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幼なじみ
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放課後、談話室で寛いでいたら、ラギーがドタドタ駆けてきた。
「やばいやばい、誰か接着剤とか持ってないっスか!?」
「どうした?」
「割っちゃったんス、レオナさんのコップ」
「は!?」
談話室にいた全員が声を上げた。
「レオナさんのコップ、洗おうと思って寮のキッチンに置いてたら、誰かが落としてたんスよ! 犯人探しは後できっちりするとして、見つかる前に直さねぇと!」
「俺の部屋に瞬間接着剤あるからとってくるわ! 少しだしタダで使わせてやるよ!」
「マジ!? 持つべきものは理解ある友っスね」
部屋に走って行ったヤツ以外の残った寮生でテーブルを囲む。ラギーがチリトリに乗ったコップの破片を置いた。ガラスのコップが無惨に割れている。
「これ、治せるのか……?」
「直すしかないっス」
デカい破片はくっつけられそうだが、粉々になってる部分はどうしようもなさそうだ。
「とってきたぜ! 早く直そう」
オレは細かい作業は苦手だし、触らないでおいたほうが良いか。他のヤツらも似た感じなのか触ろうとしない。接着剤を持ってきたヤツとラギーで、必死にカケラをくっつけあってる。
「言いたくはないが、無理じゃないか……?」
一緒にそれを見守ってたサイの獣人が言った。正直オレも直せると思えねぇ。
「諦めるのが早いっスよ! バレた時のレオナさんの顔を思い浮かべてみてよ」
怒った寮長……。前にオレらがディアソムニアのヤツらと小競り合いになって学校の備品を壊した時を思い出した。あの時は怖かった。思い出すだけで尻尾が足の間に入ろうとしてくる。
「でも、寮長あんまりものを壊したくらいで怒らなさそうな気がするけど……」
前に怒られた時も、学園対抗の競技会が近くて、それの選手候補がどうとか、そういう感じのことを言ってた。寮長の所有物はそこら辺にほったらかされてることが多いし、コップ割ったくらいなら少し怒るくらいで許してもらえそうだ。
「普通のコップなら良いんスけどね……」
「普通のコップじゃねぇの?」
「コレ、多分女の人から送られてきたヤツなんス」
「えっ! 女の人!? 寮長って彼女いたの!?」
彼女? 寮長に? 寮長が、女の子と付き合ってる……?
NRCは男子校で女の子との出会いはない。NRCに入ってくる前から彼女がいて、イチャイチャうざいメッセージ送りあってたヤツもいたけど、寮長がそんなだったなんて考えられない。確かに寮長はかっこいいし、彼女がいてもおかしくない。きっと女の子の扱いも上手いんだろうな。王子サマだからエスコートとかも手慣れてそうだ。紳士な寮長かっけぇ。
「このコップ宅配で届いたんス。段ボールに入ってたんだけど、宅配伝票の贈り主がレオナさんの名前で、渡したら珍しく自分で開封してるし妙じゃないスか」
「妙っていうか、寮長、結構荷物届くけど普段は自分で開けてないの?」
「大抵宛名見て箱のまま放置するんで、オレが開けていいか聞いて片付けてるっス」
「大変だな……」
コップを接着剤でくっつけてるヤツが呟いた。料理や洗濯なんかをしてるのは見たことあったけど、ラギーって本当なんでもやってるんだな。
「そんなことはどうでもいいんスよ、段ボールも売れば金になるし」
「そうか」
「んで、それと一緒にメッセージカードも入れてあって、レオナさんがテーブルに放置してたのをチラッと見ちゃったんスけど……」
それまで忙しなく動いてたラギーの手が止まる。
「カラフルにデコった文字で‘レオナくんへ’って書いてあって。しかも、ご丁寧にハートマークまで!」
「うわぁ、寮長のそういう事情、なんか知りたくねぇな」
「オレだって知りたかないっスよ!」
そっか、寮長の彼女ってそういうタイプなのか……。もっと大人っぽくてグラマラスなお姉さんとか、違うな、おしとやかでうふふって笑うようなお嬢サマみたいな人かと思ってた。ハートマークつける彼女か……。いいな、かわいいだろうな。オレも彼女ほしいな。
「コップ直りそうか?」
「まだこんだけっスけど、一応は形は見えてきたっス」
ラギーが手に持っていた破片をみんなで覗き込む。形といっても、まだ大きな破片を組み合わせただけで半分もできてない。
「そのコップ、お名前たそのグッズじゃん!」
「お名前たそ?」
「は、はあ? んなこと言ってねぇし」
オカピの獣人が目を泳がせてる。お名前たそ? そういえばイグニハイドのヤツがなんかタソタソ言ってた気がするな。オカピってオタクだったのか。
「どうりで。そのロゴ、なんか見たことあると思った。クラスメートにそれのタオル持ってる奴いたわ」
汗を流して目を泳がせるオカピを見て、サイの獣人が思いついたように言った。ロゴって、コップに書いてある絵のことか。たしかにこの絵が描いてあるタオルとか持ってるヤツいた気がする。無地で暗い色のタオルを使っているヤツが多いから、珍しいと思っていた。
「サバナクローにも結構持ってる奴見かけるよな。お名前のグッズって知らなかったわ。前流行ってた曲くらいしか聞いたことねぇし」
