【14】夏は事件がいっぱい!
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「…で、仗助が先に入ってるんだなぁ」
「そーいう事だ」
アクセルが簡略的に経緯を説明すると、億泰はいちごミルクで水分補給しながらなんとなく納得してくれたようだ。
二人の真横には、地面に顔をべったりつけて、大きなタンコブができているアナスイの姿がある。
ソラが、つんつんと気絶している彼の頭に浮かぶタンコブをつついているが、応答はない。
「今の内に、俺達も入ろーぜ。つーか、トニオさんの料理食いてぇええ!」
「お前の場合、後半が本音だろ。まあ、俺も同じ気持ちだ。さっさと徐倫の相手を割り出そう」
「あにゃちゃん、どーしゅるん? ねんね?」
このまま寝かせておくのか、と尋ねるソラ。
安心しな、とアクセルはパチンッと指を鳴らすと、空間の狭間からダスクを数体出す。
「こいつを、適当な場所に連れてって閉じ込めておけ」
『承知しました』
アクセルの命令に、ダスク達はアナスイを担ぎ上げると、素早く移動していった。
「便利だなぁ…あのうねうね生物」
「これで思う存分、偵察できるぜ…さあ行くぞ!」
「あい!」「お~!」
*** ****** ***
「ええっー、アナスイって人じゃなかったの!」
「…じゃあ、誰なんだ?」
驚いたり、答えを知りたがる少年少女二人に、アクセルは待ったをかける。
「回答言う前に、コーヒー飲ませてくれよ。うぇ~…冷えて苦い…」
「いれ直しますよ。代わりに水でもどうぞ」
気を利かせたゼクシオンが、ミネラルウォーターを手渡してくれた。
アクセルは、それを受け取ると一気に飲み干す。
「話を聴く限り、『アナスイ』という男…かなりの純愛主義者だな」
「いや、単なるストーカーだろ」
「独り言とはいえ、相手の男を『解体』すると堂々と宣言しているからな。予告通りにしていたら獄中へ逆戻りだ。
誰かに好意を抱くのは勝手だが…周りの迷惑を考えていない所がまだまだ子どもだな」
レクセウスの意見に、シグバールはそりゃ違うだろ、とさらりと反論する。ゼムナスはさらに手厳しい言葉で畳みかける。
ちなみに、この場にいるメンバーの何人かは「ゼムナス…お前も人の事言えないだろ」と心中でツッコんでいたりする。
声に出したりは勿論しないが…。
「それよりもさぁー、相手は? どんな奴だった?」
デミックスが早くしろ、早くしろと回答を言うよう要求する。
「…そんなに急かすなよ。実はな…意外な奴だったんだ」
*** ****** ***
「おぉ~、億泰君よくきてくれました。アクセルさんとステラちゃんもご無沙汰していますねぇー」
入店するや、店の主であり、腕利きのシェフであるトニオ・トラサルディーが出迎えてくれた。
トレードマークの白いコックコートと帽子、エプロンは相変わらずだが、以前、店に来た時はアクセルとさほど年齢は変わらない青年だった。
今では、40代のナイスミドルになっており、日本語の喋りも流暢になっている。
「ありゃ…? 店の構造変わったのか?」
「仗助から聞いてなかったのかぁ? 三年前に、店を改装して二階も使えるようになったんだぜ」
億泰から教えられ、アクセルはしまった…と内心思った。
さっきはアナスイの件で気が回らなかったが、店のデザインが10年前とは違っていたような気がする。
一階の内装も随分と様変わりしている。
以前のデザインもなかなか洒落ていたが、今はモダンな雰囲気もプラスされたデザインになっている。
テーブルの数も二つから三つに増えていた。
「おーい、こっちこっち!」
すると階段付近のテーブルに腰を下ろしていた仗助が手を振って、合図してきた。
三人はそこへいくと、それぞれ席についた。
「ステラちゃんは、こちらの子ども用の席ですよ」
「あんがとー」
トニオは親切に幼児用のチェアーを用意して、ソラを抱きかかえると、そこへ座らせてくれた。
「皆さん御揃いのようですね。では…皆さんの体調を確認させてください」
この店には、献立表がない。
初めての客は不思議がる。
普通のレストランならそれがなければ、どんな料理があるのか解らず、食べたい物も選べない。
勿論、それには理由がある。
「おぉ…アクセルさん。貴方寝不足ですね。このところ下痢もしてるでしょう」
「そーなんだ。腹の調子もイマイチでよ…」
アクセルの右手を観察しながら、トニオは彼の現在の体調をずばり当てていく。
彼は、掌を見ただけで人の身体の状態を完璧に見抜く能力がある。
それぞれの人の体調に合わせた料理をつくって、提供する…それがこのレストランのやり方である。
「ステラちゃんは、スペシャルメニューをお持ちしますね」
「わーい!」
スペシャルメニューとは、トニオが乳幼児専用につくるリゾットやスープなどの日替わりメニューだ。
フィンがまだいた頃に、ソラと彼女の協力でできたこのメニューは、今では子ども連れの客層に人気の品物となっている。
久しぶりに、トニオの料理を食べれる嬉しさで、ソラのテンションはあがっている。
「…で、徐倫と相手の男は?」
「二階にいる。俺も席を二階にしてくれねえかって頼んだんだが、今日は貸し切りにしてるからダメだって言われてさ…」
「二階を貸し切りだとぉおおお? なんつー贅沢な事を!」
そうまでして、徐倫は相手の男性と積もる話があるのだろうか?
