重なる影、繋ぐふたりの帰り道
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<第4話>
その後、公園からねむを家に送るため二人で歩き始めた。
オレはねむに再度おぶってやろうかと聞いたが、
さっきまでの調子とは打って変わって、ねむはオレの少し前を機嫌よく歩いている。
「で、寝不足の方はもう大丈夫なのかよ?」
『さっきぐっすり寝たから元気元気ー!』
「お前なー・・・」
『あと、やっと言えたから』
「?」
『鉄が好きって』
ねむがオレの方を振り向いて真っ直ぐに言ってくるもんだから
つい行き場を失った視線を横に外してしまう。
『あ!照れてやんの!』
「うっせーよ・・・」
『ふふっ』
いつもみたいにオレを茶化すように笑うねむの顔も、底抜けの明るさも、
今日は少し違って見えた気がした。
それから少し歩いたところで、曲がり角から見慣れた人物が姿を見せる。
「げ・・・」
『おじさん?』
駅の方角から帰宅途中のオヤジと鉢合わせた。
「・・・鉄男、今帰りか?」
「ああ、」
囲碁教室を辞めてからというもの、オヤジとの関係はギクシャクしたまま
最近ではほとんど顔を合わせて話す事もなかった。
「ねむクン、いつも鉄男が世話に・・・」
『お、おじさん!・・・私、鉄と付き合う事になりました!』
「!?」
体裁のためかねむにも挨拶をくれてるオヤジに対して、
急に何を言い出すのかねむがオレとの交際宣言を繰り出した。
「オ、オイ・・・」
『ふつつか者ですが、鉄がいつでも笑っていられるように頑張りますので、よろしくお願いします!!』
オレの制止を振り切るようにして深々とお辞儀をするねむの姿にオレもオヤジも呆気に取られていたが、その沈黙を破ったのはオヤジの方だった。
「・・・ねむクン、キミはいつも鉄男のことを考えてくれるね」
『っはい!鉄のこと、大好きなので!』
ねむはオヤジの言葉に反応して顔を上げると、満面の笑みでそう言ってみせた。
こっちが恥ずかしくなるほど正直なヤツだ・・・。
「そうか、ありがとう」
オヤジがねむに礼を述べているのでそちらに目をやると、
久方ぶりにオヤジと目が合ったような気がした。
「鉄男」
「!」
「・・・良かったな」
それだけ言ってオヤジはオレの肩を叩き、家の方へ歩いていった。
その時オヤジが見せた穏やかな表情に驚き、遠くなっていく背中をただ見つめて立ち尽くしていると、ねむが声をかけてくる。
『・・・鉄?』
「オレ・・・生まれて初めてオヤジに認められた気がするわ」
オレがそう言うと、ねむは嬉しそうに笑った。
もうあれ以来、
オヤジと分かり合うことはないだろうとオレは諦めていた。
それが、今日こうしてねむが繋ぎ止めてくれたのかとさえ思った。
ねむの笑顔につられてオレも自然と笑みが溢れる。
西の空には一番星が輝いて、夜が来るのを待っていた。
「・・・帰るか」
『うん!』
ねむの手を握り、家まであとわずかな道のりを二人並んで歩いて帰った。
今日という日がまたいつかの日に繋がっていくよう願いながら。
ーENDー