クルーウェルに守られる・男主
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職場体験
*デイヴィス・クルーウェル
約束していた土曜日が潰れそうだとパピーから連絡がくる。理由を問うと、以前話に出てきた保護した個体のケンタウロスからの助けを願う知らせが届いたとのこと。…随分信頼関係を築いたんだな…。森の賢者、ケンタウロスは中立的立場であったがここ最近は人間による森の開拓で住処を奪われしばしば対立的である。敵に回したくない我々人間側の大きな課題となる存在だ。
案の定人間をよく思っていないため、魔法省の人間は連れてくるなと譲れない条件が提示されていたらしい。そのケンタウロスから何もされなくても、人間を嫌っている過激な者たちに囲まれたらパピーはひとたまりもないだろう。だから俺もついていくと返信した。一人で行かせてたまるか。
動きやすい服装と靴、化粧品や香水はやめたほうがいいと判断して用意する。まるでキャンプやハイキングにでも行くような格好だ。バルガス先生に見られたらアウトドアに目覚めたのか!と勘違いされそうでもある。
「デイヴィスさん、ほんとにいいんですか?」
「ああ。お前がまた怪我するほうが嫌だからな…念の為は必要だろう、そうなってほしくないが」
「まぁ…確かに。では…デイヴィスさん、1つ約束を。」
「なんだ?」
「僕が使用してもいいと言うまで、何があっても魔法は禁止です」
「……分かった」
いざという時でも魔法を使用し相手を怪我させたりでもしたら戦争になる、そういうことだろう。いざという時が来なければいいんだが…。指定された森に行くと鬱蒼としており、暗い雰囲気が漂っている。
「毒蜘蛛なんかも出るので気をつけてください…土を掘り起こす音が聞こえたら蜘蛛です」
「遭遇しないことを祈ろう」
コンパスを使ってどんどん中へ入っていく。
「あ…デイヴィスさん、屈んで」
「……信じられない、あれはユニコーンか…?」
本当にいるとは。銀色に輝く毛並みがなんて美しい。ここらへんはユニコーンの角や毛を狙う密猟者も多いらしく、ナマエの巡回ルートなのだという。
「ポプリに手伝ってもらって、邪なこのエリアに入るとその人はユニコーンが見えなくなるようになってます。彼らはとても警戒心が強いから、その間に逃げてもらうんです」
ピー、とナマエが指笛を吹くと銀色のユニコーンがこちらへ駆け寄ってくる。
「うん、蹄も大丈夫だし脚も大丈夫そう……いて、僕の髪の毛食べないでってば…」
「随分人馴れしてるんだな」
「魔法省で保護してた子なので、人の存在には慣れてるみたいです。…ほら、デイヴィスさんだよ」
挨拶して、とユニコーンに語りかけると恭しく頭を下げてくるのでこちらも深く下げ返す。人語を理解できるとはなんと賢い…。希少なもの故研究論文も少ないユニコーンが目の前にいるとは…すごい体験だな。
「僕らこれからケンタウロスのイッシュに会うんだ、見かけたかい?」
顔色が曇りつつあるナマエの様子からあまりいい状況ではないのだろう。ユニコーンから教わったとおりに道を進むこと10分、罠にかかっているケンタウロスを発見する。
「イッシュ……密猟者の罠だ…先生」
「ああ。いるな…6人程度か」
わざと先生呼びして俺の名前を明かさないでいる賢いパピーと背中合わせに立つ。隠れているつもりだろうが酒やらなんやらの匂いがだだ漏れだ。
数は多いものの一人一人の魔力も弱く大したことない。これならうちの仔犬共のほうが幾分かマシな魔法を使えるだろう。手早く拘束魔法を使用して縛り上げるナマエ。手慣れたものだ…他の魔法生物も密猟していたらしく、檻の中にぎゅうぎゅうに入れられている。
「酷い、こんなに……イッシュ、触るよ」
「……後ろの人間は…?」
「僕の先輩でデイヴィスさんって言うんだ、同じ学校出身で信頼できる人だよ…一応傷薬とか作ってきたんだけど…塗っても平気?」
トラバサミのようなもので足が挟まれてる上には魔法を何発も食らったのだろう。上半身は火傷のように皮膚が爛れ、足は出血が酷い。罠を解除し水で傷口を洗い流し丁寧に薬を塗布していく。俺は足、ナマエは上半身だ。
「君たちは免疫が強いからすぐ傷口塞がってくるだろうけど…とりあえず安静にね。他は怪我してない?」
「あぁ…そちらの白黒にも礼を言おう。ナマエも、約束を守ってくれてありがとう」
白黒……まあ敵意はないからいいか。
「仲間などは居ないのか?」
「居るでしょうけど……イッシュはこう見えて優しいので、密猟者と言えど、人間とケンタウロスとの対立構造に持って行きたくなかったんだろ?君の考えそうな事だ」
「…知ったような口をきくな」
少し言いにくそうに返答をする彼の様子を見るとナマエの言うとおりなんだろう。森の賢者と呼ばれるケンタウロスが人間と対立関係に大々的になれば、この森に住む生物も皆敵対せざるを得ないだろう。思慮深い生き物なんだな…。
「お前をリーダーに会わせたい、ついて来てくれるか?」
「うん」
イッシュの歩行速度に併せてゆっくり進むと10人前後のケンタウロスたちに囲まれる。
「止まれ、人間!」
「何しに来た」
「イッシュが捕まえたのか?」
「違う、この人間は2度も私を助けてくれた…だから武器を降ろせ」
ピリピリした空気の中、若いケンタウロスの中からひときわ大きくどっしりしたリーダー格の者が現れる。すごい威圧感だ。俺とナマエを一瞥したあと、イッシュに目を向ける。
