ベックマンに攫われる・トリップ主♀
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変わり者
*ミョウジナマエ
道端で拾った巻き貝。あまりにも立派で、でもちょっと砂まみれで汚れてた。ここは日本の埼玉、そうつまり。海なしの内陸県なのである。そんな埼玉の道端で貝殻が落ちてるなんて、なんて面白いんだと持って帰ってきた。だって道の端にそっと避けられていたし、この汚れ方は軽く数週間は経ってる……それでも拾われてないならもう窃盗にはあたらないでしょう。
接客業の仕事を終えてへっとへとだけど、このオウムガイの外側みたいなきれいなくるくる巻き貝をお風呂場に持っていって風呂桶に水を貯めてジャブジャブと洗う。泥が浮いてくるまでは自分の髪の毛を洗ってトリートメント。調子こいて切ったのはいいけど、あんまり似合ってない気がする。
シューズを洗うブラシで優しく擦りながら洗うと、きれいな乳白色の貝になる。おお〜!両手で持ち上げる必要があるから、やっぱりオウムガイだったのかも。化石とか好きだから嬉しいな。
よ〜〜くすすいで中まできれいにしたらタオルでよく拭いて、私もお風呂から上がる。着替えてスキンケアして、ヘアケアをぱぱっと済ませてチューハイ片手に貝を撫でる。いいね〜!サンゴとか大好きだから気分あがる。
「定番のあれいきますか」
波の音聞くってやつ。耳をすませて貝殻に寄せてみると本当に波音が聞こえる。お〜!癒やされる……。私は海が大好き。どうして埼玉に海はないの?って両親に聞いて困らせたくらいには海を眺めて触れて泳ぐのが大好き。将来は海の前に一軒家立てて住むんだ、もちろん海外の地震の少ない国で。
レモンチューハイを片手に冷凍の枝豆を齧る。うま……疲れた五臓六腑にしみわたりますわ…。コンビニで買ってきた串についてるタイプの唐揚げと、肉まん。それらをつまみながらタブレットで動画を再生してると、なにやら声が聞こえる。
「……?」
外?とこっそり窓を見ても誰もいない。住宅街だし駅前みたく騒ぐ人は少ない。タブレットの動画を消しても声がする……しかも複数?一人だったら突然幽霊の声が聞こえるようになった?ってパニックになっていただろうけど、なんていうか……居酒屋のガヤガヤ音みたいな感じで不思議と怖くはない。
「……え、ウソこっから?」
音の発信源はなんとオウムガイ(仮)から。部屋の中をうろうろしてみたけどやっぱり貝殻から声がする。
耳をすませてもう一度あてがうと、こちらを呼んでいるようだ。………見えないだけで糸が繋がってるわけでは……ないね。ほっぺを抓る…うんめちゃくちゃ痛いね、夢でもないね。スマホを見る……うん23時だね、明日は中イチ休みだね。
『おーい!……おっかしいな、さっきなんか聞こえたんだけどなァ……』
『気のせいじゃないのか?』
『いや!なんかもにょもにょ聞こえたんだ、ここのクルーの誰よりも高い声だ!聞き間違える訳ねえ』
めっちゃくちゃはっきり聞こえる。ちゃんと左手を見る、うん、スマホじゃないね!……なんだか頭痛くなってきた。
「あの〜…」
『!』
「どちら様でしょうか?」
しまった、つい職業柄のよそ行き電話しちゃった。問い合わせ電話応対じゃないんだから。
『ベン!聞こえたか?!…あぁ聞こえてる、力抑えろ頭……こんばんは、夜分に申し訳ねえな。こらちはベック…お嬢さんは?』
カシラ……?何、めちゃくちゃわくわく!ってしてる感じの人のほうが若頭か何か…?ヤクザ!?!なんか圧感じるしヤクザか??!ヤバイもん拾った????!
「べ、ベック、さん……?カシラ、とは…?あの、返答によっては私臓器を提供しなくちゃいけないのですが」
『臓器ィ?なんでンなモン提供すんだ?…頭、黙ってろ。紹介が遅れて悪かったな、おれらは海賊だ。赤髪っていやぁ通じるか?』
かい、ぞく。海賊??………海賊?
