チョコと執事・ちび主
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バレンタインが近づいて
音は思案していた。もうすぐ2月14日…‥毎日自分のためにあくせく働く執事たちにバレンタインのチョコをプレゼントしたいと。しかし、音はまだ7つ。元の家ではコンビニやスーパーの惣菜ばかりで料理など手伝えたこともなかった。そのため、刃物を握る手をロノが初めて見たときは冷や汗が止まらなかったと言う。
『主様、お手伝いしてくださるのはすげぇ嬉しいんですけど……絶対に!一人で刃物を触らない、火を扱わない!約束できますか?』
ロノとキッチンを使う際の約束事を思い出す。秘密にしてチョコをあげたいのに、買い出しだってひとりでは難しい。音はしょんぼりしながらロノの元へ足を進めた。
「ロノぉ…」
「主様?どうしました?」
「………」
「元気ないように見えるけど……何かありましたか?」
音はバレンタインのことを打ち明ける。ホントは内緒にして、みんなにサプライズでチョコを作りたかったが音は働いてるわけでもない。チョコを買うお金さえ、ナックにお小遣いとして貰わなくてはいけないし、お金の用途ももちろん尋ねられるだろう。この時代ももちろんカカオは高級嗜好品であるため、13人分となるとそこそこお金もかかる。
「主様……俺はもう、その気持ちだけでむちゃくちゃ嬉しいですよ。……手伝うから、一緒に作りませんか?」
「うん……」
「サプライズでもそうじゃなくても、この屋敷には喜ぶ執事しか居ないでしょ」
「ロノも?」
「もっっちろん!じゃあレシピ本見ましょうか……どういうの作りたいですか?」
ぱらぱらとページを捲る音は本には作りたいチョコがないと気付く。記憶の中に見たチョコをロノに告げていくりハートの形で、カラフルなチョコがふりかけのようにかけられている。そうロノに説明しても分からないということなので、見に行こう!とコートを羽織ってエスポワールの街へ。音にはあのカラフルなチョコが「カラーシュガー」、銀色の粒が「アラザン」という名前なのは分からなかった。
「いーにおい!」
「お、なんだ?バレンタインの準備か?」
店主に話しかけられて、音は頷く。このおじさんなら知ってるだろうか。
「おじさん、きらきらのハート、ちっちゃいの知らない?」
「きらきらのハート…?」
「チョコにかけるんだよ」
「チョコにかける…」
「ピンクとか黄色とかカラフルなの」
カラフル、でピンと来たのか店主は店の奥へ。ロノが音の隣りに立って待ってると小袋を片手にやって来た。
「これのことか?」
「あ!これ!!これ!ハートのきらきら!」
「あ〜カラーシュガーのこと言ってたんすね……星型とかもありますよ、主様」
「ラムリお星さま好きだから、買う!」
「この猫とかバスティンにいいんじゃないですか?」
「かう!」
おお、何でも買うのでは?と店主は普段は全く売れないカラーシュガーなどデコレーション用品を持ち寄る。アラザンやハート、猫、星、ダイヤ、ドロップ型のものと良質な板チョコを複数、生クリームも買っていき帰宅。
音が作りたいチョコは説明的に本当に溶かして型に入れ、カラーシュガーをふりかけるのみ。それだけでも音にとっては初のチョコ作りだろうから楽しいのは間違いないが、もう少しお菓子作り感を味わってほしい。と生チョコも追加した。
湯煎し、生クリームを追加して型へ入れ、好きなようにデコレーションする。残った分はバットに入れて冷やす。バットから慎重に切り分け、無糖のココアパウダーをふるえば生チョコの出来上がり。ロノのアシストもあり2時間もせずに出来上がった。
「できた!ロノ、味見しよ」
「いいんですか?じゃあ半分にきって……」
2人で食べた生チョコは甘くとろける仕上がりだった。音は大喜び。初めてのスイーツ作りだからだ。
きれいにラッピングして、一足も二足も早いが配りに行くことに。ロノは各執事の反応を予想しながら片付けていた。
「ベーリーアンっ」
「おや、主様……ふふ、ご機嫌ですね。何かいいことでも?」
丁度紅茶を飲んで休憩しているベリアンを発見。駆け寄る音の後ろ手にチョコがあるなど微塵も予想していないベリアンはニッコリ笑って席を立とうとする。
「だめ!座って」
「え、でも……」
「すわるの」
今日はいつものお休みデーではないはず。ベリアンは首を傾げて座り直す。するとまたニコニコとした表情に戻った音がそっと机にチョコを置いた。
「これは…?チョコレートですか?」
「うん、ロノと作ったんだよ!」
なんとも嬉しそうにチョコを手に取るベリアンに音も笑顔になる。
「主様、こちら……今召し上がっても?」
「うん!ベリアンのピンクいれたんだよ」
ピンク?と指さされた先にあるのはピンクと白のハートでデコレーションされた一口チョコ。なんて可愛らしい、と下がる目尻を抑えず一口齧る。柔らかい、生チョコだ。ダークチョコで作られているため甘さは控えめ。