「この者たちは?」
「以前話した魔法省の人間……ナマエだ。白黒は魔法省の人間ではない。他にもユニコーンやピクシーの保護をしている」
「……右手を出せ」
「?はい」
「杖から手を離せ」
何をする気だ?と見やるがナマエは言われたとおりに杖から手を話し、地面に落ちる。その瞬間、アルバートと呼ばれたリーダーがナマエの首にナイフを突きつける。
「デイヴィスさん、大丈夫です」
「……信じるぞ」
お前も杖から手を離せ、と視線が物語っているので手を離す。こんなにピリついた空気の中でどうしてそんな平気そうに居られるんだ…?胃に穴が開きそうなくらい心臓が早く動いている感覚がする。しばらくアルバートは睨み、ナマエは見つめる時間が続き首元からようやくナイフが離れていく。
「無闇に森に入るな」
「ごめんなさい、それは無理です。僕はここの森で密猟されるのを黙って見てるわけには行きません」
「お前の力など必要ない」
「協力してほしいとお願いしてるわけではありませんよ。アルバートさん、そして皆さん……貴方達は森の賢者だ、どうか敵を見誤らないで」
強い言葉だ。ナマエは受け入れつつも自分の譲れない部分を提示し、人間をひと括りに一緒にするなと言う意味で言った言葉に何人かが目を見開いている。
「僕が約束します、貴方達の森を荒らさないこと…密猟者は魔法省が責任を持って捕らえること、生き物は保護したあと必ず還すこと、中立的立場を揺るがさないこと。なので、僕が森に入ることを許可していただけませんか」
「……イッシュ、こいつは信用できるのか?」
「アルバート、こんな若造を信じるのか?!」
「人間だぞ、私達の仲間を殺し売り物として扱ってきたんだ!」
野次や反対の声が続々と上がる。イッシュはこの群れの中で幹部的な立ち位置なのだろう、リーダーが意見を伺うのもうなずける。
「信用できる」
「……分かった。イッシュが世話になった、私から皆に話しておこう。密猟者はお前らで処理をしろ」
「ありがとうございます、アルバートさん」
パピーと一緒に頭を下げる。自分たちを襲い、ましてや売り物として侮辱してきた種族を信じるのは容易ではないだろう。敵を見誤るな、と放ったナマエの言葉が響いたんだろうか。ぞろぞろとケンタウロスたちが去る中杖を拾いあげるとイッシュと目が合う。
「白黒、お前も信じてくれて感謝する。ありがとう…ナマエ、怖かったんじゃないか?」
「…こっわかったよ……!!!あ〜緊張した…!腰抜けた…」
へなへなと座り込むナマエの顔つきは先程とはまるで別人だ。
「アルバートは少し威圧的でな…意外と気さくなやつだから安心しろ」
気さくな奴がナイフを首元に突きつけるだろうか?数ヶ月したらアルバートとも仲良くなっていそうなナマエの姿が簡単に想像できてしまう。ナマエの頭を撫でるとへにゃりとした笑みが返ってくる。見ているだけのこちらも心臓が張り裂けそうだった…。
「デイヴィスさん、約束守ってくださってありがとうございました…なんとかなりましたね。
さ、魔法省に連絡して密猟者を回収してもらわないと。そんで檻にぎゅうぎゅうに詰められてた子たちを離して、怪我ないか確認して……」
一息つく暇もないな……イッシュに魔法省の人間がくることをあらかじめ伝えてから別れ、そこからはてきぱきとナマエが密猟者を受け渡し、魔法生物の保護が必要か否かを確認していく。
「お、もしかして最近の入れ知恵はこの色男か?」
背後から声をかけられる。振り返ると同じくらいの背格好の痩せ気味の男が少し胡散臭い笑みを浮かべながらこちらを見ている。
「ジャスパーさんてば…失礼なこと言わないでください。デイヴィスさん、僕を法執行部に引き抜いた上司のジャスパーさんです。こちらはナイトレイブンカレッジの先輩にあたるデイヴィスさん。現役で先生をなさってるんですよ」
差し出された手を握り握手。こいつがナマエの上司か…なぜこう少し胡散臭いんだ…?
「はは、お噂はかねがね」
「噂…?」
「最近のお前の可愛らしい言動はこの人からだろ?なんかひと目見て分かったよ」
「…まるで最近より前は可愛くないみたいな言い草ですね?」
「ほ〜らそういうとこ。そういうの言わない奴だったじゃん…このお兄さんに教わったんじゃないの?」
…予想だが……真面目でひたむきなナマエは最近ようやく素を出せるようになっただけではないか?と思うが…。慣れない環境と意地の悪い人間に囲まれた仕事についていくのに必死でこの茶目っ気のある性格をひた隠しにしなければならなかったんだろう。
「パピーを随分と可愛がってくれてるようだな?」
「パピー…?」
(そんな嫉妬むき出しにしなくても取って食おうなんて思ってませんよ?あと俺結婚してるし)
(嫉妬なんてしていない)
(へぇ、冗談が下手なんですね。その表情でヤキモチ妬いてないってのは無理がおありでは?)
(………はぁ…)
(ナイトレイブンカレッジに戻ってからですよ、あいつの人間ぽさが戻ってきたの…あんたのおかげでしょう?)
(………そうとも言えない、大人気ない態度を取って泣かせた)
(へえ、興味あるな…泣くとこなんて見たことないし)
(やめてくれ、俺には忘れたい記憶だ)
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