ふゆ・ちび主
Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
おもちもちもち
天使の襲撃があったクリスマスから年末の大掃除まで駆け抜けた師走も終わりを迎え、新しい年が始まりを告げた。音は年越しの瞬間は皆と迎える!と起きようと抗っていたものの、普段は9時より前には眠っている子どもが眠気には抗えず寝落ちていた。
「あけましておめでとうございます、主様」
「あけましておめでとうございます」
ぴしっとした少しフォーマル寄りの可愛らしいワンピースに身を包んだ音は新年の挨拶を執事に言いまわる。そして事前に音の世界の文化を聞いていた執事たちは、東の大地へ旅行へ行こうと主を誘い出す。新年明けて早々に旅行??と疑問でいっぱいの音をとにかく重ね着させて予約した宿へ。音もどこかテレビのCMで見たことのある『旅館』に大はしゃぎ。内装も和を感じるものばかりで、部屋の掛け軸やら座椅子、座布団、急須に反応を示している。
「…………」
はた、と動きが止まった音にルカスは顔を覗き込む。どうしたというのだろう?
「……音ここいや!」
「えっ?!」
さっきまで楽しそうにはしゃいでいたのに!??驚きを隠せないルカスとベリアンに音は続けてこう言う。
「音ひとりじゃ寝れないもん、や」
「で、でも……主様、お屋敷では眠れているじゃありませんか」
「や!かえる」
「あ、主様…!待ってください」
ベリアンの静止も聞かず廊下を軽々と走る音に慌てて後を追う二人。逃げ込んだ先はミヤジたちの相部屋だ。
「ラトぉ」
「ふふ…‥どうされました?主様」
「音とかえろ」
「……帰る?屋敷にですか?」
慌てて部屋に続いて入るルカスとベリアンの様子にぎょっとするミヤジとフルーレはさておき、ラトは少し泣きそうな顔をしている主を抱きしめる。
「何か嫌でした?」
「あの部屋こわいもん、帰る」
「ふむ……では私達が誰か添い寝すれば怖くありませんね?」
「……うん」
「じゃあ今日は私と一緒に寝ましょうか、怖くないですよ」
ラトがそう言いながら部屋をあとにし、どういうことだと視線で訴えるミヤジたちにベリアンがさきほどのやり取りを説明する。
「………なんか、俺……前になんかの本で呪われたドレスって書いてある本読んだことあって」
フルーレが話し出す。呪われたドレス??とベリアンたちには?が浮かぶ。
「それ、結局落ちないシミ汚れが妙に顔に見えやすいってことで見ていると不安になるから曰くがついて……って書いてあって。この宿着いたときから思ってたんですけど、その……なんか天井の柄?ところどころ、顔に見えません…?」
そう言われ三人は顔を上げてじっくり天井を見る。…………たしかに、顔に見える柄?の配置があったり。
「フルーレくんに言われて気づいたけど、壁もなんとなく……顔に見えなくもないね。それを見て主様は怖がっちゃったのかもしれない」
「な、なるほど……」
「全く気付かなかったね……フルーレくん、ありがとう」
ルカスとベリアンはお礼をいい、こんな機会もないしとローテーションで執事が添い寝をしようと決定した。この話に1番喜んでいたのは他ならぬラムリで、反対していたのはナックだった。ナックの懸念事項は最もだったため、ナックの日は特例でルカスもつくことに。
「ルカス様2回も主様と添い寝チャンスあるのいいな〜」
「何を言ってるんです、ラムリ……貴方大掃除のときにサンルームで主様を抱えて眠ってたではありませんか」
「ゔ……あれは!ちょっと疲れちゃったから休憩してただけだし!」
「誰もサボったなんて言ってないでしょう、連日窓や床を磨いているのは見てましたよ」
「はいはい、口論はよして……もちろんだけど担当になった日は全員お酒なんかは駄目だからね。」
主様と一日中居られると知った執事たちは全員上機嫌で各部屋に帰って行った。
「ラトぉ、だっこ」
「はい、主様。……ふふふ、甘えん坊さんですね」
「違うもん、寒いだけだもん」
