板ばさみ・ちび主
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素直なきもち
ダルフォンソ家の吹聴事件は思わぬ形で収束を迎える。音が何もしないでほしいとルカスに頼み込んだ。
「本当に……良いのですか?主様」
「うん」
「……本音を話すと…私は許せないんですが…」
「音は……おじさんじゃなくて、皆を信じるって決めたの」
「!」
「だから……いいの」
「ふふ……主様」
ルカスは少しもじもじと言葉を選んでいる音を優しく抱き上げてぎゅう、と腕の中に閉じ込める。なんていじらしくて可愛いのだろう。そして、最初は腰を抜かすほど自分たちに怯えていた主様が甘えてくれるようになり、心を開いてなおかつ信じてくれると。
「苦しいよぉ…ルカシュ」
「ごめんね、主様…嬉しくて」
「?」
「私達を信じてくれると言ってくれたのがとっても……とっても嬉しいんですよ」
音の小さくて温かな両手を握りルカスはおでこを合わせる。ロノたちが落ち込む音に毎日毎日根気強く励まし、ダルフォンソ家の言葉が嘘であることを説いてくれてたことも作用したのだろう。
「ふふ」
「今日はお祝いですね」
「お祝い?」
「えぇ……ふふふ、誰に一番最初に教えようかな」
「ベリアン!」
「ベリアン、倒れないといいけど……」
「いこ、ルカシュ!」
音はルカスの手を引き走り出す。パタパタと軽い足音が響き渡り、自室に戻ればベッドシーツを整えているベリアンが居た。
「いた!確保!」
「おわ…!?…あ、主様?」
「ベリアンつかまえた」
「捕まってしまいました」
ベリアンの足に抱きついた音の頭を撫でたあとルカスを見上げるベリアンは不思議そうに首を傾げる。何があったのか聞きたいくらいふたりとも笑顔だからだ。事の顛末をルカスと音がベリアンに言えば、ベリアンも嬉しそうに微笑む。自分たちを信じてくれるというのがどれほど嬉しいか、ベリアンは自分の知りうる言葉を尽くして伝えたいほど。
「嬉しいです、主様……それに、フェネスくんの言うとおりでしたね」
「フェネス?」
「うん……私やアモンくん、ボスキくんなんかは……主様が傷ついた様子を見てダルフォンソ家が謂れもない嘘を主様に吹き込んだと分かったとき、本当に…悔しくて、苦しくて。どうやって仕返しをしようかと考えていたんだけれど…フェネスくんは一貫して、暴力に訴えるのは良くないって私達のことを宥めてくれたんです」
「ふふ、フェネスいい子だね」
「ええ、とっても。暴力に訴えては今までの貴族のやり方と同じだから、と……主様に貴族間の関係や没落までの話をしていたから尚更そう思ったんだろうね」
「……音、貴族のお家のお話好きじゃない……いがいがする」
「いがいが……そうですね、気持ちのいい話ではないですからね」
「あ、ベリアンさん、ルカスさん……主様!ここに居たんですね」
「ロノ!バスチ……だっこ」
「あぁ……どうした?なんだかご機嫌なようだが…」
「ふふふ」
音は抱き上げられたバスティンの首筋に頭をぐりぐり押し付けて、鎖骨辺りに頭を置く。足をパタパタさせる様子から見るに、恥ずかしいから言わないらしい。
「なんか良いことあったんすか?あの、玄関先にダルフォンソ家の家臣が来てて……」
ぴたりとベリアンとルカスが固まる。来訪の報せもなくいきなり?なんて不躾で失礼なんだ、こちらが同じことをしたら嫌味で2時間は詰められるだろう。
「主様に用があるって……どうします?」
「う〜ん……皆に言う前にまさか接触しに来るとはね……当主は居ないんだよね?」
「ハイ、家臣たちだけです」
「主様、お話が……いいですか?」
「?」
「玄関口に、予告なしですがダルフォンソ家の者が来ているようです。主様に用があると…どうされますか?」
「………ルカシュたちは?」
「もちろん、主様が行くなら私達もご一緒させていただきます。関わりたくないなら、私達で帰ってもらうように話しますよ」
「………行く!」
「分かりました。じゃあ向かいましょうか……ロノくん、ハウレスくんを呼んできてもらえるかな?バスティンくんはナックくんにこのことを伝えてきてほしいな」
「分かった」
「分かりました!」
