野良犬とクルーウェル
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警戒心
*ナマエ
母さんは娼婦と呼ばれる職で私を必死に育ててくれていたけど、病気でお星様になったあと身寄りもない私は売られた。
呪いの瞳というものを宿した私は高く高く価値をつけられ、毎日大人の汚い手で触られている。呪いの瞳も、血液も指や骨も妙薬や珍薬の材料になるから資産として生かされて転々と買う人が変わっていく。売られてからずっと目隠しをされている。生きていくには仕方ない。ツテもないから逃げ出せない。
母さんが星になったのは7つ。私の目に人を操る力があると買ってきた大人から告げられて知ったのは9つ。やり方なんか分からないまま逃げるために操ったあとは目の奥がえぐれるような痛みに苦しむけど、私を汚い手で触ってくる大人から離れられるなら躊躇わなかった。今日という日を待っていたんだ。
11になった私は操り自死させたご主人様……と呼ばされていた汚い男の胸元からマドルを引き抜き、高価そうなネックレスも引きちぎる。外を見るのも久々だから視界がぼやける。
久々にちゃんとしたご飯が食べられるかも…。鎖を外して、ネックレスは換金するまで首から下げておく。……あれ、さっきと石の色が違う…?眺めていると急に光りだし、衝撃が体に響く。どこかに落ちた…?
随分暖かい部屋だ。暖炉がある。ボロボロの布切れだからもちろん寒い。暖炉の前に座り込み温まっていると、靴の音が聞こえて振り返る。
「……ステイ、どこから入った?」
「……」
数多に売られてきた会場でも、連れ回された店先でも見たことない派手な色合いの服の人が立っている。
「……その右手のマドルは誰のものだ?」
「私に触らないで」
ズキズキと痛む左目を抑えながら右目で動きを止める。ペンを自ら首元に突き刺すように動かそうとするけど、ものすごい抵抗されるし両目じゃないからかうまく行かない。
「…ま、…て…!俺は…っぐ…」
魔法で弾き返されてしまう。両目が痛くなってきて抑える。
「目が痛いのか?声のする方へ来い、暖炉の火が移ってしまう」
言われたとおり少しだけ暖炉から離れて蹲る。こうやってじっとしていればすぐ治る……。目を取り出して確認したいくらいには痛い。だんだんと収まってきたので顔を上げると、カラフルな人がしゃがみこんでいた。
「……その目…」
「触んないでってば…!」
伸びてくる手を払う。目を取られそうになった経験が多くて、顔に伸びてくる手はいまだに怖い。
「悪かった…いきなり不躾だったな。俺はデイヴィス…デイヴィス・クルーウェル。仔犬は?」
こいぬ?…私はどう見ても人間だけど…疑問を込めて見つめると目が合う。大抵の大人は一度私に操られたら見られるのを嫌がる。私が痛い思いをしてまで人を操るのは痛い目に遭いたくないから……傷つけようと売り物にしようと触ってくるくせに、被害者ぶる大人が大嫌いだ。
「……ナマエ」
「ナマエか……ここはナイトレイブンカレッジという学校だ。どうやって来た?」
「知らない、このネックレスの色が変わったから眺めてたらそこに落ちた」
ネックレスを見たそうにしているので首から外す。
「私のご飯代盗んだら承知しないから」
「あとでたらふく食わせてやる……魔力はこもってないな…ナマエ、といったな…お前は魔法を使えるのか?」
「たぶん使えない」
「さきほどのは?」
「…呪いの瞳の力。あなたも気付いてるんでしょ?」
「噂に聞く程度だったが…今の時代も本当にいるのだな…目が合わないのはわざとか?」
「目を合わせないようにさせられてたから、よく見えない……警察に連絡したらまた力使うから」
じろり、と睨むと大きな声でデイヴィスが笑い出す。この俺を脅すとはな…って楽しそうに言ってた。
デイヴィスの魔法で服を見繕ってもらい、学園長にだけは話をしなくてはと連れて行かれる。
「い゛っ…」
夜で暗いからか通れると思った隙間が暗闇でドアや壁にぶつかりまくる。鼻や肩をぶつけて痛い。暗い廊下を歩き、暗い部屋に入るとナイトレイブンカレッジという魔法士養成学校の学園長と話をする。
「まあなんとまた……大昔魔女狩りに遭ってしまった稀有な種族がまだ生きているとは…視力については矯正メガネを着用すれば良くなるでしょう……さて、身よりもないとなると…」
「俺が保護します、最初に見つけたので」
「え……嫌だ」
「未成年に決定権はない、きちんとした教育を受けるべきだ」
なんて勝手な……でも魔法の使い方は教えてほしい。一度暴走したときがある。有無を言わさないデイヴィスに言われるがままここで保護される形になった。
「さて、仔犬。学園長と俺に隠し事はナシだ。……俺が服を見繕う前にお前の布切れに返り血のようなものがついていたのはなぜだ?」
「モノとしてしか扱ってこない低俗な大人を片付けただけ」
「……そいつは今どこに?」
「さあ…そういう裏のお店の物置でひっそり死んでるんじゃない」
ろくでもないやつのことなんてどうでもいい、そう答えるとそれもそうだなと返ってくる。意外にも罰する気はないらしい。デイヴィスの授業のお手伝いをする役目を授かる。
「…?これは…?」
食堂と呼ばれる大きな広間に行き、好きなものを食べるよう言われるが写真もぼやけてほとんど見えない。
「視力の回復が先だな…色や形はわかるのか?」
「なんとなく」
デイヴィスに適当に選んでもらい、ゴーストたちが作ったご飯を食べる。ちゃんとした固形物なんて久々だ。目や血さえ手に入ればいいから私の健康状態なんてどうでもいい大人が多く、ろくに食べてこられなかった。暖かくていろんな味のする美味しいご飯を食べて、部屋に戻る。
暖炉の前に横になるとデイヴィスがやってくる。
「床で寝るよう教えられていたのか?…せめてソファで寝ろ」
「だってここ暖かいんだもの」
「部屋全体が暖かいだろう、ブランケットもある」
このまま寝たらずっと言われそうな勢いなので立ち上がり、また足をぶつけながらソファに横になる。……信じられないほどふっかふかだ。ブランケットも温かいのですぐに眠気がやってくる。
*デイヴィス・クルーウェル
信じられない、『呪いの瞳』をもつ人間だと…?