そう言う割には壁や天井を見ようとしない。先ほどフルーレが言っていた通りだとラトは主を見下ろす。見えないものに怯えて怖がる主様は可愛いけど、怯えさせているものは気に食わない。
「主様」
「?」
「壁や天井が顔に見えて怖いのなら、私のことだけを見ていてください。そしたら怖くないでしょう?」
「………ふひ」
小さな頬に添わすように両手で顔を包み込めば擽ったかったようで音はニコニコと笑いだす。気を良くしたラムリはそのまま頬を人差し指で擽るように触れて、可愛く切り揃えられた前髪や絹を思わせるくらい柔らかくて張りのある髪へ指を通らせる。
「ラトのおめめ、きれーだね」
じ、と顔をのぞき込まれたと思えばそう言われる。何を言ってるんだ、主様の目の色のほうがよっぽど綺麗なのに。ラトはそう思いつつニッコリ微笑んで音にお礼を言う。吸い込まれそうな黒い瞳をもつ音は、この国では珍しい。悪魔執事は宝石のような瞳を持つ、と人前で紹介されたりするものの、ラトにはそのような自覚はない。
「もっと見ますか?」
「うん」
「……」
「ラト、何してるの」
「ふふ、残念……」
じ、と見つめてくる音のおでこに口づけしようとしていたのがバレてしまったラトはケラケラ笑うものの、フルーレはかなり怒っている。いきなり現れたフルーレがぷんぷんと怒っているものだから、音は首を傾げるしかない。
「主様、下で宿の人たちが『モチツキ』をやってるんです。見に行きませんか?」
「おもち!?」
「はい!」
「音もぺたぺたやるー!」
ラトに抱えられてマフラー、耳あて、手袋、コートを一瞬で着込まれた音はうきうきした表情で外に向かう。
「や、行くの!」
「だめです、主様……靴履けてないでしょう」
「はけた」
「踵潰れてますよ……ほら」
こしょこしょと鼻を擽ると身をよじる音の足が上がった瞬間にすっと履かせたラトの手腕に2度見していたフルーレだった。
「おー!お嬢ちゃんもやるかい?」
「やるー!!」
「あ、主様……重いですよ」
「大丈夫大丈夫、補助はつくから」
フガヤマの子どもたちの列に並んで、手慣れた様子でもち米を用意した農家の男たちが杵の上の方を支えて補助をする。掛け声に合わせてペタンぺたんと突かれていく餅はだんだん伸びて滑らかになっていく。
「ちびちゃんにできんの?」
地元の子だろう、随分と大きい。小学6年生と小学1年生くらい体格に差がある。少し意地悪そうな男の子に執事が何人か殺気立ったが自分がしてもらっていたように音の補助を進んでし始めた。
「もっと背筋のばさにゃいかん」
「?」
「こう、ばばの姿勢見てみ」
左足を前に踏み出し、姿勢を正して軌道修正されつつ杵を振りかぶり餅へ振り下ろす。腰が入ったいい筋だ、とバスティンとハウレスは目を丸くする。
「よいしょー!」
「おー上手い上手い」
「ケンスケ、ちゃんと補助しろよ〜」
「わーってる!!…はい振りかぶる、」
「よいしょー!」
「すごい!主様上手です!」
ラムリがぱちぱちと拍手しだす。褒められて嬉しくなった音は知らない人に囲まれていること、みんなに見られているという普段なら恥ずかしがってしまいフルーレより顔を赤くして執事の足元から出てこないような状況にも関わらず、満面の笑みで餅をついている。
「?変わった名前なんだな……」
一部の子どもたちの間では、よその国から来た『あるじ』ちゃんという名前なのだと誤解されてしまったが。
「ほい、じゃ次じっちゃに渡して仕上げだな」
「餅ぺたぺたしたい」
「だー!子供のてってじゃちっちゃくて餅固まっちまうべな」
ばばの見てろぉ、と気さくなおばさんから少し離れたところれ少年に手を引かれていく。主様が知らない男と手を繋いで……??!?と執事が何人か嫉妬の炎を燃やしていたが、音は気付くよしもない。大人がやると子供がやるより幾分もスピードが早い。職人の技に地元の子どもたちも音も大興奮だ。
そうして突かれた餅が振る舞われ、音はまたもや列に並ぶ。
「『あるじ』ちゃん、何にすんの」
「???…音は音だよ?」
