短編
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<夏の始まり>
梅雨明けが発表されて間もないというのに、
照りつける太陽によって毎日の最高気温は更新し続け、私の体力はじわじわと奪われていく。
あまりの暑さに何か凌ぐものを求めて近所のスーパーに買い物に来た。
一目散にアイスコーナーに行くと、色とりどりのアイスがそこには並んでいる。
そんな中で異彩を放つ、売れ行き抜群のアイスが目に飛び込んできて、私は吸い寄せられるように手を伸ばした。
(ああっ、そのラス1のガリ●リ君リッチ、私がもらったァー・・・!)
『「!?」』
私がアイスの端を捉えたのと同時に、横から同じアイスを捉えた人物がいた。
『鉄!』
「あ?なんだねむか」
幼馴染で彼氏の加賀鉄男だ。
『なんだ、鉄も来てたんだ。これは私が買うんだもんね?』
当然譲ってくれるもんだと思って笑顔でアイスの端を引っ張る。
「いやいや、タッチの差でオレのが早かっただろ」
『いーや!私だね!』
お互い譲れぬ攻防戦へとなだれ込み、あまりの暑さに限界を迎えていた私はバチバチに火花を散らす。
「ジャン、ケン・・・」
そんな中、鉄が公平なジャッジを下すべく片手を振りかざしてきたので、私も条件反射でそれを受ける。
『ホイっ!!』
・・・・・・・・・負けた。
「へっ!オレ様の勝負強さをなめんなよ」
うん・・・知ってたよ。
ジャンケンですら鉄に一度も勝ったことないもん。
もっと自分に有利な勝負を持ち込めば良かったと後悔しつつ、他のアイスを選ぶ。
『仕方ない、フツーのガリ●リ君で我慢するか・・・』
良いもん。節約、節約・・・と自分に言い聞かせながら安いアイスを買う事にした。
上機嫌でレジに並ぶ鉄の後ろで、
てか奢れよ!彼氏だろ!と私は心の中で悪態を突いていた。
「ありがとうございましたー」
『あー暑い暑い!』
店から出ると一気に耐え難い暑さが襲ってきて、早速アイスを食べるべく袋を開けようとしたところ、横からひょいっと鉄に取られる。
『あー!何すんの!』
「気が変わった。お前こっち食えや」
鉄は自分が買ったアイスを私の目の前に差し出す。
『え、ありがと・・・』
「にしても、あちぃー」
話を逸らすように私が買ったアイスを食べ始める鉄。
ほんと、いちいち優しいんだもんな。
有り難く鉄が買ったアイスを口にする。
『ん〜〜〜サイコ〜〜〜』
冷たい食感と喉越しに一気に生き返ったような爽快感を覚える。
鉄の優しさも相まって、私の顔は緩みきっていたと思う。
「・・・」
『あ!鉄、ひと口あげるよ!ほんとはこっちが食べたかったんでしょ?』
鉄が何か言いたげにこちらを見てるので、一つ提案してみた。
『・・・あ、イヤなら、別に、良いけど・・・』
が、よく考えたら私の食べかけだし、間接キスではと恥ずかしくなってしどろもどろになってしまう。
「いや、もらうわ」
そんな心配は杞憂だったようで、素直に応じる鉄にアイスを差し出した。
『どうぞどうぞ!・・・っん』
するとアイスを差し出した手は掴まれ、鉄の顔が近付いてきたと思ったら、私の唇は塞がれた。
「・・・甘い」
べっと舌を出して笑う鉄の顔がめちゃくちゃ近くて、顔から火が出るほど一気に熱が上がってくるのが分かる。
『!・・・・・・・・・』
「オイオイ、あんまりフリーズしてっと肝心のアイスが溶けるぞ」
『えっ、あー!』
そのあと溶け出したアイスを一気に口に運んだけれど、
私の熱は一向に冷めることはなかった。
周りはうだるような暑さでセミの声が鳴り響いていて、
まだまだ夏の暑さも衰えを知らない夏休みは、始まったばかりだった。
ーENDー