昼下がりのあの子
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<第5話>
それからあっという間に5年の歳月が経とうとしていた。
この年の1月8日は冬休み明けの始業式で、
午前中には生徒も下校し、校内は静まりかえっていた。
明日から通常授業になるので、その準備に当たっていると刻一刻とその時が近づいてくる。
平日の昼下がり、
決まって保健室にやって来る男の子。
耳を澄ませば、
聞こえて来る懐かしい足音。
「先生ー、仮眠とらせてくれ」
『・・・ほんとに来てくれたんだ』
「オレは約束を守る男だぜ」
そう言って保健室のドアを開けた加賀くんは、以前にも増して大人っぽくなっていて驚いた。
と同時に、まさか本当に現れると思わなかった人物がそこにいる現実に目眩さえ覚えた。
久方ぶりに話す相手とぎこちなくも他愛のない言葉を交わす。
『・・・また、身長伸びた?』
「ああ、少しな。先生は相変わらず小せぇな」
『私は伸びないよ。もう26歳だよ?』
自分も歳食ったなーと、何年経っても埋まることはない加賀くんとの歳の差を自虐的に笑ってみせた。
そうやって加賀くんが会いに来てくれた現実に期待しすぎないようにしたが、
いとも簡単に私の思惑は打ち砕かれる。
「そんなもん、今のオレには関係ねェわ」
『・・・・・・加賀くん、まだ私のこと好きなの?』
「だから今日、迎えに来たんだろ?」
真っ直ぐに私を見つめる加賀くんの瞳は、
あの頃と何一つ変わっていなかった。
私は左手に大切に仕舞っていた思い出をぎゅっと握りしめると、
それに気付いた加賀くんが手を差し出してくるので、そっとひらいて見せた。
「・・・先生が誰のモノにもなってなくて良かったわ」
安堵したように笑う加賀くんの言う通り、私の左手には何も付けていない薬指と、あの日もらった第二ボタン。
そして手のひらには今日の日付をペンで記していた。
あの日から
忘れないように、消えそうになる度に何度も書いた日付だ。
『加賀くんのこと、信じて待ってたからね』
「待たせた分もすぐに取り返してやるよ」
その自信に満ち溢れた表情も、全部覚えてる。
細い糸をたぐり寄せるように迎えた今日。
ここから先の未来はまだ何も分からないけれど、
二人で作っていけたら良いな。
私の目の前で笑う、昼下がりのあの子と。
ーENDー
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