本編
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どこか遠くを見つめながら少しずつ言葉を紡いでいく。そんな彼女の姿は見ていて痛々しく切なかった。
「……君は随分と窮屈な場所で生きてきたんだね」
「そうやもしれません。それでも私は…姉様達のようになりとうございました」
「父親のためにかい?」
「…私のためでございます」
家族として愛情を向けてほしい…そんな願いがあるのだろう。たとえそうだとしてもーー
「君は君でいてくれなきゃ困るよ。……ありのままの君を認めているやつだって、ちゃんといるんだからさ」
不安げな彼女に言って聞かせるように言葉を続ける。
「いいかい?誰にだって出来ないことの1つや2つあるものだよ。大事なのはその後に何を選ぶかだ」
「何を選ぶか……」
「例えば君と同じような境遇でもただ妬んで嘆くだけの奴だっているだろうね。…でも君は違う。自分に出来ることを探して努力してきたんだ。それは決して簡単なことじゃなかったと思うよ」
「……」
「君は何も間違ってないし、自分を卑下する必要もない。…だから後ろばかり見てないで前を向きなよ。体の向きを変えるだけで、向かい風も追い風に変わるからね」
「リーバル様…」
リーチェの飴色の瞳には涙が滲んでいた。それでも尚、彼女は自信がなさそうに長い睫毛を伏せる。
「私でも前を向けるのでしょうか…?」
「それは君次第じゃない?……でも僕が見てきた君は、それが出来ないほど弱くない筈だよ」
「…………ありがとうございます」
リーチェは小さな笑みを浮かべて瞳に溜まった涙を指先で拭き取った。
「折り合いをつけるのはまだ難しゅうございますが…私もお慕いする方々と共にある為に、前を向きとうございます」
「フン、この僕がここまで言ったんだからそうでなくちゃね。何ならいっそのこと故郷の奴らを見返してやろうか!」
「ふふ……はいっ」
今度こそ心からの笑顔を浮かべる。……リーチェならきっと大丈夫だ。
「さて、そろそろ城へ帰ろうか。あまり夜目は効かないから暗くなると厄介だ」
「えっ…そうなのですか?!」
「ああ。こればかりは克服しようにもリト族の弱点だからね……不本意だけど、僕にだって苦手なことはあるんだ」
「まあ…」
リーチェが心底驚いたような顔をする。それが可笑しくて思わず吹き出した。
ーーー
「着いたよ。もう降りて大丈夫だ」
「ありがとうございます」
ハイラル城の中庭にゆっくりと着地したリーバル様の背中から降りる。
「この時間でしたら日が暮れる前にリトの村へ戻れるでしょうか…?」
「そうだね。夕方には着くんじゃないかな」
…これでまたリーバル様とは暫くお会いできない。そう思うと寂しくて胸が締め付けられた。
「リーバル様、3日間があっという間で…本当に楽しゅうございました」
「そうかい?僕も……ま、悪くない時間だったよ。君の料理は結構美味しかったし、お陰でって言うと大袈裟だけど優勝できたしね」
「ふふ、また開催される際には観に行きとうございます」
「ああ。楽しみにしてる」
バンッ!
「「 ?! 」」
突然の大きな物音に反射的に城の方を振り返る。
「リーチェ!戻っていたのですね!」
「姉様っ」
姉様の姿を見るなりリーバル様は盛大な舌打ちをなさった。
「……君さ、少しは空気を読んでくれよ」
「えっ?私、何かしてしまいましたか?」
私の方に走り寄ってきたインパ姉様は睨むリーバル様に対し不思議そうに首を傾げる。
「……その調子だと言うだけ無駄になりそうだ。とりあえず自分の行動を振り返ってみることを勧めるよ」
「なっ…さっぱり分かりませんが失礼なことを言われているのは理解できます!」
「お、お二人とも落ち着いて…」
困り果てる私の後ろからクスクスと笑い声がした。
「賑やかだから何かと思えば、やはり戻ってきていたのですね」
「姫様…!」
「お帰りなさい。リトの村は楽しかったですか?」
「は、はい!とても…あっ飛行大会はリーバル様が優勝なさったのですよ」
「まあ!さすがですね」
「やれやれ、姫まで来たのかい?」
リーバル様が姫様に視線を向ける。姫様の登場のお陰で口論を終えたようだ。
「ええ賑やかな声が聞こえたので。飛行大会の優勝おめでとうございます」
「それはどうも。ま、当然の結果だよ」
「ふふ、リーバルらしいですね。そういえば…リーチェの手料理は食べましたか?この子ったら貴方を喜ばせたくて料理長にリト族が好む料理を教わっていたのですよ」
「姫様?!」
驚愕する私に姫様が目配せをなさる。
「ご、ご内密にと申しましたのに…!」
「いいではありませんか。…それにほら、リーバルも嬉しそうですよ」
「えっ?」
リーバル様の方を見ると目を丸くして驚かれていた。心なしか頬が赤いような……
「っ…!」
そう思った矢先、翼でお顔を隠されてしまった。…私もつられて恥ずかしくなってしまった。
「さあインパ、私達はそろそろ戻りましょう」
「えっ?まだリーバル殿が…」
「見送りくらい二人きりにしてあげなくては…ね?」
「はっ…私としたことがそうでした!では先に戻っていますからどうぞごゆっくり!」
ーー
お二人が去った後、私をちらりと見てリーバル様が溜息をつく。
「君さ、そういうことは言わなくちゃ分からないだろ?」
「も、申し訳ございません……その、内緒にするつもりだったのでございます」
「健気なのは結構だけど不意打ちを食らう身にもなってくれ。……いや、今のは違うな」
リーバル様はまた一つ溜息をついて私の方に向き直った。
「僕のためにありがとう。……ま、嬉しく思わなくもないよ」
「リーバル様…」
嬉しいのと、素直でないリーバル様らしいお礼の言い方が可愛らしい。自然と笑みが漏れる私に何故かリーバル様は不敵な笑みを浮かべる。
「他に練習していたのもあるんだろ?全部ちゃんと披露してもらうから覚悟しなよね」
「ええっ?!」
「フン、期待してるよ」
戸惑う私に満足したのか可笑しそうに笑うと、あっという間に飛び去ってしまわれたのだった。
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