばかり。
「ベリアンさん………すまない、俺が至らぬせいで…」
「どうしたのです、バスティンくん……主様も部屋の隅で蹲っていて……何かあったのですか?」
困惑するしかないベリアンたちにアモンが状況を説明する。襲撃に遭ったと分かるやいなや、ボスキやロノが血気盛んに反応していたがその後のバスティンと音のやり取りを聞いて眉間にシワを寄せる。自分がバスティンでも同じことを伝えただろうと共感できたからだ。
「音わるくないもん」
「ふふ、膨れてますね…風船のよう」
「ゔ〜…」
「ごめんね、唸らないで主様……よしよし。おやつはいりませんか?」
「いい」
一方その頃、音はまだ街でのことを聞いてないラトに甘やかされていた。「何があっても主様の味方」と言ったラトは本当に主の味方だ。これまでにないくらい拗ねている様子に驚きながらも、ラトは抱きかかえて愛おしい主をあやしていく。
「さっき四葉のクローバーを探してたんですが、見つからなくて……手伝ってほしいなぁ」
「クローバー?」
「えぇ。主様に指輪を作りたくて」
クローバーの指輪?と想像できないものに首を傾げる音の頭を撫でていたラトの手が止まる。何名かの執事が部屋に向かってきているからだ。何名か、ということはなにかあったに違いない。そう推測してドアを見ていると、ベリアンたちが顔を覗かせる。
「主様……おや、ラトくんも」
「こんにちは、ベリアンさん……あれ?主様?」
「……」
「ふふ、困りました……寂しいです、主様」
眉を下げてそう言うベリアンから顔を背け、見ないようにしている音を不思議そうに見るラト。ベリアンが原因なのか?そう思い次に入ってきたバスティンの顔を見て察した………こいつだ、そう確信するくらいには表情が固い。
「主様、あの」
「ぷん」
怒ると効果音まで付くのか。執事の何人かは可愛さに悶かけたが、当の本人のバスティンは深刻な表情を崩さずひたすら音に謝罪をしている。
「バスチは、音が子どもって思ってるんでしょ」
「……主様が幼いのは事実だ」
「みんなのピンチに子どもも大人も関係ないでしょ!」
その言葉にバスティンは目を見開く。間違った世を正そうと誓いあったかつての友を彷彿とさせたからだ。真っ直ぐすぎる正義、しかし間違ったことは何も言っていない。目の前で理不尽な目に遭う人を放っておけなかった、それだけなのだ。相手が執事でなく見知らぬ町民でも声をかける、それが執事に護られながら育まれた音の正義感だ。
「そうか……主様、すまなかった。俺は主様の気持ちを蔑ろにしたかった訳じゃない」
蔑ろの意味が分かってないながらもようやくバスティンと目を合わせるようになった音を椅子に座らせ、そこに跪くようにバスティンが屈む。何よりも主である音が怪我をするかもしれない状況を作り出すことが嫌だったこと、子供だからと手加減をするような相手じゃなかったため冷や冷やしたこと、しかしこき使われるのが当たり前で感謝などされる立場でない自分たちを案じて怒ってくれたのは身に余る光栄だということを何度も何度も告げる。言葉の意味が分からぬ音にベリアンやラトがフォローに入り、バスティンの言いたいことをきちんと理解した音はそっとバスティンの指を掴む。
「ばかって言ってごめんなさい」
「あぁ、気にしてない」
「おら、バスティン。仲直りの記念にこれ」
ロノが音の大好きな桃を差し出す。音は半分こ、と甘さに別の意味で悶えるバスティンに食べさせ、ムーにもあげていた。執事などいない一般家庭で育った音にとって家族に近い皆に分け与えるのはそこまで特別な意味ではないものの、執事たちは音の驕り高ぶらない精神と海の底より深い(ナック談)優しさに感嘆せざるを得ない。