「海賊」
『あぁ』
「かいぞく……」
『ふっ、初めてか?』
「そりゃまあ……」
そもそも、通信機器が入ってないこの貝殻からこんなに鮮明に声が聞こえること自体おかしい。中までジャブジャブと洗ったんだから、電子機器なら一発アウトだ。完全防水のスマホなんてこの世にはない、耐水はあれど……。電子機器じゃない、電波を発信受信できる装置が内蔵されてないのに電話並みに鮮明に会話できている時点で、海賊という彼らの異質の存在を飲み込むしかなかった。
「自己紹介ありがとうございました。夢みたいですが……私はナマエといいます、お好きに呼んでください」
『驚いたな、すんなり受け入れるとは』
「ベックさんのお手元にあるのも貝殻なんですか?私のはオウムガイみたいなキレイな巻き貝で……電子機器が入ってる様子はないのにこうして電話のようなことができてるのがもうあり得ないので、飲み込むことにしました」
『ほう………そうだ、おれのも巻き貝だ。…なー!ベン、オレも話してえよ!よっ!オレはシャンクス!』
頭、と言ってた人か。つまり一番偉い人ってこと……船長?
「こんにちは、シャンクスさん…なんか元気ですね」
『ベンが面白いもん見つけてきたからな!まさか遠いどこかのお前さんと繋がる代物となァ……』
現代、海賊は法律で禁止されてる。海のものを勝手に盗れば犯罪だし、領海というものもある。つまり…許可がなければ船で移動することすらできないこの時代に海賊を名乗るということは、異世界。
「海賊って何して過ごすんですか?やっぱり歌ったり??」
『毎日酒飲んで騒いで、歌って…たまぁに闘ってるぜ』
へ〜!カリブの海賊と同じじゃん!テンションあがる、生きる歴史みたいな人たちだ。
『ナマエは何をしてるんだ?』
ベックさんの声が聞こえてきた。貝殻持ち直したのか、ちょっと後ろで文句を言うシャンクスさんの声が聞こえる。
「私は海から程遠いところで接客のお仕事してます」
『ふっ、働き者か……頭に見習ってほしいな。海は好きか?』
「大好きです!まあ泳げませんけど」
そんなこんなで話し込み、1時間後にお互いお休みを言い合って眠る。むちゃくちゃ楽しかった。気付けば日付を跨いでるくらい話し込んだ。ベックさんたちの冒険の話がとにかく面白い。冒険小説を読んでた小さい頃の私を思い出した。
昔からファンタジーが大好きだった。空想ばっかりして、小説を読んではその世界に浸って没入するのが大好きだった。でも今日のことは流石に信じられなくて。
ひとまずお酒が抜けた今日ならリアルに捉えることができそう。昨日はもしかしたら連勤がキツ過ぎて実は寝てたのかもしれない。
『ナマエ〜!おーい!』
あ、夢じゃないですね。めちゃくちゃに現実ですね。
「はーい」
そうしたやり取りをおよそ週1で続けて早二ヶ月。こちらは夏の季節が終わり肌寒い時期に差し掛かっていた。その日は社販で買ったお気に入りのニットのお気に入りのマーメイドスカートを履いた日。帰宅早々部屋に違和感を覚える。
「……」
モチのロンで私はひとり暮らしだ。もうすぐ28になるいい年齢の独身、彼氏無し!今朝は割と早起き出来たから優雅な朝を過ごした。ヨガなんかしちゃったり、部屋の片付けをして出勤したからこんなに玄関に並べたシューズたちが荒れるわけないんだよね。
まさか……泥棒?まだ存在確認してないし、警察に電話は早いのかな、通報していいもんなの?この状態で。もう少し土足の形跡があればよかったのに……『部屋に違和感があるんです』で警察のお手を借りていいものなの?
