わんぱく・ちび主
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フェネスと『いい子』
音は一人の執事を気にかけていた。それはフェネス。最近何やらため息が多い。大人は色々考えていて大変らしい。
「フェネス、どしたの?……最近音に会いに来てくれない」
ぎくり、とフェネスは肩を揺らした……図星だったからだ。加えて音がとても寂しそうな顔をしていたから罪悪感でより胸が締め付けられた。
「も、申し訳ありません……あの…」
「音フェネスになんかしちゃった?」
「め、滅相もない…!そうじゃないんです、主様……えと…」
眉を寄せて唸るフェネスの表情には見覚えがある。自分の気持ちを伝えたいとき、同じような顔をしていると音は気付いた……つまりフェネスはきっと何か気持ちを伝えたいはず。執事の皆には一度も母親や母親の彼氏のように「早くしろ」と急き立てられたことはない。いつも音が何か言葉を発するまで待ってくれる……同じように音はフェネスを見上げながらじっと待つ。
「実は……最近悩んでることがあって」
「おなやみ?」
「はい……」
音はフェネスの膝の上に座る。
「少し前に……執事同士で喧嘩があって。俺が仲裁役をしたんですけど……俺は…本当は仲裁したくてその役目を引き受けたんじゃなくて、周りから良いように見られたいから、仲裁役を引き受けたことに優越感を感じたいからで………そんな浅ましい自分に嫌気がさしてたんです。」
「……???」
音は首を傾げる。そんな様子を見て訳が分からなかったかな、とフェネスはまた内省する。
「なんでフェネスが落ち込むの?」
「え?」
「まず、喧嘩してる二人が悪くない?喧嘩するのは、どうしても仕方ないこと以外大抵はどっちも悪くて、仕方ないってなるのはそんなにないってルカシュから聞いたよ」
「え…と…」
「そもそも、フェネスが止めなきゃいけないような喧嘩に巻き込んだ二人が悪いじゃん!
それに良いように見られたくない人なんていないでしょ、音だって……皆にいい子って思われたいもん」
「!」
「文字の練習頑張ったのも、ベリアンのお手伝いしたのも……皆褒めてくれるから…それってよくないことなの?」
「い、いいえ!そんなことは…!」
フェネスは慌てて否定する。
「じゃあフェネスもいいんだよね?」
「…!……ふふ、そうですね……ありがとうございます、主様」
思わぬ励ましにフェネスは心から嬉しそうに笑った。気が弱くて小心者で、すぐネガティブに捉えてしまうが皆良いように見られたい、思われたいのは同じでそれは目の前の小さな主もそうだと思えれば恥ずかしいことでも何でもないのだと自身が持てそうな気がした。
「次、フェネスがフェネスを悪く言ったら音怒るよ」
「え゛っ」
「とーぜん!フェネスはいい子なのに悪い子になろうとしてるもん、嘘つき」
「い、いい子ですか?俺が…?」
「いい子だよぉ、音は……音は喧嘩苦手だから巻き込まれる前に逃げちゃうもん」
大きな声が苦手なの、と呟く音にちらりと聞いた家庭環境を思い出すフェネス。苦手で当然だ、それにきっと男性恐怖症も僅かながらあるだろう。知らない貴族に囲まれると緊張という言葉ではごまかせないくらい震えている時がある……それも決まって、少し若めの男相手に。
「だからフェネスはいい子なんだよ」
「へへ……ありがとうございます、主様。嬉しいです」
「自分でも言って!」
「えぇ!?……えっと……いい子…?」
「誰が!?」
「お、俺が……?」
「おれって誰!」
「フェネス……オズワルド……です」
顔を真っ赤にしてそう言わされてるフェネスと、腕を組んでフェネスがどのようにいい子なのかを言わせてる音の様子を遠巻きに見ていたハウレスとアモンは止めずに主様の気の済むまでやらせよう、と敢えてスルーしたという。
「フェネスはどんな凄いことしたの?」
「あ…や…主様……勘弁してください…」
「しーない!音に会いに来てくれなかった罰〜!」
いよいよ首まで真っ赤にしてフェネスがたじろいでいると、ようやく助け舟がやって来た。しばらく見守っていたルカスだ。
