にちじょう・ちび主
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おでかけ
「音も行く」
全てはこの一言から始まった。調理担当のロノ、衣装担当のフルーレが街に赴き買い物をしようと話し込む輪にいつのまにか主人である小さな少女が話に加わる。
「おわっ!?!あ、主様…びっくりさせないでくださいよ……」
「音も行く!」
「主様……買い出しについてきてくれるんですか?」
フルーレが目を輝かせる。人見知りの彼は自身の代わりにロノに店員とのやり取りを代わってもらうほどだ。主の手を借りるのは忍びないが、人手は多いほうがいい。
「うん!音もかいものする!」
「えぇ…?主様、何か欲しいモノでもあるんですか?」
「本!フェネスに買うんだよ」
「フェネスさんに?……プレゼントってことですか?」
そうフルーレが尋ねると音は大きく頷く。確か、こちらの世界の文字は簡単なものしか読めないはずだ……ロノとフルーレは顔を見合わせる。
「ダンボで聞いたんだよ」
耳に手を当て聞くジェスチャーをした音に、ダンボとは聞き耳を立てることか?と推測を立てたロノが何を?と返すと、ナックとフェネスが読んでみたい本について話していたと。
「確かに……フェネスさんって一度読んだ本の内容全部覚えてるって言ってたよね。…なんていう本が欲しいって言ってたんですか?」
「んーとね……ハッピーエンドのファンタジーって言ってた!元気になる本が読みたいな〜って言ってた」
「ハッピーエンド…」
タイトルや装丁だけでそれは見抜けるものなのだろうか?音の買い物にはしっかり本を読み込んで選定のお手伝いをしなければ、と2人は意気込む。
「じゃあ、行きましょうか!そうだ…主様、明日の夜は何食べたいですか?リクエストききますよ」
「ん〜おにぎり!」
「え…それだけですか?ほら、ハンバーグとかは?」
馬車の中でロノが笑顔でリクエストを聞いている。自分の丹精込めて作ったものをニコニコと平らげてくれる主様には作り甲斐がある!と喜んで仕事をこなすようになったのをフルーレは知っている……恐らく、よくつまみ食いのために手伝うバスティンも気付いているだろう。
食材を買い足し、緊張するフルーレの代わりに店員と話しながら布地を買い、大きな本屋へ。音は元の世界でも本と絵を描くこと、ドリルで学習することしか娯楽を与えられておらず、本屋や図書館が大好きであったがここまで大きな本屋を見るのは初めてだ。仰け反るほど見上げる必要がある本棚の高さに感嘆の声をあげる。
「ファンタジー系こっちですって、主様」
「うわ…いっぱいある…」
「どうやって決めます?表紙が明るい感じとかで選んでいきましょうか?」
「ん〜……うしろの数行読んで決めようかなぁ……」
そう音が呟くとなるほど、と反応したフルーレが試しに手に取った本の一番うしろのページを開く。読了した者が爽やかに感じるような文章が続いていた。帯を確認してみると、あらすじも中々面白そうな設定だ。
「主様、これはどうですか?」
「ん〜〜だめ!」
「えっ?ページめくってもねえのに?」
「ちょっと薄すぎるもん……フェネスはすぐ読み終わっちゃう」
「あぁ…なるほど。そしたら何冊か買いましょうよ!ジャンル違うやつをいくつか渡したら、長く楽しめるかもだし」
そうロノが提案すれば音は頷いて後ろのページを捲り、読めなかったと眉を下げる。小さな声で音読するフルーレを背にロノも背表紙を見つめる……ものの、フェネスたちと比べると本は読まない。レシピ本や栄養学関連のものは読むが、小説なんかは全くと言っていいほど。タイトルで良さそうと判断するのは意外と難しい。ひとまず一番右から背表紙に指をかけ、表紙を確認してデザインで決めていく。
「ん〜…?フルーレ、エッセイってなに?」
「詩集に近いものですね……たとえば、ほら。これは自分を責めて落ち込みやすいあなたへ、ってやつで…」
「フェネスだ」
「ふふ……フェネスさんは真面目で少し心配性ですもんね。
第1章は『心配しすぎないように考え方を変える』……挿絵が可愛いですね」
「うん、かわいいね」