ひとまず、心もとないビニール傘を持って部屋にゆっくり侵入。
「………気のせいか」
クローゼットやめちゃくちゃ怖いけどベッドの下とか確認したけど誰もいない。戸締まりもちゃんとしてるから窓も開いてないし、鍵も壊されたりしてない。どっと疲れてソファに座る…変な汗かいたしシャワー浴びよっかな。
「よォ……待て、怪しいモンじゃない」
脱衣所の扉を開けたらめちゃくちゃ大きい壁みたいな人がいたので思わず傘を振り上げると聞いたことのある声に腕が止まる。
「ベックさん…?」
「あぁ…その声はナマエか、驚かせてすまねぇな」
「ほ、ほんとにベックさんですか…?」
でっっっかくない???日本人の平均身長どころか外れ値でさえ上回る高身長だ。横にも縦にもデカくて幅も厚い。
「ふっ…本当さ、信じてくれ」
あぁ、このキザったらしい口調は間違いなくベックさんだ。俳優の演技じゃない限り聞けないような言葉だもの。
「……とりあえず、どうぞ……何か食べますか?」
「いや、遠慮しておく。仕事終わりなんだろう?疲れているのに手をかけさせられない」
まあそれはそうだけども……。ひとまずお茶とおつまみくらいは用意して、お腹すいたから簡単にご飯を作って食べる。
「……それだけか?」
「?はい!お腹空いたので今日は割としっかり目ですよ」
お茶漬けと付け合わせのたらこ、ウインナーと卵焼き。体の大きいベックさんはきっとよく食べる方なんだろう……なんかすごい『マジかよ……』みたいな顔してたし。そりゃ私もベックさんくらい体が大きいならもう少し食べるだろうけど……最近体重も気になるし適量だとは思ってる。
ベックさんはいい、と最後まで断ってたが一応来客用の布団はあるので出す。私の趣味全開だからラブリー♡って感じで大変に申し訳ないけど…今まで女の子しか泊めたことないし。
ササッとお風呂に入って気づく。ベックさんの着替えがないじゃない。コンビニで変えるかな……てか下着はともかく…Tシャツとかサイズあるのかな。
「ベックさん、ちょっと買い物してくるので待っていていただけますか?」
「こんな夜中にか?」
「はい、24時間やってる雑貨屋的なお店があるので……そこでなら多分ベックさんの着替え揃えられるかなって」
そう言うとおれも行く、と食い下がってくる。いや、別にいいんだけど……この風貌が夜中に歩いててもし警察に声でもかけられて、身分証明書ないんです〜って言って帰してくれるかとっても不安なんだけど…帰してくれるわけない、どう見ても堅気の空気ではない。
目元の鋭さなんかむしろヤクザに潜入捜査する警察官みたいな鋭さがある……叔父が実際にそうなんだけど、似たような圧を感じる。
「いや、警察に声かけられたら絶対にややこいので私ひとりで行きます」
「それはダメだ、お嬢さん。おれは夜中にレディを一人で歩かせる趣味はないのでな」
ベックさん、名前からして日本人ではないと思っていたけど価値観も海外諸国寄りなんだろうか?それとも本当に日本が平和なだけとか…?『日本語』で話せているのは貝殻を通じて交わった際のご都合だろうと解釈。
「でも……私お風呂入ってないのにお布団ダイブは嫌なんです」
「使わなきゃいい、寝なくても平気だ」
いやそれはアカンでしょ……!押し問答が続き、結局洗濯機を超特急で回してそのまま乾燥機コースになった。20分もあれば乾く、であろうこの服の薄さ。寒くないんか???こっちニットだったのに。
ピー、と音が鳴り無事に乾いたみたいでベックさんがお風呂から上ってくる。いや……サマになりすぎ、何この人。声の感じ若い人ではないって思ってたけど……いわゆるイケオジってやつ?
「明日休みなんです、お酒でも飲みませんか?」
「いいのか?」
「安いお酒しかないですけど……お口に合えば」
「レディの誘いを断りやしないさ……ありがとう」
すごい歯の浮くセリフぽんぽん出てくる……。そうして買い溜めておいたウイスキーやチューハイ、梅酒なんかを二人でどんどん開けていく。すっごい酒豪のベックさんは全然余裕そうだ。私はもう酔ってへろへろ。
「なぁ、お前さん」
「はい…?」
程よく眠いこのタイミングで話しかけられる。顔色も変わってないし饒舌になったわけでもない、本当に全然酔ってないんだな……すごいな。
「海は好きか、と前に聞いたな」
「…そぉですね…」
「今も、好きか?」
「そりゃもう……夏休みの旅行は海が綺麗なところに行くんです、毎年」
「そうか……じゃあ問題ないな」
何が?と尋ねる前に眠気の限界で瞼が降りる。
「おやすみ、ナマエ」
(職場に出勤しない日が続き、本日警察が自宅を捜索したところ行方が分からなくなった状態で――)
(スマホや金品が盗まれておらず、争った形跡もないことから、事件性ではない可能性を示唆しながら捜索を続けるとのことです)
(行方不明者の名前はミョウジナマエさん、27歳女性で会社員。警察は目撃情報など情報を募集しています)
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