「ふふふ、主様……フェネスくんが爆発しちゃいますよ」
「いい子なのに悪い子なんだ〜って嘘ついてるフェネスが悪いもん」
「おやおや……手厳しいですねえ…しかし、私も主様の意見に同意ではあるかな……フェネスくんは自分に厳しすぎるから……ふふ、でも主様のおかげで『いい子』だと自覚できたようですよ」
「ル、ルカスさんまで……!」
「ん〜?この屋敷中の執事が同じこと言うと思うけどなぁ……そうだ、いい子の二人にロノくんが焼き菓子を用意してくれてますよ」
「わーい!」
片や大喜びする主様と、片や顔が真っ赤のまま気まずそうに食堂に来たフェネスにロノは首を傾げるしかなかった。
「フェネスいい子だから音のあげる」
「〜〜〜っ!!だ、だめです!本当に、反省したので……主様、勘弁してください……」
「音のあげたマドレーヌ食べれないの?!」
音が貴族の真似をして言うとベリアンまで吹き出して笑いに包まれる。
「偉そうなおじさんのマネ〜」
「こらこら、主様……くれぐれも外でやってはダメですよ」
「はぁい……ふふ、似てた?」
「うゔ……」
フェネスは誓った。二度と自分を卑下しすぎないようにしようと。そして落ち込みすぎて主様に不甲斐ない自分を見せたくない、と遠ざけることも二度としないと。
お前はダメだ、なんてダメな執事だと周りから責められるよりも他でもない主様に『いい子』『凄い子』と過剰なくらい褒められる方が嬉しくありつつも、恥ずかしくて恐れ多いのだと痛感するほど学んだ。
「……昼間、ハウレス見てたでしょ」
「ふは、主様に仁王立ちして褒められているのは見たな」
「もぉ〜…!」
「俺も……自分に厳しいとかフェネスを始めとして言われるけど……別方向に自分に厳しいのはフェネスだと思ってる。他ならぬ主様が過剰だと思うくらい褒めてくださったんだろ?素直に評価を受け取ったらどうだ、全く過剰じゃないしな」
「……嬉しかったのは事実だけど……キャパオーバーに近いよ…」
「ふは、あんだけ褒められればそうか」
意地悪く口角をあげるハウレスにフェネスは遠慮のない一発を背中に御見舞する。
数日、数週間経ってふと見かけた音の表情が暗いことに気付いたフェネスは主の後を追う。アモンの育てたバラの隣に寝転び動かなくなってしまった。
「主様?……体調が優れないのですか?」
「フェネス…?」
普段と全然様子が違う。どうしたのだろうか。体をなるべく小さく折りたたむようにしゃがみ、音の表情を伺う。
「フェネスぅ」
「わっ!……よしよし、こうやってくっついていましょうね」
目が合うや否や、ぼろぼろと大きな涙を流して飛びついてきた音を受け止めて背中を擦る。2ヶ月、3ヶ月に1回くらい音はホームシックに陥ることがある。街で親子連れを見たとき、貴族に意地の悪いことを言われたとき、夢見が悪かった時……記憶の中にある確かに優しかった母親を思い出して会いたいと泣くことがある。ひとしきり泣いたあと、指輪を外して帰るかと問われれば首を横に振るのだ。フェネスはこのホームシックだろうか?と予想を立てて音の言葉を待つ。
「ままに会いたい」
「うん、そうなんですね」
「ままのおにぎり食べたい」
「そうなんですね」
否定もせず、肯定もしすぎず。ただただ受け止めていくと音の溢れた気持ちがだんだん落ち着いてくる。指しゃぶりまでして幼児退行するほど何かあったんだろう。……主様である前に、こんなに幼い子どもがぼろぼろ泣く様子はやはり慣れない。毎回背中を擦ることしかできない自分に嫌気すら差す。
「……フェネスだっこ」
「はい」
ぎゅ、と少し力を入れて背中を強めにトントンと叩く。音の母親と同じ抱き方なのだろうか、これで毎度泣きやんでくれる。
「主様、寒くはないですか?」
「…うん……なんか…」
「?」
「お腹すいた」
「奇遇ですね、俺もです……そうだ、何か食べに食堂に行きませんか?」
「おにぎりがいい」
「いいですね」
