本棚にある全ての小説のお名前変更ができます。
幼なじみ
お名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
扉が妙なリズムで5回ノックされた。分かり易いと言えばそうだが、どうにもガキくさい。いつもの通り無視していると、扉が開いた。
「レオナくん、チェカさまがかくれんぼしよって言ってたよぉ」
「今忙しい」
「なにしてんの?」
「昼寝」
ふぅん、なんて適当な返事だ。忙しいと言っているのに、気にすることなくこちらに向かってきた。
「チェカさま、私だけじゃ面白くないって言うの」
「そうだろうな」
大昔、かくれんぼがしたいと泣き叫ぶのに渋々付き合ったことがある。隠れるのも下手、探すのも下手。付き合っている側はまるで面白くないというのに、やけに楽しそうだった。
「チェカさま探しにきちゃうかな」
「は?」
「今かくれんぼ中なの」
まるで何が悪いのかも分かっていないような呑気な笑顔だ。今の時間は14時を少し回ったところ。チェカの勉強は15時から始まるはずだ。今は昼食後の自由時間だろう。即ち、今捕まれば、残り1時間近い間チェカを回収しに来るやつは誰もいない。
「付き合ってられるかよ。とっとと出ていけ」
「やだ。見つかるならレオナくんも道連れにする」
「いい度胸じゃねぇか。チェカが来る前に追い出してやる」
「やだ。私1人じゃすぐ見つかっちゃって悔しいんだもん」
ベッドから降りると、警戒するように近くにあった椅子にしがみついた。そんなんで追い出されないと思ってんのかこいつ。
「お名前、どこぉ?」
小さな声を耳が拾う。他とは違う軽い足音が聞こえる。チェカはもうすぐ近くまで来ているようだ。今こいつを追い出したところで、俺もチェカに見つかる。
「俺は出かけてる。ここにはいない」
「え?」
クローゼットの扉を開く。置き場所のなくなった本やらが積み重ねられているところに、1人くらいなら隠れられそうな隙間があった。まだ子どものチェカは気配を探るのも上手くない。鼻も元の匂いが邪魔して誤魔化せるはずだ。ここならバレない。
「おじたんいるかな。おじたぁん」
声が近づいてきている。なぜ俺を探している、俺じゃなくお名前を探せ。荷物の間に体を捩じ込む。狭いが、少しの間だ。すぐ側まで近づいてきている足音に、押入れの扉を閉める。閉まり切る直前、何かが隙間から入って来た。
「は? んでお前まで隠れるんだよ」
「かくれんぼ中だもん」
「んなこと……」
「おじたん!」
ノックが響いた。今話せば、耳を澄ませているチェカにも聞こえてしまうだろう。そのことを分かっているのか珍しく静かにしている。
「おじたん、入っていい? もうかくれんぼ始めてるのかな」
ドアが開く音がする。チェカは勝手に部屋に入って来たようだ。遊びの最中と言えど返事がないのに入るのはダメだとキファジに言われてそうなものだが。
「いないの? お名前?」
すぐ近くで声がしたことに驚いたのか、体が揺れる。普通の人間と同じくらいの聴力しかないこいつにとって、チェカの声以外は聞こえていないのだろう。こちらを健気に見上げてくるのが哀れに見える。はなれた、音は出さずに口を動かした。眉が寄せられる。これは伝わってないな。べつにいい、きにするな、何を言ってるのか耳を近づければ聞こえると思っているのか近づいてくる。動くな、ひっつくな、離れろ、何一つ伝わらない。こいつは、馬鹿なのか? 意識を逸らすようにしても、触れてるものは触れてる。すぐ外にチェカがいるとしても、口を塞がれて手を出されれば誰にも助けてもらえないような状況で、男相手にどうしてそう近づけるのか。どうしてそこまで警戒心がないのか。
もう口を開くのはやめにした。離れろと言っても伝わらない。近づいても聞こえないということが分かれば、こいつも距離を取るだろう。そう思ったのに、離れる気配がない。なにをしてるのか、俺の頭上を越して何かを見ている。真剣そうな顔で俺を見ることもなく口を動かした。ちょっとまってね。何をだ。これ以上何をするつもりだ。手を伸ばして、俺の後ろの何かを動かそうとして、踠いている。背伸びでもしてるのか、凭れ掛かるようにして体重が乗っている分、隙間がないほどに密着している。本当こいつ何考えて
積み上げられた荷物のせいで、これ以上後ろに下がれないのは理解していた。それでも、思わず足を引いてしまった。重い何かが足に当たる。気がついた時には遅かった。背後の塔のように積まれていた荷物が傾く。それを愚かにも支えようと両手を伸ばす身体を抱き込んだ。
「えっ、レオナくん!?」
雪崩のように倒れてくる荷物に抗う気もせず、押されるままに倒れ込んだ。
「あ! おじたん!」
地面に倒れ込んだまま、見慣れた自室の天井を見上げる。外開きの扉は重みで開かれ、辺りには荷物が散乱していた。チェカが目を輝かせて近づいてくる。
「レオナくん、大丈夫?」
「おじたん?」
俺は、本当に何をしていたのだろうか。時計を見上げれば、丁度長針と短針が重なっていた。自分の行動が滑稽で仕方ない。覗き込んでくる毛玉を追い払う気も、人の身体の上に乗ったまま話しかけてくる馬鹿を退かす気も起きなかった。