重なる影、繋ぐふたりの帰り道
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<第3話>
二人を後ろから照らす夕日が
重なった影をまっすぐ家路へと伸ばしていった。
「ところでお前そーとー寝不足みたいだが、毎晩遅くまで何やってんだ?」
エロい事か?と冗談混じりにからかうと、後頭部を思いっきり叩かれる。
『・・・勉強』
「ベンキョー?何でまた」
『この前受けたテストE判定だったの!だから必死で勉強してるんだよ』
中3になり、すぐに行われた志望校ごとに判定が出る学力テストの事を言っているのだろう。
テストの成績が悪かったから夜遅くまで勉強、か。
この異様に重いカバンには教科書や参考書が入っているのかと納得した。
「E判定て・・・もうちょい自分のレベルに合ったところにしとけよ」
『だって・・・鉄と同じ高校、行きたいんだもん』
「は?」
ねむの口から出てきた返答は思っていたものとは違っていて、オレは呆気に取られる。
『だって、高校離れたら多分こうして毎日鉄と会えなくなるから・・・』
その言葉から、期待に心臓が跳ねた。
「お、お前よー・・・近所なんだからいつでも会えるだろ」
『ヤダ!高校行ったら鉄、カノジョできるかもしれないし・・・』
「・・・だったら、何だって・・・」
『・・・鉄、あのね。』
ぎゅっとねむの腕に力がこもる。
その後に続く言葉を聞き逃さないように、ついにオレは足を止めた。
『覚えてないかもしんないけど、むかし私のお父さんとお母さんが鉄はうちの子みたいなもんだよって言ってた事があったじゃん』
「ああ・・・」
忘れる訳ない。
あの時、ねむが作ってくれたオレの居場所だ。
『私もそう思ってるしさ、いつか、本当にそうなったら良いなって、今でもずっとそう思ってるよ・・・』
ねむは一つ一つ紡ぎ出すように、時折震えるような声でオレに語りかける。
『・・・私、鉄のこと好きなんだよ。小さい時からずっと』
「・・・!・・・」
『鉄以外のヒトなんて考えらんないし、でも、鉄は私のコト・・・幼馴染としか、思ってないでしょ・・・?』
ねむの言葉は弱々しく途切れ途切れで、
泣いてる事に気付くのに時間はかからなかった。
『ごめん、急にこんな話して・・・もう下ろして、一人で歩けるから』
ねむは腕の力を緩めて下りようとオレから身体を離したが、
それを無視してオレは歩き始めた。
『!?』
後ろでねむが戸惑いながらオレの名前を呼んでいたが、気にせず足を進め、近くの公園に着くとベンチにねむを下ろす。
「お前は一人で喋りまくりやがってよぉ・・・」
座らせたねむを見下ろすような形でベンチの前に立ったが、心配そうにオレの顔を覗き込むねむを見て、オレはその場にしゃがみ込んだ。
オレは、期待してなかった。
ねむがオレの事を好きなんて。
ねむも同じようにオレに期待してなかったのが分かって、今までなんで言えずにいたのだろうかと自責の念に駆られる。
ハーッと長いため息が出て、
言葉がうまく見つからず沈黙していると、先にねむが口を開いた。
『鉄、ほんと急にごめん!これからも、今まで通り幼馴染でいて?私、鉄にカノジョできても全然、へいき・・・』
そう言い終わる前に目からボロボロ涙が溢れてくるねむを見て、オレは考えるより先に言葉が出てきてしまった。
「ヤだね。」
『・・・!?』
「つーか、オレお前以外の誰かと付き合うつもりねぇから。・・・オレも、ねむが好きなんだよ」
『・・・え?』
驚いたように目を大きくしてるねむの涙を手で拭ってやる。
「そんで、泣くな。お前に泣かれるとオレ、どーしたら良いか分かんねぇんだよ・・・」
『!』
「・・・って、ガキの頃もこんな事言ってたっけな」
昔の情景と重なり、ハハッと笑いが込み上げてきた。
『鉄、変わらないね』
傾いた夕日が、ねむの顔を照らしている。
微笑みながらオレを見つめ、頬にわずかに残った涙が光っていた。
オレがねむのことを好きだと気付いたあの日と同じ、
その笑顔を見て、心の底から安心した。
「・・・お前もな」
ーTo be continueー