恋を覚える
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飛行訓練場までの道を歩きながらリーバル様のことを考えていた。
上手に話せない私に合わせて語りかけてくださった少し低いお声、お優しい眼差し、穏やかな笑み……思い出すだけでなぜか胸の高鳴りがとまらなくなってしまう。
「…不思議な方でございます」
もうそろそろ着こうかという頃、私は風に違和感を感じ始めていた。短い頻度で何度も上昇気流が発生しているのだ。まるで意図的に生み出しているかのようなーー
「うわあああっ!」
はっとして顔を上げるとリーバル様が上昇気流に巻き込まれていた。勢いを残したまま投げ出されたリーバル様は地上に打ち付けられる。
「っ…!!」
最悪の事態が頭を過って大急ぎで向かうと、少し蹌踉めきながらも何とか自力で起き上がっていた。
「リーバル様っ!」
リーバル様は私に気がつくと決まりが悪そうにお顔を顰められる。
「……少し来るのが早すぎるんじゃないの?」
「お待たせしてはいけないと思いまして……あのっお怪我は…」
「心配いらない。いつものことさ」
砂利を翼で払うとリーバル様は立ち上がった。
「やれやれ…君には成功するところだけ見せたかったんだけどな」
見れば周囲の至るところに同じような打ち付けた跡がある。その中にはできたばかりと思われるものも多い。
「もしや私に見せるために朝早くから練習をなさっていたのですか…?」
「フン……呼び出した以上がっかりさせるわけにはいかないからね」
そう仰ると背を向けて数歩前に歩き立て膝をつく。
「リーバル様っ…危のうございます!急がずとも次の機会でよいのでは…」
「それだと意味がなくなるかもしれないだろ?」
「えっ?」
「…とにかく見てなよ。君、きっと忘れられなくなるぜ?」
振り向いたリーバル様は先程の失敗を恐れぬ自信に満ちた笑みを浮かべていて、途端にまた私の心臓が大きく跳ねた。
前に向き直ったリーバル様の周りに一際強い上昇気流が発生する。
「ーーはあっ!」
掛け声とともに大きく翼を広げた瞬間、風に乗って一気に上空まで舞い上がった。しかしそれも間もなく渦の中の激しい気流でリーバル様は体制を崩しかけてしまう。
恐ろしくなって顔をそらそうとしたその時、リーバル様が真っ直ぐに上を見据えて再び力強く羽ばたいた。
そして風を掴むと今度は渦の中心に乗り、更に天高くへと駆け上ったのだ。
「っ…!」
それから時を置かず空中でオオワシの弓にバクダン矢を番えると神業のような弓さばきで次々と的を撃ち抜いていく。
ーーああ、なんて鮮やかなのだろう。
爆煙の中を駆け抜けるその御姿は箒星の如き力強さで未だかつてないほど私の目に鮮烈に映った。
呆けている私の前にリーバル様がさっそうと降り立つ。
「ちゃんと見てたかい?」
「っ…まるで奇跡を見ているようでございました。こんなにも胸が打たれるのは初めてでございます……!」
感動のままにお答えする私を見てリーバル様は可笑しそうに笑っていた。
「驚くだろうと思ってたけど、そんなに目を輝かせるなんてね。…まあ僕としても悪い気はしないよ」
「も、申し訳ございません!つい…」
燥いでしまった自分にだんだんと恥ずかしくなってきてしまい、リーバル様のお顔を直視することができない。
「もう少し僕の技を披露してあげたいところだけど……どうやらもう時間みたいだ」
「えっ?…あっ姉様…」
振り返ると姉様が手を振っていた。
「言っとくけどもう飛び降りたりしないでくれよ?さすがの僕も目に見える範囲じゃないと助けられないからね」
「わ、わかっております…!」
「フン、それならいいけど」
リーバル様は後ろ手を組むと横目で私を見る。
「…じゃあもうそろそろ行きなよ」
「はい。…あのっリーバル様…」
「何だい?」
「短い間でしたがありがとうございました。それから……どうか息災で」
「…ああ。君もね」
ちくりと痛む胸に蓋をしてリーバル様に一礼をすると私は姉様のところへ歩いていった。
「姉様、お待たせいたしました」
「大丈夫ですよ!姫様とリンクも下で待っていますから帰りましょう」
「はい」
「それにしでも色々なことがありましたね。帰ったらゆっくりしたいです!」
「ふふっ…左様でございますね」
ーーー
ハイラル城に戻ってから数日ーー
「……はぁ」
私は体の不調に悩まされていた。
「リーチェ、大丈夫ですか?」
