君がいれば
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<あの日と同じような空>
月曜日の放課後。
煙草を吸おうと屋上の扉を開けると、
だんだんと落ちてきた西日がやけに眩しく目を細めた。
するとそこにねむがいる事に気付いた。
『よっ』
オレがここを喫煙場所にしているのを知っているねむは、オレに何か用事がある時は大抵ここに来る。
フェンスに沿って横に並び、オレは煙草に火をつけようとしたが、それはねむの手によって阻まれた。
「あ?何しやがる」
『未成年。ほらコレあげるから』
「チッ」
煙草の代わりに棒付きのアメをよこされ、仕方なしにそれを口にしてその場にしゃがみ込む。
『・・・昨日、どーだった?囲碁大会』
「あー・・・塔矢が来てた」
どうやらねむは昨日オレが囲碁大会に参加した事が気にかかっていたらしい。
『塔矢?あの子まだ小学生でしょ?』
「ギャラリーだよ。なんで居たのか知らんが、あのガキの対局を食い入る様に見てたぜ」
『鉄、塔矢と喋ったの?』
「いや・・・オレのことなんて眼中にねぇってカンジだったな」
進藤とかいうあのガキの碁を目の当たりにし、心を動かされたのは塔矢も一緒のようだった。
オレには到底打てないような対局に、あの場にいた誰もが目を奪われていたのも事実だ。
塔矢が目指す目標はオレが思っている以上に遥か高みにあるのだろう。
『・・・そっか』
「いいんだよ、別に。オレはやっぱり将棋の方が良いって再確認できたからな」
あんなに塔矢を嫌っていたオレだが、
不思議と昨日で気持ちの整理がついたように今日は穏やかな気分だ。
それ以上特に何も発する事なく、口に入ったアメをただ味わっていると、
ねむが突然オレの頭を撫でてきた。
「!・・・」
一瞬払い除けようとしたが、その手の温かさに大人しく応じることにした。
『あれっ。なんか今日の鉄、素直じゃん!』
「一応昨日で吹っ切れたっつーか、一区切りついたからな。素直に慰められてやるよ」
『あははっ、エラソー』
「偉いんだよ、オレは。なんだかんだ囲碁部も部として認められたしな」
『・・・鉄、ほんと筒井くんの事好きだよね』
「あぁッ?!なんでそーなる・・・」
さすがにその件には異論があるので、手を払い除けてしまった。
『え、違うの?』
訳の分からん解釈をしてるねむにため息が出る。
「お前のお人好しが移っただけだっつーの・・・」
困ってたんだよ、筒井は。
オレと状況は違うが、アイツも一生懸命なんだ。
そーゆーヤツをほっとかないねむみたいに、
オレも助けてやりたかったんだよ。
『てつは・・・いつも一生懸命です!囲碁も、おじさんの期待に応えられるようにって、いつもがんばってる・・・。でも本当は、てつは将棋がやりたいんだ。おじさん、てつから好きなものをうばわないであげて!』
あの日ねむがオレを庇ってオヤジに言った言葉が脳裏に蘇る。
あんな風に真っ直ぐに誰かを助けてやる事はできないが、オレの中で昨日の大会への参加は上出来だった。
『鉄が優しいんだよ』
こんなオレの行動の意図を汲み取ってくるねむに対して、オレは何も返答する事なく、口の中でずいぶん小さくなってしまったアメを噛み砕いた。
『あれ、もしかして照れてる?』
「・・・うっせー」
口に残ったアメの後味がひどく甘く感じたのと同時に、
そーいえば今日はあの日みたいな夕焼けになりそうだなと
空を仰いで小さく呟いた。
ーENDー