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幼なじみ
お名前
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テンプレなオーディション番組。それが「大豆」の印象だ。
正式名称は、確か「Shine on You」だったか、うろ覚えだが頭文字をとって略称が「SOY」。何故「大豆」なんてよりキツい名前で呼ぶのかと言われると、それはオタクの寒いノリが公式に逆輸入されたからとしか言えない。公式サマには逆らえないので……。
「大豆」はステージを輝かせるのは個性だとかいうのをスローガンに、歌やダンス以外にも様々な面から審査し、勝ち残った子だけがデビューできる。落選した子は1人ずつ番組を見ながら振りかえり配信をさせられるという謎システムだけが特出した普通の番組だった。
人それぞれだろうが、自分はこういう番組に気を衒った要素なぞ求めない。出演している子たちを活かしてくれればそれで良い人間なので、一話が配信されてからマメに追っていた。
特別推しがいたわけではないけど、まあまあ皆満遍なく好き。箱推し、言い換えればそうとも言えるか? というレベル。
それでも、最終選別まで来ると誰が落ちても泣ける。目が腫れたら……、いや、明日の授業もいつも通りタブレットで出るから平気か。なんて考えて見始めた12話は案の定大号泣。
審査に合格って言われても感動、落ちて悔し涙を流す姿にも感動、最後にみんなで抱き合ってるのなんて、これのために今まで見てきたまである。
最終選別で落ちた2人、ミンスちゃんとお名前ちゃんの番組振り返り配信は3日後の夜7時から。2人同時に別枠で始めるという宣伝を見てリアルに横転した。
どっちを見るべき? 箱推しオタクにはキツい選択肢だ。タブレットとスマホで二窓? は?二窓禁止? 運営? でも、アーカイブには……残るのか。だが、リアタイはその時にしか味わえないわけだし。
ソシャゲのイベントも始まったオタクにとって3日など一瞬と同義。結局2人のうちどちらの配信を見るか決めかねたまま当日になった。
ミンスちゃんは歌もダンスも努力していたみたいだけど平均的。ちょっと我が強くてメンバーと揉めたり、審査員に言い返すことが何度かあった。その分、自分なりの解釈を加えた印象に残るパフォーマンスは多かった。グループ審査で振り付けの方向性がメンバーと違って揉めた時、1人で資料を作ってきて自分の考えた振り付けが良いとプレゼンしていたのは「大豆」の中でも間違いなく5本の指に入る名場面だ。
一方、お名前ちゃんは歌もダンスも優秀で指摘されたのは片手で数えられるほど。個性が足りないと度々注意はされていたけど、何をやらせてもクオリティが高かった。メンバーとは仲が良さそうだったけど、揉めてる方が画的に面白いから映る回数は少ない。それに、自己紹介やPRも創作ダンスもモノボケも特技紹介も普通。見た目は正直番組出演者どころか芸能界的に見ても抜群に良かったけど、なぜか目立たない、いわゆる普通のアイドル候補生。
どっちを見るか、決めかねたまま後数分で配信が始まるというところまで来てしまった。2人の配信枠を並べて悩んでいた時、待機している視聴者の数が目に入った。
――あぁ、カスシステム。
番組は意図していたのだろうか。だから二窓禁止だった? ミンスちゃんに何千と視聴者が集まる中、お名前ちゃんにはたったの百数人しかいない。視聴者の数でどちらが人気だったのか丸わかり。それを狙っていたのだろうか。いや、それはファンにも配信してる本人にも見えないようにしろよ。既存システムに頼り切って手を抜いた運営の怠慢。
しかし、今考えるべきはそんなことではない。後でご意見は出すとして、配信のリアタイは逃せない。どちらを見るか。ミンスちゃんもお名前ちゃんも箱推しを名乗るファンとして同等に応援していた。しかし、番組の振り返りという名目なら出番の多かったミンスちゃんの方が面白そうかも。そんなどこかで出かかっていた結論を引っ込めて、お名前ちゃんの配信枠をタップしていた。
「こんばんは。みんな来てくれてありがとう。お名前です」
予定時間ぴったりに配信は始まった。1人で映っている姿は新鮮で、普段より顔の良さが強調されている気がする。いや、本当に面がいいな。
「番組を振り返る配信だとは言われてるんですけど、正直何を話せばいいのか」
「そうですね。最終審査まで残れたのは自分でも驚きでした。けれど、やっぱり落ちたのはすごく悔しい」
励ますようなコメントがゆっくり流れていく。そんな中、ポンっと異質なものが飛び込んできた。
「おもんない。だから落ちたんじゃない」
何を思ってそれ書いた??? 確かに、普通というかありきたりだったけど! 視聴者の数段々減ってたけど!