「すごく美味しいです、主様」
「ふふふ」
照れくさくなった音がベリアンの足に抱きついていると、笑い声を聞きつけたラムリがひょっこり顔を出してきた。
「あ、主様み〜っけ!ベリアンさん、こんにちは!」
「ふふ、こんにちは。あらら……主様どうされたんですか?」
「抱っこ」
ベリアンの膝に乗っかった音はラムリ用のチョコをゴソゴソと探して渡す。大きな紙袋を下げていたのはこのためか、とベリアンは目を細める。
「え、ボ、ボクに?いいんですか?!やったあ!嬉し〜!!」
本当に心の底から嬉しそうにはしゃぐラムリにベリアンは椅子を用意する。紅茶も淹れ、袋を開けるように促す。
「勿体無い……けど、主様が作ってくださったんですもんね」
「そうだよ、ラムリのはお星さまにしたんだよ」
「お星さま……?あ、ホントだ!星が乗っかってる!カワイ〜!主様すごいすごい!」
また照れて下を向いてしまった音の後頭部を優しく撫でたベリアンに顔が見えぬようコアラ抱っこの体勢になった音は頬張るラムリを見上げる。豪快に一口。しっかり味わったラムリはいつも以上に目尻を下げて優しい顔で音にお礼を言う。
「今まで食べたチョコの中で、いっちばん!美味しいです!」
褒められると嬉しいが、そわそわして照れてしまうもの。褒められ慣れてない音はフェネスのような反応をするのだ。いち早く気付いたラムリは普段から何気ないことで音を褒めそやしているが、嬉しそうにはにかんではもじもじしている様子を見るのが大好きだった。
「残りは?ボク食べちゃだめですか?」
「だめ、これはみんなの分なの」
「えー……でも皆喜びますね」
「バスチ、食べてくれるかな」
「もっちろん!!5秒で食べつくしちゃうんじゃないですか?」
「ふふふ、美味しいからすぐ食べちゃうでしょうね」
ラムリとベリアンに言われればそんな気がしてきた。音はぴょんっとベリアンの膝上から降りて紙袋をずり下げながらバスティンを探す旅へ。
「主様?…荷物が床に落ちてしまってますよ」
「あ、ハウレスだぁ」
「おや…?こちらは?」
「ロノとバレンタインのチョコ、つくったんだよ!」
そう言いながら手渡されたハウレスは感激のあまり固まる。主様が、まさか自分のために…?キラキラなカラーシュガーに飾られた生チョコを頬張り、目を細める。
「本当に美味しいです。ありがとうございます」
アモン、フェネス、ナック、ルカス、ミヤジ、フルーレ、ラトと渡していき行く先々で皆があまりにも嬉しそうに受け取り食べる様子を照れながら音は見ていた。
「……?」
ただひとり、ボスキを除いて。
「ボスキいない……」
しゅん、といたずらのし過ぎでミヤジに叱られている時人同じくらい元気がなくなった音にフルーレたちは大慌てで2階の執事にボスキの場所を聞き出しに向かうも、サボり常習犯でハウレスさえ見つけるのに苦労しているボスキを探し出すのには骨が折れた。
「主様、オレが渡しておくっすよ?」
「や!音があげたいの!」
「う〜ん……それにしても今日は本当に見つからないね」
「裏庭なども探したのですが……申し訳ありません、主様」
フェネス、ハウレスがそれぞれ思案し、アモンの足に抱きついた音は八つ当たりと言わんばかりにアモンの太ももを軽く突く。
「っふ、はは…擽ったいですよ、主サマ……ほら、機嫌直して?ボスキさんがウロウロしてるのはいつものことっすよ。そのうちふら〜って帰ってくるんですから」
「う〜………あ!いた!ボスキ!ボスキ!」
「あ、そんな走ったら転ぶっすよ!…ボスキさん、主様から大事な用があるんで逃げないでください!」
「あ?元から逃げてねえだろうが……よっと。そんな慌ててどうしたんだ、主様」
「チョコ!作ったんだよ、これボスキの分」
「チョコ…?バレンタインの?」
「うん、ロノとね〜買いにいってね〜まぜまぜして作ったんだよ」
たまらなく可愛い主にボスキは抱きしめる腕を強める。青や水色のハートやドロップ型を中心にまぶしてあるチョコは、自分用以外ありえないだろう。どちらかといえば焼き菓子のほうが好きなボスキも今ばかりはチョコレート大好き執事になる他ない。
(……美味い、ありがとな主様。お返し期待しといてくれ)
(え〜?いらないよぉ、音虫歯なるのやだもん)
(受け取ってくれないんすか?寂しいこと言うんすねえ、主様ったら……)
(甘いものばっかり食べるなってアモ前言った!)
(そりゃ言いましたけど……お返しくらいさせてください!)
(むう!!!む〜!!!!)
(アモン、あんまり雑に主様に触れんな…主様も意固地になるな。お返しくらいさせてくれ、普段いろいろ貰ってばっかりなんだからよ)
(……ボスキが言うなら…)
(よし、言質とりましたからね)
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