「姫様……大事ありません。少し長旅の疲れが取れていないだけでございます」
姫様にはそう申し上げたけれども本当は疲れではない気がしている。
あの日以來、リーバル様のことばかりが頭の中を占めてしまうのだ。朝起きてから夜に眠りに就くまで何度も思い出してしまい、その度に胸がとても締め付けられていた。
もしや私は何か病にかかってしまったのではないか…。そんな考えに至るとだんだん心配になってくる。
「…プルア姉様にご相談してみましょう」
ーーー
翌日、私はプルア姉様が働いていらっしゃる王立古代研究所へと足を運んだ。
「ハーイ、チェッキー!」
「お久しゅうございます。プルア姉様」
1人で来た私を見て姉様は大きな目を更に丸くなさる。
「1人で来るなんて珍しいじゃん。どうしたの?」
「その…姉様に折り入ってご相談がございまして……」
「インパじゃなくて私に?まあ丁度ロベリーもいないしいいよ。付いてきな」
「ありがとうございます」
姉様は首を傾げながらも奥の部屋へ通してくださった。
「病気かもしれない?」
「…はい。ですが何の病なのか分からなくて…」
「うーん…あたしは医者じゃないからちゃんとしたことは分からないけど話は聞いてあげるよ。とりあえず飲みな」
「はい。…いただきます」
白い横線と数字の入ったガラスの湯呑にお茶が注がれている。姉様お気に入りのこの食器はどこの食器屋でも見かけたことがないからきっと特別な品なのだろう。
「それで…どんな症状があるの?」
「えっと…胸が締め付けられて、それから苦しくなるのです」
「胸かー…。どんなときに締め付けられるかわかる?」
「それは…その…」
「どんなことでもいいよ。言ってごらん?」
姉様の優しいお言葉に促されて私は寝ても覚めてもリーバル様のことばかり考えてしまうこと、その度に胸が締め付けられることを全てお伝えした。
「……なるほどね〜」
「何かお分かりになりましたでしょうか…?」
「フフフ、わかっちゃったよ!」
好奇心に満ちた笑みを浮かべて姉様が身を乗り出す。
「リーチェはね、恋をしてるのさ」
「……恋、でございますか?」
「その様子だと意味が分かってないでしょ」
姉様は少し呆れなつつも私にも分かるように丁寧に教えてくださった。
「つ…つまり……全ての起因は…」
「リーバルへの恋心ってこと!」
沸騰したかのように顔が熱くなっていくのが自分でもわかる。
「わわ、私…何てことを姉様に……!」
あまりにも恥ずかしくて穴があるのなら今すぐに入ってしまいたい。
「あははっ無自覚だったんだから仕方ないよー」
そんな私を見て姉様は可笑しそうにお腹を抱えて笑っていらっしゃる。
「で?この後はどうするか決めてるの!?」
「えっと…はい、城に戻って弓の稽古を…」
「違うっ!リーバルと両思いになるための計画に決まってるでしょ!」
「ええっ?!」
まだ恋を覚えたばかりだというのに計画などと言われてもどうしたら良いのかわからない。それに……
「きっと叶わぬ恋でございます」
「そんなの分からないじゃない」
「リーバル様からすれば私は異種族の者に過ぎません。ですから……ただ想うだけでよいのです」
恋というものを教えてくださったリーバル様には心から感謝しているのだ。
「それは違うんじゃないかなー」
「えっ?」
「リーチェは異種族でもリーバルのことを好きになった訳でしょ?それなら逆の可能性だって十分にあると思わない?」
「そ、それは…」
「それに過去にはゾーラ族の姫がハイリア人の騎士に恋をしたっていう逸話もあるらしいし、異種族ってだけで悲観することないよ」
「姉様……」
まだ叶えるだけの勇気はないけれど、いつの日か…想いを伝えることが許されるのならーー
ほんの少し…淡い期待を持ってみたい。
「ありがとうございます。やはり…リーチェはこの恋を大切にしとうございます」
「うん。それがいいね」
姉様と笑い合う。それから後はリーバル様のことを根掘り葉掘り聞かれてしまい、とても恥ずかしかったけれど久方ぶりに楽しい時間を過ごすことができたのだった。
ーーー
「ま、いざとなったらお姉ちゃんが惚れ薬を開発してあげるから任せておきな」
「惚れっ…?!そ、それはいけません姉様!」
「あははっ冗談冗談!本気にしちゃって可愛いんだからー」
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