「さっき『あるじ』ちゃんって呼ばれてたじゃん」
「皆はそう呼ぶんだよ」
「音?」
頷く音の取皿を取ってやるケンスケは世話焼きのようだ。微笑ましいと見守る執事とガキ……と殺気立つ執事で別れてしまい、ハウレスがなんとか宥めている。
「何で食べる?」
「しょーゆとのり!」
「みたらしもあるよぉ、ばばが作ったんだ」
「みたらしも!」
皿を二個に分けて執事の元に戻ってきた音とケンスケにベリアンが二人で座って食べてと譲る。
「いただきまーす」
「ナック見て、モチってあんな伸びるんだ……」
「あ、主様、詰まらせてしまいませんか…??」
「おもち?」
「ちびちゃんなんだから小さく食えよ」
ケンスケに言われて頷く音に『主様だろ…!』と訂正したい気持ちをぐっと抑えたナックは念の為に水を用意した。もともとそんなに一口が大きくないため、言われなくても小さくしか食べられない音は詰まらすこともなく2個のお餅を食べきった。
「ベリアンさん〜、ボクたちも食べましょうよ〜!主様が頑張ってたお餅食べたいです」
ラムリの一言により、ラトも珍しく餅を食べることに。お雑煮が美味しいよと聞いたので、何人かは初めてのお雑煮だ。思った以上に伸びるし噛みきれない餅に執事は大苦戦しながらも、味わいながら食べきった。執事が苦戦している間、他の子は遊びに席を立っていたがケンスケだけは音の面倒を見ている。二人で折り紙をやっているようだ。
「???」
「違う、それじゃ折り方が逆だ。逆方向に折り直してみろ」
「こう?」
「そう……でこれとこれくっつけたら手裏剣!」
「お〜!」
銀と黒のかっこいい手裏剣をケンスケから受け取る音は嬉しそうだ。同年代…と言っても大きいが、やはり子ども同士だから打ち解けるのが早いのだろうかとミヤジはその様子を見ていた。
「ケンスケ、ちび女!羽つきしようぜ」
「む、音ちび女じゃないもん」
「ちび女だろ、ちーび」
「ラムリ、抑えなさい」
「ラトもだよ」
「ヘイタ、言い方悪いぞ。せめてちびちゃんにしろよ」
「一緒じゃん!?」
「音だもん!」
「ん……音ちゃん。ほら、ヘイタも」
「音………ちゃん」
「ふふー……『はなつき』ってなに?」
「羽つきな……カエデー!羽つき知らねーんだって、教えてやれよ」
「ヘイタ、待て……あの」
驚くことにケンスケは執事に遊ぶ許可をとってきた。どこまでも面倒みがいい兄気質な子供だ。ベリアンは驚きながらも、目に見える範囲であれば一緒に遊んでほしいと返す。
「ぶっ………ははは!音弱すぎだろ!」
「もう書くとこないよ、音ちゃん」
「お前さては運動音痴だな!?」
楽しそうにしていたから執事たちは見守っていたものの、音は初めての羽つきに大苦戦し全敗。顔中に花や丸、ぐるぐる模様などの落書きをこさえて帰ってきた。本人が若干悔しそうにしながらも、楽しそうに笑っていたから執事たちは止めずにいたが、落書きされるたびにナックは肩を落としていたことを音は知らない。
ガキ大将という言葉がぴったりのヘイタ、学年も一番上のケンスケ、妹がいるため音のことも妹のように面倒を見ていたカエデに送られてきた音は満足そうに笑っている。よく笑ってよく走っていた。
「音ちゃんいつまでいるの?」
「1ヶ月くらいはこの宿に泊まってますよ」
「えー!1ヶ月も!学校おやすみなんだ、中央の大地は冬休み長くていいなー」
「じゃあまた明日遊ぼうぜ、ここ集合な」
「ちょ、ヘイタ……」
「ふふ、是非。ああでも……例えばあの裏山ですとか、怪我をしそうな場所や大人の目がないところはくれぐれも君たちだけで行かないでくださいね。これは主様だけではなく」
「「「はーい」」」
(おちた?)
(やっと落ちました………ふふ、主様すごく楽しそうでしたね)
(楽しかった〜!音も1回くらい勝てるようになりたいな)
(主様ならすぐですよ)
(明日何するんだろ)
(なんでしょうね……この国特有の遊びまだまだありそうでした)
(ふひ……ん〜…ラトだっこぉ)
(はい、主様……髪を乾かしたらすぐ寝ましょうか)
(うん……ねむいぃ)
