Alien
Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
✳相澤消太
塚内さんからくましろたちA組が林間合宿の買い出しに行った矢先、死柄木と接触しくましろが意識朦朧のため抵抗できず連れて行かれた、と連絡が入る。
向かう道中で自力で帰ってきた、と追加で連絡を受取り、他のメンバーを各家庭に送り親御さんに頭を下げ警察署へ向かった。
思いの外ピンピンしていてどこがどう意識朦朧と…?と拍子抜けしたが、首を絞められた際に意識が落ちかけたせいで回復までに時間がかかり、連れ去られたと塚内さんとの聴取で知る。
死柄木が敵へと身を墜とした生い立ちの予想が当たっているかも、という話を聞き身元特定と過去の敵関連の事件を調べねえと、とくましろの身体検査中に根津さんにも根回ししていたところ神代さんがやって来た。
あまりにも普通に部屋に入ってきたので3人全員が驚いたが、入口からこの部屋にくるまで止めてくる警官全員伸ばしてきた、と悪びれもせず言う彼女に変わらねえな…と呆れていると
水と油のような関係のくましろが口論しだす。
疑って追い詰めるような口調の神代さんを見て、B組物間との喧嘩未遂のときに『なんでオレばっか疑われるんですか!』と叫んだくましろを思い出した。
こういう小さなやり取りの積み重ねで、常に疑われると思い込んじまったのか、引き出したのは俺の言い方が悪かったな…と反省する。
「へェ…?ま、いいんじゃない?向こう行っても」
突き放すような物言いの彼女の顔を見る。実の息子だろうがなんだろうが興味ない、って顔つきだ。この物言いと顔つきに、くましろはこれまでの人生何回傷ついてきたんだろうか。
「神代さん、」
一応制止するよう声をかけるが、全くもってスルー。一回スイッチはいると止まらないとこは似てるんだな…。
「敵に引き抜かれようがアタシは敵シメるだけだし。…それよか、変な異名立てんな。こっちがやりずらくなんだわ」
ハー、とため息をつく神代さん。それはあんまりだろう、と口を開く前にくましろがあの日のような目つきで応える。
「……身内が敵に堕ちたなんて、母さんがオレを捕まえてもヒーロー存続できなくなると思うけど?」
「そしたらお前を徹底的に嬲って殺す。そんだけ。…中立名乗ってるらしいけど、お前みたいな中途半端モンができんの?今からでも遅くない、辞めといたら?」
塚内さんが『この人マジか?』という顔でオレを見てくるのでなんとも言えずに頷く。…この人はこういう人だ。
「…中立の意味、分かってる?」
いつか見たあの日のような据えた目でくましろが話し出す。
「あ?」
「敵にもヒーローたちにもいい顔するために中立名乗ってる訳じゃ、ないから。敵連合みたいないきすぎた集団思想の正義にも、母さんみたいな突出した正義とも同じになりたくないから中立を選んでんの。正義ってその人の中では絶対的でしょ?
