ふゆ・ちび主
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おおそうじ
ラムリは連日疲れ果てていた。適度にサボることが上手な自負のある自分が、連日煤だらけになりながら屋敷中を掃除して回っているからだ。失礼なことに「本当にラムリか?」と5人以上に聞かれた………本当に失礼な奴らしかいない。
「あ、主様〜…休憩しましょうよぉ…」
「ラムリ疲れちゃった?」
事の発端は、年末といえば大掃除!と気合の入れた主様にばかり掃除などさせられないと先回りするようにしているからである。音の持ち物なんかは少ないし、断捨離するようなものもない。自分の事に関する大掃除はとっくに終わっているが、皆で住む以上隅から隅の部屋まで大掃除しなければ!と音は決心しラムリは膝から崩れ落ちた…普段よく使うところだけを掃除するだけでも骨が折れるのに、全部となると………だめだ、これ以上は考えるのをやめよう。
「ほら、主様……手も顔も煤ついてます…」
「ラムリもついてるよぉ…ムゥちゃんの髭みたい」
「ふふ、にゃんっ!」
汚れていない肘あたりの腕で己を撫でてくれる主様はなんと心優しく可愛らしいのか。手を洗って一旦おやつにしませんか?と誘うと、しっかり疲れていた音は頷く。上から下に、に習って3階から掃除を始めたが窓拭きをようやく終えて、各部屋の掃除だけで今日は終わりそうだ。
「今日のおやつはシュークリー…って二人ともなんでそんな真っ黒なんすか??」
「ラムリとお掃除してた」
「主様が屋敷中大掃除しようって言って……3階から始めたんだけど、もぉ大変〜」
ぱくりとシュークリームを口にするとカスタードのふんわりした甘さと卵の風味が鼻を抜けていく。シュー生地もサクサクで美味しい。
「おいしいね」
「はい!主様ぁ、窓拭きだけでも簡略化しませんか?このままだと2階と1階終わらないですよ」
「ん〜……」
「それなんすけど……」
ロノが少し言いにくそうにラムリに話しかける。なんと連日掃除をしている姿を見たナックやベリアンがもちかけ、全員でやろうとなったのだとか。さすがに音に持ち上げられないような武器やら家具も多くあるので、担当制にして一緒に進めたほうがいいとなった。
「そうなの!?」
「今日の午後から皆合流っすよ」
「楽しいねえ、音廊下ぴかぴかにする!」
「皆でやってくれるなら助かる〜っ」
追加のシュークリームもぺろりと平らげた二人は片や雑巾、片やバケツを手に3階の廊下に戻った。音の家はもちろん和式様相だったので、ワックスがけのことは知らない。いきなり腕まくりをして地べたに四つん這いになり、絞った雑巾で床を拭き始めた音にラムリは3度見した。
「あ、主様っ!?!何やってるんですか!?」
「ぞーきんがけ」
「わわわ、手が荒れちゃいますよ……廊下はモップでいいんですよ!ほら、こうやってジャブジャブして〜」
「おお」
「ここ踏んで挟んで水気を絞りながらモップをあげます」
「お〜!!」
「何回か繰り返してべちゃべちゃにならないようにして……よし!これで拭くので、雑巾は預かりますね」
水気を適度に切ったモップと雑巾を交換し、音は駆け出すように廊下を走り始めた。文化の違いがあるとはいえ、随分とアナログで大変な方法の掃除の仕方だとラムリは思った。
「滑る〜!」
「主様!危ないのでラムリみたいなことをしては駄目ですよ……ラムリ、きちんと主様を見ていなさい」
「うげ……見てるし!主様ったら雑巾で廊下拭こうとしてたんだよ?だからモップ渡したとこだし」
「手でこの広い廊下を…??主様、手は傷ついていませんか?連日ありがとうございます」
「だいじょぶ…音のお家の廊下はこのくらいあるから、だだだーってぞーきんがけするほうが早いんだよ」
おそらくどの執事がその様子を見ても3度見するであろう、自分の世界では当たり前の掃除方法を伝え、遊んじゃだめだと言い聞かされた音は丁寧にモップをかけていく。ワックスがけは各部屋の掃除も終わった最後にということで会議室へ。
「主様、こんにちは」
「ベリアンだ!」
掃除中のベリアンに抱きつくようにひっつく音にベリアンはわかりやすく破顔しながら応えている。ラムリはつまんなさそうに見ているが、珍しくベリアンは気づいていない。