「あれだろ、ダンス動画がバズってたやつ」
「え、あれもお名前の曲? そっちじゃなくて結構前によく流れてたやつだよ」
「んなことどうでも良いんスよ! コレ、グッズなんスか? 尚更ヤバいじゃないっスか」
「確かに」
好きなアイドルのグッズとか普通は大切にするもんだろう。アイドルとか全然詳しくないけど、グッズって常に買えるもんじゃねぇよな。その時しか買えないみたいなレアなヤツ割っちゃったら、怒られるどころじゃ済まねぇんじゃ……。
「つうか、彼女からアイドルのグッズが送られてくるって何事?」
「一緒に推してるんじゃね?」
「そういうのってあんの? 俺彼女いたことないから分かんねぇ」
オレも。談話室が一瞬重い空気になった。
「も、もし! 本当に直せそうにないなら、俺の、俺のやつで良ければ、部屋にあるから代わりに……」
コップがアイドルグッズだと気がついたオカピの獣人が、悔しそうに拳を机に押し付けて言った。このコップ、そんなに大事なものなのか……。
「本当っスか? ならお願いするっス。あ、代わりになんか要求するんなら壊した犯人、オレも一緒に探すんで、そいつにして」
ラギーがあっさり言う。オカピのヤツ涙ぐんでるのに容赦ねぇな。まぁ、オレも寮長に怒られるくらいなら、どうでもいいヤツが悲しもうがどうでもいいけど。
「うっ、それなら取ってくる……って、寮長!?」
「ゲッ!」
オカピのヤツが泣きながら席を立ったと思ったら、入り口を見て固まった。みんなでそっちの方を見ると、寮長が欠伸をしながら談話室に入ってきたところだった。
「あ? 珍しく集まってなにしてんだ」
「な、なにも……」
怪しまれてる。寮長に隠し事なんてできるわけない。終わった。オレ何もしてないのに怒られる。
「ラギーがレオナ寮長のコップを割りました!」
「はあ!?」
それまでずっと黙っていたシマウマの獣人が、ラギーを指差して言った。そういえば、コイツ指に絆創膏巻いてるな。それに、すぐ近くに絆創膏のゴミが散らばってる。
「あんたが落とした犯人!? 人のせいにしないで欲しいっス!」
「俺が落としたって証拠あんのかよ! 現場見たのか? 写真撮ってたのか?」
「お、おい、2人ともやめとけよ……」
サイの獣人が2人を落ち着かせようと声をかける。たしかに寮長の前だ。恐る恐る寮長を見ると、機嫌が悪そうに眉を寄せている。こ、こえぇ。言い合いしていた2人もそれに気がついたようで、おずおずと静かになった。
「それで、話は済んだか?」
「す、すみません。コップ割ってしまって……。本当にすみませんでした!」
「オレも、一応謝っておきマス。落としたのはオレじゃないんスけど、隠そうとしたし」
2人はそう言って頭を下げた。なんとなく、オレも一緒に俯いておく。実際、隠蔽工作しようとしてるのに協力とまではいかずとも見て見ぬ振りはしていたし。
「……別にどうでも良い。また買えば良いだろ」
「で、でも、もう売ってないのに」
「は? ただのコップだろ」
「初めての生誕グッズですよ!? 幼なじみくんにも使って欲しいからって、お名前が日常使いできるグッズをわざわざ考えて売り出した、もう買えないやつなんですよ! これで自分たちも幼なじみくんと同じもの使ってる、もしかして自分が幼なじみくんだったんじゃって錯覚できる貴重なグッズなのに……」
突然叫び出したオカピの獣人に全員が静かになった。全部を一息で言い切った後、オカピは顔を押さえて咽び泣き出してしまった。そ、そんなに好きだったんだな。
「送られてきたもんだから知らねえ」
「でも、女の人からのプレゼントだってラギーが!」
「は!? マジでなんなんスかコイツ!」
シマウマのヤツがまたラギーを指差して言った。ずっと前にラギーの誕生日プレゼントにそこそこ高いものあげたのに、自分の誕生日には掃除当番変わってもらっただけだったとか愚痴ってたな。
「あ? んで知ってんだよ」
「レオナさんが見える位置にカード置いてたからっスよ! オレも見たくて見たわけじゃねぇんスから!」
「あれは……兄貴がふざけてただけだ。妙なことしてまで、どうしても俺にプレゼントを受け取らせたかったらしい」
「あぁ、レオナさん、お兄さん名義の荷物は大体無視するっスもんね」
なんだそれ、お兄さんちょっと可哀そうだな。そこまでしてアイドルのグッズのコップを使って欲しかったのか、それとも見てくれればプレゼントはなんでも良かったのか。
「話が済んだのなら俺は部屋に戻る。これ以上騒ぎを起こすなよ」
「はい!」
怒られなくてよかった。寮長は結局ハートマークのついたカードを送ってくるような彼女もいなくて、アイドルのファンでもない。少しだけ、親近感とか思ったんだだけどな。まぁ、オレは彼女もいないしアイドルも全然知らないんだけど。結局寮長はオレの想像通りの人だったってことか。
現実逃避するようにそんなことを考えたけど、依然シマウマとハイエナはオレを挟んで睨み合ってる。寮長、部屋に戻る前にせめてこいつらをどうにかして欲しかったな。
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