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「それでは、かんぱ〜い」
ふわふわで高級な絨毯に、かちゃんとぶつかるグラス。大皿に盛られた料理と、それに反比例して小さい一人一人のお皿。グラスを持っていないと、いかにもパーティーから弾き出されてしまった人のようで、お酒は得意じゃないのにグラスの中は満員。
おしゃべりや笑い声、昔を懐かしんできゃはきゃはと笑う女の子たち、ムード・ミュージックのすかした響き。
オシャレ空間がまじりあって作るざわめきのなかで今初恋のささくれがめくれあがろうとしていた。
守屋「唯衣ちゃん久しぶり〜!元気してた〜?」
武元「もちろん〜!ほんま久しぶりやなぁ~!」
守屋「唯衣ちゃんコンタクトだ、かわいい」
武元「そ~、大学デビューした」
守屋「そっかそっか笑」
同窓会なんてたいそうなものやるほど、うちの高校って財力と連絡先が集まってたんや。仲良かったれなぁに聞いたら「久しぶりに参加しちゃう〜?笑」なんていうからどんな悪ノリだよなんて思ったり。
そろそろ結婚も視野に入れるOLなわけですし…親戚はうるさいは、親も孫孫いうは…。
彼氏いないんだし!いっちゃお!唯衣ちゃん!なんて言われて今ここにいる。
こういう時じゃないと唯衣ちゃんに会えないじゃん?とかふざけてるれなぁはさておき、用意されたお皿から少しずつ料理を取り分けた。
高校時代はれなぁと私とひかると松田といたのに、今日松田は次の日生放送だからと欠席。ひかるはいるけど今男子にわいわいされてるし、男の子は男の子で話盛り上がってるからひかるがこっちに合流してこなさそうだな。
れなぁがいこ!なんて言わなかったら絶対こんなのこなかったのに、親戚や親にかこつけてこんなところにきているのにはダサい以外ない。
けど早く帰りたい。
どっと座ってぼーっとしたい。
狭い家のリビングで、誰かを気にすることなく、前髪をあげてアホズラで乾麺をすするほうが性にあっている。
可愛い、キラキラ、ピンク…みたいな女の子みたいなものを自分が望んでもきっとキャラじゃないし、男の子の隣を黙ってうんうんと座って可愛くいられる柄でもないし、「武元は強くいじってもいい」と思われてるのか男子からも上司からもおもろい女子やとしか思われてないだろうし。
別にいまさら“女の子”に憧れてるとか言ったら痛いやつかもしれん。てかこの話してる自分にもう痛さ感じてるし。
ただ自分も欲しかった、れなぁみたいなキラキラが、ひかるくんみたいなモテが。
青春が、
溶けるような初恋が。
守屋「唯衣ちゃん今日は気合い入れてこうね!」
武元「なにをやねん笑」
守屋「同窓会マジックだよ!」
れなぁとも高校卒業してから全く会えず、今こうして社会人一年目になってから会えるようになった。逆に今まで縁が切れてなかったことすら奇跡だ。
あぁあ、高校時代なんて回想するんじゃなかった余計帰りたくなる。
コトっとグラスを置いてカバンの中を確認する。どうやらもう飲み食いを初めて1時間も経っていた。え、もう1時間?かえりた
きゃ〜!と声がして2人でふいっと顔を向けると、案の定私のささくれがめくれた。
守屋「あ〜、保乃くんじゃ〜ん!!!」
田村「遅れた〜」
武元「………………。」
帰りたい権化きた〜〜〜〜〜
あ〜もうほんまに帰りたい
ほんまに、
私も明日生放送あるとか言う?
ないけど
明日も満員電車乗ってタイムカード切ってパソコンやけど生放送あるとかいう?
具合悪なりました〜、とか?
れなぁに今もう抜け出さん?とかいう?
私がれなぁお持ち帰りしてどないすんの?
昔からこいつはタイミングが悪いねんな
知ってんねん
こいつがそういうやつってこと分かってんねん
森田「保乃くん!」
田村「お、ひかるくんやん!」
森田「練習お疲れ、飲み物あそこ、一緒取り行く?」
田村「ええん?行こいこ」
一気に会場に花でも咲いたんか?
帰ってええか?
