短編
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<髪結い>
今日から私は中学生になった。
新しい制服に身を包んで家を出ると、数10m先に幼馴染の加賀鉄男の姿があった。
いつもの調子で追いかけて声をかける。
『鉄ー!おっはよ!』
「ふあ・・・朝からテンション高ぇな・・・」
入学初日だと言うのに、鉄はまだ眠そうだ。
『だって今日から中学生だよ?!新しい制服着て新しい生活が始まるってワクワクしない?』
「しねぇよ、悟空かよ…」
『ノリ悪いなー鉄は』
私と鉄は小学生の頃からいつもこんな感じで、家が近いこともあって中学生になっても朝は変わらず一緒に登校する事になりそうだ。
正直、期待していた。
小さい時から一緒にいて、鉄の事を好きだと意識し始めた時から告白はできてない。
ただいつもこうして隣にいる事が当たり前で、これからもそれは変わらないんだって安心した。
「・・・?・・・つーかお前、なんでいつもと髪型違うワケ?」
『校則でしょ。肩より髪が長い人は切るか結ぶかって』
「ふーん。急に色気づき出したのかと思ったぜ」
ペシペシと二つに結ばれた片方の髪を、鉄は折り畳んだ扇子で叩く。
『ちょ、やめて。色気づくってそんなワケないでしょ』
「でもま、オレは結んでない方が良いと思うぜ」
鉄が私の頭に手を伸ばすと、シュルッと髪ゴムを外して黒髪が風になびいた。
『・・・あー!何すんの!せっかく朝キレイに結んだのに!!』
「別にいーじゃねーか、そのままで」
『良くない!入学早々校則破ってコワイ先輩に目ぇ付けられたらどーすんの?!』
「逆にシメる」
『鉄と一緒にしないで!もーーーー・・・』
朝何度もお母さんに見てもらいながら、慣れない二つ結びを仕上げたのに、鉄のせいで台無し!
鏡がないと結び直せないし、学校着いてから間に合うかな??
そしてそこに辿り着くまでにコワイ先輩に目を付けられないか…
色んな事を考えながら焦っていると鉄がまた私の頭に手を伸ばしてきた。
「悪かったって。オレが結んでやるから、じっとしてろ」
『・・・へ・・・?』
そう言うとお互い足を止めて、鉄が私の髪を手で梳かしながら整えてくれる。
初めて鉄から髪を結ばれている状況に、急に恥ずかしくなって顔が熱くなっていくのが分かる。
鉄にバレないように平気なフリをして耐えていると、あっという間に髪は二つに結ばれた。
正直さっき自分で結んだのより上出来だ。
『わぁ・・・鉄、すごーい!器用すぎない??』
「フッまぁな、オレ天才だし」
いつものオレ様っぷりを炸裂する鉄に私の緊張はほぐれ、軽快な足取りで学校に向かう。
『また髪乱れたらお願いね?』
「いいぜ、オレ様が専属で結んでやるよ」
『わーい!』
こうして二人の当たり前の日常が増えていく。
これからどんな中学校生活になるのかな?
鉄との楽しい未来を想像しながら、結んでもらった髪をそっと撫でてみた。
ーENDー