「会議室は私がやるので、大丈夫ですよ……それにお二人とも連日掃除してくださっているので、少し休憩を挟んでください」
「さっきシュークリーム食べたよぉ」
「ふふ、それでもですよ」
行く先々に執事がいて掃除をしているので逆に仕事がなくなってしまった二人は1階のサンルームへ。日差しが暖かいここはムーを始めとする昼寝に最適な場所だ。
「ラムリ、だっこ」
「は〜い!…ふふ、あったかいですねぇ」
「うん……ねむくなってきちゃった」
「ボクもです……今日も掃除頑張りましたねえ、主様」
「うん、ラムリ頑張ってた」
「主様もでしょ〜?」
「音が明日、ラムリにおむすび作ってあげる」
「え!いいんですか!?やった〜!」
音の好物だというおにぎり(時におむすび)は音がここに来て、最初の方に初めてロノに食べたいとリクエストしたものでもある。聞きなれないものにラムリはなんだそれ?と書庫を漁るロノと一緒に探した記憶がある。
焚き上げた米に塩をすり込み、中に好みの具材を入れて握りあげる。形は地方によって昔に米を入れていた俵に近いものや、オーソドックスなのは三角形。それに海苔をまいて食べる……ロノが写真を参考に、焼き鮭のおむすびを握り音がニコニコと3個も平らげたのは今でも覚えている。そんな好物……ロノ曰くソウルフードを作ってくれるなんて!ラムリは笑顔が緩まらずにぎゅうぎゅうと愛おしい主を抱きしめる。
「ボクも主様に作りますよ、食べあいっこしましょうねっ」
「いいの?音ツナマヨがいい〜」
ツナマヨというのも音がこの屋敷に持ち込んだ文化である。ツナ自体は食べたことがあるものの、マヨと少しの醤油、そして気持ち多めの胡椒を和えるだけであんなにも変化するのかと皆驚いたものだ。サンドイッチの具のレギュラーメンバーに即格上げとなった。
「分かりました!愛情込めて作りますね」
あぁ、ここ数日真面目に掃除を頑張った甲斐がある。ラムリは早く明日になってほしいと願いながら目を閉じた。腕の中の熱と、日差しで昼寝に丁度いい。
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「あ……ふふ、二人とも可愛い髭ついてる……ハウレス、ハウレス!ちょっとこっち来て」
「なんだ?……ってまたラムリは……ここってブランケットあったか?」
ハウレスはため息をつきながらもラムリと主にブランケットを巻きつけ冷えないようにした。なんとも気の抜けた、安心しきった顔で眠る二人に連日朝から晩まで大掃除をしていたことを思い出す。さすがに疲れたのだろう……3階分の窓をすべて拭いたと聞いたときは驚きで口が塞がらなかった。
陽が落ちる前にまた起こしに来ようとフェネスとハウレスがサンルームから出ていく。その後もボスキやナックがラムリたちが居ることを知らずに入り、同じように出ていく姿が目撃された。
「さて……そろそろ起こさなくては。ラムリ、ラムリ」
「んぁ……ナック…?」
「体が冷えますよ。ベリアンさんが紅茶を淹れてくださってますから食堂へ移動してください」
「ん〜……」
くぁ、とあくびをするラムリを一瞥しナックはしゃがみこむ。愛おしい主の無防備な寝顔に目尻を下げながら呼びかける。
「主様、主様」
「ん…?」
「ふふ、可愛らしい……ベリアンさんが紅茶をご用意されてます。ラムリと一緒に温まってきてくださいませんか?…ここだとそろそろ陽が落ちて寒くなりますから」
「うん……ナックは?」
「え?」
「そーだよ、ナックも飲めばいいじゃん」
「し、しかし…ここの掃除が」
「ここは陽が昇ってるうちに中の植物外に出したりしながらじゃないと無理だから明日がいいと思うよ」
「音もそうおもう!」
あんまりよく分かってないが、皆で美味しくお茶を飲みたい音がラムリに続く。ぎゅうっと抱きつく力が強まったことに気づいたラムリは同じように腕の力を少し強めてぎゅうぎゅうくっつく。そして休憩することに慣れないナックを引き連れて食堂へ。
「おや、ナックくんも…ふふ。主様、お疲れ様でございました。今日は特別に……」
「とくべつに??」
「ミルクフォーム付きのミルクティーにしてみました!」
「「お〜〜っ!」」
「ラムリ……全く」
