短編
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<告白>
放課後。
生徒は帰宅し人気がまだらになった廊下を一人歩いていた。
今日は鉄と帰ろうと思って将棋部の部室へ向かうと、中から可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。
部室のドアにかけた手が止まる。
「加賀先輩が好きです」
清々しい程にまっすぐな告白場面だ。
その声が向けられている相手も中にいるのだろう。
私は告白の相手である鉄がなんて答えるのか気になって、その場で動けないまま耳をそば立ててしまった。
「あー・・・悪い、オレ好きなヤツいるんだ」
・・・
聞かなきゃ良かった。
思ったよりダメージが大きかった私はその場でふらつき、ドアに身体がぶつかってしまった。
「!」
ガタンッと思いの外大きな音を立ててしまった事に慌てて、走ってその場を後にした。
バタバタバタ・・・
「何やってんだよ、アイツ・・・」
私は走り去る後ろ姿を鉄に見られているとは気付かず、無我夢中で走った。
『はぁっ、はぁっ、はぁっ、ハァ〜〜〜・・・』
下駄箱まで走り切った頃には息が上がり、その場にへたり込んでしまった。
同時に鉄に好きな人がいた事に対するショックが押し寄せてきて、涙が溢れる。
私は、ただの幼馴染だ。
ずっと鉄の隣に居れる訳じゃない。
頭では分かっていたつもりだったけど、それが現実となって目の前に叩きつけられた気がして、
どうしたら良いのか分からない感情に苛まれる。
『・・・グスっ・・・』
「立ち聞きたぁ、イイ趣味してんじゃねーか」
『っ!鉄・・・!』
「あ?何泣いてんのお前・・・」
気付いたら後ろに鉄が居て
私は慌てて涙を拭う。
「オレのこと迎えに来たんだろ?帰ろーぜ」
『・・・な、何のこと?』
「さっき途中までしか聞いてなかっただろ。ねむに話があって来たんだよ」
『っ!』
気付かれてたんだ。
でも、聞きたくない。
もう鉄の隣に居れなくなっちゃうから。
「あのな、何か勘違いしてるみてーだが、オレの好きなヤツって、お前の事だから」
『・・・?』
・・・
・・・
・・・
「・・・いや何とか言えよ!」
鉄の言葉がよく理解できない。
さっきの事といい頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「はぁ・・・お前ほんっとニブいのな。オレの目ぇ見ろ」
座り込んでる私に視線を合わすように、鉄はしゃがんで半ば強引に私の顔を自分の方に向かせる。
「ねむ、お前が好きだ」
『!』
私をまっすぐに見つめる鉄の瞳と少し赤らんだ頬が言葉の意味を明確にしていく。
私もきっといま顔が真っ赤だ。
「・・・返事は?」
恥ずかしそうに聞く鉄にハッとなって私も言葉を紡ぐ。
『わ、私も・・・鉄が好きだよ』
いま何が起こってるんだろう。
夢みたいな現実が目の前にある。
ふわふわした意識のまま鉄に抱きしめられた。
「・・・やっと伝えられたわ」
鉄の安心したような優しい声がそっと耳元に届いて、私も鉄の背中に手を回してぎゅっと抱きついた。
ーENDー
〜番外編・加賀視点〜
ガタンッ!
バタバタバタ・・・
「何やってんだよ、アイツ・・・」
急に教室のドアが大きな音を立てたので廊下に目をやると、走り去っていくねむの後ろ姿が見えた。
その姿がおかしくて、フッと笑みが溢れてしまった。
「・・・加賀先輩の好きな人って、あの人ですよね?」
「!・・・知ってたのか」
「ずっと見てたから、分かります」
そうか、オレってそんなに分かりやすいのか。
「・・・こんなこと聞くのもなんだが、アンタ分かっててオレに告白したのか?」
「・・・はい。だって、言わないときっと後悔するから」
そいつが発した言葉に妙に納得してしまった。
オレたちは、ただの幼馴染だ。
隣に居れればそれで良いと思っていたが、それは永遠じゃない。
もしねむがオレ以外を選んだ時、オレは何も言わないまま後悔するのか?
オレはアイツにまだ何も伝えてない。
それはただの驕りで、
本当の気持ちを伝えないといけないと思った。
アイツが今は幼馴染としてでもオレの隣に居てくれているうちに。
「アンタのおかげで腹が決まったぜ。ありがとな」
「いえ。ねむの木先輩もきっと加賀先輩のこと好きだと思います」
「どーだかなァ・・・」
どうかそうであってほしいと願いながら、
オレはアイツを追いかけた。
ーENDー