これは音でも読めるような優しい文章だ。強制するものでもないが、自分を縛りがちな人へ思考を柔らかく、開放するような著者の文調が気に入った音はエッセイも渡す!と探し始めた。
1時間ほど本屋に入り浸り、ファンタジー、エッセイの棚一面分をしっかりチェックした三人はフェネスへ1人1冊ずつ贈ることにした。ブックカバーをつけてもらい、敢えてどれがどれか分からないように包み紙に入れてもらいデビルズパレスへ帰った。
「ハウレス、フェネスどこ?」
「主様、お帰りなさいませ。……フェネスは…さっき休憩所にいましたよ」
「そっかぁ…ありがと!」
「ふふ、お土産ですか?」
「うん、ロノとフルーレとプレゼント買ってきたんだよ」
思いがけない二人からのプレゼントも入っていることにハウレスは目を見開く。これはフェネスは喜びそうだ、と主についていくことに。
「あ、いた!フェネス〜」
「主様!お帰りなさいませ…うわっ!?」
座っていたフェネスに飛び込むようにジャンプした音を慌てて受け止め、安堵の息を吐くフェネスに紙袋を差し出す音。本屋の名前が入った紙袋に気付いたフェネスが目を輝かせる。
「本屋に行かれたのですか?」
「うん!ロノとフルーレと音でフェネスに選んだんだよ」
「え……俺に?3冊も…!主様、ありがとうございます。すっごく嬉しいです」
「ひひ…あ、外しちゃだめだよ。どれから読むか選んで?」
「くじ引きみたいですね」
ハウレスの言葉に笑顔で頷く音にほぼ同じ大きさ、厚さの本をテーブルに並べ真剣に悩むフェネスは真ん中のを選んだ。じゃあブックカバーを外そう、と外してみると音が選んだ優しい文章と優しい挿絵があるエッセイ本だった。
「音が選んだやつだ!」
「これは……エッセイ本ですか?」
「うん!」
タイトルでははっきり書かれていないが、明らかにネガティブで落ち込みがちな自分へ向けてのエッセイだと数ページ捲って気付いたフェネスは少し申し訳なさそうに、しかし心から嬉しそうに笑いかけた。
「良かったな、フェネス」
「うん……大事に大事に読みますね、主様」
「ふふふ〜」
「そういえば…主様の分の本は買われなかったんですか?」
「……あ!忘れてた」
数日前に特に文字の読み書きや子供向けの歴史が学べる本などが欲しいとハウレスと話していたのを、今の今まですっかり忘れていた音はしょんぼりと肩を下げる。街を歩いているときに聞こえてきたグロバナー家の一族のくせにマナーもなっていない、と揶揄された言葉を思い出してしまった。音がアニメでしか見たことないようなドレスを着て、絵本でしか読んだことのない舞踏会が実在するこの世界ではもちろん『貴族のマナー』が存在する。
音もそれには気付いているが、元々平民として何気ない一般家庭で育った故にもちろん貴族のマナーなんてものは知らない。ベリアンたちに聞くのも手だが、自分で勉強したかったのだ。
「………音ってはしたない?」
「え?」
「街で言われたし……前もここに来たおじさんに怒られたし」
俯く音にフェネスが優しく声をかける。
「主様、お顔をあげてください……俺は一度も主様をはしたないなんて思ったことありませんよ?主様はテーブルマナーも綺麗ですし、会合でグロバナー家へ向かう時もきちんと振る舞われています。普段くらい好きに振る舞ったって、誰も責めませんし……主様が主様らしく過ごしているのが「はしたない」のなら、はしたないままで居てほしいです……俺は」
「俺も、フェネスと同意見です。主様はいつも素敵ですよ」
「………えへへ」
二人に褒められて少し気恥ずかしくなった音は今度は恥ずかしさから俯いてしまう。サラサラした髪が下り、赤い耳が丸見えで更に執事の笑みが深くなる。フェネスはいつも主がムーにしているようにぎゅうっと力いっぱい抱きしめたくなる衝動を抑えながら頭を撫でる。淑女らしい振る舞いはもう少し歳を重ねてから覚えても遅くはない。それくらいに会合や話し合いの場では主人らしく振る舞う音にはしたなさなど微塵も感じていない。
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「おい、フェネス………いくら主様たちからのプレゼントだからって夜ふかししてまで読むな」
