拾われたさきに・逆トリ・男主
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見立て
*雑渡昆奈門
よく言えばお人好し。親切。
悪く言えば無防備、(こちらの)世間知らず。
そんな少年にしか見えない青年……ミョウジくんのお家にお邪魔させてもらってる。抜けてるようでたまに鋭いことを告げてくる。本当に忍者なら、殺そうと思えば自分のことなんか殺せるだろうと言われた時は驚いた。震えて怯えてたくせに、啖呵切るような物言いだったからだ。
親切心には感謝してる。衣食住、すべてを用意してくれたし自分にもあると火傷にいい軟膏も貸し出してくれた。おかげで左手の肘から先のピリピリした痒みが他の部分に比べて少ない……効き目があるというのは本当のようだ。
けれど流石にこれだけですべて信頼できるかと言われれば、否。ミョウジくんも私のことを完全に信じきっているかと言われれば、否……だろう。飲み込もうとしてくれてるのは手に取るように分かるけど。
ていうか……素性の知らないこんな大男と同じ布団に入ってそんなすぐ眠れるもの?流石に用心しなさすぎでは?私のものを用意してくれたそれだけの疲れがあるんだろうけど……。
すうすうと寝息を立てて丸まるミョウジくんの頭を撫でる。寒そうに擦り寄って来るから布団を肩までかける。随分細くて華奢な体だ。骨格で男と分かっていたけど、腕を掴んで拘束したとき見立てを誤ったかと思ったくらいには……男にしては細い。これも忍じゃないからなのかもしれないけど。
「……?」
板が光ってる。画面と呼ばれる部分に何か文字が浮かび上がってる……文字が全然違いすぎて、読めない。あ、1文字だけ読めるかも?
「返事…?」
返事、その漢字は読めた。明日の朝ミョウジくんに聞いてみよう。
「ゔ……」
数時間後、ミョウジくんの板から何やら音楽が鳴り響いて起床したようだ。よろよろと立ち上がっていく様は昨日の朝方と同じ。眠ったふりをしてるけど、ミョウジくんは多分気づいてないんだろう。随分慎重に布団から出ていった。
「………はぁ……おはようございます、ミョウジです」
そういえば…電話、と言って遠く離れた人と音声、または映像でやり取りできると昨日言ってたな。
「はい、いま起床しました……はい……今日ですか?」
眠そうなミョウジくんのやり取りに耳を澄ませていると、相手の男の声がうっすら聞こえてくる。声色が全然昨日と違う……心底嫌そうな、うんざりした感じ。
「今日……オレ休みなんですけど」
あぁ、予定外に仕事が入ったのか。あの様子じゃ初めてじゃなくて何度も起こってるのかな。
「……分かりました、昼から向かいます。失礼します。……ッチ、あのジジイ……」
おお、口悪い。可愛い顔して結構言うんだ。
「おはよ」
「うわっ!?!……びっくりした……」
「ごめん、そんな飛び跳ねるとは」
「足音立ててくださいよ……おはようございます」
「気をつけるよ……大丈夫だった?」
「あぁ……はい、休みに呼び出されるのよくあって……近々辞めようと思ってるんで大丈夫です」
「そうした方がいいね、疲れ取れてない顔してるよ」
「眠いですもん……おにぎり作ろ」
「私が握ろうか……そうだ、きみの名前は?」
「……そういえば言ってなかったですね、ナマエです」
「ナマエくん……へえ、いい名前だね」
名前の音や雰囲気もこうも違うものか。外の国の名前とはまた違う名前は不思議だ。
「そういえば、昨日塗ってくれた軟膏いいね。痒みが収まって楽だったよ」
「よかった、効いたんですね?使ってないのめちゃくちゃあるんで、今日は上半身にも塗りましょうか」
「ありがとう……握り飯こんなんでいい?」
