昼下がりのあの子
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<第4話>
それから季節は移り変わり、
寒い冬を越えた今日は少し肌寒さは残るものの、麗かな春の陽気が辺り一面に降り注いでいる。
あの日、私は加賀くんの告白を断った。
私なりに誠意を込めて、彼が新しい未来へと踏み出していけるように。
その後も変わらず加賀くんは保健室に遊びに来てくれた。
昨日までは。
今日は、卒業式だ。
式を終えて各教室で最後のHRが終わると、ざわざわと生徒が廊下や昇降口で賑わっているのが聞こえてくる。
保健室にも何人かの生徒が挨拶に来てくれて、私もみんなに餞の言葉をかけて送り出した。
初めて送り出す側に立つと、自分の時も先生はこんな気持ちだったのかな、と改めて有り難みを感じた。
そんな感慨に浸っていると聞き覚えのある足音が保健室に近づいてくる。
「先生ー、仮眠とらせてくれ」
それなんか決めゼリフ?ってくらい、この一年間よく聞いた。
『加賀くん、さすがに今日は営業終了だよ』
「良いから良いから〜」
まぁ最後だし、今日は思い出に浸らせてあげようかなと
やっぱり私は彼に甘いと思う。
加賀くんは馴染みのベッドに腰掛けて、今日で最後かーと保健室を見渡して言った。
『・・・にしても凄いね』
「んぁ?」
『学ラン。ボタン全滅してる子って初めて見た』
「あぁ、女子に群がられて全部むしられた」
『ふふ、加賀くんやっぱりモテるんだ』
安心した。
校内では「泣く子も黙る加賀」なんて呼ばれてたけど、加賀くんのこと見てくれてる子は沢山いるんだって。
「第二ボタンは死守したぜ」
『・・・え?・・・ぉっと』
加賀くんはポケットから取り出したボタンを指でピンっと弾いてこちらに飛ばしてきて、
慌ててキャッチして手に収めたそれは、窓から差し込んだ陽に反射してキラッと光った。
「先生にやる。オレが先生のこと好きだっつー証明。あともう一つ・・・」
立ち上がりこちらに近付いてくる加賀くんが私の左手をひらいて、手のひらにペンで何やら数字を書いていく。
・・・20・・・1.8・・・
5年後の1月8日の文字だった。
『?』
「オレのハタチの誕生日。先生のこと、迎えに行く」
・・・私の気持ち、気付かれてた?
びっくりして少し顔が熱くなったのを感じたけど、平常心を保つ。
『加賀くん、前にも言ったけど私のことは・・・』
「オレ、やっぱ先生のこと思い出にできる自信ねェわ。・・・オレが大人になって余計な心配事がなくなったら、もう一度考えてほしい」
『・・・』
加賀くんの言葉一つで、私の心はぐらぐらと揺れた。
立っているのも儘ならない程、それを支えるのは私の中に僅かに残った自制心と理性だけだった。
私はやっとの思いで言葉を絞り出す。
『・・・・・・・・・その時、私に彼氏がいなければね』
「そん時は、奪ってやるよ」
ニッと笑って見せた表情が自信に満ち溢れていて、
加賀くんらしいなと思って、笑ってしまった。
『あはは、すっごい自信。そーだね、期待しないで待ってるよ』
満足そうに笑う彼の表情に私も全部持っていかれそうだったけど、
今はまだ、私たちは
先生と生徒。
『加賀くん、卒業おめでとう』
ーTo be continueー