立ち上がり軽く膝を払って食堂へ向かう。お腹が空く状態でよかった。本気で落ち込むと食欲すら沸かなくなる人もいると言うし……主様がそうなっては大変だ。食堂へ赴きフェネスは手ずからおにぎりを作ろうかと思っていたが、音がべったり抱きついて離れやしない。ロノに任せて出来上がるまで背中をひたすら擦る。
「音さ」
「…はい」
「早く大きくなりたいな」
「それは……何故です?」
「……音が子どもだからって、酷いこと言うおじさんばっかりなんだもん……他の貴族の人とおなじようにしてるのにさ……あれもこれもできてないって言われたらさ……音もう自信ないよ」
対面した貴族の中でもグロバナー家をよく思わない家々の人間から色々意地悪く指摘されたのだろう。ベリアンやルカスからもマナーを学んでいる音はよほどのことがない限り失礼な言動はしていない。そのような話は二人からも一度も上がっていないのだ。子どもだから分からぬだろうとでっちあげて音を傷つけて鬱憤を晴らしているのだとフェネスはすぐに勘付いた。たしか2日後も会合があり、音の同行も決定しているはずだ。
「つぎのやつ、音行きたくない」
「主様……」
「行きたくない」
ぽろぽろと涙を流す音にフェネスはぐ、と表情を固める。
「……次、俺も付いていきます。ルカスさんとベリアンさんが貴族の相手をしている間も……俺は絶対に主様と他の貴族の二人きりにさせませんから」
「やだぁ、行かない」
「主様……主様、俺の目を見てください」
いつもは少し気弱なフェネスも、今回ばかりは引き下がれない。こんなに幼いながらも主を務めてくれている子どもに対して大人がする仕打ちがこれか?フィンレイ様に直接文句も言えないような癖に、子どもには好き勝手当たり散らす厚顔ぶりに怒りさえ覚えていた。
「俺を信じてください、主様……もう好き勝手言わせませんから」
「ぅぐ…っ…げほっ」
「わ、……泣きすぎて呼吸が…っ主様、ゆっくり呼吸してください」
泣き痙攣を起こした音にフェネスは大慌てでルカスを呼ぶ。ロノは出すか迷ったが音におにぎりを出すと音は泣きながらも完食した。
「フェネスくんが着いてきてくれるなら頼もしいな……ふふ、主様。私達の頼もしくて素敵な主様は誰からなんと言われようと、どこへ出しても恥ずかしくない自慢の主様ですよ……フィンレイ様のお墨付きですからね」
「おすみ…?」
「フィンレイ様直々に凄い!って言ってもらえてるってことですよ、主様」
(………ただ今戻りました……)
(フェネス…どうだった?大丈夫だったか?悪い、どうしても街の依頼調査で同行できずで…)
(慣れないことするもんじゃないね…主様は、終始完璧だったよ…問題は俺だよ…)
(?何かあったのか?)
(ふふ…ハウレスくんがひっくり返るようなことが起きたんだよ)
(ル、ルカスさん…!)
(主様の問題のない立ち居振る舞いやテーブルマナーに野次を飛ばす方がおり…私達もあの方が執拗く主様に苦言を呈した方かと思っていたら……ふふ、フェネスさんが逆に服装やフィンレイ様に対しての振る舞いを余すところなく指摘し始めまして)
(………フェネスが!??!)
(ゔぅ……)
(ルカスさんも、私も……ふふ、主様も目を丸くするしかありませんでしたね)
(ベリアンは口まで開いてたよ……それにフィンレイ様への態度が悪いというのは前々から感じていたそうでね。今回のことでお灸を据えることになったよ…フェネスくんの真っ当な指摘のおかげでね)
(いや……全然想像がつかないんですが……あ、主様は?)
(主様はフィンレイ様に一番礼儀正しくマナーがなっているって褒めてもらってご機嫌で帰ってきたよ……今はナックくんのところに突撃しに行ったね)
(フェネス……お前やるな)
(やめてよ、ハウレス!……もう、ルカスさんもベリアンさんも盛りに盛らないでくださいよ……)
(フェネス!今日かっこよかったよぉ…にひ)
(あ、ぅ…主様……ありがとうございます)
(でもちょっと怖かった)
(ゔっ……こ、怖かったですか?)
(うん……美人が怒ると怖いってまま言ってたけど、ほんとだねえ)
(ゔぐ……っ…も、もういいですから、主様…)
(あらら……フェネスくんたら、顔が真っ赤ですね)
