嫉妬ほど醜いものは・トリップ・男主
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醜い嫉妬 雑渡の場合
*ミョウジナマエ
さて、どうしたものか。
横座りしたオレの足に頭を乗せて、昆奈門さんはオレの方に体の向きを向けて腰ごと抱きしめられている。5分位前からそう。
今日は尊奈門くんに借りた、忍術における教科書的なものを読んでそれを要約する。こちらの世界の文字を読み、理解し、文字に書き起こす手習いをしていた。
そうしていたらいつもは「入るよ」って声をかけてから障子を開ける昆奈門さんが無言で開けてきて、大股で近寄ってきたと思ったらオレから筆を取り上げ、この体勢に。
「えと……体調悪いんですか?頭が痛いとか」
「べつに」
つっけんどんな声色に少し体を固くする。昆奈門さんはオレより7歳上だ。だからなのか、元からなのか分からないけど……滅多に怒らない。例えばオレの部屋に昆奈門さんが来たとき。今は笑い話だけど初めての給湯器からのお風呂が湧きましたアナウンスのときに給湯器を潰しかけた。彼に、と思って買ってきた歯ブラシは掃除用具と思ったらしくオレが使ってたものも含めてサッシを磨くのに使われたり……。
オレが常識だと思うものが昆奈門さんの中に一部ないように、逆もあり得る。それを女中の皆含めて「優しく教えてあげてね」と間違ったことをしても絶対怒らない人だ。歳上の余裕なのか、昆奈門さんの器が広いのか。凄いなぁと何度見直したか数え切れない。
「昆奈門さん、」
「少し黙って」
ぴしゃりと言われると黙るしかなくなる。………何かあったか、オレが何か取り返しのつかないことしちゃったか。誰かに何かされたなら、八つ当たりみたいなこと尊奈門さんはしない。……‥オレが何かしたんだ。
今朝起きてからの今までを振り返ってみる。
朝起きて、顔を洗って着替えて……朝ごはんを作るために台所へ。蒼さんたちと今度冷汁作りたいねえって話ながら朝に鮭焼いて、食べて……片付けて食器を洗って恒例の雑巾がけレースに。ビリ4回、3位1回で終わって部屋に…それで手習い。
まずい、何かしたんだろうに何をしでかしたか心当たりがない…!
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足が痺れた………もう感覚がない。相変わらず昆奈門さんは足の上に頭を載せたまま寝るわけでもなく、何をするわけでもない。
「あの、昆奈門さん…」
「何」
「……言ってくれなきゃ分かんないです…」
少し声が震えた。威圧をばちばちに出すのに口も聞いてくれない昆奈門さんと二人きりでずーっと居た。緊張してるんだといまさら気付いた。
「………はあ。あのさ、ナマエくん」
「は、はい」
「……誰にでも愛想ふりまきすぎ」
「……愛想?」
「……君は私のだろう。朝から浮気まがいのことしておいて、よく平気でいられるよね」
「浮気?!…え、話が全然見えてこないです」
「……私のことは見てくれてないんだね」
「え…」
「……陣内に呼ばれてるから」
そのまま部屋を後にした昆奈門さん。足が痺れてるしもはや感覚のない状態で追いかけることもできなかった。浮気まがい、昆奈門さんのこと見てない……どういうこと?全く意味が分からない。
昆奈門さんが部屋から居なくなったからか、やっと息ができる。息苦しくて怖かったんだと自覚する。昆奈門さんは大きいし、低身長で短命の昔の時代の人の割に体格も良い。何もかも現代サイズ。そんな人から無言の圧をかけられ続けて平気なほど、まだ……父親の恐怖は克服出来てない。顔も覚えてないのにおかしなものだとは思う。
でも。……ていうか。
もう少し言葉にしてくれてもいいじゃん。