お前はいくつだと問いたくなるくらい素直な反応をするラムリにナックは頭を抱えるが、たしかにベリアンがテーブルにおいたマグカップには白くてふわふわのミルクフォームが見え、上には少しシナモンが乗っているようだ。温かそうな見た目だけで体の冷えが取れそうな気もしながらナックも礼を言い受け取る。
「んまー!」
「ふふふ、主様ひげついてる〜」
「おや……ふふ、本当ですね」
13人の執事が本気を出せばいくら広いデビルズパレスの屋敷でも2日も経たず大掃除は終了する。いつもの年越しより遥にぴっかぴかになったパレスに感動する執事も多い。やってみたかった屋根の修繕をどうしてもハウレス、ボスキの許可がおりず手伝えなかった音はフェネスの足元に蹲って先程から臍を曲げている。
「ふふ、主様……冷えちゃいますよ」
可愛いなぁという気持ちがダダ漏れのフェネスは主を抱えて書庫室へ。ここなら暖房も効いているし暖かい。
「ハウレスけち」
「……ふは、ふふっ……すみません。可愛くて」
「……」
音はぶす、とした表情でフェネスのベストのボタンを開けたり閉めたりしている。世の「執事」を抱える主人はこんなに進んで執事の仕事を手伝うことなど皆無に等しい。聞いたことないくらいだ。しかし執事がいない世界の音からしたら、一緒に暮らしているのに手伝いもしないのはと気が引ける。悪魔執事たちはこの気持ちを理解しているので、安全なことに限り音の気の済むまで手伝ってもらってはいるものの、屋根の修繕は話が違いすぎる。雪で滑り落ちるかもしれないし、雪がなくても高くて危ない。許可なんか降りるわけがないのだ。
「ハウレスもボスキも、主様になにかあっては嫌だから断ってたんですよ……ほら、2階のここだってこんなに高いですし。3階より上の屋根だと危ないでしょう?」
高さの感覚は、目で見たほうが早い。バルコニーに出て外を見て、主の体に腕をしっかりと回して下を軽く覗き込む。2階からであってもうっかり落ちてしまったら……骨折で済めばいい方だ。
「主様の俺達を想ってくださる気持ちは本当に嬉しいですよ…それはハウレスも、ボスキも。でも主様がもし怪我なんかしちゃったら、悲しいじゃないですか。だから、屋根の修繕は俺も反対です」
「………けち」
「ふふ……主様、本当は分かってるでしょう」
賢い音なら自分の言うこと、ハウレスたちの反対する理由も分かってると勘付いてるフェネスはけちと言われようが、ベストのボタンをひっちゃかめっちゃかに付けられようが可愛い反抗にしか見えなくてついつい表情が緩む。
「ロノ、ロノもだめだめ言う」
「刃物を扱ってますし……あと、火も使いますから。危ないですよ?」
「ルカシュも」
「薬を作るときに間違って吸い込んでしまったら、どんな作用が体に起こるか分からないでしょう?」
「………フルーレも!」
「針が刺さったら痛いですよ」
「……音もできるもん」
なるほど、『できないと思われていること』も嫌なのか。そう瞬時に察知したフェネスはアプローチを変える。
「では……以前俺にハサミで切り絵を作ってくださったことがありましたよね。あの本の最後の切り込みが細かい図が作れるようになったらハサミマスターとして、フルーレくんの生地を切るお仕事デビューの交渉をしたらいかがでしょうか?」
「ハサミマスター……」
「ええ。最初は細かい切り込みからハサミの使い方を覚えていって、フルーレくんから許可が降りれば生地に触れます。生地は大きくて重いので、生地も扱えるようになれば……ロノくんの元で食材を運ぶお仕事も任せてもらえるようになるかも。
一気に全部出来るのは俺達でも難しいですから、徐々に進んでいきましょう?」
(良かった……主様それで納得してたんだな?)
(うん、毎日頑張る!って逆に火つけちゃったけど…)
(助かったぜ、フェネス……俺のあとに屋根登ってこようとしてたのは肝が冷えたからな)
(あぁ………冷や冷やした)
(すっごい顔真っ青だったもんね、二人とも……はい、お疲れ様。外冷えたでしょ)
(あ゛〜〜〜………美味え)
(クッキーはロノと主様とムーが作ったやつだよ)
(おら寄越せハウレス)
(おい!俺にも少しくらいくれたっていいだろ)
(喧嘩しないでよ………喧嘩しないようにっていっぱい焼いてくれたのに)