「ありがとうございます!」
そう言って私の分の昼餉を作ってくれて着替えたナマエくんは仕事のため部屋を出ていった。文字の練習をしたいと告げたら、本棚の奥から子ども用の教本を引っ張り出してくれた。ナマエくんが子供の頃に使っていたものらしく、ひらがなかららしい。
「いろはにほへとじゃないのか……」
骨が折れそうだ。
─────────────────────────────────
どっぷりと夜が更けた。今は初冬らしく、日が落ちるのも早い。ここと教えてもらったすいっちを押せば、部屋に明かりが灯る。蝋燭や提灯より強いその光源は若干眩しいくらいだ……‥もう戌の刻。遅い時間だ。いつ帰ってくるから聞けばよかった。
「あ、おかえ……どうしたの?」
「だい、大丈夫です」
「……体が冷える、部屋においで。君の真似をして湯を張ったんだ」
明らかに乱暴された跡がある。涙目のナマエくんは戸口から動かない。
「ナマエくん」
「……っ」
「ナマエ」
「っ!」
もう泣き崩れてしまいそうなナマエくんを抱き抱えると、体が強張る。背中を擦るようにしていると段々と緊張した体から力が抜けていく。
「……明日は休みなさい、ね」
「……はい」
「うん、偉いね」
そう言いながら頭を撫でるとナマエくんは泣きだしてしまった。乱暴の種類にもよるけど……衣服に乱れはない。から殴られただけで済んでいるのかも。
「…ぐす……すいません、風呂、入ってきます」
「うん、ゆっくりしておいで」
泣いたら殊更幼くなるんだなあ、ナマエくん。そう思いながら送り出す。ナマエくんが入浴中も板には昨日の夜中と同じように文字が浮かぶ。漢字ばかりで解読できないが、ひらがなは覚えた。これは……罵倒の類だ。操作の仕方が分からないけどどうやって消せばいいんだろうか。
「なんか来てましたか?」
「……うん、きっとそいつから」
「あぁ……はぁ……すみません、さっき」
「いいよ、君が謝ることじゃないでしょ」
「……来月末で辞めるって言ったらふざけんなって殴られて…オレ、殴られたことなんてないからパニックになっちゃって」
「一方的に殴るの、今は良いの?」
「ふは、全然良くないですよ」
ようやく見えた笑顔にホッとする。痛そうな頬に手をやる。冷やすものが必要だな…。にしても、殴られたことなんてない、か。苦無の件といい、ここはどうやらかなり平和な時代なんだろう。平和の中にも、ナマエくんの上司のように外れがいるようだけど。
「これ、なんて書いてるの?」
「……ざっとさんに言ってるみたいになるから嫌なんですけど…」
「構わないよ、教えて?」
「……『この繁忙期に辞めるなんて恩知らずなことを言うな』『お前なんかどこも雇わない』『役立たずのくせに』『今日の朝だってあの態度はなんなんだ』」
「うわぁ……酷いね」
「労基にもっていけばしょっぴかれますね」
「ろうき?」
「労働基準監督署っていう……こういう困った人や職場に対処してくれる機関です。これで証拠が10個目になるんです」
「10個」
「音声データもありますし、さっき病院行ってて診断書も貰いました……湿布はいいって断ってきましたけど」
「だから、明日朝イチで送ろうと思って」
「……私がこっそり罰を与えてきてもいいんだよ?」
「だめです!だめ!ざっとさんがそんな汚れ役買わなくていいです」
ナマエくんが両手を掴んでくる。忍者ってそういうもんなんだけどな……。
「忍者ってそういうもんだよ?」
「それでもだめです。嫌だ」
「ふふ、そっか……まあとりあえずこの人の名前教えてよ」
「この流れで言うと思います??」
「手厳しいね」
