本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私はカカリコ村の長の家系の三女として生まれた。
優しく慈悲深い母様、頭脳明晰なプルア姉様、しっかり者で才気溢れるインパ姉様ーーそして、村長であり自他ともに厳格な父様…そんな家族の中で私は才を見出だせずにいた。
「何故できないのだ。インパは同じ歳で影分身を2つは出せていたぞ」
「ごっ…ごめんなさい…」
困り果てた様子の父様が額に手を当てる。私の前でよくなさる仕草だ。
「座学はプルアに及ばず、武術に至っては凡庸な上に術の一つも使えない……一体お前は何なら秀でているのだ」
「……ごめんなさい」
「謝罪は要らぬ。まったく…長の娘として情けない」
そうして堪えきれずに涙を流す私をいつも母様と姉様達は庇ってくださっていた。
ーーー
「母様……リーチェはどうしてプルア姉様やインパ姉様のようになれないのですか…?」
「貴女には貴女の良いところがあるのだから、必ずしも二人のようにならなくていいのよ」
「でもっそれでは…」
「リーチェ」
私の前に屈んだ母様に両手で頬を包み込まれる。
「貴女は十分すぎるくらいによく頑張っているわ。いつか父様だって認めてくださる筈よ」
「本当ですか…?」
「ええ勿論。それにね…リーチェは女神様から授かった子なの。きっと貴女に宿された風の力が自分自身を導いてくれるわ。辛いでしょうけれど…それまでどうか諦めないで」
繰り返し何度も言い聞かせるように、母様はいつもこう仰っていた。
私を身籠る前…母様は夢で女神様のお告げを受けたのだそうだ。父様は夢に過ぎないと仰っていたけれど、母様は病で亡くなるその最期までずっと信じてくださっていた。
ーーー
それから数年が経ち……プルア姉様は若くして古代シーカー文明の研究者に、インパ姉様は一族の後継者として正式に認められた。
その一方で私は今だに術を扱うこともできず…勉学と武術の稽古に励みながら、せめてもの献身として母様に代わり家事や宝珠のお世話をする日々を送っていた。
キィン…!
「おおっ!今のは良い当たりですよ!」
師匠でもあるインパ姉様が拍手を贈ってくださる。……本格的に失望されてしまったのか、いつしか父様は稽古すらつけてくださらなくなっていた。
「風で矢を創ってそれを射るなんて言い出したときは驚きましたが…木の矢よりも遥かに速度も出ていますし、精度も格段に上がりましたね!」
「ありがとうございます。姉様」
最初は屋を形作ることから苦労して寝る魔を惜しんで練習を重ねたものだ。まだ改善の余地は残るものの、ようやく私にも唯一無二のものができたような気がした。
「これなら父様だってお褒めの言葉をくださるやもしれませんよ!」
「そ、そうでしょうか…
僅かに期待が芽生える。父様のことだから褒めてはくださらずとも、もしかしたらーー
はやる気持ちで父様のところへ今日の成果をご報告に上がる。するとそこには既に先客の方がいた。
「プルア様もインパ様も非常に優れておいでで、これならカカリコ村も安泰ですな。兄者」
「…違いないな」
どうやら来ているのは父様の弟…叔父様のようだ。
「ところでその……リーチェ様は相変わらずで?」
「ああ…この歳になっても術が使えず、終いには諦めてまじないの真似事をしているらしい」
「おお…なんと嘆かわしい。心中お察しいたします。プルア様とインパ様は優秀だというのに、リーチェ様は…一体誰に似たのやら」
父様が額に手を当てる。
「困ったものだ。ーーいっそのこと私の娘に生まれなければ、あれも幸せだったのやもしれんな」
「っ……!」
ーーー
気がつけば村の外れまで駆けていた。
「ふっ…ううっ…」
その場にへたり込んで泣き崩れてしまう。
「…リーチェ?」
顔を上げると視察から戻られる道中のプルア姉様が立っていた。
「ちょっ…あんたどうしたのよ?!」
姉様が慌てて私に駆け寄る。嗚咽を漏らしながら父様と叔父様の会話の内容を話すと姉様は忽ち怒りを顕にされた。
「何それ?!いくらなんでも許せない……私、今から文句言ってくる」
「いけません姉様…っ!……全て私が至らないせいでございます」
「リーチェ…」
「自業自得なのです……」
プルア姉様に両肩を掴まれる。
「やっぱり、あんたも村から出た方がいい」
「え……?」
「後で話すつもりだったんだけど……ハイラル王国から厄災復活に対抗するための協力要請が来てるの。私は研究者として…インパは執政補佐官としてハイラル城に行くつもり。リーチェも私達と一緒に来な」
「この村を…出る……」
ーーそのようなことは一度も考えたこともなかった。
「ですが…私では何の役にも…」
「そんなの行ってみないと分からないでしょ?それに、こんな話聞かされて私達があんたを置いて行けるわけないじゃない!母さんだってそうしろって言うに決まってる」
「姉崎…」
そうして、その日のうちにプルア姉様が強引に父様から私のハイラル城行きの承諾をいただき、インパ姉様の伝手でゼルダ姫様が私を侍女として受け入れてくださることとなった。
私はそのまま父様と会話をすることもなく、姉様達に連れられて故郷から目を背けるように村を去ったのだ。