花の香りで具合悪なりそう
ぐいっとグラスの飲み物を飲み干す。
ええい、いかれてしまえ
気づいたら帰りのタクシーぐらいまで飛んでしまえ
初恋なんてささくれみたいなものだ
それ以上いじったら皮膚が向けて血が出るのに、痛いのに、目に触れれば触りたくなるんだから。
初恋の権化、田村保乃は敵だ。
てき、というか、かたきだ。
自分の高校時代の記憶を、唯一青くして、唯一季節を春にする。
そんな存在。
武元「…れなぁあのさ」
守屋「うんうん、どうした?唯衣ちゃん」
武元「保乃ってこっちこんよな?な?」
守屋「え、なんで、やなの?」
武元「いや、嫌っていうか、嫌なんだけどぉ」
守屋「嫌じゃんかよ笑」
まじで黒歴史やねん
マジで黒歴史なんよわかる?
芋がたかだか隣になって話したことあるくらいなのに初恋とかいってたのなんて黒歴史やん。
黒は300色あるらしいねんけど、1番黒。
唯衣ちゃん、唯衣ちゃんって話しかけてくれて、少しあほなところを茶化してへへへって笑ってたあの頃の記憶を1番クレヨンで塗りつぶしたいんよ。
れなぁ、わたし、保乃、ひかるで遊びに行った海とか。
ほんまそのまま溺れてしまえばよかったんよ
はいはい、わかってます。
あのモテ男を好きになるなんてミーハーですね。
はいはい、自分がいちばん分かってます大丈夫です。
加えて?おもしろ担当のお前が?って?
ええやんそこまで言わんくても。
生放送を理由に帰ってやるから許して。
守屋「保乃くん嫌い?なにかあった?」
武元「ないけど、」
守屋「ないならいいじゃん、保乃くん会いたがってたよ?」
武元「…明日生放送ある」
森田「唯衣ちゃん、グラス空やな、ソフドリ持ってこよっか?」
武元「わぁぁぁ!!ひかる、」
森田「笑笑笑。ひさしぶり、唯衣ちゃん。お酒、あんま得意やないやろ?」
武元「う、うん、そのもう「烏龍茶でい?」
武元「は、はい」
颯爽とひかるが歩いてきたことにきづかなかった。
広い肩があたった、上を向く。
田村「ひさしぶり、唯衣ちゃん」
武元「あっ、おつかれ」
守屋「保乃くんお疲れ様〜、練習大変だったでしょ〜」
プロバレーボール選手でか
肩広
でか
なんかまたこいつたくましくなった?
ひえ…
保乃のグラスだけ小さい?それとも手がデカい?
田村「いや全然!2人とも元気しとった?ほんまに会うの久しぶりやない?」
守屋「ほんとに!私と唯衣ちゃんも高校ぶりなんだよ〜」
田村「あ、そうなん!?保乃と唯衣ちゃんは大学の時に駅のホームで1回…会ったよな?」
あー、はいはい、そんな時もありましたね
私が走って逃げてしまったのは鮮明に覚えてますけどね
てか覚えてたんや
もう忘れてると思っとった
武元「あったあった、保乃ご飯食べへんの?取ってくるで」
田村「そうやなお腹すいた」
武元「肉?魚?」
田村「ええよ、保乃も行く」
武元「え゙、ええよ唯衣いく」
守屋「なんでよ笑。一緒行っといで」
2人で肩を並べてぎこちなく歩く
履きなれてないパンプスを恨む
あとれなぁ
と、ひかる
━━━━━━━━━━━━━━
武元「はい、はいそうです、お願いします」
あーぁ、帰ろ帰ろ
終わった終わった
華奢なのに色つやが良くて黒なんかには程遠い、はじけそうな肌をしていた。きゅっと締まったふくらはぎに、肩の大きく開いたドレスにあどけない顔があって、大人の色気という脂が乗った子が保乃の隣を陣取った。
お開きだ〜って幹事が言ってたのをいい事に保乃に帰ると伝えて颯爽とトイレに逃げ込む。ひっどい顔だ、弾けそうな肌ではなさそう。
ご飯も食べたし、れなぁにも連絡したし、タクシーも呼んだ。
…可愛い子だったな。
あんな子、いたんや。
うちの高校に。
保乃の、まわりに。
あーもうこんなん来るんやなかった
結局もしかしてって思ってたんやろなどっかでな
怖いな、人間って
武元「こっちですぅ!」
ブーンとやってきたタクシーは深夜料金を取るらしい、家帰るまでいくらかかんねん、来んな飲み会一生こん
ドアが開くから、足から入る
ふんわりと香水の匂いがした。
「どぞ、どちらまで」
武元「櫻駅までお願いします」
「深夜料金になりますがよろしいでしょうかね?」
武元「はい」
開けられたドアにぶつからないようにきちんと頭を下げて乗り込む。
