恋を覚える
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この子が落ちていくのを見たら反射的に体が動いていた。……リンク様のお顔が上へ上へと遠ざかる。
『ピーッピーッ!』
「…リーチェには風がございますから心配いりませんよ」
それでもこの高さだと私は無傷では済まないと思うけれど、ガーディアンなら大丈夫なはず…。
少しでも衝撃を和らげようとしたとき、予想していたよりも遥かに早く背中が何かにぶつかった。
「えっ…?!」
視界を舞う紺色の羽に思わず目を見開く。信じられないことに、落下する私達をリト族の方が受け止めてくれたのだ。
どうしてそんなことを……
口を開きかけたその時に舌打ちが聞こえたので口をつぐむ。そしてゆっくりと降下したリト族の方は、そのまま雪原に着地した。
恐る恐る顔を上げると、紅に縁取られた翠緑の瞳とかち合う。色鮮やかな見た目は人と全く異なる姿形にも関わらず、ひと目見て綺麗な方だと思った。
「あ…あの……」
「翼もないくせに飛び降りるなんて何を考えているんだ!僕が助けなかったら死んでいたかもしれないんだぞ!?」
急に発せられた大きな声に思わず体が強張る。
「もっ…申し訳ございません…!」
リト族の方々は私達に敵意を抱いているはずなのに、何故かこの方は本気で私を心配してくださっていた。
ーーこの方なら話を聞いてくださるやもしれない。そう思いかけたとき、至近距離から弓を構えられる。
「っ……!?」
予想ができたことなのに早くて動くことが出来なかった。
「この矢で射抜かれたくなかったら、これから僕が聞くことに素直に答えるんだ。……いいね?」
「は、はい…」
私も射手の端くれ故に所作で分かってしまう。……この方には敵わないと。
先程まで相手をしていた方々とはまるで格が違っていた。
「そうだな…まずは君の名前から聞こうか」
「…リーチェ…でございます」
「…じゃあリーチェ、君らは何の目的でその魔物を操るガーディアンと行動を共にしているんだい?」
魔物を操るガーディアン…?
胸に抱いたままの白いガーディアンを見る。
「魔物を操るとは…一体、何のことでございましょう…?」
「知らないのか?そのガーディアンは何度も魔物を率いて僕らの村を襲撃している。数日前だってそうだ」
そう言って戦士様は鋭い眼光でガーディアン様を睨んだ。
「っ…それは何かの間違えでございます…!」
「僕はこの目で確かに見た。その特徴的な形…間違いなくそいつだったよ」
「しかし…この子はハイラルの姫、ゼルダ様と片時も離れず過ごしておりました。それなのにどうやって襲撃などできましょう…?」
「姫だって?…君ら一体…ーーっ!」
戦士様が横の茂みに向かって矢を放つ。次の瞬間、目にも止まらぬ速さで出てきたのはリンク様だった。
「リンク様っ!」
「フン、もう追いついてきたのか」
リンク様は戦士様から庇うように私の前に立つ。それを目にした戦士様の表情は先程までよりも険しくなった。
「……そこをどきなよ」
「………」
たちまちにして二人の間に流れる空気が緊迫したものへと変わっていく。そしてとりなす間もなく戦士様はリンク様に対して仕掛けられた。
「ど、どういたしましょう…!」
『ピーッ』
共に強者である二人の戦闘は凄まじく、止めるどころか巻き込まれないよう身を守るので精一杯になっている。
それにしても…ハイラルで1番と言っても過言でないリンク様と互角に戦うなんて、あの方はもしやーー
「待ってください!」
空気を割くようにして凛とした声が響いた。
「姫様?!なぜここに…」
「リーチェ…無事で良かった。私達の方まで騒ぎが聞こえてきて心配になって来たのです」
「ゼルダ姫……本物か?」
驚いた様子の戦士様に姫様は毅然として向き合う。
「…貴方はリーバルですね?仰るとおり私はハイラルの姫、ゼルダです。王の使者として貴方にお願いがあって参りました」
「ハイラル王が僕に?……まあ、とりあえず話は聞くから付いてきなよ」
姫様がいらしてくださったことでこの場は収まり、何とか村へ入る許可を頂けたのだった。
ーーー
僕は神獣ヴァ・メドーの繰り手を依頼してきた一行にリトの村に起きていることを話した。彼女が言っていた通りあの白いガーディアンは襲撃とは無関係だったようだ。
そして聞けばリーチェは姫付きの侍女だとか。あの怯えようから戦士ではないと感じていたが侍女というのは流石に驚いた。
