わんぱく・ちび主
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バスティンと馬
「……主様か?」
「うぉっ…びっくりした!」
「すまない…どうかしたか?」
慣れてない故にもし蹴り上げられたら大変だから、と一人で行くのを禁止されている馬小屋。タイミングよくバスティンが馬の世話をしていたため、こっそりこっそり近づいたつもりの音だが、バスティンにはバレバレだった。
「おうま!ごはんあげたい」
「…分かった、俺も見ているからやってみよう」
「わーい!」
馬は賢い。自分のことを好きな自分よりも小さな存在だと認識できている。威嚇することもなく、むしろ音が差し出した手をハムハムと甘噛みして挨拶している。音は笑い声を上げて大喜びしている。
「何でも食べるの?」
「好き嫌いはあんまりないが……確かに、人参や干し草以外に与えたことがないな」
「ロノからね、リンゴもらってきたよ」
「リンゴ……たぶん好きなはずだ」
ロノはきっと音が食べるのだろうと思って小さく切り分けられたリンゴをさらに小さな手が持つ。食べる部分が少なく指ごと噛まれてしまうのではとバスティンは冷や冷やしていたが、馬は賢い。入れてくれと口を開けて待っている。
「おいし?」
「尻尾が高く揺れている……美味いみたいだ」
「尻尾??」
音からしたら顔のドアップと前足、そして体しか見えない。左右に顔を傾けてもおかわりを求める顔しか見えず、ご機嫌な尻尾は見えない。
「じゅんばん!」
「ふ……もう一周するから待っててくれ」
そんな…と気持ちしょんぼりと肩を落としたように見える馬をよそに、リンゴをふた切れずつあげて2周した音とリンゴが思ったよりも美味しかったらしい馬たちはバスティンにもっともっと、と頭を押し付けておねだりしている。
「そんなにリンゴが美味かったのか……主様、また明日にでもリンゴ持ってきてやってくれないか?気に入ったみたいだ」
「分かったあ!……爪でか!!」
コツコツ、と指で突いていると音の頭を馬がハムハムと甘噛みするように小突いている。なんて可愛らしい光景なんだ……とバスティンが噛み締めていると音が見上げようとしてバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。
「お?」
向かいにいた馬が顔を音の背中に沿わせ、乗っかるような形に。そのまま顔を上げた馬のおかげで、音は今バスティンよりも目線が高い。子供だから顔に乗せても重くもなんともないのだろう。
「たか〜い!」
「ふ……主様、背中に乗ってみるか?」
「いいの?!やるやる!」
バスティンは音を顔に乗せたままの馬に鞍をつけ、馬小屋から出す。他の馬から「いいなー」「ずるい」と言いたげな目線を貰いつつ、音を馬から返してもらい先に鞍に乗せる。
「お、ぐらぐらする、」
「バランス感覚が大事だ」
「ば、バランス、」
難しいことをさらっというバスティンに音は困惑する。体幹を鍛えるようなことをしたことが無い音にはどうやればバランスがよくなるのかなど分からないからだ。
「ストップだ…主様の後ろに俺が座る」
ぐ、と足をかけて鞍に2人乗る。耳がよく動いて走りたそうにしている馬を軽く撫でて、音に手綱をしっかり握らせる。
「歩くときは手綱を1回だけ引くんだ」
「こう?」
「自分の方に寄せる……下ではなく、手前だ」
言われたとおりガチ、と音がする強さで手綱を引いた音の指示に対して馬はゆっくりと歩き出す。
「おぉ〜!!!!」
屋敷に来て何回か見たことのある感動している主の表情にバスティンも柔らかな笑顔になる。こんなに喜んでもらえて馬も嬉しそうだ。そうして馬小屋から裏庭、アモンの管理する庭園まで散歩しているとミヤジに見つかる。
「おや……主様、豪華な散歩だね」
「ミャジーせんせも乗る?」
「ふふ…それなら今度参加させてもらおうかな?」
「やった〜!グラグラで楽しいよ」
「グラグラじゃだめなんじゃ…?バスティンくんにしっかり教わっておいで」
「はーい!」
上機嫌だ。馬も主様もご機嫌でなんて可愛らしい。バスティンは笑みを隠すことなく音の頭を撫でる。徐々に慣れてもらって一人で乗れるようになってから走る楽しさを覚えてもらおう……そう思いながら。
