嚴白虎

◇ ◇ 山越賊寨 ◇ ◇

出兵の日、孫氏の車虎営は全軍出陣した。
金色の甲冑が至る所で陽の光を照り返している。


孫策:君がついてくるとは思わなかった。半日で終わったのに、わざわざここまで来るなんて。

広陵王:貴方らしくない物言いね。

孫策:どこがらしくないんだ?普段から前線に来てほしいなんて思ってないよ。

広陵王:普段なら、私がどこかへ一緒に行こうと言ったら、君は大喜びで返事をするでしょう。
彼に対して、少し後ろめたさを感じてるんじゃない?

孫策はしばらく黙り込んだ後、不意に苦笑混じりのため息をついた。その表情にはどこか不穏な影が漂っている。

孫策:ここまで一触即発の状況になった以上、もう後戻りはできない。考えたところで何になる?

広陵王:そうね、考えたところで……か。
でも聞いたところによると、嚴白虎は部下たちを逃してアジトは空っぽらしい。

孫策:鉄蹄の下では、結局それらも焦土と化す運命だ。

大軍がゆっくりと前進を続けていた。すると、前方の斥候が急報を持って戻ってきた。

斥候:将軍!報告します!山寨はすでに空ですが、山門の前に一人が立ちはだかっています!

私たちは遠くを見渡した。山門の下にはまだ一つの人影が見える。
遥か遠くに、小さく、しかし揺るぎない姿がそこにあった。
彼はたった一人で決然と立ちはだかり、まるで白く燃え上がる炎のように、最後の瞬間までその輝きが消えることはないだろう。


嚴白虎:孫策、広陵王!これは別れの酒だ。俺がお前たちのために注いでやった!

孫策はしばらく遠くを見つめ、わずかにうつむいた。次の瞬間、馬を前に進め、兵たちにその場で待機するよう合図を送った。

孫策:一緒にヤツのところへ行こう。これが最後だ。

― ― ― ― ― ― ― ―
【なぜ一緒に行く必要がある?】

広陵王:なぜ私が付き添わないといけない?

孫策: あいつに対して、俺は後ろめたさがあるからだ。

広陵王:私にも罪悪感はある。彼は純粋な心の持ち主だ。純粋な人を騙すなんて、誰だって後ろめたい気持ちがないなんて言えないでしょう?

孫策は突然大声で笑い馬を進めた。私はそれに続き、彼と共に嚴白虎の元へ向かった。

孫策:世の中で、心に何の悔いもない人間が何人いるだろう? 俺と一緒に、あいつの酒を飲み干そう。君の後ろめたさも、俺が全部背負ってやる。

― ― ― ― ― ― ― ―
【同行する】

私は頷き、馬を進めて彼に続いた。二頭が並んで進み、徐々に嚴白虎の元へと近づいていく。
ふと孫策が苦笑を浮かべ、私に声をかけてきた。


孫策:もし嚴白虎の件で君の心に後ろめたさがあるのなら、俺から言えるのはただ一言、「申し訳ない」だな。

広陵王:乱世では騙し合うのが常、大したことじゃない。貴方が彼を懐柔し、徐々に策を練ったのは、知略によるものでしょう。

広陵王:孫策、正直に言わせてもらえば、あなたの心に後ろめたさがあるんじゃないの?

彼は少しの迷いもなく答えた。いつも通りの率直さで。

孫策:後ろめたさはある。でもたとえもう一度、十回、百回と選び直すことができたとしても、俺は同じ選択をするだろう。

― ― ― ― ― ― ― ―

私たちは馬を進め、山門の下までやって来た。嚴白虎はすでに馬を降り、木製の机のそばに座っていた。
机の上には三杯の緑酒があり、ほのかな香りを漂わせている。私たちはその周りに腰を下ろし、それぞれ自分の杯を手に取った。


嚴白虎:お前らはなんて図々しいんだ!俺を利用してハメたくせに、よくも俺の酒を飲む気になれるな?

孫策は杯を持ち上げ、酒の香りを嗅いで満足げに舌鼓を打つと一気に飲み干した。

孫策:大丈夫たる者、この世に生まれたからには、騙し騙され、陰謀、陽謀があろうと、己がやったことには責任を持つ。

嚴白虎もまた酒を飲み干し、空になった杯を力強く机に置いた。

嚴白虎:大丈夫たる者、この世に生を受けたからには、思うがまま自由に生きてこそ、この人生が無意味ではなかったことになるんだ!

私たちは顔を見合わせて笑った。陽光が不意に眩しさを和らげ、厳しい殺気を追い払い、むしろ生気に満ちた暖かさを感じさせた。

嚴白虎:この先、もし広陵王が天下に覇を唱えようとしたら、孫策、お前はソイツを殺すのか?

孫策:その時が来たら考えるさ。俺は先のことをあれこれ考えたりはしないんだ。

再び酒を注いで満たし、私たちはまた一杯飲み干した。杯を置き、私は唇の端を拭いながら、二人の方を見つめた。

広陵王:嚴白虎、実は……
孫策:嚴白虎、投降しろ。

孫策が私の言葉を遮り、代わりにそれを口にした。
彼は自分の杯に酒を満たし、嚴白虎に向かって杯を掲げる。


孫策:俺はお前を天を支えるほどの大丈夫だと敬っている。お前が降伏するなら、俺はお前を見逃してやる。

嚴白虎:孫策、おい孫策、お前のそのセリフ、本当に……ふざけた戯言だな!

短い沈黙の後、孫策は天を仰いで大笑した。
嚴白虎もまた笑い、その声は山林に響き渡った。


孫策:よし、そういうことなら。江東孫策、今日ここに軍を発し、逆賊・嚴白虎を討つ!さあ、決闘状を受け取れ!

嚴白虎:本王が受けて立つ!生死は己の責任、恨むことも、後悔もなしだ!

最後の一杯を、私たちは飲み干した。

嚴白虎:広陵王、俺の部下たちは全員お前のもとに向かわせた。俺の顔を立てて、彼らを大事にしてやってくれ。

広陵王:任せて、心配しなくていい。

彼はもう何の未練もないように、豪快に笑った。

杯は地面に叩きつけられて粉々に割れ、互いの人影はそれぞれ別の道へと消えていった。
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