姫付きの侍女にもなると戦闘術を叩き込まれてるのかもしれないけど、侍女相手に押し込まれるなんてリトの戦士の面目は丸潰れだな…。
「あ……あのっ…!」
広場で夜風に当たっていると後ろから控えめな声が聞える。少し前から気配を感じていたが、やっと話しかける決心がついたようだ。
「リーチェ…だっけ?僕に何か用?」
ただ聞いただけなのに彼女の肩がびくっと大きく跳ねる。それでも懸命に言葉を紡ごうとしている様子から急かさないほうがいいのだろうと思い待つことにした。
「お…お礼を…言いたくて……」
「お礼?…ああ、落ちてきたときのことか」
「は、はいっ…その、危ないところを…ありがとうございましたっ」
そう言ってリーチェは頭を下げる。僕のことが怖いくせに律儀なやつだ。
「別に……ただの気まぐれさ。それより君、いくら僕が恐ろしいからってもう少し流暢に話せないのかい?」
余計に怖がらせるだけなのに心無い言葉が出てしまう。そのまま走り去るかと思ったら彼女は返事をしようとしていた。
「こ、怖いとは…思ってはおりません…」
「じゃあ、何でそんなに辿々しいのさ」
「そ、それは…その…わ…若い殿方と言葉を交わすことに慣れておらず……」
そう言われてよくよく見ると、リーチェの顔はイチゴのような真っ赤に染まっている。僕の視線に気づいた途端、彼女は両手で顔を覆ってしまった。
………可愛い反応をしてくれるじゃないか。
胸が大きく高鳴り、華奢な身体ごと抱き寄せて腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動に駆られる。
まさかこの僕が……それも異種族の女にこんな感情を抱くことになるとはね。
「でっ…では私はこれで……」
「せっかく来たのにこの景色を見ないで帰るつもりかい?」
僕の想いなんて露知らず、用が済んで帰ろうとする彼女を引き止めて隣へ来るように促した。
最初は戸惑っていたリーチェも景色を眺めながら一言二言交わすうちに少しは落ち着いてきたようだ。
「ここは…とても見晴らしがようございますね。リーバル様の仰るとおり、見ずに戻るのは勿体のうございました」
「フン…でも今日はそれだけじゃないみたいだよ?ほら、湖をよく見てごらん。星空が水面に映ってみえないかい?」
「わあっ…本当でございますね」
リーチェが初めて顔を綻ばせる。ふわりとした笑みに思わず顔が緩みそうになった。彼女に気取られないように景色へ視線を戻して当たり障りのない話を振る。
「そういえば…君達、いつまでこの村に滞在するつもりなんだい?」
「えっと…天候さえ良ければ明日にも出発すると、姫様から聞いております」
「明日だって?!」
てっきりもう1日くらいは休んでいくのだとばかり思っていたから驚きを隠せない。
「……ハイリア人ってのは随分せっかちなんだね。まあ君はシーカー族だけど」
「他の繰り手候補様の所にも伺わなければなりませんので……厄災の復活まであまり猶予がないのだと、姫様は仰っておりました」
「……ま、ここ最近の様子からして実際そうなんだろうし…姫が急くのも分からないじゃないけどさ」
それにしたってあまりに時間がなさすぎる。次に合う機会は暫く先になるだろうから、リーチェに僕の印象を残しておかないといけないというのにだ。
どうしたものかと思ったとき、僕はいいことを思いついた。
「なあ君…明日、帰る前に訓練場へ来てくれないか?見せたいものがあるんだけど」
「訓練場…でございますか?」
そういえばあそこで話はしたけど場所の名前は言ってなかったな…。
「僕が最初に君達を連れて行ったところだよ。……で、来れるの?来れないの?」
「こ、来れるかと思います」
「フン、そうこなくちゃね」
僕は彼女にあの技を披露することにした。
まだ未完成だけど完成間近までは迫ってきている。…きっと明日には成功するはずだ。いや、必ず成功させてみせる。
あれを目にすればきっと…リーチェは大きな目をさらに大きく見開いて驚くことだろう。
弓を手に取る度に僕の技…僕を思い出すに違いない。
「…さて、そろそろ夜風が冷えてくる頃だ。宿まで送ってあげるよ」
「い、いえそんな…申し訳のうございます…!」
「別に君を心配してるわけじゃないよ。ただ、帰るついでなだけだからね」
そのまま宿の方向に歩き出す僕の後ろを控えめな足音でついてくる。
「あのっ…ありがとうございます」
「…フン。どういたしまして」