「ついたぞ…降りるときはここを掴みながら片足に重心を置くんだ」
「む、むずかし……」
どうしても跨ぎたい足が馬に引っかかる。馬が倒れることはまずないので見守りつつ、無事に音は一人で降りれた。馬も後ろを向きながら心配そうに見ており、着地した音の頭を甘噛みしている。
「ねーバスチ、なんでお馬の後ろに行っちゃいけないの??」
「後ろは馬の死角なんだ。馬は優しいが臆病な性格でもある……驚いてなんでも蹴り飛ばしてしまう可能性があるからだ」
「へえ」
「お腹も弱点だから急に触ると驚くことがある……声をかけて首元を撫でてやってくれ」
「ん!バスチだっこ」
「あぁ」
「よーしよし、ナックのみかん食べるかなぁ」
「あれは……砂糖漬けにしてあるから、馬にはだめだ。砂糖漬けの前のものなら与えてもいいと思うが…」
「そぉなの?……しゅっぱいの好きなのかな」
「ふ、どうだろうな?本を読みながら色々与えてみよう」
「ん!」
屋敷に戻ったフルーレが目にしたのは何故か頭がぐちゃぐちゃな2人だったという。プンプンしながらブラシを片手に二人は地下室に連れて行かれた。
「おうまに撫でられたんだよ」
「だからといってボサボサなのは見過ごせませんよ!それにバスティンなんか寝癖ついたままだし」
「癖っけじゃないの?」
「これは寝癖です……ほら、ここ!不自然にうねって跳ねてる!」
フルーレに指された場所を見ると確かに跳ねてはいるが、音にはそれが癖なのか寝癖なのかは判別できない。自分よりも長い間バスティンといるフルーレが言うのだからきっといつもと違うはね方なのだろう、と納得させた。
「フルーレものしり」
「え?…ふふ、そう褒められたことはなかったな…ありがとうございます、主様。ちょっとバスティン、寝ないで」
「バスチだっこ」
「はっ…あぁ、主様……いいが、主様は温かいから眠くなる……」
コアラのようにバスティンのお腹に抱きついてきた音も眠かったようで目を閉じている。結局寝てしまった二人にため息をこぼしつつ、ブランケットをかけてあげるフルーレの姿があったとか。
「バスティンくん、バスティンくん……もうお昼だ、起きないと」
ミヤジの声に起きるバスティンの目に映ったのは音の後頭部。主の頭にもたれかかるように寝てしまっていたようだ。
「ミヤジ先生……すまない、深く眠っていた」
「ふふ、地下はそこまで冷えないからね……主様も安心してる顔で眠っているね」
「あぁ……主様は温かくて一気に眠くなる」
「困ったね…さて、主様も起こそうか。ロノくんが主様とバスティンくんが好きなラタトゥイユを作ったと言っていたよ」
「……あれか。じゃあ早く食べに行かないとな……主様、主様。起きれるか?」
「むぃ……」
「ふふふ、即答だね」
ミヤジが音の頭を撫でると音はまたコアラの姿勢に戻ってしまう。5分ほど声をかけ続けて音はなんとか目を開けた。ラタトゥイユに釣られた一人だ。
「ミャジーせんせ、だっこ」
「おやおや……また眠ってしまうよ」
「ん〜、だっこ…」
眠くて眠くて仕方ない音は珍しくミヤジに対して駄々を捏ねた。ミヤジが抱きかかえると首元に腕を回してやはりまた眠ってしまった。
「匂いで起きるだろうか?」
「どうだろう……お腹空いてないのかもしれないね…それだとベリアンくんがまた心配してしまうから、きちんと食べてもらわないと」
ミヤジが食堂に連れていき、起こそうと声をかける。本物のラタトゥイユを前にして匂いでなんとか起きた音はひとくち、ふたくち…とゆっくり食べすすめ、なんと食べながら眠った。
「ほんとに食べながら寝るんすね……」
「ぁ…う、たべる…」
「おっと、危ない……起きたら食べようか主様……ちゃんと取っておいてくれるよ」
「う…」
今日は眠くて眠くて仕方のない日なのだろう。ミヤジは音の口元を拭いて、部屋に寝かせに行った。部屋ではベリアンが掃除をしていた。お昼のことを告げてベリアンに引き渡す。
「バスティンくんと馬に乗っていたとは……ふふ、私も見てみたかったです」
「バスティンくんによれば、りんごもあげたみたいだよ…彼が躾けた馬はきちんとしているから主様にもすぐ懐いてたそうだ」
「なんと…!そういえば、前に屋敷に来ていた猫ちゃんも主様にはすぐに懐いていたような……?」