とりあえず夕餉を取ろう、と立ち上がる。昨日見てたから米の炊き方はマスターした、はず。米だけは炊いたよ、と告げるとナマエくんはなんとも嬉しそうに喜んでくれる。世話になってる身だから、これくらいね。
「昨日お鍋だったから……今日は肉!ステーキ!」
「おお、豪勢だ」
牛肉が出てきた。包丁の背で叩いて筋を伸ばして焼いて容器に入った玉ねぎ醤油のタレと絡め、少々の野菜を炒めて丼に盛る。いいね、思い切りがいい。
「いただきます!…んま!」
「ふふ、美味しそうに食べるね」
「お米ふかふか」
「ナマエくんは玄米食べたことある?」
「玄米?……何度か、お店で」
「そっか。玄米好き?」
「そこのお店は柔らかく炊いてくれてたので好きです。浸水が大事らしいですね」
「そっかそっか」
じゃ、連れてっても問題ないね。包帯の下を覗いても臆せず、範囲は小さいものの同じ怪我をしてると気を遣ってくれたナマエくん。話の通じない不審者でしかない私を家に匿ってくれて、嫌な顔一つせず衣食住を用意してくれた。
良い子だ。勿体無いくらい良い子だ。欲しい、連れて帰りたいと思ってしまった。ナマエくんの安全を脅かすような奴がいるなら、この世界でも私のところの世界でも治安は変わらない。タソガレドキ城下町内に閉じ込めておけば、誰にも傷つけられない。
「なんで急に玄米を…?あ、玄米のほうが好みでした?」
「ううん、白米も美味しくて好きだよ。ふかふかだね」
次の日、ナマエくんは板越しに怒鳴られながらも「ゆうきゅう」、という制度を使って法律的に担保されてる休暇を取得。今までの暴言、暴力の証拠を「ろうき」に出しに行った。
「私は嬉しいけど……ナマエくん平気?」
包帯まみれのせいでジロジロと見られる。こういうのは世界が変わっても変わらないんだ。確かに……時々足が不自由そうな杖を持つ人は見かけるけど、包帯まみれの人は見かけない。
「大丈夫ですよ、だって火傷の跡出してたらそれはそれでジロジロ見られますからね」
「経験あるんだ?」
「学校のプール……水泳の時間とか、男子はこのくらいのパンツの水着だからお腹出るんですよ」
なるほど。だとしたらナマエくんの火傷は丸見えだろう。
「ざっとさん、こっちです。大きいからって逸れないでくださいね」
「ごめんごめん、珍しいものしかないからさ」
ナマエくんの小さい手を握って迷子防止。随分と人が多い。道も…これは石?で出来てるのか?舗装されていて整備がしっかり行き届いているし、よく分からない線が張り巡らされていて、建物が随分高い。
「賑やかな街だね」
「でしょう、大都市ですから」
飾り付けられた建物なんかは綺麗だが、空気は汚い。肺が圧迫されるような感覚になる。顔色が良くなかったのか、茶屋へ連れてきてくれた。
「ここのわらび餅美味しいんですよ」
「いいね」
「ずんだも」
「渋い好みだ…抹茶もあるんだね」
「頼みますか?お茶点ててくれるんですって」
頷く。味の違いなんかあるんだろうか?ナマエくんが頼んでくれた抹茶は同じ味で、大変美味。茶菓子に頼んだみたらしだんご、わらび餅の甘さもいいし……いい餅米だ。
「明日はドライブ行きましょう」
「どらいぶ?」
「車に乗って、遠出です!雪だけ気をつけないと」
「ふふ、楽しそうだね」
「オレの地元じゃ全然雪積もらないんですよ」
そういえばどのあたりなんだろう?明日聞いてみよう。
(今日は何作るの?)
(豆腐ハンバーグです)
(豆腐…?)
(豆腐でお肉のかさ増しするんです)
(なるほどね)
(捏ねてください)
(分かった)
(あとは味噌汁と〜さつまいものサラダと…)
(いっぱい料理知ってるんだね)
(これで検索したら出てくるんですよ)
(へえ、便利だ)
(作ってみようかなってなるんですよね)