本棚にある全ての小説のお名前変更ができます。
幼なじみ
お名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
毎週水曜日の午後5時。お名前ちゃんのチャンネルの更新日時だ。30分程度でゆるくいろんな企画をするという、お名前ちゃんらしさ全開の本当にゆるい番組だけど、なぜか癖になる。週の真ん中に上げてくれるから、この動画をモチベーションにして辛い仕事も頑張ろうと思える。推しは偉大。
電車で帰宅中に、ネットで今日の動画の感想を流し見る。みんなすごく騒いでる。ネタバレ配慮で詳しいことは話してくれない相互さんに、ありがたいような、早く知りたいような気持ちだ。
この水曜日だけは自炊をサボって、コンビニのお弁当で済ませてしまう。今日は2分の1日分の野菜入りカレーだ。レンジで温めて、スマホを準備する。「夕焼けの草原でお名前が食べ歩きする動画」。この題名、前にもあった気がするような。
お名前ちゃんが前を歩いているのを後ろから映しているところから始まった。なんだか珍しい始まり方だ。
「ね、どこ行く……って、もう撮るの?」
振り向いたお名前ちゃんは、カメラを見て目を丸くした。タメ口、珍しい。
「言ってくれればよかったのにぃ」
すねたみたいに唇を尖らせている。かわいい。
普段みたいに企画を説明したりしないのかな。他にスタッフの人が映る様子もないし、なんだか変な感じだ。カメラの目線も高い。普段はお名前ちゃんと同じくらいの視線が多いのに、今日は見下ろしている。周りを歩いている人よりも飛び抜けていて、地面が少し遠く見える気がする。背が高い人が見える景色ってこんなのなのかな。
「今日はね、何するか決めてないんだよねぇ。なにしよっか」
どうしてかお名前ちゃんが映らない。でも、イヤホンの左側から声だけは聞こえる。なんだか、一緒に歩いてるみたい。
「少しだけお腹空いてるから、何か食べたいな。お肉かな」
隣で話している声を聞きながら、雑踏の中を進んでいく。突然、声が止まった。カメラがワンテンポ遅れて左側に向く。お名前ちゃんは、どこかを見つめて止まっていた。
「すごくかわいいの見つけちゃったかも。いこ!」
振り向いたお名前ちゃんの目が輝いていた。こちらに手を伸ばした、そう思えば、カメラが揺れに揺れて何が映っているのかよく分からなくなる。やっと止まった時には、キラキラ光るアクセサリーが置かれたお店の前にいた。お名前ちゃんはその中の明るい緑色の何かを一つ手に取った。イヤリングだろうか。
「これ、かわいい!」
手に持ったそれを、カメラに近づけてくる。全然ピントが合ってないことにも気がつかないくらい楽しそうだ。かわいい。
「お嬢ちゃんも好きだねぇ」
「えへへ」
イヤリングが離れていって、あきれた顔の店主が映った。お名前ちゃんはイヤリングを買うことに決めたみたいだ。小ぶりなイヤリングが袋に入れられた。お名前ちゃんに似合いそう。
上機嫌に鼻歌を歌うお名前ちゃんと一緒に歩き出した。鼻歌珍しい。童謡かな。
「あ、ねぇ、あれなら片手で食べられるよ、買ってこよっか?」
カメラがお名前ちゃんの指差す方向へ向く。何かのお肉を串に刺して売っているお店みたいだ。美味しそう。いいな、今食べているカレーには野菜しか入ってない。カメラがうなずくみたいにちょっと揺れた。
「じゃあ待っててね」
お名前ちゃんはそう言って走って行く。屋台についたお名前ちゃんは指を2本立ててお店の人と話してる。
買うのに付いていかないのも斬新だな。でも、本当にお名前ちゃんと一緒にお出かけしてるみたい。笑顔で両手に串を持ったお名前ちゃんを見てそう思った。かわいい。
「ただいまぁ。はい、どっちが良い? 多分こっちの方が大きいよ」
右手に持った串がさらにカメラに近づく。大きなお肉でお名前ちゃんが隠れちゃって、画面には人混みとお肉しか映ってない。お肉が右にフェードアウトしていくと、もう既にお肉を食べ始めていたお名前ちゃんが映った。カメラを持ってる人は大きい方をもらったのかな。
「おいしいね」
お名前ちゃんがカメラを見上げて笑った。かわいい。今回の動画はいつもより少しだけ子どもっぽく感じる。普段もすごくかわいいけど、今日は特に胸にくるかわいさだ。実際にこんな笑顔を向けられちゃったら、私だったら倒れ込んじゃうかも。
「あ、ジュースいる? のどかわいたから買ってくるね」
お名前ちゃんは片手にお肉を持ったまま走って行ってしまった。カメラは全然追いかけない。普段動き回るお名前ちゃんに翻弄されまくってるカメラと違って、なんだか余裕を感じるような構えだ。端的にいえば、彼氏みたい。元気な彼女を見守ってる恋人の視点っていうのがぴったりだ。
もしかすると、この動画の趣旨はそれなのかもしれない。お名前ちゃんの彼氏気分になれる動画。あり得るかも。それなら相互さんたちが騒いでいた理由もわかる。
「買ってきたよぉ。何が良いか分からなかったから、私が飲みたいのにした」
お名前ちゃんはピンクのジュースを片手に持って走って来た。一つしかないけど、そう思ったらお名前ちゃんはストローをカメラに向けてジュースを差し出してきた。カメラが揺れてあさっての方を向く。屋台の屋根ときれいな空が映った。
「おいしい?……ねぇ、ちょっと飲みすぎじゃない」
お名前ちゃんの声が聞こえてカメラの画角が元に戻った。お名前ちゃんは少し不満そうな顔で、半分以下になったジュースを見つめてる。どういうこと、何があったの、
何事もなかったかのように、お名前ちゃんはストローに口をつけてジュースを飲む。
「なぁに?……え、まだいるの? もう飲んじゃった」
空になったコップを見せつけるように揺らす。
「もぉ、仕方ないなぁ。もう一杯買ってくるから待っててね」
さっき起こったことを理解できてないまま。お名前ちゃんはまたどこかへ走って行ってしまう。
お名前ちゃんが映ってない人混みの映像に、エンドロールみたいに文字が流れていく。屋台の名前や場所が書いてあるようだ。
「……え?」
ぼうっと流し見ていたら、大事なものを見逃した気がする。少し前に巻き戻して今度は流れていく文字にも注視した。
撮影:幼なじみ