音とホールへ向かうとぴしっとしたスーツを着こなしたダルフォンソ家の執事たちが一同に介している。主人がいないのに随分なお迎えだ。何を企んでいる?とルカスは目を細める。
「おやおや…随分時間がかかったようで。私はダルフォンソ伯爵に仕えるアロンと申します。」
「こ、こんにちは…」
20代前半くらいの少し筋肉質な家臣に震え上がる音の肩をベリアンが撫でる。ただでさえ苦手な属性の男なのに、嘘をついて危害を与えてきたダルフォンソ家の者だから邪険にできず質が悪い。
「突然ですが、悪魔執事の主人殿。ダルフォンソ伯爵がお呼びです。屋敷に来てくださいますか?」
「え、?」
「随分と急ではありませんか?」
ベリアンが間に入る。何の用事があってわざわざ自分の屋敷に呼ぶのか意図が分からない。そんな曖昧な状況で音をやすやすと向かうなんて考えられない。
「急ぎの用件でね…本当は日時を指定して手紙をお送りしたかったが、それすら惜しいほど急いでいらっしゃるんだ………分かりますよね?」
「い、依頼ですか?」
「はぁ……残念ですが私には知り得ません。大事な伯爵様のご用件ですから」
少し考えればわかるでしょう?と嫌味な一言を付け足す意地の悪い家臣をルカスは睨みつけるように見つめながらどうしたものかと考える。
「勿論、私達は同行を許可していただけますよね?ダルフォンソ家の皆さまを疑っているわけではありませんが……もし移動中やダルフォンソ家の敷地内で天使が出現したら太刀打ちできる方がいいですし」
「ふむ……まあそうですね。伯爵様は特に悪魔執事の同行については指示されておりませんので」
「では……私とベリアンで同行しよう。準備がありますので、もう少々お待ちいただけますか?」
ルカスは音の手を引いて自室に一度戻る。
「ル、ルカシュ、音…」
「……主様、大丈夫です……ね、私の方を見て?」
「………」
「恐らく、グロバナー家には公にしたくない類の依頼の話です。私達を引き抜く話じゃあありませんし……頷きませんよ」
「うん……」
「それと…交渉の場面では私がお話しますから。大丈夫です、主様」
不安で手が冷えてしまった音の指先を擦り、ルカスは笑顔で音を見やる。苦手意識を持つ男の屋敷に向かわなければならない心労は計り知れないが、下手に断ることもできない相手ではある。なので居合わせた証拠としてベリアンを選んだ。何かあればグロバナー家に申し置きすればいい。
不安でいっぱいの表情を浮かべる音の手を擦りながらダルフォンソ家の馬車に乗り、屋敷へと向かう。あんなに外に出るのが大好きな音が一度も顔を上げて景色を見ず、一言も話さなかった。ベリアンとルカスは挟むように座りぴったりとくっつくことしか出来ない。何を投げられるかは屋敷につくまで分からない。
屋敷につき、顔が青白くなるまで不安で震える音はなんとか馬車から降り覚束ない足でダルフォンソ家の屋敷に入る。伯爵という爵位なだけあってデビルズパレスの屋敷より豪華な造りの屋敷だ。天井が何倍も高い。見上げるだけでくらくらするので音は床を見る。執事たちの数も多く、目線がたくさんある。それだけで音は上手く呼吸ができなくなる感覚に陥る。
「失礼……主様、ご気分が優れませんか?顔色が悪いです」
「ひゅ、ぅ……だいじょぶ…」
「主様」
「だいじょぶ、だいじょぶ……」
「……主様、目を瞑ってください…吸って…ゆっくり吐いて……上手です。呼吸を忘れないでください、苦しくなっちゃうから」
「うん」
目に力が戻った音を見てルカスは背中を一撫でして立ち上がる。ダルフォンソ伯爵がいる部屋に向かえば、咳き込んでしまうほどの葉巻の匂い。ベリアンはすぐさまハンカチを出し音の口と鼻を覆う。
「あぁ、遅かったな……なんと悪魔執事も一緒か」
「遅くなり申し訳ありません……して、突然屋敷に迎えに来られた理由はなんでしょうか?」
ルカスは早く話せと遠回しに伝えるとダルフォンソ家当主はニヤリと下卑た笑みを隠すことなく契約の話を持ち出してきた。ハウレスとルカスの引き抜きがしたいと。
「13人も執事がいるのなら2人ほど抜けようが問題あるまい?子どもには手に余る力だとは思わないか?」
「……生憎ですが、私の主人はこちらにいる音さまと決めております。短期間の依頼による護衛なら喜んで引き受けますが…」
「…なんでルカシュとハウレス、なんですか?」