きちんと座席に座って運転手と会話をした後、「ドア閉めます〜」との一言に短く返事をして、前を向いた。
来ていたLINEでも返すか。
音楽聴くためにイヤホンでも取り出そう
事前に買っておいた酔い止めも飲まなくちゃ
変な音がする
いい匂いがした
田村「あの、まだ間に合いますかっ?」
武元「、は?」
閉められそうなドアの隙間あのデカい手が食い込んで、ガバッと開ける。
運転手もビックリして目をぱちくりさせている。
「すいません、配車したのに、まだ話すことがあって」
「えっ、あ、はい、大丈夫…です」
「すいません、…唯衣ちゃん」
「はっ、ほ、保乃っ!」
イヤホンを握っていた手を握られて引っ張られるとよろける。
そしたらあの胸板に飛び込んだみたいな形になって、降りたのを確認した運転手は乱暴な運転で帰って行った。
武元「ご、ごめん」
田村「いや、保乃こそごめん」
形上抱きしめられていた体をパッと離したのに、体が熱いのは酒のせい。
体に合わない料理のせい。
あとタクシーからした香水のせい。
あとこいつのせい。
武元「どしたん、抜けてきて。…よかったん?あの子」
田村「唯衣ちゃん帰るって言っとったから、走ったんよ、っ」
あげられた前髪から少ししたたる汗を見て目を見る。本当に走ってきたんだ。
息も少し上がって、シャツが苦しそう。
田村「もう帰っちゃうん寂しいやん」
武元「…もう、会いたい人にはある程度会えたし、いっかなって。…会いに来てくれてありがとう、はよもどり保乃。みんな待っとるで」
最大限可愛い顔を見せたくてはにかむ。
カバンをぎゅっと握りしめる。
着てきたコートの温かさに感動する。
帰りたい。
ほんとうに。
もうこれ以上顔を見られたくなくてふらっと背を向ける。
呼んだタクシーは青い春に溶けた。
歩いて帰ろう。
シンデレラの馬車なんてこの世にはないんだ
なんならガラスの靴なんて以ての外。
あるのはタイムカードとイヤホンだけ。
かっこいい白馬もいないんだから。
好きなんだよなぁ
全部。
声に出せばよかった。
言わないからきっと可愛くなれないんだって気づいた。
その瞬間、
息を飲む。
ぎゅう…
また好きになる音がした。
倉地の広い胸と太い腕との間に抱きしめられたのに気づいたのは保乃が口を開いてからだった。
田村「保乃から逃げんで、唯衣ちゃん」
武元「っ、」
田村「ホームで逃げられた後、保乃眠れんかった、唯衣ちゃんもう高校の保乃みたいにグズグズせんから、聞いて」
手を握られる
それはきっと彼にしたら控えめな拘束で
もう逃してはやらないからなという青だ。
風が吹く
そこにはもう雪は無くて
春だ。
田村「唯衣ちゃんのこと大好きです、保乃と結婚を前提にお付き合いしてください。」
体の力が抜けてカバンを落とした。
前のめりになって保乃の顔が自分の顔の真横にある。
握られた指先は優しく握り直されて込められるかのように縋る。
青春の日々のことが、鼻の奥に淡い匂いを残してかすめ去って行く。
一点の曇りのない言葉に、空が晴れたのだった。
田村「唯衣、ちゃん…?…ふふ、顔真っ赤っかや…かわい」
武元「………………」
田村「いひゃい、ゆい、ひゃ」
武元「、んふふふ」
田村「なにかおもひろい、」
武元「変な顔笑」
抱きしめ直される。
それはもう力強く、大きくて肉厚な胸板が飛び込んでくるから、空いた両手で抱きしめ返すと名前を呼ばれた。
保乃に手を繋がれる。
それが恥ずかしくて距離を取ろうとしたらすぐに詰められた。
落ちたカバンを保乃が持つ。
見つめられたので目線を逸らしたら、寂しいって言われた。
田村「唯衣ちゃん唯衣ちゃん」
武元「…今忙しい」
田村「お返事聞きたい」
武元「…わかるやん」
田村「いやや、保乃やって唯衣ちゃんの気持ち知りたい」
武元「うん」
田村「保乃とお付き合いしてくれる?」
武元「うん、」
田村「なんで恥ずかしがるんよ」
武元「やって、初恋やもん」
田村「…………………………ぇっ」
武元「…やっぱなし」
田村「無理、無理、保乃今の忘れんから、絶対忘れんから、あぁもう保乃今日死ぬかもしれん、だめやぁ、久しぶりの唯衣ちゃん死ぬかもしれん、可愛すぎる、」
武元「なにいうとんねん笑」
おわり