呪いの瞳をもつ人間は種族や国にかかわらず突然変異のように生まれる。瞳と称されるだけあって、色味が混じり合うような複雑で美しい瞳をもつ。個々人の魔力に関係なく目を合わせるだけで操り、あまつさえ姿を変えさせたり、時間を操るなどの強力な力を持つ。
その瞳を持つものの生き血は不老になり、体の骨を煎じて飲めば万病にも効くと言われ、1000年前は呪いの瞳をもつ魔女狩りが国中で行われたという悲しい歴史がある。
ボロボロの布切れに少しの返り血をつけていたナマエの瞳は深い碧と空のような透き通った青色が混ざり合う綺麗な色をしていた。力を使うと目が痛いらしく、ここにやってくる前に使用した痛みが残っていたから俺は死なずにすんだ。
顔や体に触れられるのを極端に嫌がり、怖がる素振りを見せるナマエの様子を見るに今日出会うまでは碌でもない生活を送っていたのは確かだ。目の力を使えないよう目隠しをされて生きてきたナマエの視力は低く、ほぼ何も見えてないらしくそこかしこに体をぶつけている。そのせいか腕や足に痣も多い…。
ブランケットにくるまる様子は年相応の子供だが…文字の読み書きもできないとなると相当長いこときちんとした環境にいなかったと見える。俺の親族としてここでは過ごさせるつもりだが、男……いや大人を軽蔑している気があるナマエと暮らすのはきっと骨が折れるだろう。
「仔犬、起床時間だ…起きろ」
眠そうにむくりと起き上がるさまは幼い子どもだ。
「すまないが今あるここの家具やら魔法具はどかせない。お前の足のためにも洗面台まで手を引いていいか?」
「ん」
右手を出してくるので優しく掴み、介護のように道を覚えさせる。割られても困るものもあるためお互いのためだ。顔を洗いシャワーも軽く浴びさせる。見違えるように綺麗になった仔犬をブラッシングし、服をあてる。寒がっているので気持ち厚めの服を見繕いし朝食を用意する。
「これなに?」
「スコーンだ。紅茶とよく合う」
「スコーン…ふうん…石みたい」
「ジャムをつけて食べると美味いんだ」
スコーンも知らないか……残飯ばかりで過ごしてきたと昨日こぼしていたのを思い出す。
空いた時間はひたすら仔犬の勉強にあてる。学園長が早急に用意してくださった矯正用メガネのおかげでものが見えるようになったナマエは仔犬らしく部屋を駆け回っている。メガネには魔法をかけ、着用している際は瞳の色を誤魔化すようになっている。これで呪いの瞳を持つとは一見分からなくなる。
「デイヴィス、こんな顔してたんだ」
「褒めていると受け取ろう」
物覚えがいいナマエは数時間である程度の文字の読み書きを習得した。一人にするのはまだ不安なので錬金術の授業に同行させ、軽い手伝いをさせる。
「仔犬、4つずつ配ってこい」
「クル先の子?…隠し子!?」
騒ぎ出す駄犬を躾け直しながら様子を見守るときちんと指示通りできている。なかなか賢い仔犬のようだ。
「デイヴィス、ここ寒い」
「上着を着ていろ」
痩せているナマエにはどこもかしこも寒く感じるのだろう。徐々にでも適正体重までもっていければいいが…。
「やだ……その子の目、いいわねえ」
「綺麗な色よ、久しぶりに見たわ」
絵画やゴーストには一発で分かるようで、廊下を歩くたびにナマエは声をかけられている。
「あまり耳を貸しすぎるなよ、誘惑するのが上手いんだ」
(呪いの瞳についての本はないの?)
(あるにはあるが…結構分厚いぞ)
(それくらい読める…あと世界図もほしい)
(故郷のことでも調べるのか?)
(いえ、母さんのこと)
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