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幼なじみ
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「ほんと、ごめんなさい」
「仕方ないわよ。本当に仮病じゃないんでしょ?」
「仮病じゃないデス」
「ならいいわよ。なにかあったら連絡して」
「はぁい」
電話が切れて、枕に突っ伏した。
風邪をひいた。久しぶりすぎて何年ぶりかも思い出せない。
何か食べたほうがいいのかな。でも、キッチンに行くのもつらいかも。喉が痛いし、身体もだるい。ちゃんと布団かぶってるのに寒い。明日には治るかな。ずっとお仕事休んじゃうと迷惑かけちゃう。
風邪ひかないことだけが取り柄だったのに。そんな変な取り柄のせいで、この家には冷却シートも薬もない。寝てれば治るかな。なんとなく寝返りを打って部屋を見た。すごく静か。それに、なんにもない。
ずっと昔に風邪をひいたときも、そんな感じだった。お母さんは仕事で、部屋には私だけ。今と違って、王宮の離れにある自室だったから部屋の外を通る人たちの足音や声は聞こえていた。でも、当時はそれが仲間外れにされてるみたいで余計に心細くなってた。だから、レオナくんが会いに来てくれたときはすごく嬉しかった。珍しくちょっと心配そうにしてたレオナくんに「レオナくんが来てくれたから平気だよ」って言ったのを覚えてる。呆れた顔をされたけど、全部本当で。本当にそばにいてくれただけで全然辛くなくなった。後から聞いた話だけど、風邪がうつるから会っちゃダメって言われていて、レオナくんはわざわざ人目を盗んで会いに来てくれてたらしい。
会いたいな。でも、学校がある賢者の島はずっと遠く。無理に決まってる。
心細くなってスマホを持ち上げた。レオナくんとのトークルームを開いて、過去のやり取りを遡ってみる。既読無視も多いけど、たまに短い返事とかスタンプが送られてきてる。
あいたいな、打ち込んですぐに消した。寂しい、これも打ち込んですぐに消す。こんなこと、ちょっと重すぎるし さすがに送れない。それにレオナくんはきっと授業中だ。通知音とか鳴っちゃったら困るもん。
でも、会いたいも寂しいも、文字にして消したら本当に消えた気がする。他にはなんだろう。そうだ、だいすき。打ち込んだのを消そうとして指が止まった。この気持ちは別に消したくない。なのに、なんで打ち込んだんだろ。
文字を見てると、なんだか消えたはずの寂しさが戻ってきた。ばかみたい。はやく消そう。指を動かしたら、軽い音がしてメッセージが送信されてしまった。あれ、どうしよう。突然間抜けな「だいすき」がメッセージ欄に並んでる。
まぁ、いっか。普段からこんな感じだし、レオナくんも何も思わないはず。画面を閉じようとすると、メッセージに既読がついたのが見えた。こんなに速く見てくれるの珍しい。
突然音楽が鳴って、画面が変わった。慌ててボタンを押してスマホを耳に当てる。
「れ、レオナくん?」
なんで電話、
「……風邪か?」
「え?」
「病院は?」
「行ってない、けど」
風邪ひいたって言ったっけ。あれ、さっき私なんて送った? 余計なこと言っちゃったりしたっけ。
「私、だいすきって、送った……?」
「そうだな」
「なんで、でんわくれたの」
「……たまたまだ」
「なんで、風邪ってわかったの」
「そんな声しておいて分からねぇ方がどうかしてるだろ」
レオナくんはばかにしたみたいに鼻で笑う。でも、分かるほうがびっくりだ。だって、マネージャーさんは全く気が付かなかったもん。3回くらい仮病じゃないかって疑われたのに。
「熱はあんのか」
「わかんない」
「測ってねぇのか」
「えっと、体温計、どこにあるかわかんなくて」
小さなため息が聞こえた。適当にしまう癖、直さないととはずっと思ってたんだけど、こういう時に困るんだなぁ。呆れられちゃった。しまった場所を思い出そうとしても、ぐるぐるして思い出せない。
「飯は」
「まだぁ」
「起きられねぇのか」
「ちょっと無理そう」
「……俺は行けねぇ」
「うん」
「分かってるなら誰か来てくれそうなやつに連絡しろよ」
「ぅん」
正論すぎて、何にも言えない。
「……ごめんね」
「別に謝ることじゃねぇだろ」
「ううん、レオナくん、学校なのに」
「今は……、休み時間だ」
休み時間も大事なのに。でも、わざわざ付き合ってくれて優しいな。だいすき。1人でニヤついてると、チャイムが聞こえた。電話の向こうが少し騒がしくなる。レオナくんどこにいるんだろう。今までが休み時間だったってことは、これから授業のはずだ。
「電話ありがとう。じゃあね、ばいばい……」
「おい、切るな、別にいい」
「でも、授業でしょ」
「……自習だ」
「そぉなの」
自習って教室にいなくていいのかな。教室で電話してるわけじゃないよね。学校のことは、全然わかんない。レオナくんが大丈夫って言うのなら、そうなんだろうな。
「寝るまでつないでおいてやるから」
「うん。ありがとぉ」
スマホをスピーカーにして枕の横に置いた。ちょっとした物音の後、何にも聞こえなくなる。
すごく静か。でも、全然寂しくない。寝返りを打って部屋を見た。いつもの見慣れた景色だ。だんだんまぶたが重くなってくる。レオナくんは偉大だなぁ。あんなに寝られなさそうだったのに、今はもうすぐにでも眠れそう。
「ねぇ、レオナくん、ほんとにありがとぉ」
「分かったから早く寝ろ」
「うん。おやすみ」
「……おやすみ」