仗助の視線がちらちらと階段へ向いてしまう。
徐倫は血縁関係上、仗助の大姪にあたる。
幼い頃の徐倫を知っている仗助にとって、彼女は可愛い妹のような存在だ。
恋愛に関しては、彼女が選んだ男なら…と大姪の意思を尊重してあげよう。
…と思うその一方で、とんでもねえスケコマシ野郎だったら、徹底的にぶん殴ってやる…とおっかない事を考えている。
「言っておくけどよ…相手がどんな奴だろうと穏便に済ませろよ」
「えっ、お…おう、勿論じゃねーか!」
アクセルに釘を刺されて、仗助は一瞬言葉に詰まってしまい、慌てて「当たり前だ」と誤魔化すように返答した。
あ、こいつ…図星だったな。
平静を装いつつも、瞳に動揺が走っている。
「(解り易いな~…)」
「(…あいっかわらず、勘が鋭すぎるだろぉ~)」
心の内で、互いの事を言い合っている二人をよそに、億泰はミネラルウォーターを一口飲んで「うンまあああーい!」と絶賛する。
「やっぱ、この水は何時飲んでもうめぇええ…あっ、やべ…涙がでてきた…」
「やしゅしゃん、どばどば~」
大量の涙を流し、目の白い部分がふやふやにしぼんでいく。
この異常な現象は、料理に含まれているトニオのスタンドの効果であり、三人にとっては既に見慣れた光景でもある。
数分すれば、眠気も吹っ飛んですがすがしい気分になれるはずだ。
すると、見慣れない外国人の女性のウェイトレスが「ごゆっくり」と笑顔で軽く会釈して通り過ぎていった。
彼女は、美味しそうなペスカトーレをシルバーのトレイに乗せて二階へと上がっていく。
「トニオ、従業員雇ったのか…」
「あの人、トニオさんの奥さんだぞ」
「えぇっ!」
「故郷のアマルフィーにいた時に付き合ってて、こっちへ呼び寄せたんだとよ。病気患ってたけど、完治して今はトニオさんの右腕として働いてるんだぜー」
仗助と億泰が説明した事に、アクセルはそうか、そりゃめでたいな…と微笑する。
同時に、時の流れの速さにどこか寂しさを感じた。
ソラもそうだが、アクセル…ノーバディも年を取らない体質だ。
いつか、元の存在―――人間に戻ってしまう可能性はあるので、あくまで限定的な不老だ。
だが、異世界で親しくなった人々が年を重ねていく姿を見るたびに、心のどこかで孤独感に苛まれる事がある。
そんな中、仗助や億泰…トニオ、この世界で知り合った人々は、そんな異質な自分やソラをごく普通の…仲の良い友人として見てくれるのが救いだ。
(俺って…結構友人の縁に恵まれてるのかもしれねぇな)
どうやって、探るんだ?
トイレ行くふりして、交代で階段付近から偵察なんてどーよ!
如何にして、徐倫の相手を探るのか…仗助と億泰が意見を出し合っているのを見ながら、アクセルはテーブルに頬杖をついてぼんやりそう思った。
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