本編
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リーチェは思っていた以上に空を飛ぶのが気に入ったらしく嬉々とした様子で空の旅を楽しんでいた。
喜んでいるであろう彼女の顔が見えないのは残念に思うものの、背中に感じる重みに不思議と胸が満たされる。
少し前の僕なら背中に誰かを乗せて飛ぶなんて考えられないことだった。勿論、リーチェ以外だったら今でも即座に断るけど。
…そんなことを考えているうちにリトの村が見えてきたため緩やかに降下して広場に着地した。
「着いたよ」
背から降りた彼女は丁寧に礼を言うと来た方向を振り返る。
「先の旅では数日かかりましたが、空からだとその日のうちに着いてしまうのですね…」
「陸路と違って最短距離で行けるからね」
「しかし…往復では大変だったのではありませんか?」
「このくらい大したことないさ。寧ろ丁度いい訓練になったよ」
「く、訓練…」
ただ本心で答えただけだったけど、リーチェはとても驚いた様子で目を丸くしていた。
「あっ、明日といえば…インパ姉様も此度の大会に行きたがっておられたのですよ」
「……それ、本当かい?」
思わず眉をひそめる。妹を1人で行かせるのが心配なのか、僕に信用がないのか……いずれにせよ彼女なら後を追って来かねない。
「本当でございます。ただ今回は姫様の意向で来られなくて…」
「姫が?珍しいこともあるものだね」
「はい。姫様もご興味はあったようなのですが…リーバル様に応援していますとお伝えするよう仰っていました」
「……そういうことか」
きっと僕に気を利かせたつもりなのだろう。リーチェへの好意が姫に知られているのは不本意だけど……まあ感謝はしておこうと思う。
「リーバル様…?」
「いや、此方の話さ。そんなことより荷物を持ったままじゃあ疲れるだろ?僕の家、ここを登った先だから行こうか」
「はっはい…!」
頬を染めたリーチェがこくりと頷いた。今回は宿ではなく僕の家に泊めることにしているのだ。
途中に話しかけてくる連中を適当にあしらいながら足早に家までの道を歩いた。
ーーー
「ここがリーバル様のお住まいなのですね…」
中に入ったリーチェは物珍しそうに周りをキョロキョロしている。
「僕はハンモックで寝るから君はそこのベッドを使っていいよ」
「あ、ありがとうございます」
僕らリト族はベッドで練る習慣がほとんどない。だけど宿で使ったときに思いのほか寝心地が良くて気に入ったから僕は家にも置いている。
彼女はハンモックだと寝づらいだろうから買っておいてよかった。
「あのっリーバル様…」
「何だい?」
「その…お夕食なのですが、泊めていただくお礼に私が作ってもよろしいでしょうか…?」
リーチェの申し出に目が丸くなる。まさか手料理を振る舞ってくれるとは思ってもいなかった。
「あっもちろん無理にとは…」
「いや、是非お願いするよ」
…少し食い気味に答えてしまったのは致し方ないだろう。
「なにか食べたいものはございますか?」
「そうだな……サーモンムニエルがいい。僕、あれ好きなんだよね」
何気なく手間のかかるものを頼んでしまったがリーチェは「お任せくださいませ」と明るい笑顔で応えてくれた。
ーーー
「へえ…なかなか手際がいいじゃないか」
手慣れた様子で捌いて厚切りにしたマックスサーモンに小麦粉をまぶしてからフライパンへ乗せていく。
「昔は母様の傍を離れない子供だったものですから…それでよく料理の手伝いをしていたのです」
「ははっ君らしい理由だな。母親にくっついてる姿が思い浮かぶよ」
想像したら思わず笑いが込み上げた。
「そ、そんなにでございますか…?!」
恥ずかしそうに視線を料理に戻す彼女に「ごめんごめん!」と謝る。それからは邪魔をしないよう静かに見守っていた。
ーーー
「うん、すごく美味しいよ」
「よかった…安心いたしました」
素直に感想を言うと緊張した面持ちだったリーチェの顔が綻ぶ。
「君って料理上手だね。尊敬するよ」
「そ、そんな…気恥ずかしゅうございます」
一口食べるとバターの風味とサーモンの旨味が口いっぱいに広がるムニエルは絶品で、僕も時々自分で作るけどこうはならない。
「他にも食べてみたいな。君さえ良ければ今度また手料理を振る舞ってくれるかい?」
「…はいっ勿論でございます」
少し顔を赤らめて快諾してくれる。頼んだのは僕の筈なのに彼女は僕以上に嬉しそうにしていた。
ーーもし一緒に暮らせたらこんな感じなのかな
リーチェと食卓を囲んでいるとそんな浮ついた考えが浮かぶ。僕らしくもないけれど今ぐらいは、まあ……いいかもしれない。
リーチェには気づかれないように、ふっと笑みを漏らした。