「行かないで」

電気もつけない部屋の中まるで俺たち二人だけが取り残されたような静けさの中、目の前の少女が震えた今にも泣きだしそうな声で呟いた

「お願い、1人にしないで」

みるみるうちに涙が溜まり、瞬きをした途端せきを切ったように大粒の涙がぽろぽろと零れている


人理修復後にもここに残った奇特なサーヴァント達へ一人一人律儀に別れを告げ、残されたサーヴァントはどうやら自分だけのようであった

「ビリーがすき」
「すきなの、もう2年前までどうやって生きていた
のか考えられないぐらい、すき」
「ごめんなさい、ごめんなさい、」

嗚咽を洩らしながら、うわ言のように、誰への謝罪かも分からない言葉を零す

少し、その言葉に疑問を覚える
彼女は自分への想いを目線や態度、表情にこそ現してはいたものの決して言葉にすることは無かった

そこまで強くはないのだ
マスターとサーヴァント、必ず終わりが来ると分かっていながら明白なそういう仲になる事に彼女は耐えられないのだ
現に今彼女は今まで見たことが無いほど涙を流して、立つのもままならない状態になっている

今日まで曖昧にしてきた感情を今、言葉に出すのか
なぜ、今
自分がここに居られるのはもう数時間とない
朝になれば魔術協会からの査問団到着するだろう

こうして倒れそうな体を支え、涙を拭ってあげられるのはこれで最後だ
自分は彼女が初めて召喚に成功したサーヴァントだ
それからずっとそばにいる、今日この日まで
自分が居なくなった彼女はこれからどうなるのだろう

自惚れでなければ彼女はかなり自分を心の拠り所として依存している
果たして彼女自分無しでこの先、生きていけるのだろうか？
もう1人のマスターとは違い魔術師の家系である彼女は家に帰ることになっても、そういい未来を辿る確率はかなり低い

魔術師である親にとって子は単なる所有物だ
自身が根源へ至るためのただの道具に過ぎないだろう
死者である自分にとってもはや彼女に出来ることは祈ることしかない
どうか親愛なるマスターの行先が幸せでありますように
こんな自分なんか早いとこ忘れて、悪い夢でも見ていた事にして