「えへへ……嬉しくてつい」
「全く……視力落ちても知らないぞ」
「それは大変だ…また明日の休憩時間に読もうかな」
「にしても、エッセイか……読んだことないんだが、自己啓発本とは違うんだよな?」
許可を得て小さな主が悩みに悩んだというエッセイ本を手に取るハウレス。ブックカバーを優しく外し、装丁をじっと眺める。淡い黄色とグリーンのパステルカラーでまとめられたデザインはなんだか女性にウケそうな色合いだ。
「自己啓発よりも緩い感じかな……でも、ネガティブに考えがちな俺を見抜いたかのような文章ばっかりだよ。主様には参っちゃうな」
「はは……これで少しは自信がなさすぎるところが治るといいけどな」
「ゔ……正論で突かないでよ」
優しい笑顔でフェネスを見つめるハウレスは心底安心したような表情だ。いつも抱え込み、自分を責めすぎる節があるフェネスの強い自責思考を他でもない主様がやんわりと止めるような贈り物が渡されたことで、好転するかもしれない。無責任に他責思考になるわけがないフェネスにはこのくらいが丁度いいのだ。
一方その頃雪が降り始め、積もりつつある裏庭にいるボスキのあとをこっそりついていく音は元いたところでは滅多に見ない雪に感動していた。サク、サク、とボスキが雪を踏みしめる音だけが響く。そのボスキの足跡と大きい歩幅から外れないよう下を見ながらついていくうち、足跡がなくなった。
「???」
顔を上げて左右を見渡してもボスキの姿はない。どこへ行ってしまったんだろう?と首を傾げていると、笑い声が聞こえてくる。
「上だ、上……くく、バレバレだぜ?主様」
「わ!」
木の枝に腰掛けていたボスキがふわりと地面に降りてくる。上とは盲点だった、と目を丸くする音に楽しそうに笑いかけるボスキ。音は最初こそすこしぶっきらぼうなボスキを怖がっていたが、追いかけっこやかくれんぼに付き合ってくれるボスキはいまやお兄ちゃん的存在だ。
「あ、ゆき〜!」
「だめだ、そんな薄着で体冷えちまうだろう…それにここでは雪は珍しくない。雪遊びは晴れた日中にな」
ひょい、と音を抱きかかえて屋敷に戻るボスキたちを出迎えたのは眉を下げたルカスだった。
「ボスキくん……それに主様!もう……探しましたよ」
「うぅ〜」
ルカスから逃れるようにボスキに抱きつく音にすこし驚いた彼はルカスを見やる。「どういうことだ?」と言わんばかりの目つきにルカスはため息をつきながら説明しだす。
「さっきベリアンから聞いてね。紅茶を自分でも淹れてみたいと注いだのは良かったんだけど、足にお茶がかかって火傷になってないかと診たいんだけど……」
「なってないもん」
「そりゃいけねえぜ主様、医者の診断が一番正しいんだ」
左足を指差すルカスに隠せぬように体勢を固定したボスキの協力もあり、膝らへんまで捲りあげる。真っ赤になっているものの、重症な火傷ではない。すぐに冷やさなくてはとルカスが食堂へ氷を調達しに走る。
「音冷たいのやだ」
「火傷したところは冷やさねえと……ジンジンして痛いだろ?」
(ちべたい)
(ごめんね、主様……少しの間耐えてね)
(や!だ!)
(おいこら、暴れるな……じゃあ俺がいいことを教えてやろう)
(なぁに?)
(ルカスさんはたまに昼飯を抜いてる)
(えっ!?ちょ、ちょっとボスキくん?)
(あー悪いんだー!3回ご飯食べなさいって音に言ったのにー!)
(ゔ……で、でも主様は今ちゃんと栄養を取らないといけない時期だから…)
(抜いてるかと思えばパウンドケーキを飯代わりにもしてるぜ)
(音にはだめって言った!)
(うぅ……ボスキくん!)
(くく……主様、叱ってやったならルカスさんの言うこと聞いてやってくれ。痛み分けってやつだ……な?あと5分冷やして様子見ようぜ……ご褒美くれるってよ)
(もう……ボスキくんってば……あの、主様……ロノくんには内緒にしてほしいな…?)
(ふふん、クッキーで手をうちます)
(食べ過ぎはだめだからね?……叶わないなぁ)
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