「それで、疲れて寝ちゃったんだ」
「えぇ……ラムリ、突くのを止しなさい。主様が起きるでしょう」
「だって可愛いんだもん……ふふ、可愛い寝顔……で、主様に手を上げようとした奴の所在はどうなったの?ナックのことだからどうせ突き止めてるんでしょ」
「まぁ……警備隊に引き渡したのでお灸は据えられているでしょう。暫くは逆恨みなどで屋敷に侵入してこないか見回りを強化する予定です」
執事たちはこの一件を心温まる出来事として共有していたが、思わぬ困りごとに発展してしまった。喜んでいると理解した音が護られる立場から護る立場に立とうとするようになってしまった……「主アタック」と可愛らしい呼び名をつけて。
「ルカシュ、主アタックいる?」
「へ?…ある、じ…?ふふ、ふは…っ!」
朝告げられた時刻よりも遅く、ぐったりした様子で帰ってきたルカスにそう言い寄る音と、思いがけない単語が聞こえてすぐには理解できずにじわじわと笑いのツボにハマってしまったルカスが玄関ホールに蹲る。
「音真剣に聞いてるよ!」
「ごめ、ごめんね……っ、あぁ…ふふ、ありがとう。主様、すっごい元気が出たよ。私は主アタックより、おかえりのハグが嬉しいな?」
「おかえりー!」
ぎゅう、と効果音が聞こえそうなくらいの笑顔で歓迎されたルカスは本当に顔色が良くなり会議室でさっさと議題の共有を済ませ、食堂に向かう。そしてその後ろをぴょこぴょこひよこのようについていく音。
「ルカスさん、お疲れ様っす……これ夜食のパンとスープ。あと主様が手伝ってくれたハンバーグっす!」
「えぇ!嬉しいなぁ……ありがとうございます、主様。」
なんて小さいハンバーグがころころと。あの小さいな手で一生懸命成型したのだろう。ロノのいつものと比べると少し歪だが、大当たりのハンバーグだ。
「トマト味だよ」
「うんうん、煮込みハンバーグですね」
「葉っぱも入れたよ」
「……あぁ、ローリエか!いい香りだ」
「主様、そろそろ寝る時間ですよ」
「やー」
「ふふふ、私を待ってくれてるのかな?ムーちゃんとは今日は寝ないんですか?」
「ムゥちゃんはボスキといる…寒いんだって」
「あらら……?風邪かなぁ、ボスキくんが珍しい」
そう溢しながら食事を摂るルカスに寄りかかる音は誰がどう見ても眠そうだ。ブランケットをかけたら10分足らずで眠るだろう。頑なに寝ない寝ないとうわ言のように呟いているが、もうほとんど瞼はくっつきかけている。
「主様、ここでは風邪を引いてしまいます……そうだ、先にお部屋で待っていてください」
「……わかったぁ」
ロノに部屋までの送迎を頼み、ルカスは急いで…且つ味わいながら小さなハンバーグを頬張る。これはお肉が苦手なナックくんが血涙を流したに違いない…そう思いながら。
(主様、失礼しますね……良かった、きちんと寝てる)
(ルカスさん、あの……最近主様、寝付き悪いんすか?前より寝たと思ってから出歩きが増えてる気がして…)
(うーん……恐らくだけれど…誰かが側にいないことが寂しいんじゃないかな?)
(…なるほど?)
(推測だけれどね……そんな気がするなぁ。あと、ナックくんとロノくんに頼まないのは気を遣ってだと思うよ)
(ゔ……そうだといいんですけど)
(きっとそうだよ…主様は私達にとっても気を遣ってくださるからね)
(はぁ……ま、いいです。今日は楽しかったんで)
(あぁそうだ…ハンバーグは主様から?)
(はい。俺とバスティンがやってたらやりたくなったみたいで……大きなゴム手袋つけてこうやってポーズ取りながらキッチン入ってきたとき、手術医かと思って超ウケましたよ)
(ふふ、目に浮かぶよ)
