「…はぁ！？」


「お前の母親には連絡入れといた。返事としては『まあ受かるとは思わないけど、受かったら入れてもいいし頼んだよ』…とのことだ。
時間は有限、今日から個性の特訓を始める。…ほら着がえろ」
ベショッと顔に向かってジャージ投げられる。


え、超展開。困るんだけど展開の早さ。時間の無駄をとことん嫌うこの人に逆らうと怖いので質問はとにかく後にしよう、怖いから。
すぐにジャージに着替えて、川？があるところに来た。


「…なんでも止められる、と以前言ったな。」


「…はい。たぶんですよ」
最大まで使ったことないから、実際あやふやだけれども。


「時間だけ止めてみろ」
言っておくけど、危険視されてて個性をいままで全然使ったことないって言ってあるからね、この人に。
とんでもない注文のつけ方だよね、呼吸するくらい簡単だと思ってるのかなこのオッサン。


イメージをして、時計が止まるように。とりあえず地面に触ってみる。触れなきゃ対象にならないし…空気も対象になるのかな？


「…合格」
相澤氏の時計止まってる。こうしてみると不思議だ、皆時計動いてないのに人間は動くから変な感じになりそう。
てか電磁波時計とかならともかく、世の中をちょっとだけ狂わせたのでは？？？あとから世界単位で怒られない？？


そんなこんなでろくに質問をする機会もないまま、特訓漬けの日々が始まった。


そして俺は気付いてしまった、男2人で半同棲(むしろ半つかないかも)してるっていう恐ろしい事実に。


「おい、起きろタコ」
タコって何だよ。


「起きてまふ」
意識は起きてる。体がまだ覚醒しきってない。


「目を閉じた状態でよく言うな…起きろ」
ペチペチと頬を叩いてくる。痛い。


「DV」


「バカ言え、愛情のある起こし方だ」


朝ごはん作らないと…合理的な生活を好むこの相澤消太はなんと食事を10秒チャージできる、あの某ゼリーで済ませたりする。(しかも10秒もかかってない)
んで、さすがにあれだけでは他の栄養素が不足するだろうと棚を探ったらなんとサプリメント。
…いやあの、いちいち飲むんだとしたらこっちの方が面倒じゃね？？


と思ったので、優しい同居人の俺は飯を極力作っている。すごく優しいよね。


「相澤さん、できましたよ」
簡単な味噌汁に目玉焼きに昨日からつけてある浅漬け。


「…相澤さん、」
そういえば、と以前から気になってたことをきくタイミングがやってきたと思う。
というか早めに聞いておきたい。


「なんだ」


「すげー失礼なこと聞きますけど、キレたら逆ギレしますからね」
先に言っておく。


「そんな宣言あってたまるか」


「…彼女、とか居ないんスか？」
ピタッと、相澤さんの箸が止まる。あ、これは…(察し)
居ませんねこやつ、居ませんね。まあこんな風変わりな人に惹かれる人もそうそう居なさそうだけど、顔立ちはすごくかっこいいと思う。濃くはなくて、淡白なんだけどなんか…上品なんだよなあ。


「…ずいぶん度胸がある質問するな」


「図太いんで。ただ気にはしてるんですよ、だってもし恋人いたら今の俺、大迷惑じゃないですか」


「いてもいなくてもだろうが……今日の訓練、楽しみにしておけよ」


「へぇ相澤さんネチっこいんスね。今やればいいじゃないスか」
ニヤリ、と笑う。
めちゃくちゃ腹たったのか箸折ったぞこの人。バキッという音と共に折れる箸。あぁ、買ってこなきゃじゃん。割り箸じゃないんだから。


「よし、立て」


「へーい」
立って相澤さんの方に向うとした瞬間に鳩尾殴られた。いっった！！？？！？！
容赦ねーな！！！！めっちゃキレてんじゃんかよ！！！


「そんなキレなくてもよくないですか…痛ェ…」
お腹抱えて転がる。痛い。的確すぎて笑うくらい痛い。


「お前が悪いぞ、クソガキ」
ひどい。あまりにも本気すぎる。。


「もう絶縁！！！」


「絶縁も何も繋がってねーよ」
ほら来い、と首元を持たれる。それすると首締まるんだって！！！


「じゃあ…絶交で」


「友達でもねェだろ」
…確かに。じゃあなんだ？？？


「えっと…なんだ…絶、絶、」
考え込んでいると相澤さんがしゃがんでくる。


「ホラ腹見せろ」
服をバッと捲られる。心配するなら殴らないでよね！


「痛い…DVだ…」
ぐすぐす、と泣き真似してるとゲンコツされた。本当扱いが酷いよ最近。


「マジで痛い、、もう相澤さん嫌いっす。」


「嫌いで結構、腹を出せ」
湿布をベッと貼られる。わざと痛くしたなこのオッサン…！！！！


「てか…痛かったけど湿布貼るほどですか？」


「念のためだ」
一応な、と言われる。


「え、やさしい…！」


「いつもだろ」


「そういえば、そうでしたね」
ふふ、と笑う。相澤さんもつられてちょっとニヤけてる。



(やっぱ相澤さん好きです)
(俺はそうでもないがな)
(ちょっと！！！！！)
(本音を言っただけだ)
(もう嫌いです、相澤さんなんてムカデくらい嫌いです)
(好きになったり嫌いになったり忙しい奴だな)
(相澤さんムカデ以下です！！！！)
(お前はゼリーくらいだな)
(え、急なデレ…世界で1番好きです)