オレとの約束を守ってくれてるのか、怒鳴られたわけじゃない。だけど、里を歩いてても例えば農夫や大工の男の人たちは体格が良くて怖かったりもする。
怒鳴らなければ怖くないわけじゃない。……母親にもオレにも暴力を振るってきた父親と昆奈門さんを重ね合わせたくない。一緒なのかもしれないと考えたくもない。手習いの作業に戻り、字を書き起こすも震えて書けやしなかった。
食欲がないから早めに寝る、と告げて夕ごはんを食べずに布団に丸まる。ぐるぐる考え込んでしまうけど、人に会ってそれを隠せるほど器用に振る舞えない。心配する人も巻き込む人も増やしたくない……目を瞑ってるのにじわりと目が熱くなって目元を擦る。頭がぼうっとするくらい泣き続けていつの間にか眠っていた。ほっぺに手がある……ちょっと暑くて汗かいてる。
「………」
「ナマエくん」
「………昆奈門さん…?」
昼間の威圧感はない。手にすり寄るようにしていると頭を撫でられる。
「………私のこと、避けないで。お願い」
「避けてなんか……」
「嘘つき。じゃあなんで夕餉に来なかったの」
「……昆奈門さんが、怒るから…」
「……ねえ」
すり、と伸びてきた手が怖くて後ろに下がってしまった。それを見逃さない昆奈門さんは布団に入ってくる。ち、ちかい……。胸しか見えない。
「怖がらないで」
「……何も言ってくれないのに、分かんないですよ」
「うん……ごめんね、ナマエくん。泣かせたかったんじゃない」
昆奈門さんにしては優しく、オレが振りほどこうと思えば拒絶できる力で壊れ物みたく抱きしめられる。もう怖くはない…昼間はちょっと怖かったけど。
「泣いてないです」
「涙の跡があるのに?」
「…汗です」
「ふふ、汗かそうか……君、朝またあの女中のこと褒めていたでしょ」
「朝…?」
思い返す。褒めたっけな…?冷汁のくだりしか覚えてない。誤魔化した返事をしたくなくて、分からないですと昆奈門さんを見上げるとちょっと呆れたような表情でこちらを見下ろしてきていた。
「なんだっけ…?蒼さんは縫い物も染め物もできるんですねとかなんとかさ。………私だって簡単な縫い物と染め物くらい出来るのに」
ものすごい小さな声だった。聞き間違いか、幻聴?と思うくらいぼそぼそと聞こえた言葉に目を丸くする。
私だって出来るのに……って言った?
「え、?」
「尊奈門にも凄い凄いとか褒めそやしてさ。冬に上げた手袋誰が編んだと思ってるの」
「え?ちょ、昆奈門さん?」
理解したくてストップをかけたのに、昆奈門さんはもう止まらない。
「女中の芳花が野菜の見分け方について教えたときだってそうだ、あんな簡単なの私だって知ってるし教えられたのにナマエくんは聞きにすら来ないし」
「下男に手裏剣貸してもらおうとしてるのだって知ってるからね。私のほうが投げるの上手いし」
「大体ナマエくんが手裏剣触るなら怪我するかもしれないから私が見るべきなのにナマエくんは私に強請ることすらしてくれないんだ」
「小袖のお下がりだってそうだ、あのよく分かんない下男から貰おうとしてたよね」
す、すごい出てくる。こんなに早口の昆奈門さん見たことない。
「ちょ、ちょ!!昆奈門さん、緩めて!あの!聞くから!」
頭巾の布あての上から手を被せて、ようやくエミネムみたいなスピードで話す昆奈門さんが黙る。
「………全て筒抜けなのはもう置いておきますが」
「当たり前でしょ、ナマエくんは…私のなんだから。手放したくないんだよ」
それと口上でのやり取りまで聞き耳立ててるのは違う気もするけど、一旦おいておこう。そこはまた別の話だ。
「……他の人が褒められて、ムカついたってことですか?」
「………うん」
ちっっっっっさ。でも聞き逃さなかった。つまり………嫉妬?
