にちじょう・ちび主
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ハプニング
朝も昼も夜もとめどなく雪が降り積もり、雪かきが必須になりつつあるデビルズパレスのお昼。畑近くにある倉庫に音が閉じ込められてしまった。
「……っくち!!……ずび」
寒くてじっと蹲るしかない少女はどうしたものかと頭を抱える。できる事は一通りした。椅子や台になりそうなものを探して上の窓から出れないかはもう試したし、誰かを呼ぶということも試した。喉がひりつくまでベリアンやロノ、ムーの音を呼んでみたがビュウビュウと吹きすさぶ風の音に消えて届いてないのだろう。倉庫に入る前に畑や馬小屋近辺には誰もいなかった……今は朝の担当の仕事を終え休息を取ったり、昼食を取る執事ばかりのタイミングだ。
屋根が吹き飛んでしまうのでは?と不安になるほど強い北風は倉庫の隙間から音の体温を奪っていく。隙間風があるせいで寒く、雪が積もっているせいで床もひんやりしている。どこにも温まるものも風を避けれる場所もなく、手足の震えが止まらない少女の目に涙がじわりと浮かぶ。
ふと、ある執事に以前言われたことが頭によぎった。
『道に迷ったり逸れたりしてしまったら、私の名前を呼んでください。冬は空気が澄んでいるからいつもより聞こえやすいんです』
「……ラト、ラト!!」
風が静かなタイミングを狙ってドアの向こうにまで聞こえるように大きな声で。寒くて体温が奪われる中で最大の体力を振り絞って叫ぶ。
「……見つけた」
「…ラト…?」
倉庫の開けにくくなってしまったドアを乱暴に開けたラトが見たのは、真っ青な唇をして顔色が悪く蹲る音の姿。
「主様、寒かったね……屋敷に行きましょう」
主様がいない、と騒ぐ執事に嫌な予感を抱えていた中自分を呼ぶ声を頼りに、ようやく見つけた主を優しく抱きかかえてマフラーを巻いて急いで医務室へ。手どころか体全体が冷たい。ミヤジによれば子供は体温が高いのが当たり前だと教わったのに。
「さむい……」
「うん、遅くなってごめんね……ミヤジ先生!ルカスさん、主様が…」
「主様…?!ロノくん、バスティンくん、浴室からお湯を医務室まで運んできてくれる?フルーレくんは、ぬるま湯にするための冷水をお願いできるかな」
「はい!」
「桶持って行くぞ、バスティン!」
ルカスにより指示を受けた慌ただしく執事たちが動きだす。
「ラトくん、どこで主様を…?」
「畑横の倉庫です。寒さで扉が変形してしまったんでしょうか…?開けにくくて。主様の力では開けられなかったんだと思います」
「なるほど……主様、気付くのが遅れてしまって申し訳ない。すぐ暖かくしようか」
「主様、体を診ますからね…痛くないですから」
声をかけて意識を失わないようにミヤジ、ルカスが処置を施す中、桶いっぱいに熱めのお湯とこれも桶いっぱいに冷水を運んできたロノ、バスティン、フルーレが医務室に到着する。タオルにお湯を含ませ固く絞り足やお腹、背中に当てながら冷水を少し混ぜぬるくした桶に音の足を入れる。
「あち…っ!」
「だんだん痺れが取れますからね、主様……ロノくんたち、ベリアンに……」
「湯たんぽ持ってきました…!」
少し汗をかいたベリアンが医務室にやって来た。ルカスが持ってきてほしいと頼もうとしていたものだ。流石ベリアン!とお礼を告げたルカスは音がムーを抱きかかえるように湯たんぽを抱かせる。冷えきった体がタオルと足湯、湯たんぽによって温められ、手足に熱が戻り血色も戻る。
「ロノくん、たぶん……このまま熱が出ると思うから…スープとか流動食のようなものをお願いできるかな?」
「了解しました!」
「たまごしゅぷがいい……」
「たまご?…任せといてください、主様!」