音が口を開く。眉間の皺は葉巻の匂いによる頭痛だ。音の母親、そして彼氏たちは煙草を吸わなかった。吸っていても紙タバコではなく電子タバコのみ。こんなにガツンと肺や目にまで来る刺激臭は初めてだった。
「私の可愛い愛娘が欲しいと騒いでな」
「ほしい?」
「あぁ、悪魔執事は宝石のようだと噂されているからなァ……鑑賞用に丁度いい」
幼い音でも大事な執事たちがモノのように扱われているのは理解できた。平たく言えば純粋な人間ではない、そうベリアンに教わったが執事たちは痛みも感じるし怪我もする。好き嫌いもあれば落ち込んだり悩んだり、自分と同じように感情もある。そんな彼らをモノ扱いするダルフォンソ伯爵に音は怒りが止まらなかった。なんならこのおじさんは自分に嘘をついてきた。ルカスによれば、定期会議では中央の台地内でも力のある貴族とルカスたちでいろいろ話し合っているが、互いを貶めるための嘘は絶対にダメで罪になるとさえ聞いている。
つまりこの人は、まだバレてないだけで罪人。バレない理由は定期会議にも呼ばれない立ち位置だからだ。
「ルカシュもハウレスも、ちょうだい、はいあげるじゃ渡せません」
「………なんと?」
「壁に飾って見るためのモノじゃないから、あげれません」
「…口を慎め、ガキが」
「!」
「おっと……主様に直接「手」を出すようなら私たちも黙っていませんが?」
煙の上がっている葉巻を音の顔の真横に伸ばしてきたダルフォンソ伯爵の腕を掴み、遠ざけるルカスは口元に笑みを浮かべているものの瞳は一切笑っていない。
「主様、こちらへ」
「ベリアン…」
「大丈夫です、ルカスさんはとてもお強いですから…私も必ず主様をお守りいたします。私の側から離れないでくださいね」
「うん」
そうやり取りしてる間にルカスが伯爵へグロバナー家にバレぬように脱税をしていること、そして平民から違法に作物や織物などを独占していること、そして貴族間の和を乱し抗争へ陥れかねない虚偽の情報を音へ吹聴したことを囁やけば伯爵の顔は青褪めていく。
「清廉潔白な我々からすれば、こちらは報告せざる得ない情報ばかりなのですが……ふふ、次の会議の議題とさせていただきます♪」
帰りはダルフォンソ家が呼びつけた街の馬車で屋敷へ向かう。馬車の中でルカスは上機嫌も上機嫌だった。
「ルカシュ、離してよぉ〜!」
「ふふふ、もう少しこうさせてください」
「ベリアン……」
「あらあら…ルカスさん、程々にですよ」
「ベリアン……君だって嬉しいくせに。さっき嬉しかったんですよ、主様…もちろん私自身でもきっぱり断るつもりでしたが…主様が先に、あそこまで言ってくださったのがとってもとっても嬉しいんです」
「うぅ…」
分かったから離してほしいし布団に隠れたい。音は屋敷につくまでずっとそう思いながら全く力を緩めないルカスの腕の中で大人しくするしかなかった。
(もうルカシュなんて知らない)
(ごめんね、主様……お願いだからこちらを向いて?)
(ルカスさん何やったんですか、アレ)
(あぁ……ダルフォンソ家の言葉じゃなくて、俺らのことを信じるって言ってくれたことと、さっきまで呼び出されてたダルフォンソ家の屋敷で悪魔執事はモノじゃねえから「ほしい」なんて身勝手な言葉でやらねえよって突っぱねったってことをルカスさんが言い回ってたら…恥ずかしかったみたいでな。ヘソ曲げちまった)
(はは…っ、そうなんすか?…へ〜ぇ、主様そんなこと言ってくれたんすか?嬉しいっすね)
(お前もあんま揶揄うなよ、ただでさえ皆に一気に礼言われて照れまくってるからな)
(そういうボスキさんこそ一番お礼言ってそうすけどね?)
(うるせぇよ……おわっ…主様?)
(家出してきた)
(あーあ……ルカスさん泣きそうっすね…主様、おかえりなさいっす。……あれ?なんかすげぇ葉巻の匂いする)
(お部屋もくもくだった……頭痛い)
(あらら…それは大変っす。横になって安静にしないと)
(やだ、ボスキだっこ!だっこ)
(分かった、分かったから暴れるな…もっと痛くなるだろ)
(だっこ!)
(してるだろ…ほら、落ち着けよ)
(主様、このお花をどうぞっす。いい香りで落ち着くっすよ……頭痛いのもよくなるっす)
(アモ、ありがとぉ)
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