……一緒にしないでくれる?」
ぞく、と背筋に冷たさが這い寄るような表情で神代さんに反抗するくましろ。凄まじい嫌味にブチギレた神代さんが胸ぐら掴んで壁に押しやる。
「クソガキが……相澤ァ、もっとちゃんと躾とけよ!」
こいつ、犬みたいな気質ですけど犬じゃないんですから。
「犬じゃないんですけど…」
お前が言うか。言い返せるだけの気力があるくましろの表情を見る。
「神代さん、辞めてください!」
一触即発の雰囲気の中、塚内さんが制止する。俺が入ったら甘やかしてるだのなんだのこじつけて言われそうだから助かった。
「衛さんがそろそろ会いに行ってやれっつーから来てみたけど……二度と来たくないね、生意気に育ちやがって」
「先人たちが名付けた偉大な言葉教えてあげよっか、『子は親をうつす鑑』、らしいよ。
…こっちも願い下げ、もう来なくていいから」
売り言葉に買い言葉、永遠に終わらなそうなのでくましろの頬を軽く抓って煽るな、と注意する。
ドアを乱暴に閉めて彼女は出ていき、被害状況を調べるために塚内さんも部屋を慌てて出ていく。
くましろは、母親に対してもうすべて諦める、と宣言した。
「大丈夫です、母さんいなくてもオレには皆いるから」
そう言うくましろの顔がどことなく寂しそうで悲しそうで胸が締め付けられる。
諦めによる希望の手放しなのか、もういいと許しに近い手放しなのか、判断がつかない。
「ん〜温度差にちょっと一瞬…なんていうか…傷ついた?けど…なんかもう、いっかって。
人って変わらないからオレが変わるしかないかって思えました」
前、くましろが擦りむいて怪我したとき。ダメージ2倍だから蹲って痛みに耐えるくましろの左手に手を当てたことがある。
そのとき「相澤さんに手当てされると、こころなしか痛みが引く気がする。手を握られるとすごく安心する」と言っていたのを思い出し、くましろの両手を握る。
慌てすぎてパニックになったときも、虫が出てギャーギャー大泣きしてるときも、手を握ると落ち着くまでが早い。
「温度差っつーのは?」
「出久くんとか、お茶子ちゃんとか…飯田くんとか。
ショッピングモール帰ったとき心底安心した声で出迎えてくれたんですね。
塚内さんと、相澤さんも。安心した、よかったって顔でオレのこと見てくれたんですね。
でも母さんとは目も合わないし、声色も前者と一致しない。ほんとに生存確認と、仕事の邪魔すんなよって忠告しに来ただけなんだな〜って温度差を感じたんですよ。」
温度差…か。そういや神代さん、一度だってくましろのこと名前で呼ばなかったな。
第三者からみても感じる温度差、本人はどれほど堪えるんだろうか。少し前、お前ら親子は対話が少ない、話をしないとどう転ぶか分からないだろうと諭した自分を叱りつけたい衝動に駆られる。
百聞は一見にしかず、聞いただけで片方ずつの性格や人当たりなどを知っているだけで親子関係まで知った気になっていた自分をこんなに恥じたことはない。
親子として接する2人を見るのは今日が初めてだった。
母さんと呼ぶくましろと、名前を呼ばない神代さん。
据わった目だったが目を見て話そうとするくましろと、一切目を合わせない神代さん。
最後は煽ったがそれまでは建設的に話そうと努めていたくましろと、突き放すような神代さん。
落ち込まないで、とくましろに慰められる。一番落ち込みたいのはお前だろうに、どこまで周りに気を遣うんだか。
「くましろ、悪かった」
「え?なにがです…?」
「……お前らのこと、お前のこと。知った気になって語ってしまったと思ってな。思った以上に複雑なんだな、俺の一言で追い詰めたりもしただろ。…すまなかった」
そう伝え、くましろの両手を握る。最初は冷たかったがようやくあったかくなった。
「…気にしないでください、ほんとに!大丈夫です、妥協の諦めとかじゃないですよ。
気付いた上の…なんだろ、…うーん…手放し?に近いです」
ぐ、と両手を引き寄せられる。
「手放しっつーと?」
「諦めだと、もう無理なんだなこの人とは。オレがいくら歩み寄ろうとして、受け入れようとしたって…みたいな感情じゃないですか?
でも今オレの中にあるのはなんていうか……ま、いっか!て感じです」
それはずいぶんと、軽いな…
「ま、いっか…ていうより、もういっか!に近いかな…?
さっきも言いましたけど!オレはたくさんプリティラブな相澤さんをはじめ、皆から愛をもらってるので大丈夫です。
穴埋めできてます、ていうか埋めるどころか溢れてるから…」
そうか、と返す。
「…つか、プリティラブってなんだよ」
「相澤さんの称号」
ダッセーのな、と返すと怒られた。
(強がってない?)
(強がってない!)
(から元気じゃない?)
(もちろん。愛に気づいたオレは強いんです!)
(そう、そうか。悪かったな、…俺も強くなるよ)
(え待って、カッコよ…それ以上何をどうカッコよくなるっていうんですか…?)
(う、重…自力で立てよ)
(これ以上カッコよくなったら相澤さん他の人に気付かれちゃう…)
(気付かれないから立て、帰るぞ)