アンチコメが早く流れ去ってしまうように高速タイピングで頑張って大量のコメントを送っても、自慢のネット回線ですら時差は生まれる。人数が少なくてコメントの送りが遅い分、お名前ちゃんにもはっきり読めてしまっただろう。
「そっかぁ」
イラストかと思うような綺麗な顔面で画面を見つめて固まっていたお名前ちゃんが漸く放った言葉は震えていた。
「私、ちゃんとアイドルできてなかった?」
コメントがさっきとは段違いのスピードで流れていく。顔を伏せてしまったお名前ちゃんには、見えていないだろうけど。
「そっか。私、ちゃんとできてなかったんだ……」
そんなことない、泣かないで、なんてコメントがどんどん流れていく。あ、そんなことないよ待ちな感じ? お名前ちゃんはずっと俯いている。おいたわしやコメントが流れていくのを、どこか冷めた目で見てしまった。アンチコメする奴が一番悪いのは確かなんだけど、アイドルになるんだったら多少は耐性ないと辛くないか……? いや、普段なら気にしないことでも、オーディション落選直後で傷心中だから きゅうしょで1.5倍って感じなのか。
結論が出て改めて同情フェーズに入っていたら、お名前ちゃんはこれまでよりも低い声でぶつくさ呟きはじめた。こわ、なんか詠唱してる? いや、なんだこれ、言い訳?
「だって、頑張ったのに落ちちゃったんだもん。あんなに可愛くしてたのに……」
音量を上げれば不穏of不穏な発言がはっきり聞こえた。な、何かやらかす気? これまでの配信を見てる感じ、この配信にはスタッフは同席していない。前に一回だけちょっと事故った時にスタッフが止めに来るまで結構な時間がかかっていた。流石に暴れ出したりしたらデジタルタトゥーは免れませんぞ。
しかし、ぱっと顔を上げて画面に映った表情は、想像していたものとは大きく違った。
「もう番組も終わったし、アイドルになれないんだったら好き勝手しぃちゃお。折角可愛くしてたのに、もったいない! こんなに可愛い私、もう見られないのにね」
音量デカすぎて部屋中に響き渡った。慌ててボリュームを下げて画面を見ると、それまでの清楚可憐な微笑みとは違って頬を膨らましたギャグチックで大袈裟な怒り顔が画面いっぱいに映ってた。顔良すぎん?
「私、ガサツで可愛げないからアイドルっぽくないって思ってて。でも、番組に出させてもらえるって聞いて淑やかにしようって頑張ってたの。本当はプロフィールに書いてあるのもほとんど嘘! 好きな食べ物はわたあめじゃないし、お菓子作りなんてしたことないし、ベビーピンクより緑とかのほうが好きだし、寝相悪いし、好きな人もいるし、方向音痴だし」
「歌やダンスは昔から得意だったし、顔も普通にすごく可愛いと思うし、アイドルになる素質あると思ったんだけどなぁ。何がダメだったのかな、やっぱり内面? ガサツさが滲み出ちゃってたりしてたのかな」
「幼なじみがね、この番組見てくれててね。うぅん、無理やり見せたって言うほうがあってるかも。びっくりするくらい笑われて。猫かぶりすぎだって、こんなので受かるのかって言ってくれたのに、私、これがアイドルなんだよって言っちゃったぁ。結局落ちちゃってるし、合わせる顔がない……」
ヘニョヘニョ顔可愛すぎる。国宝? 国どころかツイステッドワンダーランド全体の宝じゃない? 頭がフリーズして顔の良さしか分からない。今まで見ていたお名前ちゃんis何? 2文以上話したことなかったレベルだったじゃん。きっと配信を見ているほとんどの人が怒涛の勢いで話し始めたお名前ちゃんを呆然と見ることしかできてない。その証拠にコメントの流れがずっと止まっている。
「応援してくれてたのになぁ。背中押してもらったのに、結局アイドルなれないなんて、私何に悩んでたんだろう。そだ、みんなになんて言おう。というか、この配信見てくれてる可能性ある! あ、えっと、落ちちゃいましたぁ、ごめんなさい。折角私ならできるって言ってくださってたのに。あ、でも、逆に言えばアイドルになれないなら私……」
ただただ話し続けるお名前ちゃんを見ていると、聞き慣れない着信音が響いた。
「電話? スタッフさんからだ。今出て良いのかな?……はぁい。お名前です」
「ちょっと! 言っちゃいけないって言ったよね!?」
お名前ちゃんが慌ててスマホを耳から離した。スピーカーにしていないのに、配信のマイクがはっきり拾えるほどの音量で男の人が喋っている。
「えっ、と?」
「好きな人がいるとか、幼なじみがどうとか! 言っちゃいけないって言ってたよね!? 君が配信で好き勝手してるって今連絡がたくさん!」
「それは……」
「どうせ自暴自棄になって全部言ったんだろうけど、番組との契約はまだ続いてるし、なにより落選したって契約したいって言ってくれてる事務所もいくつかあったんだよ!?」
「えっ、本当ですか? 私、まだデビューできるの?」
「君が変なこと言わなければね! もう……所…人…どう……か……、って、えっ、君、配信切ってないの!?」
「……ダメ、でした?」
「ダメに決まって……! もう、早く配信をとめて!」
「……えっとぉ、止め方、分かんないかもです」
「あぁ、もう! 今行くから待ってて! 絶対に余計なこと言わないように!」
「はぁい」
通話が切れたのか、スマホを片手に数秒お名前ちゃんは固まっていた。視聴者も多分固まっていた。
「……びっくり、だよねぇ」
その後、画面を見つめるお名前ちゃんもコメント欄も動かないまま数分。ドアを蹴破ったのかと思うほどえげつない音を立てて部屋に入ってきた男性が、カメラに向かって謝罪しながら配信を切ったところで終わった。数時間後、この配信を切り抜いた動画がネットで話題になり、後に「やらかし配信の殿堂」と言われるようになる。
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