ふんわりした溶き卵のスープは普段からよく飲む。それを思い出したロノが笑顔で音の手を優しく擦る。熱が戻ってきたとはいえ、いつもより冷たい。眠いのか、寒さでかじかんでいるのか、呂律が回らないことだけは心配になりながらもキッチンへ。
その日の夜、急激な体の冷え、そして長時間冷えすぎたことによって風邪を引いた音は高熱に魘される。咳も止まらず、咳込みすぎて喉が痛いと温めたはちみつりんごジュースを飲みながらベリアンにこぼす。
「喉の他には痛むところはございませんか?」
「お腹…」
咳込むタイミングでお腹まで痛いというのは、筋肉の使いすぎだ。日常生活を送っている中で咳き込むときの筋肉は重点的に使わない。嫌な意味での筋肉痛だ。咳のし過ぎで肋骨が折れる、というのも聞いたことがあるベリアンは音に悟られぬよう顔を青くしながら、おかわりを持ってくると告げ医務室へ走り込む。
「ただの風邪じゃないかもなあ……咳ばっかりしてるのかい?」
「ばっかりというより……起きてるときはしてますね。」
「マイコプラズマも併せてかかってる可能性もあるな……ベリアン、念の為マスクをして、必ず手洗いうがいは今よりも徹底してね…‥と言っても君なら大丈夫だと思うけど」
「かしこまりました……今は何を?」
「ふふ、主様は薬が苦いと飲んでくれないからね……甘めのシロップの薬を作ってるんだよ。粉薬は卵スープに入れてもらうとして……解熱はそちらで。こっちでは抗体の効能メインだね」
ジャリジャリと砂糖を混ぜているときのような音を響かせながら濃いめのピンク色のようなシロップを作るベリアンから受け取り、りんごジュースの後にとレンゲ一杯分を飲ませてみる。
「!あまぁい」
「だめですよ、これは薬なんですから……ふふ、主様。主様が眠るまで側にいてもよろしいですか?」
薬なのにおかわりを強請られ、ルカスの手腕に感心しながらベリアンは提案する。以前熱が出たときはせん妄のようになっており、窓を開けて飛び降りようとしていた実績がある。目を離してなんかいられないのだ。
四日五晩寝込み、ようやく熱が下がり歩けるようになった。微熱が続いてるので出歩くのは禁止されているが、体力の有り余った幼児には酷なお願いだ。
「ばぁ!」
「わっ!?!……こら、主様!まだ完治してないのに出歩いちゃだめでしょーが……よっこいしょ」
アモンの布団に潜り込んでいた音を抱えて部屋に連行される様はいたずらをしたムーのようだったとボスキは後に語る。
「やぁだ〜、つまんない!」
「安静にしないとまたゴホゴホなりますよ……あ、そうだ。イイもん持ってくるから少しだけ待ってて」
アモンが掛け足で部屋を出ていく。10分ほど待つと、たくさんの花を籠に入れてやってきた。
「ちょーっと傷んだやつっすけど……主様、押し花とかどうすか?」
「おしばな?」
「そ。こういうの」
試しに作ったバラの押し花の栞を目にすると作りたい!と目を輝かせる。主と一緒に過ごせるなら、とアモンも下がる目尻を隠さず二人で押し花を好きなだけつくり始める。それでも余るくらいの花を音は画用紙の上にちぎり始めた。
「何作るんすか?」
「ふふ〜ひみつ!」
ちぎり絵のように赤、白、オレンジ……と色が区画に別れていく。真剣な眼差しで20分手を動かし続けて、アモンの横顔らしきシルエットになってきた。
「黒がない」
「おぉ〜〜!!大作じゃないっすか!」
そうやってアモンが騒いでいると、ティーポットとティーカップを持ったベリアンが入室してくる。花のいい香りに目を細め、テーブル上の大作に同じように目を輝かせる。
「休憩しませんか?」
「お花しおしおになっちゃう」
「まーもともと刈り取ってしばらく経ってるから、萎れ加減に差はないっすよ……ほら、主様!背筋しゃんとして」
「しゃん」
「もう少し」