「………なんだ、てっきりオレ……何か嫌われるようなことしちゃったのかと…」
「……嫌いになんかならないよ、でも……腹立たしい」
「……昆奈門さん、オレたちの関係を抜きにして…昆奈門さんの住む場所にお邪魔してるんですよ、オレ。
貴方と恋仲だから何もかも許される立場じゃないでしょう、例えば黄昏甚兵衛様の部屋で大の字に寝てたらどうするんです」
「見つかる前に持って帰るよ」
「そうじゃなくて!……流石に不敬でしょう?……この屋敷の外の人たちまでも雑渡昆奈門という人を慕っていて、頼りにしてる。毎日訓練や任務についてる貴方に編み物教えてくださいなんて言えません……手裏剣も同じです。山本さんとか高坂さんとかも忙しいだろうなって」
「………」
「それに……編み物とかで時間を取られるくらいなら、隣で眠ってほしいです、オレは」
「!………ふふ」
あ、なんか機嫌良くなった。けど、この話は最後までしないと。頼りにならないとか、そういうことじゃない。ただでさえ忙しい身の昆奈門さんの手を止めてまで教わる内容でなかったりする話だ。
「昆奈門さんがどれだけ凄くてかっこいいかなんて、言葉にできないくらい痛感してますよ……だから同じことができる女中たちにヤキモチ妬かないでください」
「……でも私だってナマエくんに褒められたいんだよ」
「それならそうと言ってください、昼間正直怖かったです」
「それは……ごめん」
素直に話してくれたから、感謝の意を込めて話すか……いっぱい褒めることはある。
「昆奈門さんは優しい文字を書きますよね」
「え?」
「今日の手習い、尊奈門くんから忍術の内容を書き写したものを読んで、要約して自分で書くって内容だったんですけど……
人の字を見ると昆奈門さんの字って優しいなあって。オレに読みやすいように書いてくれてるんですよね?」
「……よく気付いたね」
「見てますから。それにこの頂いた小袖や軽装の服も……オレの気が引かないようにあまり高すぎないものを選んでくれたでしょう」
「………あの小娘たちから聞いたの?」
「まさか!触った布地で分かりますよ」
昆奈門さんは気付かないくらいの優しさをくれるし、分かりにくくしてる。きっと……忍者じゃなくて例えばそれこそお殿様だったらもっと気にせずお金バンバン使ってプレゼント祭りだろうなって。でも、今の自分の立場と異世界から来たオレの立場も考えて分かりにくいけど、良いものばかり用意してくれてる……それに気づかないほどバカじゃない。
「……ふふ、ナマエくんってば…私のこと大好きなんだね?そんなことに気付くなんて」
「あんなに好きって言い合ってるのに今更ですか?
オレの、自論なんですけど……自分もできることで褒められるより自分にしかできないことで褒められる方が特別なんだって思いません?」
そう言って昆奈門さんを見上げる。なんか嬉しそうな顔で微笑んでて見たことない表情にどきっと胸が高鳴った。
「…………ごめん、ナマエくん。ちょっと抱いていい?」
「嫌です、昆奈門さん怖かったから」
「謝るから……お願い」
「………加減してくれます?」
「する」
「はや……っふふ、擽ったいですよ」
食い気味に返事をよこした昆奈門さんが覆いかぶさってくるので頭を撫でながらぎゅっと抱きつく。
(みっともない嫉妬してないでさっさと褒めてって甘えればよかった)
(昆奈門さん嫉妬してくれるんですね、ちょっと嬉しいです)
(……なんで?)
(昆奈門さんが言ったんじゃないですか、火傷を負う前は寂しい思いしたことないって。そんなモテモテな人が凡人のオレにヤキモチ妬いてくれるんだ〜って)
(…なぁんか嫌味な言い方だね、根に持ってる?可愛がったつもりだけど足りなかった?)
(足りてます足りてます、本当に腰やばいから)
(……妬くよ、正直。閉じ込めておきたいくらいにはね)
(へへ、昆奈門さんだけですよ…他の人なんか気にしないでください)
(……君は本当に私を甘やかすのが上手いよね……駄目になりそうだ)
(ふふふ光栄です、嬉しい)
(冷汁は私に一番に作ってね)
(言われなくても、昆奈門さんと食べたいなあって思って話したんですよ)
(……)
(ちょっと、当てないでください……昆奈門さん?え?昆奈門さん???…もうしないですよ、無理!)
(……1回だけ、ね?)