ずっと長い夢を見てるようだった。
何度も、何度も思い返すのは相澤さんが死にそうな場面。血の気が引くってああいうことを言うんだなって痛感した。
あのあと、自分なりに色々動いたけどあとから考えてみればそもそも脳無の心臓自体をまっさきに止めてればよかったとか、誰か一人の対象を止めるのがまだ難しいなら、全体の時間を止めてればよかった……とか。
やれること、最善の策はいろいろできたように思う。


結局相澤さんは軽い後遺症を負ってしまったし、元通りに治せたと思ってたオレの両目も、今後どうなるかは分からないと医者にはっきり言われてしまった。


相澤さんには病室でオレの不甲斐ないところをひたすら怒鳴られたし、オールマイトにも無茶をしすぎだと怒られた。
オールマイトとずっとコンビのような警察の塚内さん、という人にも釘を刺された。


「…」


「また泣いてんのか」
相澤さんがため息をつく。


「もっと、ちゃんとできたら、」


「『うまくいったかもしれないのに』か？
…奇襲からの短期決戦と人命救助が得意なプロヒーロー2名と、
入学して数日の子どもだけで、全員生きてる以上の何をどううまくいくっていうんだ」


「……」


「確かにお前は浅はかだったが、あんまり自分を責めるな。
全員が全員、あの場でやれることを尽くしたからなんとかなってんだろうが。
本来なら死人が何人出てもおかしくない」
オールマイトだって脳無を倒すのに全力を使って、あのあと動けなくなっていた。
もし、最初からオールマイト同伴だったとしても皆ボロボロだったかもしれない。
分かってはいる、頭では。


「頑固だなお前、…神代さんそっくりだ」


「…母さんの名前出さないでください…！」
思ったよりも大きい声が出る。


「…悪かった、傷口開くからあんまり興奮するな」


「そうだよ、相澤くんは君を心配してるだけだから。
君の行動を採点したいわけじゃない」
塚内さんにも言われる。


「頑張って理解するから、急かさないで…」
泣きすぎて包帯が全面的にぐしょぐしょだ。ずっと湿ったガーゼが肌に密着して、すごく気持ちが悪い。


「分かった…プロヒーローからのアドバイスだ、終わったことを悔やみすぎるな。結果に目を向け今できることを考えろ。
そうじゃねえとお前みたいのはすぐ潰れる」
頷く。


塚内さんに弔との関係性を尋ねられる。
「相澤さんと会う前、会った事があって。その時からずっと敵連合においでって言われてます。
…相澤さんと会ってなかったら、行ってたかもしれないけど、行かないって都度断ってはいます。」
今後も狙われるだろうから、重々気をつけるようにと釘を刺される。


「…母さんの言うとおりだったな」


『人殺しの間違いだろ？やめときな、絶対後悔するから！あっはっはっ！』


「……くましろ？」


「何人かの敵の、心臓止めたんです。草むらから、相澤さんの負担にならないようにって敵を止めてたんですけど。
多分、わざと…逃がされてたから霧のワープですぐ近くに3人くらいの敵が近づいてきて。
それを確認してたら後ろで、相澤さんが…脳無にやられてて。
ほんの数秒しか目を離してないのに枝を折るように、相澤さんの腕折ってるし、個性使えないように地面に叩きつけてて
このままじゃ相澤さんが死んじゃうって思ったら、なりふりかまってられなくて、心臓…止めて殺したんです」
初めてちゃんと使用したのが、敵の心臓を止めることだったなんて、母さんにバレたらそれ見ろ！と言われることだろう。


「…君はまだ15歳だ。相澤先生の半分の年齢。
だのに、命を脅かす敵と自らの犠牲を恐れずに勇敢に最後まで戦った…これをヒーローと呼ばずになんというんですか？先生」


「さあ、知りませんね」
ボロボロ涙が出てくる。


「くましろは13号の言葉を借りるなら"いきすぎた個性"だ、自分でも分かってんだろ？
その"いきすぎた個性"をどう操るかと、そのブレやすいメンタルをどう安定させるかが今後の課題だ」
ボフ、とギプスで固定されてるであろう手で頭をガッチャガッチャと撫でられる。


「くましろ、なりてぇもんしっかり見据えろ。お前はヒーローになれる。忘れるな」


「もう無理優しくしないで、マジで大人なんて嫌い」
ぶわっとまた涙が出る。包帯があるから拭えない。


「ピーターパンでも相手にしてるつもりか」


「相澤さん…ピーターパンって単語知ってるんスね」
かわいい単語が相澤さんから出てきて引っかかってしまった。だってピーターパンだよ？？？


「人が慰めてやってんのにお前は…！！！」


「ごめんなさいマジで」
空気を壊すんじゃねえとギプスでみぞおち殴られた。痛い。痛さで涙出てくる。


「そう思うなら素直に慰められとけガキ」


「…相澤さん、」


「なんだ」


「ヒーローになれるって、何回も言ってくれますね。
同じこと言うの嫌いって言ってたのに」


「……じゃあ二度と言わねぇ」


「なんで！？言ってください！嬉しいって意味で言ったのに！！！」


「あっはっはっは、噂の痴話喧嘩間近で見れて楽しいよ」


「「痴話喧嘩…？？」」



(優しい相澤さんも厳しい相澤さんもオレは大好きです)
(ただ今は本当に無理、優しくしないでください)
(優しくしなかったらしないで騒ぐだろうが)
(今優しくされたら脱水症状で死ぬ！)
(ほんとに泣き虫だな)
(今鼻で笑いましたよね？酷い。)
(事実を言ったまでだ。泣き虫め)