「しゃんしゃん!」
「いー姿勢っすね……はい、じゃあベリアンくんが淹れてくれるお茶と薬飲んでください」
「薬いらない」
「要らないじゃないの、飲むんすよ!………そんな可愛い顔してもだめ!」
「ふふ…ルカスさんが悲しみますよ?早く治って欲しいのにって」
ベリアンも参戦し、なんとか薬を飲ませることに成功。子供だから、薬を飲んでしまえば明日には完治しているだろう。そう願いながら温かいダージリンティーを飲み干す音を見やる。音の納得の行く押し花アートが完成したのは夜で、アモンがどうしてもほしいと強請り執事の部屋に飾られた。それを見たハウレス、ボスキ、フェネスは大層嫉妬し代わる代わる花を寄越しながら「作ってください」と懇願し、音は困り果ててしまった。
「こら〜!主様困ってるじゃん!可哀想に、主様……疲れたでしょう?ボクがギュッてして温めてあげますね!」
しれっとこういう役目を奪っていくのはラムリの得意技である。体力も落ちた音が半日も押し花アートに集中していたとなると、本人も気付かぬ疲労となっていた。その証拠に抱き上げられて5分足らずで眠ってしまった。
「ふふふ、か〜わい……あ!ちょっと!覗き見禁止です〜」
「主様が起きるでしょう……静かにしなさい、ラムリ」
見回りついでにやってきたナックと小競り合いが始まった。それでも起きないくらい深く眠る音にナックがベッドで寝かせるべきだと進言し、もう少し堪能していたいとラムリが食って掛かる。
「こらこら……寝ているとはいえ、主様の前だよ?喧嘩は止めて……ラムリくん、主様の顔色少し診てもいいかな?」
さすがは3階部屋のリーダー的存在のルカス。鶴の一声で言い争いはピタリと止む。顔色もよく眠りも深いのを確認したルカスが薬がよく効くように眠らせようといえば、ラムリも納得して渋々ながらも部屋に向かう。
「ルカシュ……」
「ん……??…主様…?」
その夜、夜更けも夜更けの時間に音が半泣きでルカスのベッドの下に立っていた。心なしか震えてる様子に寝起きの悪いルカスも流石に飛び起きる。
「どうしました?ぶり返しちゃった?」
「ちがう……足いたい…」
「足?」
思わぬ訴えにルカスは問い返す。優しく膝の上に載せ、足のどこ?と聞くと膝小僧あたりを指差す音。どんな痛みかも尋ねると、じんじんするような痛みらしい。痛くて眠れないのだと半べそをかいている。
「あぁ……ふふ、きっと成長痛だね。主様が大きくなるために痛くなるんだよ……温めると少しマシになるからこうしてようか」
大きな手のひらで小さな両足の膝を包むようにして擦っていれば、痛みが引いていきぐすんぐすんと泣いていた音はいつの間にか眠っていた。それにしても成長痛とはなんと懐かしい。ルカスも味わったことのある痛みを思い出す。確かに眠れぬほどの鈍痛だった。
「う〜ん……」
主様の部屋に主様がいないとなると、また明日の朝から大騒ぎになるだろう。少し気は引けるが主のベッドに入り膝を擦りながらルカスも目を閉じる。明日は日中寝かしといてもらおう、と決意しながら。
(おはようございます、主様……ってあれ、ルカスさん?)
(ルカシュ…?)
(……)
(主様、どこか痛かったんですか?)
(足いたかった)
(足……?もしかして膝ですか?)
(うん、じんじんした)
(なるほど……ふふ、じゃあルカスさんは寝かせておきましょう。今日はコーンスープあるってロノが言ってましたよ)
(やったー!)
(おっと……ほら、スリッパが先です)
(スリッパやだ、ぞわぞわする)
(えぇ?でもこれがないと床が冷たいですよ)
(裸足がいいー)
(ふふ、夏だけ検討しておきます)
(ハウレスのけちぃ)
(俺だけじゃなく執事全員の総意ですよ)
(んじゃ、みんなけちぃ)
(けちで結構……はい、お着替えしましょう)