「…もしかしてあの白と黒のぶち猫かな?たしかに……膝の上に乗っているのを見かけたことがあるね」
もしかしたら動物に警戒されないタイプなのかもしれない。敵対心を抱かせにくいというか……。
そして数日後、音とバスティン、そしてアモンがエスポワールの街へ買い物に出かけていた時のこと。止めておいた馬車…つまりデビルズパレスの馬とは別の馬がどこかの敷地内から逃げてきたらしく、街なかでパニックが起きていた。
「後ろに立っちゃだめ!」
止めようとした男に音が叫び袖を掴んで止める。
「おわ!」
「おじさん、危ないよ!蹴られちゃうよ」
気配を察知したのか、誰もいないが男が先程まで立っていた空間に向かって馬が蹴り上げている。あんな勢いで蹴られたら骨折で済むのが奇跡だろう。何かないか、と音は周りを見渡す。近くに八百屋が見えた。ルカスから貰ったお小遣いをくまきちから出してりんごを購入。釣りも受け取らず、音は八百屋の店主にりんごを半分に切ってと頼む。種を除いて暴れる馬の正面に立ちりんごを投げる。
「………」
匂いに気付いた馬が地面のりんごを食べ始めた。ひとまずパニックになって暴れているのは阻止した。お腹が減っていたのか、あっという間に半分を食べ尽くした馬は音が持つもう半分のりんごに狙いをつける。
「主様、そのりんごは俺に…アモンさんの後ろにいてくれるか?」
「でも…バスチ…」
「俺は大丈夫だ、なるべく落ち着かせてみようと思う」
音からりんごを受け取ったバスティンは正面から逸れ、馬に敵意はないと示しつつゆっくり近づく。首元を撫で、頭を撫でると馬もバスティンに擦り寄る。そのままりんごを与えていると、馬の所有者が汗だくでやってきた。街中に謝りながら大人しくなった馬を受け取り、去っていった。
「ふぅ……いやぁ、主様もバスティンくんも凄かったっすね!」
「ふふー」
「あ、いた!お嬢ちゃん!これお釣り!もうりんごに1万ゼニー使う子は初めてだよ……はい、これ馬を大人しくしてくれた礼だよ」
「わー!りんごいっぱい!おじさんありがと」
「いいんすか?こんなに……」
「いいんだよ、あんたらあの屋敷に住む悪魔執事だろ?……初めて見かけたけど、天使じゃなくても俺らを守ろうとしてくれてるってのにお礼に金なんか取れないよ」
「バスチ褒められてるよ」
「え?……あぁ…いや…」
「すみません、バスティンくんちょっと照れやなんすよ……へへ、お礼としてならありがたく受け取りますね!主様りんご大好きなんすよ」
「お、見る目があるねえ」
「シナモンでくたくたにしてるの好きなの」
「コンポートか?しゃれたモン食ってんだなぁ、お嬢ちゃん…ジャムにしても美味いぞ。このりんご作ってるのは…あ、いた!さっきお嬢ちゃんが蹴られるぞって声かけたこのおじさんが作ってるんだ」
「えー!そうなの?おじさんのりんご、おうますぐ食べてたし凄いんだねえ」
「お、おう…お嬢さん、さっきはありがとな…しかし馬がりんごを食うとは知らなかったな」
「パレスのおうまもりんご、取り合いっこしてるよぉ…首がニュって伸びてくるの」
八百屋とりんご農園の男とひとしきり会話した音は、こんどバスティンと調理担当のロノとりんご農園の見学の約束をとりつけて帰ってきた。(りんご狩りとも言う)
(そしたら主様、八百屋とりんご農園の人と仲良くなって…あっという間に遊びにおいでって誘われてましたよ)
(へぇ、そりゃ凄えな。俺ら執事に対して肯定的なのがいるとは)
(ほぼ何もしてない俺もお礼言われたんで……へへ、まぁ主様がとにかく嬉しそうにりんご持ち帰ってるのは可愛かったっすね)
(だからさっきロノにりんごあげすぎって止められてたのか)
(ハウレス〜りんごのくたくたできたよぉ…あ!ボスキ!)
(聞いたぜ主様、大手柄だったってなぁ)
(おうまよしよししたんだよ、バスチと)
(凄えじゃねえか、暴れ馬前にして怖がらないなんてな……ハウレスに言ってたりんごのくたくたってなんだ?)
(りんご、シナモンでくたくたにしたやつ……おいしーんだよ)
(俺も食いに行くかな…アモン、お前は?)
(アモも〜)
(お誘い受けたんで勿論行きますよ)
(早く行かないとバスチが全部食べちゃうよ)
